ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい

著者 :
  • 河出書房新社
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本棚登録 : 380
レビュー : 21
  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309028743

感想・レビュー・書評

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  • どこまでもどこまでも繊細な人たちの、生きることのつらさがこれでもか!とつまった短編集。
    表題作は特につらい。つらいし痛い。心が痛い。
    誰かに何かつらかったことを話せば、その話を聞いた人はその話を聞いてしまったことで傷ついたり悲しい思いをするかもしれない、だから人ではなくぬいぐるみに話をしよう、という「ぬいぐるみサークル」。もうここだけでこの物語に出てくる人たちの繊細さがわかるだろう。どこまで相手のことを考えているのか。
    自分話すこと、自分がすること、いや、自分の存在自体が相手を傷つけたり、脅威になったりするかもしれない、と考えて自分自身悩み続け傷ついていく。つらい、つらすぎる、その繊細さが。
    主人公七森くんは背が低くてかわいい。だから女性にとって「脅威」にはなりにくい。でも、それでも自分が男だというだけで女性にとっては脅威になるかもしれないと、悩み外に出られなくなる。
    ほかの「友人」たちのように恋人を作ったり別れたり、簡単に恋ができたらいいのに。それができなくて、また傷つく。彼が安心して一緒にいられる麦戸さんの悩みは繊細ではあるけれどまだ現実的。そして七森くんに新しい一歩を踏み出せたきっかけとなった白城さんの存在が物語をぐっとリアルにしてくれている。
    ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい。ちょっと変わった人たちのゆるくてほんわかしたおもしろ話かと気軽に手に取るとあまりの繊細さにページをめくる手先も優しくなる。
    読み終わってから、この本を読んでよかったとものすごくものすごく思っている。
    繊細さに苦しむ人にとって救いになるかもしれないし、ならないかもしれない。でも繊細さに苦しむ人が自分のそばにいるかもしれない、という繊細でない人にとっての提言にはなる。だから読んでよかったとものすごく思っている。
    表題作以外の3編もみんな繊細さに苦しんでいる人、生きにくさを持て余している人の物語。みんなにぬいぐるみがあればいいのに。

  • ちらほら評判を聞いていて、半信半疑だったけど久しぶりに良い小説を読んだ。優しさにメッタ刺しにされてよかった。


    主人公の発話や思考に人を傷つける言葉がなく、言葉への気遣いが感じられる。人→ひと、名前はちゃん、さん付けかあだ名。詳しくは知らないけど、三人称小説なのに一人称小説の書き方をしているように思えるのはこのせいか。ここでも人を傷つけない優しさは、ある程度の距離を保つある種の無関心さでもあると感じられる。終始一貫して優しい呼び方だが、決して呼び捨ての気安さにはならない。
    七森視点で話が進む中、唯一白城だけが呼び捨てで彼女も主な視点人物で、裏主人公なのだろうと読み勧めていたが、最後に彼らだけの世界に閉じこもるように生きる七森たちに、その外からの視点を彼女がずばっと指摘してくれたのがとても痛烈で、一気に引き締めてくるラストが好き。これがなければひたすら脆弱なだけの、自立しない締まりのない話になっていたと思う。


    彼らの優しさは荒唐無稽なものではなく理解できる。もどかしいところは彼らの優しさを持ち合わせない、理解しない人も多くいることで、だがそれは決して悪人ではない、普通に生きている人たちにほかならないと描かれているところだ。
    他人も自身も傷つかなければいいという七森たちの優しさは、彼らの世界の外部では成立し得ない。その優しさが成立するためには彼らと同じ優しさを彼らの外部の人たち全員が持ち合わせていて、同じ基準で相手のことを慮る必要があるからで、そんなことこそ荒唐無稽でありえない。
    七森たちの関係性はまるでぬいぐるみの中身のような、柔らかい真綿でじっくりお互いを締め付けているようであって、彼らはその真綿の中でいつまでそうしていられるのか、白城の指摘するように破滅の見えた関係性だと感じる。
    だが同時に彼らの祈る優しい世界が、実現不可能であっても理想的な素晴らしいものであるとは思う。「だいじょうぶのあいさつ」では「私の小説は強いから。〜みんな私の世界で生きている人になる」というセリフがあるように、その実現不可能を少しでも変えたいと願う作者の気持ちが垣間見えた気がした。


