生命式

著者 :
  • 河出書房新社
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レビュー : 64
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309028309

感想・レビュー・書評

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  • 短編集。
    葬式のかわりに死んだ人の肉をみんなで食べる「生命式」とか、人毛のセーター、ホクロや傷痕の残る皮膚で作られた結婚式用のベールが出てくる「素敵な素材」、などなど。あらゆる角度から物事を捉えた刺激的な村田ワールド。
    人間の死体を食べようとしたり、気持ち悪いんだけれどさ、もう完璧に世界作っちゃってそこがこの作家さんの凄いところかしら。こうもさらりと圧倒的に描かれてしまうと、ほんとにこんな世の中が来るんじゃないかと錯覚する。よくもまあ、考えつくなあと。いろんなことに着眼点があり、感性があるのかな。針が吹っ切れるほどの村田ワールド、パチパチパチ。
    グロテスクで衝撃的なので(特に最初の方)、好みが分かれるところか。

  • 開始2ページ目の、衝撃。
    これは、敢えてページをめくらせたな(笑)

    村田沙耶香の描く、異常の眼差しに含まれる普遍みたいなのが割と好きだ。
    ただ、「生命式」「素敵な食材」はちょっと振り切り過ぎて、グロさだけが際立っている感が。

    「101匹わんちゃん」は、クルエラの狂気がまざまざと描かれていようがアニメになるけど、あれが対人間だったら……と考える。

    続く「素晴らしい食卓」は、相容れない価値観を食卓の上で現していて、面白い。
    厨二病の妹が作る魔界都市ドゥンディラス料理。
    対して姉が出すはハッピーフューチャーフード。
    そしてお相手の両親からは虫系佃煮……!

    最近、よく「日本上から目線番組」を見るけど、そういう番組が増えるのを見ていると、これ見て気持ち良く感じてるの、もしかして日本人だけなんじゃないの、って怖くなる時があるのを思い出した。
    日本の技術を否定してるわけではなく。
    あしからず。

    「街を食べる」は、有川浩が書けば『植物図鑑』という甘酸っぱい恋愛小説になるのに、村田沙耶香が書けば恐ろしいネイチャーフード洗脳小説になるところが面白すぎる。
    でも、ファーストフードの野菜剥がして食べたくなる気持ちは、分かる。

    他に、
    「夏の夜の口付け」
    「二人家族」
    「大きな星の時間」
    「ポチ」
    「魔法のからだ」
    「かぜのこいびと」
    「パズル」
    「孵化」

  • 怖さって、色々ありますよね。

    ホラーなどの、単体で怖いものもありますが、デフォルメされた、わっ、と驚かそうとする怖さよりも、日常との繋がりがある怖さの方が、ずっと恐ろしいと感じています。
    そんな、日常的に営む人々の怖さを凝縮したのがこの本です。

    この本の出来事が、違和感を感じてしまうのは、いつまで経っても部外者だからかもしれない。当事者目線で見たら、それは常識と感じるかもしれない。
    別に、例えば牛や豚などの肉を食べると一緒だからやめようだとか、そういうことを伝えたいわけではない。
    ただただ、揺らぎ続ける。考えさせられる。ただこの感覚を覚えるのは、どうも作者の意図のような気がして、きっと思う壺に入っているんだろうな、と。

  • すごい本、なんか変な本。
    なんてカテゴライズしたらいいんだこれは?
    奇妙の一言に尽きる短編集。
    奇譚集?

    すごく奇妙なシチュエーションをさも普通な日常のように淡々と描く確かな筆致力。
    段々今まで僕らが信じてきた常識の方が異常なんじゃないか、とフッと思えてくる。

    しかも笑いのセンスもありすぎる。「素晴らしい食卓」とか「孵化」とか、ラストのギャグセンスはもはや狂気の域でしょ。

    「正常は狂気の一種」、帯にも書かれているこのフレーズが全体をうまく表現していると思う。
    なんか心にしこりが残るアクの強い作品です。

  • 待ちに待っていた村田さやかさんの最新作!
    表題作を始めとし、”ニンゲン”のあるべき姿を問い質す12の物語。
    コンビニ人間や殺人出産などの長編はここから生まれたんだなぁという、実験的に撒かれた種のような掌編もあって面白かった。

    【生命式】
    お葬式ではなく生命式。死者の身近な人々は死者の肉を食べ、その場で意気投合した異性と受精を行い新たな生命を産む。そんな世界で、真保は人肉食に対して嫌悪感がある。おつい30年前までは話題にすることさえタブーだったはずが、掌を返した風潮についていくことができない。
    すごい設定だ。。。とギョッとするけれど、ありえなくもないと思っている自分がいる。何かのきっかけやはずみでこんな世界になってしまうことだって、ありえないとは言い切れないよね?
    「だって正常は発狂の一種でしょう? この世で唯一の、許される発狂を正常と呼ぶんだって、僕は思います」
    真保が親しくしていた同僚・山本の生命式の後で出会った男性のこの言葉に救われる人はたくさんいるだろう。みんな気づいていないだけで、この世は常に発狂しているんだ。

