森があふれる

著者 :
  • 河出書房新社
3.09
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本棚登録 : 788
感想 : 85
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  • Amazon.co.jp ・本 (183ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309028163

感想・レビュー・書評

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  • 図書館で本の表紙の緑の鮮やかさに惹かれて
    借りてみた。

    ある作家の妻がある日突然発芽し、それはどんどん成長していくけれど、そこから夫婦の問題も現れていくお話。
    (体に植物が生えていく作品は昔、ブラックジャックのOVAアニメで見たことある。)

     この本を読む中で夢なのか現実なのかわからない不安感と湿度が高い感じを受けた。

    男女の価値観や性差もテーマになっていて、とりあえず言えることはそれを抜きにして面と向かってしっかり自分の考えや思いを話し合い、その人の考えを受け止めることは大切だとも思った。

  • さてさてさんの本棚から図書館予約
    私には分からず小説の中に入っていけなかった
    設定がすごい
    描写もすごい
    そう思うのだけれど……
    夫婦間の落差、会話のむなしさ
    愛しているから森になって会話?
    いや なんでやねーん!
    (関西の婆さんはツッコみます)

    もうすっかり会話を放棄した
    高齢夫婦にはまぶしすぎる世界でした

    他の登場人物が最後まで描き切れていなかったのが
    もやもやします

    ≪ おぞましい 森をさまよい 静寂を ≫

    • さてさてさん
      はまだかよこさん、そうですよね。
      この作品は『おぞましい』この一言に尽きると思います。
      私も決して作品世界が十二分に理解できたとは思って...
      はまだかよこさん、そうですよね。
      この作品は『おぞましい』この一言に尽きると思います。
      私も決して作品世界が十二分に理解できたとは思っていません。私のレビューでは書けなかったのですが、この作品のテーマはジェンダーだとおっしゃる方もいて、そう理解するのがこの作品の本質だとすると、奥深さが増します。
      いや、この作品はこれでええねん、と思います。
      2023/11/03
    • はまだかよこさん
      さてさてさんへ
      いつもとても丁寧なレビューに感嘆いたしております
      この小説は私には無理でした
      もっと年齢相応のものを読めばよろしいのに...
      さてさてさんへ
      いつもとても丁寧なレビューに感嘆いたしております
      この小説は私には無理でした
      もっと年齢相応のものを読めばよろしいのにね(笑)
      つい、皆さんの本棚からチョイスしてしまいます
      男は男らしく、女は女らしく
      そう育てられましたが「人間らしく」が大切ですよね
      これを根っこにしなければと今更ながら思います

      コメントありがとうございました
      2023/11/04
  • 作家の妻がある日発芽する。
    空想ではなく、物語では普通の人間だった妻がだんだんと発芽し、自宅の寝室でどんどん森になっていきます。
    妻のことを題材にして本を書き、それがヒットしていた夫はまず、面白いと思い、そのことをテーマにまた本を書き、それがまたヒットして賞をとる。始めはそれでうまくいっているからいいんだと思っている作家の夫や編集者もだんだんと異常さに気がついてきます。そうこうしている間にも森は窓を抜けて隣の敷地にまで侵食することに。

    後半では夫と妻の人柄に触れます。
    男とは女とはこういうものといった固定観念が当然のようにはびこり、おかしいと思うことは否定できなかった人が弱いだけという、昔の考え方を信じて疑わない常識の中に、発芽というファンタジーを取り入れて夫と話をしようとする妻を描いているのが新鮮に感じました。
    正直ここまで固まっている夫なら、別れるか殺すかの2択になりそうなのに、森になるつて、それだけ愛しているんでしょうね。ラストで立場が入れ替わり自分の本棚を作っていくのかと思いました。

  • あなたは、『妻が発芽した』姿を見たことがあるでしょうか?
    
    つ・ま・か・ら・は・つ・が?????

    全くもって意味不明な質問から始まった本日のレビュー。これほど意味不明な質問もありませんよね。『発芽』とは種子から芽が出ることを意味します。あなたも小学校時代、理科の実験で『発芽』の様子を観察したことがあったかと思います。種子という、生命からは全く遠い見た目の存在から芽が出る、そこに命が顔を出す瞬間、『発芽』とは生命の神秘、奇跡を見るものでもあります。

    そんな瞬間を見るために、シャーレの上に脱脂綿やキッチンペーパーを敷き、その上に種を乗せて観察する私たち。『発芽』に必要なのは光なのか?水なのか?それとも温度なのか?さまざまな比較実験をしたのを思い出す方もいらっしゃるでしょう。

