森があふれる

著者 :
  • 河出書房新社
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本棚登録 : 359
レビュー : 41
  • Amazon.co.jp ・本 (183ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309028163

感想・レビュー・書評

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  • 「愛していた、だから許せない」
    妻が発芽して森になる。
    愛しい夫を想うあまり、草木の種を飲み込み全身の毛穴から緑の芽を噴き出し、次々と樹木があふれだす。
    妻は秘かに生きている。
    身の回りに起こった煩わしい出来事を全て胸に仕舞い、ひっそりと、けれど確実に。
    葉を揺らし、湿り気をたっぷり含んだ木々の香りを漂わせ膨らみ続け、更なる森を生み出すのだ。

    濃密すぎてくらくらする。
    森に妻の想いがあふれていて、息苦しい。
    けれどラストの展開には、してやったり、とちょっとにんまり。

    表紙がうっとりする位、素敵。
    こんな森なら部屋にあってもいいかも。

  • 現実とファンタジーの境目があやふやな、浅い眠りの状態で見た生々しい夢のような…無気味だけど美しい、何だか不快だけど怖い物見たさでその世界観を覗ききりたい…そんな不思議な作品だった。
    作家の埜渡徹也の妻・琉生の体から発芽し、枝葉をのばしていつの間にか森となる。目の前のあり得ない状況に戸惑う担当編集者と同じく、どう受け止めてよいのかわからないまま、妖しい世界観から目が離せなくなっていく。
    章ごとに語り手が変わり、別の視点から話が語られることに少しホッとしながらページをめくる。読み進めていくほどに、この作品のテーマがじわじわとあぶり出されてくる。
    男と女の深い溝。やるせないほどのわかり合えなさ。自分自身も目をそらしがちだった、かつて感じた心の傷が疼くようだ。琉生が作り出した森に自分も迷い込み、過去と現在の境目さえ曖昧になってくる。
    攻めた作品だなぁ…共感できることばかりではないし、登場人物達に時には嫌悪感すら感じるけど、ジェンダー問題をこんな形で目の前に突き付けられるとは思わなかった。さすが彩瀬さんだ。

  • 幻想的で面白かった。ただの物語じゃないところが私にとっては少しつらかった。読んでいて、うぅーん……そう来ましたか…と思ってしまった。

    最初はママ(母性、男性の中にある母性)の話かな…とも感じていた。埜渡徹也が言う「平等で実力主義」(161ページ)の件が、現実的過ぎて不意打ちをくらったような感覚に襲われた。森の中で気持ちよく寝ていたところをいきなり布団を剥がされた…ようなそんな感じ。あそこら辺の描写は読んでいてすごくモヤモヤしたー。琉生に共感したとかじゃなくって、あー…この感じ知ってる…と思った。先回りして正論で攻めて反撃させないとか、うちもそうだし実際に私もそうなのでよくわかる…。

    だけど最後がまた幻想に戻って、その展開がまた面白かった。作家も編集者も、社会も空気も何もかもがパンパンだ。苦しい。

    向かい合って敵対したいんじゃなくって、横に来てならんで歩きたいだけなのに、なんでそう上か下か、食うか食われるか…夫だ妻だ、母だ子だ、の関係になってしまうんだろうか…。せめて家族や夫婦だけは平穏でいたいのになぁ。。。とか、作品を読みながら考えてしまったよ。(けど嫌いではないのよ)

    好書好日の彩瀬まるさんのインタビュー記事 https://book.asahi.com/article/12685749

  • 作家である夫が横恋慕した。
    ショックにより森になった妻。
    その森は10畳の部屋いっぱいに広がり、窓から外の雑木林へとつながるほど繁る。

    言葉に力を持つのは夫。
    その言葉は増殖し妻を諭す。
    妻は、夫と話す度に、会話が意図しない方へ逸れると感じている。

    男女関係と本を書くことの深遠を、「森」のイメージに集約させ、
    じっとりと静かで優しい潤いに満ちた作品。
    皮膚感を覚える作品だ。
    首筋から脇腹に木の芽が吹く場面、私の肌が粟立った。