    あと、ぬいぐるみに話しかけるという設定も良かった。この独り言感、お気持ち表明っぽさはSNSに似たものがあるし、同じ題材を書こうとしたら普通はSNS舞台の話に流れそう。そこをヌイサーという謎のサークルの暖かさ、生々しい舞台設定にしたのはセンスがすごい。


    回転草も今読んでるけど、テープでぐるぐる巻になって中身の透明になった兄と、身体が回転草になって中身がすかすかの根無し草になった僕が同じに見えてしょうがない。


    ______
    あまりにナイーブすぎるけどその不安定な情緒に共感する部分も大きい。
    ネットニュースの銃乱射事件を見ても私は傷つかないし他人事でしかないので優しい人間ではないのだが、それは嫌なことから身を守るために、嫌なものになっちゃってる、とも彼らの言葉を借りれば言えるのだろうか。
    毎日家の外に出るたびに嫌なものを見て嫌な言葉を聞いてはいる。人の悩みを聞いたりする。だが優しくないので心を傷めない。
    嫌なこと辛いこと、それに傷つく人、せいぜい顔をしかめる程度で、どうこうあまり思わなくなったのは彼らが持つ優しさを取り落としてきたからで、そういう優しさを磨り潰しているせいで、感覚を鈍麻させて過ごしているからかもしれない。人を人として扱わない人は一定数いるので身を守るためにはそんなナイーブでいられないし、それに傷ついていちいち泣いていられない。
    だがそうして自分を鈍感にしているせいで、傷ついて愚痴を言う人の話を聞いていると、無性に羨ましくなってしまうときがある、そんなときの感覚をこの話を読んで思い出していた。

  • 主人公ほどではないけど、誰も傷つけないように気を遣いすぎて疲れる感じ、わかる。
    大学の時はまだ好きな人とだけ話してればよかったけど、社会人になるとそうもいかない。
    会社の帰り道、皆んな気を遣って生きてる、皆んな何か我慢して心の中で思ってることがある…って考え出したら気持ち悪くなってきた。

  • 誰かを傷つけたくない、自分も傷つきたくない、そしてだんだん人間が怖くなる気持ちが分かりすぎてつらかった...

  • 男らしさ、女らしさ、周りがしているような
    騒がしい男女の恋愛、そういうものが苦手な主人公は
    ぬいぐるみサークルに所属している
    ぬいぐるみを作ったり、話したり出来るサークルで
    その中のひとりと付き合ってみるもうまくいかない
    みんな何かに悩み、苦しみ、性や心や
    いろんなことに傷つき生きている

  • 生きづらさを純粋培養したような彼ら。繊細さとやさしさと危うさ。ぬいぐるみとしゃべらない人の視点があることで少し救われる。

  • 読むのが大変しんどかった。刺さる文章が多すぎて。でも、痛気持ちいいというか、本当にいい本。優しさって難しい。

  • なんか文章が稚拙というか。
    5ページで挫折・・・

  • 2020年6月23日「ニュースほっと関西」で紹介
    摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50205812

  • 多様性を認める範囲をこまめにアップデートする必要性を痛感。七森や麦戸のような人のそばに寄り添えるようになるには、まだまだ理解が足りないようだ。

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著者プロフィール

92年生まれ。小説家。京都市在住。同志社大学文学部卒業。著書に短編小説集『回転草』『私と鰐と妹の部屋』(ともに書肆侃侃房)がある。

「2020年 『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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