    では、そんな『発芽』がヒトに起こりうることはあるのでしょうか?ヒトから種が『発芽』する?気になって調べたところ、医学関係の論文にアサガオの種子がヒトの気管支内で発芽した症例の紹介を見つけました。ぎょえっ!と思うこの事実。種子というものの力と生命の神秘を改めて感じもします。

    さてここに、『妻が発芽した』という衝撃的な前提の先に展開する物語があります。小説家が主人公となるこの作品。そんな小説家の姿を他の登場人物視点でも見るこの作品。そしてそれは、荒唐無稽とも言えないヒトからの『発芽』という衝撃的な事実の先に『愛する』ことの意味を問う物語です。

    『キッチンのテーブルで木製のボウルに入ったミックスナッツを黙々と食べ続けてい』る『作家の妻』の様子に気づいたのは主人公で編集者の瀬木口昌志(せきぐち まさし)。『夫の背中を眺めたまま、ボウルと口元を行き来させる手を止めない』妻の前に座る作家の埜渡徹也(のわたり てつや)は『う〜ん、そうだな…ならこういう主人公はどうだろう…』と次の小説の構想を話します。『編集者に助言や見解ではなく、シンプルな思考の壁打ち役を求めるタイプの作家』だと埜渡のことを思う瀬木口は『面白いですね。先生らしい、哲学的な深みのある作品になりそうです』と『妻の挙動に気をとられつつ生返事を』します。そして、『二十分ほどかけて』『ナッツを食べ終え』た妻は『ミネラルウォーター』を『喉を反らして一息に飲み干す』と、『まるで根元から切り倒された樹木のように、ゆらりとその場に倒れ』てしまいます。『どうした流生(るい)』と『埜渡に抱き起こされた妻は』『なんか、疲れちゃった』と言うと『寝室のある二階へ』と歩いて行きました。『なんなんだいったい』と『空のボウル』を見つめる埜渡に、『さきほど奥様が召し上がってました』と瀬木口が言うと、『冗談だろう!隣の空き地に蒔こうと思っていた草木の種だぞ!』と『顔色を変え』た埜渡は『階段を駆け上が』り『二階にこもっ』てしまいます。『おしどり夫婦として』知られる埜渡夫妻。そんな埜渡は、『若い男女のみずみずしい愛の交歓を綴った中編「涙(るい)」』という夫婦の関係性を下地にした作品で脚光を浴びています。そして、『翌日の昼、埜渡から編集部に電話がかかってき』ました。『妻がはつがしたんだ』、『今からちょっと来てくれないか?』と言う埜渡は『巨大な水槽と、土と、有機肥料』を買ってくるよう瀬木口に依頼します。『妻が、発がん?』と理解した瀬木口は、『それは辛かろう』と思い、必要なものを買うと埜渡の家へと向かいます。『頼まれた荷物を運んできました!』と家へと入る瀬木口に、『寝室に運びたい。手伝ってくれ』と言い、二人で巨大な水槽を二階の寝室へと運びあげます。『ベッド脇に水槽を設置し』、他のものも運び上げると『一度席を外してもらっていいか。妻を浴室から連れてくる』と言われ、瀬木口は書斎で待ちます。数分後、『待たせてすまないな。もう大丈夫だ』と言われ寝室へと入った瀬木口に、『お手を煩わせてごめんなさい』と『聞き覚えのある女の声』がします。『る、流生さん』と『全身の毛が逆立』つ瀬木口の前には『顔といわず体といわず、肌にびっしりとさみどり色の若芽を生やした琉生』の姿がありました。『なんだか、こんなことになっちゃって』と言う流生の姿に動揺する瀬木口の前で、『埜渡が、緑色の如雨露』でシャワー状の水を振りかけ』ます。『ああ、やっぱり土があった方がいい。水が吸いやすい』と『気持ちよさそうに目を閉じ』るという『目の前の出来事が信じられず、二の句が継げな』い瀬木口。『妻から発芽』するという衝撃的な世界を描く物語が始まりました。

    “作家の夫に小説の題材にされ続けた主婦の琉生はある日、植物の種を飲み発芽、広大な森と化す。夫婦の犠牲と呪いに立ち向かった傑作”と冷静に書かれた内容紹介が全くもって意味不明なこの作品。「文藝」の2019年春季号に掲載されたということですが、前知識もなしにこの作品を読んだ読者は目がくらくらしたのではないかと思います。そうです。上記した作品冒頭の衝撃的な物語、『妻から発芽』するというファンタジーというより、ほとんどホラーではないかというその前提設定は幾らなんでもかっ飛びすぎているように思います。しかし、この作品はこの前提設定を落ち着いて見れないことには理解が進まないものでもあります。

