生命式

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309028309

感想・レビュー・書評

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  • 生、死、性、善、美。

    “常識観”や“世界観”は、煎じ詰めればここまで尖って異常に映るのか…

    人が「各々の常識を詰め込む袋」なら、穴の中を覗く行為もまた一興かも。

    「異常×正常」から新たな本質を見つける怪作。狂ってるのに、不思議とグロさは感じなかった。

  • 待ちに待っていた村田さやかさんの最新作!
    表題作を始めとし、”ニンゲン”のあるべき姿を問い質す12の物語。
    コンビニ人間や殺人出産などの長編はここから生まれたんだなぁという、実験的に撒かれた種のような掌編もあって面白かった。

    【生命式】
    お葬式ではなく生命式。死者の身近な人々は死者の肉を食べ、その場で意気投合した異性と受精を行い新たな生命を産む。そんな世界で、真保は人肉食に対して嫌悪感がある。つい30年前までは話題にすることさえタブーだったはずが、掌を返した風潮についていくことができない。
    すごい設定だ。。。とギョッとするけれど、ありえなくもないと思っている自分がいる。何かのきっかけやはずみでこんな世界になってしまうことだって、ありえないとは言い切れないよね?
    「だって正常は発狂の一種でしょう? この世で唯一の、許される発狂を正常と呼ぶんだって、僕は思います」
    真保が親しくしていた同僚・山本の生命式の後で出会った男性のこの言葉に救われる人はたくさんいるだろう。みんな気づいていないだけで、この世は常に発狂しているんだ。

    【魔法のからだ】
    性をいやらしいものとしてでなく、自分の快楽は自分のためだけにあると知った中学生女子の話。すごく好きなテイスト。自分のなかに眠っていた魔法の星屑の塊。

    【パズル】
    「コンクリートと人間は、相反するものではなかったのだ。この世に蠢きまわる人間の全てが、私達、灰色のビル全ての、共有の内蔵だったのだ。」

    【孵化】
    村田沙耶香さんがテレビのインタビューで今書いている小説として話したのを聞いてからずっと読みたかったやつ。およそ”自分”というものを持たずに成長し、その時々のコミュニティに応じて自動的にキャラクターをつくりその役を演じることで人間関係を築いてきたハルカ。結婚式を挙げるにあたって、どのキャラを演じるべきなのか悩み、、、という、分人主義を思い出させるようなストーリー。本当の自分ってなんなんだろう?
    結局、結婚相手であるマサシ向けに第6のペルソナをつくる、というラストはめちゃくちゃ突き抜けてて最高だった。ハーちゃんとマザー。「6人目の私」と「呼応」して、マサシからも新しいマサシが生まれていく。

  • 最初の「生命式」から狂ってる…というか正直気持ち悪い。正常は発狂の一種、何が社会的に正しいのか?と自分にしっくりくるのか?は別の話で自分自身の価値観もいつかの社会的価値観の影響下にあるとすると本当に正しいものってあるのだろうか?そんなあやふやな気持ちにさせられる作品。

    続く「素敵な素材」もまた狂ってる。村田沙耶香らしくはあるがこの路線がエスカレートするとこのままファンでいられるか少々不安になる。生命式にも似たテーマにも思えるが、何か物質としてのヒトと生物としてのヒトの違いのあやふやさか?この話を読んで嫌悪感を全く感じない人は少ないと思うがその嫌悪感はどこから来るんだろう。

    途中、短い話を挟みながら最後の3編がまた良い。特に最後の「孵化」は人間関係における心理を極端に強調して多重人格者の話であるようでいて日常に普通にあるような気もするこれも村田沙耶香さんらしい作品。

    全般的に生きていく中で感じるちょっとした違和感をデフォルメして価値観を不安にさせられるような作品が多くファンなら間違いなく楽しめますし、村田沙耶香を読んだことがない人でも「らしさ」に溢れた作品なので良いと思います。(とはいえ初読なら「コンビニ人間」か「しろいろの街の〜」をお勧めします)

  • 映像で想像しながら読んでしまう癖があるので、最初の料理の描写がキツくて何度も挫けそうになったけれど、なんとか完読

    自分の価値観や想像力に無いストーリーに刺激された

  • 生命式
    あまりに現実的に、そして当たり前に人肉のことのついて書かれているから読んでいて気持ち悪くなった。人肉は臭みが強いから、下茹でしてから濃い味付けでいただくだったり、いちいち料理の中の肉を○○さんと表記してあったり、細かいところでうっとなった。

    最初は内容が衝撃的すぎて読み進めるのをためらったが、人間の本質的な部分に触れる作品が多く、生活をしていて読んだ内容について考えることが多かった。

  • 今までに読んだことのないタイプの短編集で凄く引き込まれました。どの短編も面白かったですが、やはり1番印象に残ったのは「生命式」です。
    狂ってるし気持ち悪いし意味が分からないけれど、でも不思議と「今の自分の常識も未来や過去の誰かから見たら狂っているのか…?となると今読んでいるこの世界はなんだ…?」という気持ちになるのが面白かったです。
    個人的にはこの本のイメージにぴったりな芸術作品が表紙を飾っているのも好きなポイントでした。
    手に取ってよかったと思える作品でした。

