不道徳お母さん講座: 私たちはなぜ母性と自己犠牲に感動するのか

著者 :
  • 河出書房新社
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レビュー : 24
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309027159

感想・レビュー・書評

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  • なんということ。
    母の日にこの作品を読み終えるとは。

    テレビ等で、ある女性にインタビューする時は「お子さんはいらっしゃるんですか」、
    ある男性にインタビューする時は「お仕事は何をされてるんですか」。
    逆もあるけれど、だいたいはこんな感じだ。
    そして、メダルをとったオリンピック選手に必ず聴くアレ。「まず最初にどなたに伝えたいですか?」この質問で、「お母さん」と答えなければ日本中から干されるような空気。そう、空気だ。いつまで日本中に漂っているんだ、この空気は。

    わたしは、親(母親)に感謝すべきなのに感謝できない、という苦しみの中で、ずうっと罪悪感を感じながら生きてきたけれど、ある日「感謝なんて自然に湧き上がってくる感情なんだから、感謝は『すべき』っていうのは違う」と描いてある本に触れて、親だって人間で、常に完璧だったわけじゃない、というのを徐々に落とし込んでいったクチです。なんならまだその途中です。
    だから、「母親だから」で全てを片付けようとする風潮にはうんざりしていて、なんなら、吐きそう。「親だから」、これなら分かる。実際にそういう状況はあるからだ。それなのに、「母親だから」ということが、泣ける要素なんだよな。そして、これがエスカレートしたのが、今流行りの「毒親」だと思う。

    なのに、そんな「母親」を推しまくっている空気の中で、結婚式で娘の隣を歩くという劇的な場面において、そのポジションにつくのは「父親」だ。急に!?急過ぎない!?今までずうーっと、子どものことで登場するのは母親だったのに、「娘がその家に最後に縛られている瞬間」に隣にいるのがお父さんて!表彰台で、一番感謝しているのはお母さんです言うたやん!みたいな(笑)そこをぐっと我慢して、父親をたてるのも母親の仕事って、そういうことでいいですか?我慢てそんなに美しいですか?
    と、まあ、そのあたりつつき始めたら、結婚したら嫁に行くのはどうして女性なのか、であるとか、ジェンダーの話になりそうなので、このへんにしておきます。

    価値観て、自分はBって思っているのにBって言うと、自分が体験してきたAっていう価値観を否定することになるから、Aに固執しちゃってる人もいて、価値観は、個人の生い立ちとも大きく関わってくる。
    わたしは伊藤野枝が、こんなにも自己犠牲的な母性愛を述べた人だとは知らなかった。歴史では伊藤野枝はそういう人だとは学んでこなかったからだ。でもここで描かれている伊藤野枝は、「保育園落ちた日本死ね」とか言ってそうなお母さんで、自己犠牲を賛美する北原白秋や小原國芳は、生い立ちの中で、自己犠牲する女性に育てられて、そういう女性がいなかったら生きてこられなかったわけで。
    そういう、経験や生い立ちを描いた作品が出版されることで、新たな価値観が世に呈示されるようになっていく。
    今は、その役割を果たしているのがSNSとか、ブログとか、ネットの記事とか、そういったものなんだろう。
    自分の思っていることや考えていることを、抑圧せずに表現できることって、その時代の背景や価値観を構築しうる。批判に晒されたり、苦しい思いをするのはしんどいけれど、それでも、新しい価値観を呈示できるって、すごいことだと思うんだ。

    こんな風に、価値観の背景には時代があって、今は時の流れの中でたくさんの価値観が溢れていて、だからいろんな価値観を持っている人がいて、それを尊重しましょうって、そういう時代に入っている中、道徳が正式教科化されたわけで。その道徳という科目が、自分自身に向き合ったり、相手の価値観を尊重したりできるものになるよう、学生時代は道徳も国語も苦手だったけれど、今はいろいろな価値観を受け入れようとしながらそれなりに生きているアラサーは、祈るしかない。

  • 「自我を捨てて子供に尽くす『母』は美しい。だからこそ恐ろしい。戦後、愛国心には警戒が払われるようになったが、母性幻想に取り巻かれる現代の一個人が再びファシズムに巻き込まれないためにできることは、自我や自意識がまったく美しくなく、みっともなくて目も当てられないものだとしても、そういうものだとして面白がって愛し、他人のそれも愛することではないだろうか。私たちは皆それぞれに自我のある個人で黙るのでも黙らせるのでもなくぶつかり合いながら、どうにか調整して生きるしかないのだ。『母親だから』と母性幻想の持ち主に自己犠牲を求められたら、ふてぶてしく突っぱねて、女や母親にも自我があることに慣れていただこう。それが世界平和への道だと考える次第だ。」p179