    では、まずは『妻から発芽』した後どうなっていくかの描写を怖いもの見たさなあなたのために少しご紹介しましょう。

    ・『幅広の水槽から細くまっすぐな茎が何十本も、瀬木口の背丈に届く勢いで育っている。そしてその植物たちの根元には空間の狭さに応じて手足や頭をすくめた、胎児を思わせる造形の青白い肉がうずくまっている』
    → 成長が早く、『部屋の一角に大きく茂った』状態になった植物を前に、『なんてまがまがしいのだろう』と思う瀬木口は、『目の前の水槽に生まれた小さな地獄』とそれを評します。

    ・『扉を開けると、水槽から伸びた植物はすでに天井の高さにまで育っていた… 種がこぼれたのか水槽周囲のカーペットからも草が生え始め、寝室の三分の一が植物に侵食されていた』
    → 『人を養分にすると、木はこんなに早く成長するものなのか?』と、『背筋に寒気を覚え』る瀬木口。そうです。『妻から発芽』というのは『人を養分』に育っているとも言えるわけであり、これはどう考えてもホラー以外の何物でもありません。

    ・『如雨露で水をやろうにも、そもそも水槽がどこにあるのかよくわからない。膝が隠れるほど深い茂みが床を覆い、部屋のあちらこちらに木が生えていて、視界が葉に遮られるせいで部屋の奥の壁が見通せない』
    → 「森があふれる」という書名そのまんまの世界が一軒家の二階の寝室に広がるというシュールな光景を描き出します。そもそもそんな光景を見ても『如雨露で水をやろう』という感覚が瀬木口にあるのも怖いです。

    ということで、『妻から発芽』という強烈な前提設定だけ見ると、間違いなくこの作品はファンタジーだと思います。しかし、作品の本質はそこにはありません。あくまでこれは作品を描いていく中での設定の一つであって、そこに描かれていく内容は極めて重苦しい感情を描く物語です。このレビューの抜き出しだけ見ると、なんじゃこりゃ?と思われるかと思いますが、実際にこの作品を読んでいく中にはファンタジーという印象は前面に見えてきません。

    そんなこの作品は五つの章から構成されています。章題はついていませんが、それぞれに主人公、視点の主となる人物を変えながら展開していく物語は、連作短編と言えなくもありません。そんな各章の主人公、視点の主を整理しておきましょう。

    ・1 - 瀬木口昌志: 編集者

    ・2 - 木成夕湖: 小説講座の生徒

    ・3 - 白崎果音: 瀬木口の後任編集者

    ・4 - 埜渡徹也: 作家

    ・5 - 埜渡流生: 作家の妻

    五人の主人公を見て気づくのは、この作品には作家が登場し、その作家の編集者であるなど、作家である埜渡夫妻が中心となる物語のイメージです。作家が主人公となる作品は数多ありますが、作家を主人公とする以上、そこにはその作家が執筆する小説が登場します。小説の中に登場する小説、所謂、”小説内小説”です。私はこの二階層に描かれる構成の作品をこよなく愛していますが、そんな構成の作品にも幾つかのタイプが存在します。例えば辻村深月さん「スロウハイツの神様」に描かれる「V.T.R」は登場人物であるチヨダ・コーキが書いた小説とされていますが、外側の小説とは内容的に関連はありません。一方で、金原ひとみさん「オートフィクション」に描かれる同名小説は外側と内側の小説が一体化したような濃密な展開が魅力です。それに対してこの作品の立ち位置は金原さんの作品に近い立ち位置をとります。そこには主人公の埜渡徹也が書いた複数の作品が登場します。特に重要なのが次の二つです。

    ・「涙(るい)」: 『若い男女のみずみずしい愛の交歓を綴』ったもの。『あくまでフィクションの体ではあったものの、それが埜渡と、一回り若い彼の妻との関係性を下地にした私小説』

    ・「緑園(りょくえん)」: 『男女の関係に絶望する女を描』いたもの。『愛の限界を』描いたもの。『純愛をテーマにした地方文学賞を受賞』

    上記した通り、五つの章から構成されたこの作品には五人の登場人物が章ごとに視点の主を務めますが、全体としての主人公は埜渡徹也であり、妻の流生なのだと思います。物語はそんな夫婦に編集者として、または小説講座の生徒として関わる三人の視点が入ることによって夫婦の関係性を読者に見せていきます。

