破局

著者 :
  • 河出書房新社
3.07
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感想 : 376
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  • Amazon.co.jp ・本 (148ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309029054

作品紹介・あらすじ

【第163回芥川賞候補作】2019年文藝賞でデビューした新鋭による第2作。

感想・レビュー・書評

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  • レビューを拝見させていただくと、「主人公に共感できない」というものが多く、できればわたしは共感しながら読みたいものだなあと思って読み進めた。
    結果、共感できなかった。

    物語を追って、場面を浮かべることはできる。
    そして主人公が言っていること、その内容は理解できる。
    ただ、この主人公が何を考えているのか、最後まで読んでも、彼の人間性が、わたしにはつかめなかった。

    主人公の陽介は、公務員試験を目指している(慶應)大学4年生。後輩のラグビーの指導を手伝っていて、彼女もいる。彼は、セックスだけでなく、ひたすら下半身のことを考えてる。陰毛について半ページを割いたり、自慰やトイレの描写が多かったり。
    部員に対する厳しさ、それがどこからくるのか。彼の人間性がつかみきれない以上、彼の声を追っていくしかないのだけれど、追っていても書いてない。
    そして、倫理観のこと。
    「右の女はショートパンツを穿き、脚を露出させていた。席と席が近いことにかこつけて、私はこの女にわざと脚をぶつけようとした。が、自分が公務員試験を受けようとしていることを思ってやめた。公務員を志す人間が、そのような卑劣な行為に及ぶべきではなかった」であるとか、亡くなった父が女性には優しくするように言っていたから優しくする、であるとか、倫理観の発信源が体裁や親にあって、結局主人公の意思ではなく、他者にある。
    この点も、彼の人間性のつかめなさに加担している。そしてこの「彼という人間性のつかめなさ」、主体性が自分ではなく相手に委ねられているという点が、この作品が描こうとしている「虚無」なんだろう。

    部屋でふいに見かけるちぢれ毛にふと思いを馳せたり、自分の悪口を言っている人を見かけた時に、全く関係のない、自分が勝手に「悪」とみなした人に当たろうとしたり、きれいな人にぞくぞくしても、捕まるのを恐れてしなかったり。
    人の心は、そうした、日常でふと思ったことや、瞬時に感じ取った強い感情、つきまとう倫理観、そういうものがぐるぐると回っていて、だから心の声をずっと垂れ流していたらぐじゃぐじゃで、言葉にしたら支離滅裂なことなんていっぱいある。その瞬間の感情を掬いとった、そんな描写が拡がっている。

    やっぱりわたしには芥川賞作品を理解するのは難しいのかもしれない。
    だから又吉さんの「火花」とかも読んでない。
    今回手に取った理由が、遠野さんがイケメンで話題だったから、というのは大きな声では言えません…。

  • 芥川賞!

    主人公・陽介の中味がなさすぎて、感情の移入のしようがなく…
    とんでもないものを読んでしまった、という感想。

    陽介は(おそらく)慶大生で公務員目指してるのだけど、こういう人が官僚になるのかな?
    出来の良い頭、ラグビーで鍛えて健康な身体、親の言いつけを守る素直な心、自分を厳しく律することができる。女性にもモテる。でもとっても空っぽ。

    ー 私はもともと、セックスをするのが好きだ。なぜなら、セックスをすると気持ちがいいからだ。

    ー 悲しむ理由がないということはつまり、悲しくなどないということだ。

    ヤバくないですか?
    一人称でこんな浅いことが語られている小説って…
    読み進めながら、違和感がどんどん大きくなり、不安になっていった。

    だから、結末はタイトルどおり破局なんだけど、逆になんだかほっとした。

    【2020.11.2追記】
    作者の遠野遥さんは、ロックバンドBUCK-TICKのボーカル・櫻井敦司さんの息子だそうです。

    • naonaonao16gさん
      たけさん

      こんにちは^^
      いつもありがとうございます。

      この作品、先日読み終え、改めてレビューを拝見させていただきました!
      ...
      たけさん

      こんにちは^^
      いつもありがとうございます。

      この作品、先日読み終え、改めてレビューを拝見させていただきました!

      たけさんが表現されている
      「一人称でこんな浅いことが語られている小説」
      すごくわかります。わたしも読み進めて、このままの状態で終わったのでびっくりしました(笑)

      わたしはこの部分「特に面白かったわけではないけれど、私は少し笑った。こちらが笑うのを期待しているような話しぶりだったから、笑うのが礼儀だと思った。彼女も笑顔を見せてくれたから、笑ってみてよかった」が、言いようのない寂しさを感じましたね。礼儀というものを知っており、それを見につけているのだろうけれど、行動は間違っていなかったのだけれど、それでいいのか?っていう、虚しさのようなもの。

      「破局」というインパクトのあるタイトルですが、破局したことよりも、違和感や虚しさの方が強く印象に残る作品でした。
      2020/09/26
    • naonaonao16gさん
      たけさん

      こんにちは^^
      いつもありがとうございます。

      この作品、先日読み終え、改めてレビューを拝見させていただきました!
      ...
      たけさん

      こんにちは^^
      いつもありがとうございます。

      この作品、先日読み終え、改めてレビューを拝見させていただきました!