    【魔法のからだ】
    性をいやらしいものとしてでなく、自分の快楽は自分のためだけにあると知った中学生女子の話。すごく好きなテイスト。自分のなかに眠っていた魔法の星屑の塊。

    【パズル】
    「コンクリートと人間は、相反するものではなかったのだ。この世に蠢きまわる人間の全てが、私達、灰色のビル全ての、共有の内蔵だったのだ。」

    【孵化】
    村田沙耶香さんがテレビのインタビューで今書いている小説として話したのを聞いてからずっと読みたかったやつ。およそ”自分”というものを持たずに成長し、その時々のコミュニティに応じて自動的にキャラクターをつくりその役を演じることで人間関係を築いてきたハルカ。結婚式を挙げるにあたって、どのキャラを演じるべきなのか悩み、、、という、分人主義を思い出させるようなストーリー。本当の自分ってなんなんだろう?
    結局、結婚相手であるマサシ向けに第6のペルソナをつくる、というラストはめちゃくちゃ突き抜けてて最高だった。ハーちゃんとマザー。「6人目の私」と「呼応」して、マサシからも新しいマサシが生まれていく。

  • 村田さんの頭の中覗きたい願望はもうデビューからずっとあるのですが、新刊発表するためその欲がむくむく起きる。何じゃこりゃと、表題作読んだときに思わず笑ったよ。前置きがなく、さらりと変なこと言うんだもん。生命式行く? 行くならランチ控えなきゃ。○○さん美味しいかな、って。何の話なのって思いきや、人肉を食す世界になっていて、セックスは道端でまるで動物が交尾するかのようにあらゆる場所で行われ、そこで受精しできた子はセンターで大事に育てられる。センターっ子って言葉まででき…
    生命式でぬぉーってなってたら次の素敵な素材で、結婚指輪の主流が人間の歯や骨になっており、プラチナにすると言うとお金ないの? って言われる世界になっていること。家具も人間を使い、人毛のセーターは高級品。生命式の次がこれだからびっくりしてまた笑った。
    ぶっ飛んだものから少しおかしいもの、12篇の面白い作品がギュッと詰まった短編集、読むの少し疲れるけど楽しかった!

  • 常識なんて無い信じる世界の不安定さを感じる。
    みんなで嘘をついて気づかないふりをしながら、同じようにその蜃気楼を信じることは恐怖だけど安心でもある。
    自分だけが特別ではない。
    意識的か無意識的かはわからないがみんな同じように狂っている。
    各々違う狂気を持っているが、許される発狂を正常と見なしている。
    常識から離れていることを特別では無く当たり前のことと捉えていることが村田沙耶香の小説の魅力だと思う。
    常識なんて無いし、本当の自分なんていない。
    だからそこに自意識も存在しない。

  • 村田沙耶香「地球星人」以来1年ぶりの単行本。

    間違いなく、村田さんでないと書けない作品たち。
    村田さん初めて読む!って方にはちょっとオススメは出来ないかも?ダメな人は数ページで閉じてしまうかなぁ。

    ①「生命式」今の葬式とは違い、国からの補助が出る「生命式」死んだ人間を皆で料理して食べる。そこで気が合えば男女が式から退場、受精行為に及ぶ。

    ②「素敵な素材」死んだ人間の臓器や皮膚・歯などを使って、洋服やら家具やら指輪やらを作り出す世界。婚約者(男性)はその考えに反対していたが、ある素材で作ったドレスのベールを手にした途端、考えを改め出して・・・・。

    ③「素晴らしい食卓」夫に合わせて食べるようになったドライフーズ。妹は小さな頃から「前世は魔界都市で暮らしていた」と言い、故郷の食べ物はたんぽぽやどくだみ。その妹の婚約者の両親は、いわゆる「普通」の食を好む・・・・が、田舎でよく見る虫の甘露煮などが大好き。妹の婚約者は、いわゆるジャンクフードしか食べない。彼らが一つのテーブルを囲んだ時、文化の交流が始まる。