    『基本的に家族の間で発生した問題は、家族の間で解決されるべきだ』。

    あくまで冷静に夫婦を見る瀬木口は編集者としての冷静な立場で二人に対峙していきます。一方で、生徒である木成は

    『奥さんが病気になって、看病で忙しい。そんな噂をまず聞いた』

    という先に埜渡に『本当の自分を許してくれるのはこの人しかいない』という感情を抱きます。一方で、瀬木口の後任となった白崎は、『埜渡先生の奥様は訳あって家を出ている』と聞かされる中に、

    『二階の植物は気にしなくていいからな』

    と瀬木口から言われる先にまさかの真実に迫ってもいきます。

    そんな外部の三人の人間たちは埜渡夫婦の一面を見るも全てを見ているわけではありません。瀬木口が一番近い人物ではあるものの、会社員が故の人事異動で白崎に埜渡の担当を引き継いで離れていきます。

    そんなそれぞれの人物が見えない部分を補完していくのが上記した二つの小説の存在です。いずれも埜渡夫婦の存在を強く匂わせる内容であることが強調されますが、残念ながらその内容が読者の前に記されることはほぼありません。”小説内小説”には、その内容を小説内に記していくものもありますがこの作品はそういうスタイルは取らずあくまで読者に内容を想像させることで物語を展開させていくタイプです。

    『どうして私は、私のことなどこれっぽっちも考えていない、この埜渡徹也という人間を愛することをやめられないのだろう』。

    そんな風に語る妻の埜渡流生の思いが、まさかの『妻から発芽』するという衝撃的な展開の中に語られていくこの作品。そこには、一組の夫婦のあり方を見る物語が描かれていました。

    『愛を役割にされた人は、理性の性質を奪われる』。

    そんな言葉の意味を感じさせるかのように、作家の『妻から発芽』するという強烈な前提世界が描かれていくこの作品。五人の主人公の視点で描かれるこの作品には、愛することの意味を思う主人公たちの姿が描かれていました。”小説内小説”の存在が物語に奥行きを与えていくこの作品。『妻から発芽』するという強烈な設定に感覚が麻痺するのも感じるこの作品。

    『人を愛するとはなんだろう』という問いを、読者に予期せぬ方向から突きつける彩瀬まるさんの凄さを見た、そんな作品でした。

    • 淳水堂さん
      こんにちは!

      妻から発芽は見たことありませんが、語り手からかいわれ大根が発芽して、下水道に放置された話なら読んだことあります(^o^)...
      こんにちは!

      妻から発芽は見たことありませんが、語り手からかいわれ大根が発芽して、下水道に放置された話なら読んだことあります(^o^)!

      …しかし人体から発芽は気持ち悪い(☓。☓)
      さてさてさんのレビューだけで胸いっぱい、本文は読めないと思ってしまった^^;

      なお、かいわれ発芽は安部公房の『カンガルー・ノート』です。発芽も気持ち悪い、しかも芽を抜いて納豆と混ぜるので、ぐえ〜〜となりながら読みました…
      しかしこの本も、安部公房も、人体発芽はテーマのための展開に過ぎないのが凄いですね。

      2023/10/11
    • さてさてさん
      淳水堂さん、こんにちは!
      そうなんですよ、この作品強烈でした。むしろ、ホラーにふっていただいた方が気持ち悪さが少ない気もしました。物語は極...
      淳水堂さん、こんにちは!
      そうなんですよ、この作品強烈でした。むしろ、ホラーにふっていただいた方が気持ち悪さが少ない気もしました。物語は極めて真面目に『発芽』を描いていく分、余計に不気味です。
      一点、反省があるとしますと私のレビューでは『愛する』というところにこだわっていますが、他の方のレビューを読ませていただくと、この作品の主テーマはジェンダーだ…とおっしゃる方もいて、えっ!という思いです。読み方が浅かったのか…。反省…?
      とにかくこの強烈な前提設定を敢えて用いてまで彩瀬さんが本当に描かれたかったことな何なのか?淳水堂さんお書きいただいた通り、人体発芽はテーマのための展開、ここですよね!
      淳水堂さんには、胸のつかえをとっていただいて、是非とも手にしていただければと思います。
      気持ち悪さを共有いただく方を絶賛募集中です!
      2023/10/12
  • 妻が発芽するという珍しい設定に惹かれて読み始めた。男女の間にある固定観念や世界の見え方の違いについて面白い切り口で攻めた作品。設定は面白いのに、終わりに向かって急にストーリーが展開され、よくわからない終着点で降ろされた感じ。