    終盤、なんとなく『不思議の国のアリス』の世界。
    夢なのか無意識なのか現実なのか境界がぼやけていて、読んでいてうたたねをしている心地良さを味わえた。

    彩瀬まるさん…性差をかなり意識している作家さんでは?
    他の作品も読んでみたい。

  • すごく幻想的なのにメッセージの棘が鋭利なファンタジー奇譚。綾瀬さんのユニークな感性と力強い筆致が、これでもかと降り注ぐ。

    ゆっくり読んでいこうとしていたのに、あっという間に読み切ってしまった。

    男と女の溝って最近では無くしていこうという動きが大きいけれど、そもそもこれほどまでに分かり合えないものなんだよなとしみじみ。

    埜渡先生の無自覚なモラハラが見ていて辛い。
    でも琉生のあまりにも無防備な無知さにもなんだか
    眉をひそめてしまうものがあった。


    男と女はお互いが全く違う生き物だからこそ
    永遠に向き合わなければいけなくて、
    それが誰にとっても容易かというとそうでもない訳で。


    「男らしさでも女らしさでもない部分で、人を愛するとはなんだろう。」


    作中のこの一言が、読了後も
    ずっと胸に引っかかる。

  • 作家である埜渡徹也の妻・琉生がある日植物の種を大量に飲み込んで発芽してしまう。埜渡は妻を治療することもなく、発芽していき、変化していく姿を観察しながらそれを題材に小説を執筆する。物語の視点は埜渡の担当編集者から埜渡の不倫相手、新しい担当、埜渡自身、そして最後に琉生へと移る。
    それぞれが抱えている葛藤や問題は異なるが、共通して世間に対する自分の役割に疑問を感じたり、違和感を自覚することである。優秀な担当編集者、理想の妻や母親など、今までの当たり前が瓦解して本当の自分が分からなくなる。特に互いの性に対する男女の眼差しが取り上げられていて、今どきのテーマだなぁ…としみじみ。体から植物が生えるファンタジー要素は相変わらず彩瀬さんらしいが、『くちなし』よりも社会性が強い作品のように思えた。そしてその現実とファンタジーという設定上の乖離がありながらも、全く破綻していなくてむしろ現実味があるところがすごい。
    琉生は寝室から徐々に森の範囲を広げ、次第に埜渡家の隣の空き地にまで届く。各章の語り手たちは琉生から生まれた森に対峙し、それをきっかけに自分の本当の姿(本能?)を覗き見ることになる。そういう意味では、森は本能を表しているのかな?と。
    そして何より装丁が美しい~!

  • 夫である小説家の題材にされ続けてきた妻がとある日植物の種を食べ、広大な森へと化してしまう。
    その有り得ない事態に直面した人々の語りから見えてくる、男と女のそれぞれの生き様を描いていく連作短編集です。

    身体から発芽して森と化す、という事態がまるで日常のすぐ隣にある出来事のようなフラットな異常としてそこにあり、事実関わり合うことになる人々は、そんな事態よりも自分自身の人生に悩み苦しんでいるのです。男らしくとは、女らしくとは。夫婦のありようとは。自覚していない性差による無意識の差別とは。そういった、何でもない日常生活の中に隠れている歪さや不満に気づき、乗り越えようとしたり、呑み込まれてしまったり、と生々しく感情を揺らしていきます。ファンタジーな設定から、匂い立つように立ち昇ってくる人間のサガとでもいうものが、じっくりと描かれているように思いました。

    この夫婦の間には、確かに愛情はあったのだけれど、完全にわかりあえはしないでいた。けれども、それでも夫婦でいたい、ともに生きていきたいという情念、むしろ怨念に近いその想いの強さが、それこそ植物のようなたくましさ、生きる輝かしさであるように、感じたりしたのでした。

  • あぁ。よかった。
    彩瀬まるさん、デビュー作から大好きですが、今回のはなお秀逸。センスが爆発。。
    妻を題材にして書き続けた小説家。不倫を疑ったその妻がある日発芽した。
    もう、発芽って笑。
    そして女は森となる。
    森となった女の周りの視点で進む連作短編みたいな、章ごとに視点が変わるのですが、ギリギリ狂気なラインが絶妙で好き。

  • ポップな色合いの可愛い表紙なんだけど、可愛い話じゃないんですよ。

    この人はもっと書ける人のように思うんだが。

  • ファンタジーなのか現実なのか分からないほど、リアルで生々しい恋愛を見せられたようだ。

    最後の展開には少しニヤっとした。

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著者プロフィール

1986年千葉県生まれ。2010年「花に眩む」で第9回女による女のためのR‐18文学賞読者賞を受賞し、デビュー。16年『やがて海へと届く』(講談社)で、第38回野間文芸新人賞候補。17年『くちなし』(文藝春秋)で第158回直木賞候補、18年同作で第5回高校生直木賞受賞。

「2020年 『まだ温かい鍋を抱いておやすみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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