      たけさんが表現されている
      「一人称でこんな浅いことが語られている小説」
      すごくわかります。わたしも読み進めて、このままの状態で終わったのでびっくりしました(笑)

      わたしはこの部分「特に面白かったわけではないけれど、私は少し笑った。こちらが笑うのを期待しているような話しぶりだったから、笑うのが礼儀だと思った。彼女も笑顔を見せてくれたから、笑ってみてよかった」が、言いようのない寂しさを感じましたね。礼儀というものを知っており、それを見につけているのだろうけれど、行動は間違っていなかったのだけれど、それでいいのか?っていう、虚しさのようなもの。

      「破局」というインパクトのあるタイトルですが、破局したことよりも、違和感や虚しさの方が強く印象に残る作品でした。
      2020/09/26
    • たけさん
      naonaonao16gさん、こんにちは!

      コメントありがとうございます!

      naonaoさんの指摘された部分も、あっさいですよね〜。ペラ...
      naonaonao16gさん、こんにちは!

      コメントありがとうございます!

      naonaoさんの指摘された部分も、あっさいですよね〜。ペラペラ笑。
      真の意味での人でなしだなぁと、改めて思いました。

      きっと、このような虚しさや違和感を最後まで読者に抱かせたまま終わっちゃう小説を、描き切っちゃったところに、芥川賞受賞の理由があるんでしょうね。

      僕は地味〜な衝撃を受けたので、この小説結構好きだなぁ。、

      遠野さんは今後も追いかけていきたいと思ってます。そのうちもっととんでもない小説を書いてくれるのではないか、と期待しています。
      2020/09/26
  • 先に読んだ『首里の馬』より面白かったです。
    私は人気小説が手に入ると
    次に母にまわすんだけど
    うーん、どうしようかなぁ。
    すごく早く読み終わってしまったので
    返却日まで余裕があるし、
    せっかくだからまわしましょうか。

    私がもし中高生だったら、
    きっと母は読ませたくなかっただろうな、と思う。
    慶応卒のイケメンで平成生まれ初の芥川賞
    となれば、中学の女の子が読むこともあるでしょう。

    昨年ソニー生命が中高生に行った
    「将来なりたい職業」アンケートで
    「作家」は女の子の上位にはいっています。
    そういう彼女たちがこの本を読んで
    どんな影響を受けるんだろう。

    ちなみに個人的には、灯について
    男性作家による都合の良いキャラクター
    つまりAVにおける女性のような…
    そういう印象を受けました。

  • 第163回芥川賞受賞作。大学四年生の陽介が公務員採用試験を受ける前後の、生活の様子が描かれた作品。スラスラと読みやすかったが、恋愛小説というわけでもなく、自分がイメージする"芥川賞受賞作"とは大分かけ離れている気がして、"??"という印象だった。普通に面白かったけど……。

  • 元ラグビー部員としてラグビーをコーチし、同時に公務員試験にきっちり備える、文武両道をいつも突っ走っているような男。
    でも、快活さやエネルギッシュとは対極的な、このゾンビ感はなんだろう。
    よく肉を食べ、よくセックスをする、若い男。
    健康的であるはずなのに実質は不健康。
    男の心が見えてこない。

    ロールキャベツ男子という言葉があったが、その逆をいくのかな、陽介は。
    熱い肉が冷めた心を包んでいる。
    灯の手は冷たく感じる。(熱い肉)
    一方、性欲の増した灯に辟易する。(冷めた心)
    陽介は、ゾンビになることを回避しようとしてか、ラグビーのコーチの後、たくさん肉を食べて、そして日々肉欲に溺れる。
    でも心は鍾乳洞のように虚ろでひんやりしたまま。

    心の中で、笑いに手を打つ場面が何度もあった。
    芸人志望の膝より、きっと、陽介の着眼点は笑いをとれる。
    一般人が、十分滑稽に生きているということなんだろう。
    陽介、この男は、ゾンビのように何度も復活するだろう。
    こういう人は、きっと自殺なんかしない。
    リビングデッドユース。
    わりとたくましい。


    大団円が近づくにつれ、中村文則の『銃』がチラつく。
    不幸へのアクセルがかかり真っ逆さまに堕ちるという共通点。
    『銃』は、銃を手にしてから男が主体的な人生を歩み始めたが、どこまでも銃という武器に支配され破滅に向かう物語だった。
    かたや『破局』では、男の鎧は、こじんまりとした正義と秩序、そして僅かながらの筋肉である。