  • 230331.14
    妻を小説の題材にしてきた夫。ある日夫の浮気を疑った妻が大量の種子を飲んで発芽、やがて家を飲み込むほどの森となり....
    .
    男はこうあるべき。良い妻の言動とは。若手女性社員らしい服装とか...「らしさ」に束縛されている人達のお話でした。
    .
    読んでいて少しずつしんどくなってくる内容...。身に覚えがある事ばかりでなおさらそう感じました。
    このモヤモヤした気持ち、言葉にならない、できない感情が発芽するという事なのかな。
    .
    結局夫婦は話し合えないままだったのが寂しいな。小さい時から植え付けられてきた「らしさ」の価値観からはそう簡単には逃げられない...

  • 『でも、どんなに好きでも、許さないことはあるよ』
    『相手の弱さや愚かさ、醜さを受け入れ、許すのが本当の愛でしょう?』
    ❁.゚『いやなものを拒んだり、批判したり、変化を求めたりする力を持たない人が、本当に愛する力を持っていると言えるの?』
    『…愛は、無条件であるべきよ』
    『そんな風に、愛を役割にされた人は、理性の性質を奪われる』
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    ❁*.゚『もっと広くて色んなことが起こっている現実に対して、物語がすくいとっている領域が、ものすごく狭いんだ。』
    ❁*.゚『きっと私たち夫婦には違う可能性がたくさんあるのに、それを、ないことにする物語じゃなくて、すくいとってくれる物語が読みたいよ。』

    2つ目と3つ目の言葉、
    私は去年の1月くらいから読書が趣味と言えるくらい読書が好きになったけれど、だんだん自分が読んだ本が多くなっていくうちに自分の中で決めつけが多くなってきたのかもと最近思う。
    例えば、私が今まで読んだ本は、仲良い夫婦がほとんど登場しなかった。むしろ、不機能家族やすれ違っている夫婦のストーリーだった。
    だから私は「結構したら自由がなくなる」とか、「育児についての父親の自覚がない人がほとんどなんだろうな」とか、極端にマイナスイメージばかり持ってる。(実際にはそれがありふれたものなのかもしれないけど)
    でも、私が結婚してそうなるかは分からないし。というか、本で読んだからってそんなイメージで決めつけて諦めてしまうより現状を変えようと相手ととことん向き合って話し合わないと。
    私は私の生き方があるし。
    私の人生における環境も、登場人物たちも私だけのオリジナルだし。
    そんな、全く違う他の人の人生と重ねてしまうなんてもったいないな。。

    野球選手(?)かな、聞いた事があるけど
    『思い込みは可能を不可能にする』って言葉。
    思い込みが激しい私よ、その度に思い出せーー!!

  • ちょっと前までは苦手な分野の本だったけど、成長したのか最近こういう本の良さが分かるようになった。現実なのか夢なのか。ファンタジーなのか狂気なのか。微妙なスレスレラインを行ったり来たりするのが心地良い。彩瀬さんの本、初めて読んだけど、この本のストーリーはともかく、文体がフワフワしてて幻想的で柔らかく好きだった。他の作品も読んでみたい。

  • 冒頭、ボウル一杯のミックスナッツを無心に食べ続ける作家の妻、琉生(るい)の描写から物語はスタートする。

    このシーンだけで、夫であり作家の埜渡徹也への鬱憤や溢れ出すストレスを感じる。

    ところが琉生が食べていたのはナッツではなく植物の種で翌日には発芽してしまい、森へ姿を変え街まで浸蝕し始める。

    突拍子もない話だがその根底には夫婦間、男女間の気持ちの相違や在り方が潜んでいて、それがリアルな感情と共に描かれ作者のメッセージとして伝わる。

    抽象的な表現で理解し辛い所もあったが、頭で読み取ると言うよりも心で感じるような物語。

  • 琉生がミックスナッツを黙々と食べ続けるシーンから、「妻が発芽した。」へと続く、自宅二階の寝室が森であふれる情景が音や匂い肌の感覚を伴って五感で映像化出来る。独特の世界観、好きです。男と女の物語。

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著者プロフィール

1986年千葉県生まれ。2010年「花に眩む」で「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞しデビュー。16年『やがて海へと届く』で野間文芸新人賞候補、17年『くちなし』で直木賞候補、19年『森があふれる』で織田作之助賞候補に。著書に『あのひとは蜘蛛を潰せない』『骨を彩る』『川のほとりで羽化するぼくら』『新しい星』『かんむり』など。

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