  • どの話も、自分の今ある概念で
    読んではいけないと思った。

    個人的には「孵化」が好きだった。
    主人公のハルカほど、キャラクターの使い分けを
    しているわけではないが、誰にでも
    そういう感覚ってあると思うなー。
    確かにハルカは極端だったけど、
    自分もたいして変わらないかも…って思ったら
    怖くなったよ。

    「素晴らしい食卓」の魔界都市ドゥンディラス
    って響きが好きー(*´艸`*)
    ドゥンディラスー!!

    • shintak5555さん
      人と動物の垣根を取っ払ったらこうなる。という仮定のものがたりもありましたね。
      人間の文明社会が創り出した感覚の問題なのかと。
      動物の毛皮とか...
      人と動物の垣根を取っ払ったらこうなる。という仮定のものがたりもありましたね。
      人間の文明社会が創り出した感覚の問題なのかと。
      動物の毛皮とか革製品は喜んで使う。
      卵が産めなくなった鶏は安い国産鶏肉として私たちの生活を支える。
      文字として読めるけど、じゃあ実際にとなったら無理ですね。
      2021/04/07
    • ほくほくあーちゃんさん
      私なんか、いつも薄っぺらい読み方しかしてないから、「ふむふむ、なるほどー!!」って、shintak5555さんの感想に頷いちゃいます。
      文字...
      私なんか、いつも薄っぺらい読み方しかしてないから、「ふむふむ、なるほどー!!」って、shintak5555さんの感想に頷いちゃいます。
      文字だから読めるけど、本当に実際は無理ですよね。
      2021/04/07
  • ・生命式
    人肉の味の感想を述べるな、、
    ・素敵な素材
    次は人毛か!骨か歯の指輪、、
    ・素晴らしい食卓
    魔界都市ドゥンディラス カオスすぎる。
    ・夏の夜の口付け 二人家族
    同じ登場人物…じゃない!
    ・大きな星の時間
    眠れない2人
    ・ポチ
    絶対犬じゃないと思った!!

  • 表紙の絵が怖い、、、
    人間の髪の毛でできたライトだなんて
    ホラー以外の何物でもないじゃないの。。。(涙)

    それが不思議なことに、この短編集を読んでいると
    自分の価値観がグラグラと揺れだして
    最後は崩壊しそうになってしまうのだ。
    どう考えたってグロテスクなことが、だんだんと神聖で美しいことのように思えてくる始末。。。
    きっと人の価値観なんてそんなもの。
    あっと言う間に善悪や常識なんて覆って
    もしかしたら、この小説みたいな世の中がやってくるかもしれないし・・・(絶対やだよー!)

  • あまりにも面白いので短編ごとに感想書きそうな勢い。
    「魔法のからだ」瑞々しい感性で書かれた少女語りの文体が特徴。これはその中でも本当に最高の短編だった。とにかくどこを切り取っても嫌らしくならない、どうなってんの村田沙耶香。絶妙なバランス感覚、すごすぎる。もっと若い時にこの小説に出会いたかった。

    「素晴らしい食卓」異文化理解、異文化交流、融合、多様性、私たちがそろそろうんざりし始めている社会からの押し付け。この短編はその縮図なのではないかと感じた。面白かった。終わり方も秀逸だ。
    それぞれの文化を大切にするために不干渉でいる、ということで一致しかけた世界を最後の最後でぶち壊す「夫」。これは多様性を声高に叫ぶ人々そのものではないか。安直でわかりやすいものに飛びつき、自分の頭で考える前に安易にそれを信じてしまう人のなんと多いことか。なんとなく「正しそうなもの」流され続ける人々はこの夫そのものだと思う。大事なのは大多数の叫ぶ「正しさ」を信じることではなく、目の前の相手を注意深く観察し労わりあうことなのだと思う。それぞれの「正しさ」がある中で本当の意味での相互理解などほとんど不可能である。これは無関心ではなく、他人を尊重する態度だと思う。全てを融合しようとしていく世界はとても恐ろしいし傲慢だと、わたしは思う。何もかもを多様性、異文化理解の名の下で無理にすり合わせたり、融合させたりすれば、そのものの本来の性質は失われてしまうのではないだろうか。

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著者プロフィール

村田沙耶香(むらた・さやか)
1979年千葉県生れ。玉川大学文学部卒業。2003年『授乳』で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)を受賞しデビュー。09年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞、16年「コンビニ人間」で芥川賞を受賞。その他の作品に『殺人出産』、『消滅世界』、『地球星人』、『丸の内魔法少女ミラクリーナ』などがある。

「2021年 『変半身(かわりみ)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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