    男には、この鎧がブカブカである。
    心も身体もそれぞれ自分のものとして制御できないからだ。
    しかしながらそれを冷徹に認識して、悲観もしない。
    突発的に泣きたくなるが、なぜ自分が泣くのかわからないということを、よく理解している。
    そのような男の振る舞いは空々しく、
    おそらく他者からは演技のようにみえていたことだろう。
    だからこそ演技できない局部(=陰茎)に向かって話しかける灯がいる。


    男の着眼点は滑稽。
    ふいに出現する陰毛にとらわれたり、麻衣子の服が食べ物の色にみえる。
    この着眼点は、どんな事象にでも無意味に意味づけしようとする人間らしさの表れ。
    この男の着眼点が描かれなければ、肉を食らい肉に溺れるだけのケモノのような生活しか男には残らない。

    陽介の生活は、瑣末なことにとらわれ一喜一憂、アップダウンしながらも、全体的にはフラット。
    それは近くでみるとさざ波だっているが、遠くでみると一枚の鏡のような海だ。
    底になにが潜むやもわからない海。
    心も身体もここに在らずで肉のみをひたすら求めるリビングデッドユースはこの海に漂うが、背面泳ぎをしていれば、「もっと早く見るべきだった」空に気づいたであろうに。

    不特定多数の現代の若者のひとりを切りとっているのだが、
    読後、読み手の中でいいたいことが膨れ上がる、そんな小説だった。

  • 芥川賞受賞作だからと言って、小難しくなくさらったと読めた。何だか大学時代に戻った感じもあって、作品としては、良いと思いました。
    著者、遠野さんの別作品も読んでみたいと感じた。

  • 芥川賞受賞作ということで、受賞が報道された日に買って読んだ。

    話の流れはスムーズで文章もテンポが良くて、どんどん先に進む。

    そして主人公の虚無的な雰囲気も良かったし、性的描写も決して欲情的な感じではなく、淡々と書かれていて好きな雰囲気だった。

    だけど、この話が何を表現したかったのか、私には理解できなかった。

    所々、伏線っぽいエピソードや設定なんかが出てくるのだけど、結局それらは回収されずに物語が終わってしまう。元カノが幼少期に負ったトラウマとか、今カノのカフェラテの設定とか、佐々木の部活より家庭を優先させた話の先とか…

    全ては読む人の想像に委ねられるということか? 良くも悪くもの純文学だった。

    読み終えてから「ぇ、なに、どういうこと?」となる。これは後からジワジワと読後の感情が滲み出てくるのか?

    だけど、読了後の感想は「ぇ、なに、どういうこと?」で、1日経った今も「ぇ、なに、どういうこと?」である。

    他の人がこの本をどのように読んだのかを知りたいと思った。芥川賞受賞するくらいなのだから、きっと何かがあるのだろう。

    何ががあるのだろうけど、残念ながら、私には見つけることができなかった。

  • 「破局」 遠野遥(著)

    2020 7/3初版発行 (株)河出書房新社
    2020 8/15 8刷発行

    2020 8/8 読了

    自意識過剰な人が
    ナルシストを主人公の小説を書いたんだろう。

    でもきっとこの自意識過剰な作者は
    「破局」もいくつか経験したんだろう。

    大きな帯に自身の写真を載せたのは
    さすがに不本意だと思っていると信じたい。

    芥川龍之介賞を受賞するに相応しい作者
    作品でした。

    まあそもそも
    作家なんてみんな自意識過剰だろうしねー。

  • 新感覚の小説と定義すれば、すっと納得できる。
    現代版の太宰を読んでいるような感覚もある。
    次回作も読んでみたい。

  • 主人公には意思がなく、中身のない人間。謎の違和感を感じながら読んでいたが、読了してから主人公の感情表現が作中にないのがその原因であることを知った。
    母校でのラグビー部のコーチを行っているときの主人公が気味悪い。相手のことが考えられない人間なのか、過度なトレーニングを部員に強要する主人公。
    一見、いい人なのかと思ったが、よくよく考えるとただのつまらない人間という印象。
    読了してから違和感に気づいて、気味の悪さを覚える小説はなかなかないかも。
    結局、この作品は何を言いたいのかが分からなかった。セックスばかり出てくるが、深い表現もなく作中においてはセックスそれ自体に意味はない。ただ性欲にまかせてする行為なだけ。そこには共感はできなかったかも。

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著者プロフィール

1991年生まれ。2019年『改良』で第56回文藝賞を受賞しデビュー。2020年『破局』で第163回芥川龍之介賞を受賞。他の著書に『教育』がある。

「2023年 『浮遊』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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