  • 「本書が、いやなことをいやだと言いたいあなたの武器になれば幸いだ。」

    「女の子は本当にピンクが好きなのか」もとても面白かったが、本書もとても楽しかった!
    「道徳」の授業の違和感から、近代日本史を振り返り、一つ一つ文献をあたってとても丁寧に考察していて、その道筋を辿るのがわくわくする。
    しかし、自分では当然と思っていたこと、自分の考えや感じ方だと思っていたことが、どれだけ社会からの刷り込みだったか…。
    考えずにぼんやり生きて来た自分を反省する。
    文章は非常に軽やかで、しばしば吹き出すところも。

    「近代史の山に分け入って知識を蓄え、人文知という棍棒を手に「道徳」に抗ってみたい。お母さんだからってなめるなよ。」

    なめるなよー!
    私も武器を揃えて磨かねば。

  • いゃあ 痛快でした!
    バッサバッサと斬り倒していく感覚
    が満載です
    単なる感情論ではなく
    その裏付けがちゃんと
    丁寧に検証されているのが
    また頼もしく、
    また興味深い。

    「道徳」「不道徳」は
    その時代を映し出す鏡であることを
    改めて実感しまた。

    いま「道徳」を
    声高に唱えておられる人たち
    ぜひ 目を通してもらいたい一冊です
    まぁ その人たちには
    焚書にしたい一冊でしょうね

  • 明治以降の日本の道徳(教育)を「母性」と「自己犠牲」をキーワードに辿った本。
    母性幻想も自己犠牲賛美も「他者の自我を認めない」酷さでは同じ。何度か引用される北原白秋のダメっぷりでそれがよくわかった。
    忖度を学ぶのが道徳ってなんだかな。

  • 去年の2月頃炎上しただいすけお兄さんの歌「あたしお母さんだから」に現れる、”お母さんとは我慢、忍耐すべき存在”幻想を産んだ日本の土壌を明治以降の歴史を紐解き解説したジェンダー論。その歴史は浅く、大正デモクラシーの「新しい女」達が自己の解放を求めこぞって自由恋愛に走った結果、敗北したことが起因だった。
    何よりも「自由恋愛」相手の日本人男性の精神が追いつかず、結果として女達は家事育児を一切合切背負いこみ、自身が苦しむ羽目に陥る。敗北を認めないためにも自己解放の先を「子供を産み育てる母性」なるものへの賛美にすり替えていく、、、

    この頃の女達の使えない夫とワンオペ育児への呪詛が、現代のSNSを賑わすネタに相通じていたことに戦慄。
    平成も終わろうとしているこの時代においてもまだまだ日本の母なる存在幻想は変わっていないのだ。

  • 常識を常に疑うこと。正しいことは何かを自分で考え、自分で決め、修正していくこと。そういったことが大切だなと思ってはいるけど、道徳さえも疑うということはあまりしたことがなかった。

    その点は目からうろこな情報がたくさんな本。いかに道徳が都合よく作り上げられてきているか、そしてその普及が推し進められているか。特に母性幻想については完全に自分の考え方の根底に植えつけられてしまっていることに気づかされた。子供に対しての母の自己犠牲ってどうしても感動してしまいがち、、、

    日本の学校教育、つまらんね。
    息子よ、染まるなよ。すべて自分で考えろ。

  • 導入部分とか著者の考え方自体はとても面白いのですが、
    過去の文献が私には難しく、読みづらかったです。
    読み方のわからない部分も多く、読むスピードが
    途中かなり落ちました。
    きちんと考察はされているのでしょうが
    レベルが高すぎてついていけなかったです。
    もっとライトに読みたかったです。
    勉強不足な自分が悪いんですけどね…(;´∀`)

  • いやなことを言いたいあなたの武器にというコンセプトが好き。あとがきでも触れられてたけど,歴史はもう少し短くして,現状の背景をもっと深く知りたかったかな。

  • ‪母性幻想。母親に自己犠牲と道徳観を求める傾向を著者はそう呼び警鐘を鳴らす。日本に何となく蔓延して定期的に炎上に繋がるこの空気の正体は何なのか?明治におけるエンタメ小説の扱いにまで遡る考察に驚嘆と同時に半ば絶望…教育による刷り込みから来る無自覚の闇は深い。お母さんだって人間である。‬

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著者プロフィール

1973年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。著書に『萌える日本文学』、『女の子は本当にピンクが好きなのか』。翻訳書に、テクノロジーや空想の世界を親子で共有するための指南書『ギークマム』がある。2女の母。

「2018年 『不道徳お母さん講座』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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