約束された移動

著者 :
  • 河出書房新社
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本棚登録 : 608
レビュー : 62
  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309028361

感想・レビュー・書評

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  • 小川作品には時折、いわゆるイタい人が登場する。

    例えば表題作のハウスキーパー。
    俳優Bがスイートルームに宿泊する度に持ち去る本と同じものを購入し読み込み、Bのメッセージを読み取ろうとする。さらにはBが落とした髪の毛を丁寧に集め束にして名札の裏に貼り付ける。

    例えば「ダイアナとバーバラ」の老女バーバラ。
    亡くなった元ダイアナ妃の写真集を元に、彼女が着ていたドレスを忠実に再現しそれを着てショッピングモールに出かける。だが同じ材質の布や素材ではないし同じ高い技術を持っているわけではないドレスはどこか歪で、ショッピングモールの客たちの注目を浴びることになる。

    例えば「黒子羊はどこへ」の託児所園長。
    幼かったJが二十年前にくれた、事務用クリップと厚紙とビーズと木綿糸で作ったイヤリングを毎週身に着け、成長し歌手となったJの歌声を聴きにナイトクラブへ行く。だが中に入る勇気はなく、裏口のゴミ箱の上で微かに聞こえるJの歌声に必死に耳を傾ける。

    極めつけは「寄生」の老女。
    恋人にプロポーズをしにレストランへ行く青年を五十年前に生き別れた息子だと言い張り、青年の体にくっついて離れない。交番に行ってもずっとくっついたままだ。


    何とも危ない人たちなのだが、これが小川さんの手に掛かればたちまち細やかで穏やかな物語に変わる。
    共通して言えるのは、小川作品に出てくる人々はどんなささやかな作業、取るに足らない仕事であっても決して手を抜かない。
    隅々まで見渡し、どんな小さな隙間もひっそりと潜んでいる影にも視線を張り巡らし、あるときは隙間を埋め、あるときは余計なものを取り除き、あるべき姿に戻していく。

    そして忘れてはいけないのは、彼らは静けさと穏やかさを好む。誰かを傷つけようなどはもってのほか、決して相手に悟られずただ密やかに自分のこだわりを満たす作業を続けている。

    周囲の人々も実に理解的だ。ハウスキーパーの同僚であるマッサージ師、バーバラの孫、老女に寄生された青年。
    そのほかにも元迷子係、巨人の通訳、園長を見守る黒子羊…皆彼らが穏やかに静かに過ごすために心を配っている。

    一見歪で危険な話も表現次第でこれほど違って見える。
    やはり小川さんは止められない。

  • 表立って起こっていることはとてもささやかだったり密やかだったりするのに、内包されている感情や出来事には途方もない哀しみや事件が注意深く隠されている。
    そういう印象を作者の作品から感じることが多いのですが、この短編集でも、表層的な静けさがとつとつと綴られながらも、ふいに、深層にある人の生々しさが時折ふっと立ち昇ってきます。そして、そのときどきにぶわっと哀しみを覚えたりすっとそれまでの描写のなにかが腑に落ちたり、と感情をそっと、でも確かに揺さぶられます。そういう内側から揺り起こされるような静けさのある展開、意外性を十二分に味わえました。
    この中では「元迷子係の黒目」が好きです。最後のひとつの段落で、この短編数十ページの全ての要素を包み込み、説明し、収束させている手管の巧さが素晴らしいと思ったからです。

  • 喧しくない、押しつけがましくもない小説。
    雰囲気が好き。

  • 短編集。
    主人公はいずれも、市井の人たち。
    ちょっと変わった人たち?
    いいえ、きっと私も他人から見たら、ちょっと変わった人なんだ。
    そんな人達を、冷静に淡々と描く小川洋子さん。余計な感情が入ってないから、自分(読者)の感情で読めるのかも。でも、冷たいという訳ではないんだな。そこに私は惹かれるのかも。

  • 「約束された移動」 小川洋子(著)

    2019 11/30 初版発行 (株)河出書房新社

    2020 1/3 読了

    心の隅を
    フッと揺らすような短編集。

    ひっそりと健気に生きている女性の姿が描かれています。

    時代の波に飲み込まれ翻弄される女性。
    控える事しか選択肢を持たない女性。

    自分の声を殺して
    自分の場所に収まるかのように

    自分の祖母や母親のことのように
    切ない物語が美しい言葉で描かれています。

  • 約束された移動
    著作者:小川洋子
    今日こそプロポーズをしようと出掛けた先きで見知らぬ老女に右腕をつかまれ占領されたまま移動する羽目に懐かしく恋しい人生を描く小川小説の新境地。
    タイムライン
    https://booklog.jp/timeline/users/collabo39698

  • 短編集。

    一風変わった登場人物たちの生活、人生。
    誰もみんな変わってるけど、イヤじゃない。

    他人になにか押し付けたりしない、自分の内で持ってる大事なものを大切に生活を営んでいる。

  • +++
    ハリウッド俳優Bの泊まった部屋からは、決まって一冊の本が抜き取られていた。
    Bからの無言の合図を受け取る客室係……「約束された移動」。
    ダイアナ妃に魅了され、ダイアナ妃の服に真似た服を手作りし身にまとうバーバラと孫娘を描く……「ダイアナとバーバラ」。
    今日こそプロポーズをしようと出掛けた先で、見知らぬ老女に右腕をつかまれ、占領されたまま移動する羽目になった僕……「寄生」など、“移動する"物語6篇、傑作短篇集。
    +++

    さまざまなテイストの物語が集まっている。だが、これらを「移動」に注目してまとめたのは、著者ならではではの感性ではないだろうか。どの物語の主人公も、自分なりのこだわりを持っていて、それは、一般の人に比べても確固としている風に見える。世間との折り合いよりも、自分の中の規則に従って生きる人たちが描かれていて、傍から見ると不自由そうにも見えるのだが、それこそが彼らにとってのしあわせなのだろう、とも思われる。普段気づかない方向からの視点で愉しめる一冊でもある。

  • ここに出てくる人々は哀しいくらい寂しい。
    その寂しさを理解してくれるものもいるが、それは枠の外側だ。
    だから、小川洋子の作品は切なくて哀しくて、愛しい。


    彼らにとって、孤独も大事に抱きしめているべきものだから、誰もその世界に入ることはできない。

    だから、読み終えた時に寂しいと思うのだろう。

  • 小川ワールドやっぱり大好き。

    泊まったホテルの部屋から毎回一冊本を抜いていく俳優、ダイアナ妃のドレスを作り続ける女性、とても声の小さな小説家などなど。独特な世界観の面白さと、読んだ後にジワっとくる切なさ寂しさ。

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著者プロフィール

一九六二年岡山県生まれ。早稲田大学
第一文学部卒。八八年「揚羽蝶が壊れ
る時」で海燕新人文学賞を受賞。九一
年「妊娠カレンダー」で芥川賞受賞。
二〇〇四年『博士の愛した数式』で読
売文学賞、本屋大賞を受賞。同年『ブ
ラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、〇
六年『ミーナの行進』で谷崎潤一郎
賞、一三年『ことり』で芸術選奨文部
科学大臣賞を受賞。

「2020年 『口笛の上手な白雪姫』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小川洋子の作品

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