おらおらでひとりいぐも 第158回芥川賞受賞

著者 : 若竹千佐子
  • 河出書房新社 (2017年11月16日発売)
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  • レビュー :48
  • Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309026374

作品紹介

第158回芥川賞受賞作、第54回文藝賞受賞作。リズムあふれる文体で新しい「老いの境地」を描いた。

おらおらでひとりいぐも 第158回芥川賞受賞の感想・レビュー・書評

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  • 早くも「今年一番の収穫かも」と思わせる傑作と出合いました。
    昨年の文藝賞受賞作。
    作者は63歳の新人、若竹千佐子さんです。
    どんな作品かと言うと、「老いるのも悪くないかも」と思わせてくれる作品です。
    なんて書くと、お涙頂戴の感動物語だと思われるかもしれません。
    のんのんのんのんのんのんのんのんのんのんのんのんのんのんのんのんのんのん。
    全力で否定します。
    東北弁が唸りを上げて炸裂し、柔毛突起どもが暴れまくるのです。
    何のことか分かりませんね?
    順を追って説明いたしましょう。
    主人公の桃子さんは75歳。
    既に最愛の夫を見送り、2人の子供を育て上げ、都市近郊の新興住宅街で一人ひっそりと暮らしています。
    代わり映えのしない毎日ですが、桃子さんの頭の中には様々な人格が棲みついていて(これを「柔毛突起」と呼んでいます)、しょっちゅう井戸端会議を開いています。
    しかも、東北弁で。
    何故、東北弁かというと、桃子さん自身が岩手県の出身だからです。
    桃子さんは田舎にいたころ、農協に勤務していました。
    農協の組合長の息子と縁談も決まっていましたが、東京五輪のファンファーレに押し出されるようにして故郷を飛び出したのです。
    そして、既に他界した夫と運命的な出会いを果たすのです。
    老境にある桃子さんは、愛とは何か、自分の人生とは何だったのか、としきりに問い詰めます。
    手垢の付いた回答を引き出すと、柔毛突起どもが途端に暴れ出します。
    「おめだば、すぐ思考停止して手あかのついた言葉に自分ば寄せる。何が忍び寄る老い、なにがひとりはさびしい。それはおめの本心が。それはおめが考えたごどだが。」
    いや、このやり取りが実に愉快で、痛快なのです。
    ほぼ全篇、こんなふうに賑やかな東北弁で饒舌に語られます。
    取り立ててドラマチックな展開はないですが、頬の緩む場面あり、吹き出す場面ありで、「ああ、この世界にずっと浸っていたいな」と惜しむような思いでページを繰っていくと、最後は「あれ? 俺、もしかして泣いてる?」ってなるんだから、実に鮮やかな手並みと言うほかありません。
    それに若竹さんたら感性が実に若々しくて、擬音の使い方も思い切りがいいし、はみ出すことを恐れない、とういうか積極的にはみ出していくんですね。
    作中の冒頭で紹介される、ジャズを聴いているうちに丸裸になって踊っていたなんてエピソードは、これは若者の感覚でしょう。
    ほんと脱帽です。
    これだけの才能があれば、もっと早くデビューできたのではないかと思ってしまいますが、若竹さんの中では本作を著すまでに一定の年月が必要だったんでしょうね。
    まさに「機が熟した」というべき、その一瞬を捉えて放った閃光のごとき作品です。
    若竹さんがこれからどういう作家人生を歩まれるかは分かりません。
    ただ、この作品を世に残せただけでも、生まれてきた甲斐があるというもの。
    羨ましい限りです。
    これから日本は高齢化社会の長い長い下り坂を下って行きます。
    下り坂なんて書いたら、「失礼な」と思われる向きもあるでしょう。
    あのさ、そういう「常識」をいったん脇へ置こう。
    下り坂はネガティブだっていう思考が前提にあるから、そう思うんよ。
    そうじゃない。
    下り坂の先には、確かに雲はないけれど、道々、野に咲く花や味わい深い石を見つけられる悦びがあると思うんだ。
    さあ、希望を持って老いよう。
    桃子さんと一緒に。
    ※蛇足ですが、本作は、今度の芥川賞ノミネート作。
    ぜひ受賞して欲しいものです。

  • 芥川賞受賞インタビューを見てとても興味を持ち、受賞発表の翌日慌てて購入した。

    東北弁と標準語のコントラスト、リズミカルで生き生きとした文章が読んでいて楽しい。
    74歳のひとり暮らしの桃子さんの心の中の、大勢の声達の井戸端会議には笑えた。
    実家の母も桃子さんと同世代。
    うちの母もこんな風に心の中で井戸端会議しているのかな。
    そしてそう遠くない将来、私も桃子さんのように…。

    桃子さんは次々にわき上がる大勢の内なる声達をジャズのセッションに例えていたけれど、私にはロックのように思えた。
    一見控え目に見えて見事に己の言霊をハードにぶつけてくる。
    ぶつけられた言霊が私の中をグルグル巡る。
    一度読み出したら止まらない。
    すっかり桃子節に取り込まれてしまって、とってもいい気分。

