読書実録

著者 :
  • 河出書房新社
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本棚登録 : 50
レビュー : 2
  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309028293

感想・レビュー・書評

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  • これは死者との対話か、それとも生者との対話か。
    そのどちらでもない、不穏さが本書の魅力。
    その意味で、最終篇がメルヴィルの「バートルビー」をタイトルに冠しているというのはとても象徴的。
    と簡潔にまとめたら著者は嫌がるかもしれない。
    けれども、生きながら死に、死にながら生きているバートルビーの不穏さは、本書全体をおおいつくしている。

  • この本には、著者と会話しようとする、著者を上回る「」を持った何者かが出現する。だからこれを小説とするのか、それともやはりそんな些事には拘らず全体の印象をもってエッセイとするのか、そういう定義にはあまり意味がない。人にこの本を紹介するには便利だろうけれど、個人的にこの本をわかろうとすることに(この【わかる】という言葉に著者は難儀していたけれど、その気持ちがわかる)この本がなにものかであることを問う必要はないと思う。

    繋がりの気持ちよさを探す本でもあると思う。レリスの日記から取り出した「襞」という言葉の頻出に私はドゥルーズを予感したけれど、その後に出てきたメルヴィルの『バートルビー』についての話でドゥルーズの書評が大きく紹介されていて、ドゥルーズの解釈する「内在」もしっかり「筆写」されていて、そこの繋がりに快感を覚えた。

    これは間違いなく小島信夫の『私の作家遍歴』を意識して書かれた本だ。『私の作家遍歴』も引用が非常に多い本で、また本筋を外れ過ぎて何が本筋なのか、むしろ本筋なんてものはなくて、書かれてある筋だけが存在するのではないか、そんな自由な筆のノリも、『私の作家遍歴』を思わせる。

    こういったことは、著者の気の短さと決して無縁ではない。気の短い作家が時間も手間もかかる、自分の文章を書くよりもずっと面倒な「筆写」という作業をこの本に強いているのだから、その間に思考はいくらでも変遷する。その変遷の奥と手前で何かが結びつくこともあって、それがなんとも気持ちよかったりする。

    好き勝手に書かれた本、というような印象を与えたかもしれないけれど、この本はとても誠実な本だ。少なくとも思考というプロセスに嘘をつかず、それを文章として展開することに極めて誠実だ。あるいは書くことによって思考しているということもあるかもしれないけれど。

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著者プロフィール

1956年、山梨県生まれ。著書に『草の上の朝食』(野間文芸新人賞)、『この人の閾』(芥川賞)、『季節の記憶』(平林たい子文学賞、谷崎潤一郎賞)、『未明の闘争』(野間文芸賞)、『ハレルヤ』など。

「2019年 『読書実録』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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