    ④「夏の夜の口付け」わずか3ページの作品。でもしっかり、村田さん。70代の女性二人の性のお話。

    ⑤「二人家族」④の二人と同じ名前の女性だったから、設定が変わっててアレ?と混乱。違う二人だった。周りからしたら、なんて不思議な家族なのか。

    ⑥「大きな星の時間」こちらも3ページ。ちょっと怖くなるおとぎ話のような・・・・。

    ⑦「ポチ」ユキが大手町で拾ってきて裏山で飼っているポチ。ポチ・・・・ニジマデニシアゲテクレ。

    ⑧「魔法のからだ」二人の女子中学生。大人びた私と、まだ幼い体つきの詩穂。詩穂は中1の時から自分の意志でセックスをしているらしい・・・・。

    ⑨「かぜのこいびと」カーテンに名前がついて、意志を持つ話は初めてだ。

    ⑩「パズル」満員電車を「人間浴」として好む早苗。人間の中身(臓器やら排泄物やら)に興味がある・・・・これまた、初めてのタイプ。

    ⑪「街を食べる」なんか最後怖い。

    ⑫「孵化」自分には性格がない。中学校・高校・大学・バイト先・職場と、それぞれ違うキャラで生活している。どれが私?どれも私。婚約者の彼に初めてそれを打ち明ける。どのキャラで生きていけばいい?

    「自分には性格がない」って、変なことを言っているようにも聞こえるけど、すごくわかる気がする。ここまで年代でキャラを分けてあだ名も変えて、ってのはさすがにないと思うけど。誰でも職場での自分と、家庭の中と、あるいはSNSでの自分って少しずつ違って、その集合体が「巣の自分」なんだろうか。それも違うような。
    すっごい長くなってしまった。

  • 亡くなった人を料理して食べて、その興奮を性行為に繋げる儀式が一般的になっている世界の話や、死んだ人間の皮膚や歯を素材にして家具や衣類を作る世界の話などの短編集。

    それぞれの話がみんな狂っているから逆に一貫性がある、というか、ぜんぶ変化球だからもはやそれが普通、みたいな感じ。
    そもそも、何が普通で何が異常なのか、を決めるのは多数決のようなものだから、遺体から服や家具を作る人たちが増えればそれが常識になる。その世界では、遺体を素材と見ない人のほうが異常なのだ。時代が変われば価値観も変化する。常識なんてすぐに変わってしまう。


    先日観に行ったトークショーでも村田さんの話は面白かった。
    置いてあるミネラルウォーターを見て、「これは水って書いてあるけど動物のおしっこかもしれない。ラベリングされてるものを信じているだけ。信じている自分が怖い」と言う村田さんはやはり特別な視点を持つ人なんだなあと思った。
    もしかしたら村田さんの視点が健全で、他の人たち(村田さん以外の一般人)の感じ方が異常なのかもしれないけど、現在の常識に慣れきっている自分からすれば、もはやそんなことはわからない。

  • 目を覆いたくなるような、軽蔑したくなるような光景が、どのページを開いても広がっている。
    けれど、例えば30年後の私達が、どんな「正しさ」を信仰していて、何を軽蔑するようになっているのだろうか、と、ふと思わされる。

    例えばこの国でも、ある時代には、ある価値観の下に積極的に自死することが正しいことであったりもしたわけで、
    またある時代のある国では、ある種族の人間を徹底的に排除することが正当化されたりもした。
    それは今では、理解し難く、軽蔑され得ることでもある。

    今だって、例えば罰ゲームとして無理矢理に現地の「ゲテモノ」食材を食べさせるようなバラエティ番組の一企画があったりするのだけれど、
    正直、自分はそういった企画への違和感を禁じ得ない。
    それは現地の食文化へのリスペクトに欠ける行為であると思うし、
    いっそ文化の違いをきっぱり伝えて、
    「私はこれを食べません」と言い切る方がよほど誠実だと思う。
    良くも知らないうちに、相手の宗教に対してみだりに理解や関心を示すべきではないのと同じように。
    それは相手の文化を聖別する行為であり、同時に自身の文化を守るための行為でもあるのだと思う。

    ある価値観は同時に、他者にとっての違和感である。
    「価値観」の対義語は「違和感」であると、この本に教えられた。
    また、「正しい軽蔑の仕方」も教えられた。

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著者プロフィール

村田沙耶香(むらた さやか)
1979年、千葉県印西市生まれ。二松學舍大学附属柏高等学校、玉川大学文学部芸術学科芸術文化コース卒業。
2003年『授乳』で第46回群像新人文学賞優秀賞を受賞しデビュー作となる。2009年『ギンイロノウタ』で第22回三島由紀夫賞候補及び、第31回野間文芸新人賞受賞。2010年『星が吸う水』で第23回三島由紀夫賞候補。2012年『タダイマトビラ』で第25回三島由紀夫賞候補。2013年、しろいろの街の、その骨の体温の』で第26回三島由紀夫賞受賞。2014年『殺人出産』で第14回センス・オブ・ジェンダー賞少子化対策特別賞受賞。2016年『コンビニ人間』で第155回芥川龍之介賞受賞。
2018年8月末、『地球星人』を刊行。

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