    「老い」を孤独ととるか自由ととるかはその人次第。
    でもこの作品を読み終えた今の私は並々ならぬパワーをもらえた。
    おらの今はこわいものなし、なのである。

  • 東北弁には独特のグルーヴ感がある。
    母が函館の出なので、耳馴染みがある。
    やり場のない、ぐるぐると回るような呟きにも。
    諦念をにじませた、ややシニカルな現実認識、は北国が育んでしまうものなのだろうか。そんなことないか。

    女性のライフコース、地方と中央、新興住宅地の終わり、老いた親と子ども、母の呪い、差別の内面化、問題は山積だけれども、それらを我がこととして引き受けていくすがすがしさ。

    彼女たちの尊厳に敬意を払うこと。
    引き継いでいくこと。
    難しいけれど、やっていこうと思う。

  • これは老いではなくもはや狂気。方言それほど馴染みなくはないけれどここまで来たらなんだか読みにくさの方が先に来てしまって。

    死を受け入れるのは生を受け入れるのと同じくらいシンドイ。あ、逆か?どちらに入れ替わってももうどっちでもいいようになってきてしまいそう。

    心の内面をこんなにも吐露してしまって自分はスッキリできたでしょうね。いえ皮肉とかではなく羨望なのかも。

    芥川賞ということで。

  • 芥川賞受賞作ということで手に取りました。

    所々に岩手弁が出てきますが、
    初めは読みにくいかと思いましたが、
    徐々に慣れてくるとそれが良い味を出していて
    桃子さんの心の奥底の本音、叫びが語られているようでした。

    高齢で夫とは死別し、子供とは離れて一人で暮らしをしていると
    寂しかったり何かと不自由が出てくると思います。
    夫と死別をしたことに対しての悲痛な想いが伝わり、
    こんな想いをするかと思うと今の結婚生活を大事にしたいという気持ちや
    相手を思いやる気持ちを更に強くしなければいけないと思いました。

    そして誰もが通る老いという道。
    それなりに覚悟をしているつもりでも、
    こんなにも身に堪えてしまうかと思うと
    いつか自分や身近な人達が訪れるかと思うと
    胸が苦しくなる思いでした。

    けれどその一方で老いは未知なる世界で誰もが踏み入れずに
    自分で自由に歩いて行ける道という例えがあったように、
    視点を変えることで暗いイメージでなくなるのが不思議でした。

    人が恋しくて寂しい時には人だけに頼らず、
    全てのモノに対して耳を傾けるという考え方も
    今の私にはとても心が救われる思いだったので
    これからの生活に役立てたいと思いました。

    行き着く所は年齢が若かろうが高齢だろうが、
    その時を精一杯に生きることが大切だということが
    身に沁みて伝わりました。

    玄冬小説の誕生と本の帯では書かれていましたが、
    まだ年齢的に未熟なせいかそこまでの境地には至りませんでしたが、
    これからの人生を歩んでいく上での糧になりそうな作品でした。
    また歳を重ねてから再読したら現実味が増し、
    考え方なども変わってくると思うので読んでみたいと思います。

  • 芥川賞を取った本は、あまり読んだことがありません。でも、読んでよかった。桃子さん、74歳、配偶者を亡くし、子供達とは疎遠、故郷は捨ててしまっている。一人で生きています。自分自身に重ねながら読みました。最近、私の中に何人もの私を感じることがあります。一人ぼっちでも彼らと生きていけるような気が、私はしています。

  • 東北の言葉が独特の雰囲気を作っている。主人公の思いが、呪文のような東北弁によって伝わってくる気がしました。老の寂しさを、そしてまた老の自由さを、なんとなく予感として主人公に重ねて感じました。言葉の海に浸かってる感じでした。ストーリーとしては、変化のない老人の日常で、豊富な語彙で心情を表現している作品。
    宮沢賢治の春と修羅の永訣の朝の詩の中に「oraorade hitoriigumo」というフレーズが出てきますが、自己の覚悟の物語なのでしょうか。

  • 自分の人生、これでよかったのか?
    自分は満足できたのか?
    悔いが残っているのか?
    人生に正解などあるはずもなく、いくら考えても答えは出ないのでしょうね…

  • 言葉のうずの中でぐるぐるぐるぐるぐる。こんな感じ久しぶりな気がする。
    夫に先立たれて一人で暮らす高齢者の、独り言。
    なんていうか、独り言の世界がこんなにも豊かで奥が深くて生き生きとしているなんてほんと驚き。
    宮沢賢治の詩からとったタイトルの「いぐも」は「逝ぐも」であり「生ぐも」なんじゃないか。生きるんだ、まだまだまだまだ。
    おらはおらでひとりで生ぐんだ。

  • 日高桃子がこれまでの生活を思い起こす話だが,東北弁が良い.ニュアンスはよくわからないが,方言でしか表せないことがきっとあるはずだ.娘の直美や息子の正司のことも出てくるが,思い出の中に出てくる人物,汽車であったウイスキーを飲むおじさん,病院でバッグのなかを探る女,一緒に働いたトキちゃん,夫の周造の墓に山を越えて行く場面が良かった.最後に孫のさやかが現実に戻してくれた.

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