灰の劇場

著者 :
  • 河出書房新社
2.91
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本棚登録 : 2008
感想 : 215
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309029429

感想・レビュー・書評

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  • 作家の主人公が“事実に基づく物語”を
    紡いでいく過程を描いた小説。

    色で表現されている描写がタイトルの“灰”と
    対比に思えて存在と不存在、明暗、生と死を
    暗示しているように感じました。

    全体を通して薄暗く、斜がかかったように
    どんよりしていて、灰色の時間が流れている
    ような気分が徐々に塞いでいく感覚がしました。

    夜間、雨の日に読んでいたせいで暗くて
    やるせない印象が増してしまったのか、
    物語に一層の臨場感を添えてしまったのかも
    知れません。

    どろどろ暗くて重い物語というより、
    日常の延長にある、そこはかとない絶望感を
    描いた物語だった気がします。

  • 表紙が気になり、写真の情報からGoogleで探すと、該当する場所はわかったが、写真の印象とは全く別。
    灰色トーンに色を変えているのと、望遠レンズの圧縮効果で「非日常」の世界が表現されているのだなと思った。
    それを文字で表現するとこの本になるのだと思います。

    これは恩田さんのエッセイなのか、小説なのか。
    そのギリギリの境をさまよう物語でした。
    舞台で演じられているのを観客として見ている。そんな感じでした。
    羽が舞うイメージが強烈。
    ずっと刺がささった感じです。
    心が落ち着いたら「白の劇場」も読みたいです。

  • 1994年の新聞に、奥多摩町の橋から飛び降りた二人の女性の記事が載っていた。
    二人は大田区のマンションで一緒に暮らしていた、大学時代の同級生だった。

    どうして、その記事が記憶に残り、小説にしようと思ったのだろうか。

    小説が舞台化されることになった小説家パートと、書かれた二人の女性の物語パートの境目が、だんだんと分からなくなっていく。

    要所で降ってくる白い羽が、視界を奪っていき、時間がモノになる。それが妙にリアルで、焦らされるように感じた。

    女性二人で暮らしていくことの安寧と絶望。
    ある時期を越えた女性だからこそ、お互いに居心地の良い距離で生活を営める。
    けれど同時に、それ以上の何かにもなりようがない、そんな限界に突き当たったのだろうか。

    でも、それは何だ?家族を作ること?
    私は、二人の暮らし、嫌じゃなかった。

    顔も名前も分からない二人の事実が、虚構として甦るということ。
    それは死者への鎮魂なのか、それとも冒涜になってしまうのか。
    分からない。けれど、事実だけを語ることなんて、きっと誰にも出来ない。

    私は二人の生活を垣間見る。
    そしてまた、私の物語に変えていくのだと思う。

  • どうしようかな?急いで読まなくてもいいかな?なんて思った自分、間違いだったよ。ちょっと不思議でとても現実的で。ひしひしと心に言葉と想いが降り積もって、読了。劇的じゃなく日常。【降り積もる。時は降り積もる。誰もが、骨になり、灰になり、時間の底に沈黙する。】【二人で暮らし、二人で過ごし、二人で人生から退場していった。】

  • 恩田陸にしか書けない小説。複数のレイヤーで話が進行するが、一体感があり読ませる。結末はいつも通り。

  • 読書備忘録658号。
    ★★★☆。
    図書館の予約本が手に入らない時に借りるカート本。
    品川区ゆたか図書館にあったので借りました。
    結果、今イチでした。笑

    物語は、基本的に0と1と(1)で構成される。
    最後に、0~1という章があるが、この章はカオス。

    0は、脱サラして小説家になった主人公(名前は出てこない)の視点。小説のネタは、実際に起きた事件や事故などだ、という件で淡々と語られる。
    そして、どうやら、女性2人が橋から飛び降り自殺した事件で小説を書こう思い立ったみたい。
    1は、とある大学の同級生女子2人の視点。MとT。なんとなくMは自立した女性。Tは男に好かれるタイプで、とっとと寿退職して専業主婦になった。
    ただ、Tは離婚して、Mとルームシェアして生活する。
    (1)は0の書いた小説が舞台化される件。どうやら、ちゃんと女性2人の自殺をテーマにした小説として完成している模様。

    そうです。自殺したのは1の2人。2人の同居生活。どちらかが「家を出る」ということの恐れ。Tの再婚?Mの恋愛?それをお互いに恐れるあまり、幸せなうちに2人で死のうよ、という感じですかね。よくわかりません。

    そして0~1。0の世界と1世界がなんか次(時)元を超えて交差する世界。ほんとによく分かりません。

    名前の一切出てこない、登場人物の誰にも感情移入できなかったので、楽しめなさ感100%でした。笑

    恩田さんの作品は選ばないとね。笑

  • 1994年4月。
    奥多摩の橋の上から、2人の女性が投身自殺を図った。
    約半年後、二人の身元が判明。45歳と44歳。同居をしていた関係だと言う。
    その小さな記事が気にかかり、亡くなった二人の人生を小説にしようと悩む小説家と、自殺した2人の女性の人生を交錯させて描く、かなり複雑な構成で、特に内容にも盛り上がりがないので、他の方と同様に何とも微妙な印象が終始付きまとう。
    同性同士の同居など、今では当たり前になっているので、余計に女性二人で投身自殺をした背景を知りたがる主人公の心中は理解し難いが、バブルが弾けた直後の時代背景をしっかりイメージすると、亡くなった二人に共感出来る部分がやっと浮かび上がってくる。
    舞台化されるパートはさらに意味が分からないままだったが、折しもバブル並みに物価が高騰を続ける現在。しかし、一般人の給料は上がる気配がない。それを考えると、自殺をしたMとTの気持ちが痛いほど分かり、読み終わった時にはとてもぞっとした。
    もう少し前に読んでいたら、きっとこんな気持ちにならなかったのだろうけど・・・
    でも、恩田作品としてはイマイチだったかなぁ。

  • 読みながら、この方の文章ってほんとに読ませるし好きだなあとしみじみ実感した。少し中弛みもしたけど、つい読んでしまう。恩田さんの書く会話文が特に好きです。

  • 著者の実験的意欲作。著者自身をモデルにしたかと思われる作家が25年前の女性同士の飛び降り自殺に注目し取材した小説が劇場で上演される過程が描かれていく。劇の上演まで立ち合い、その小説の主人公ふたりMとTの物語も現在と過去に錯綜していく、大学時代の同窓生が何となく共同生活を始めるが、年月だけが過ぎ去り40を超え、将来の何となくの不安が彼女たちを死に向かわせる、しかしそれも作家の想像に過ぎず真実は分からない。コロナ下の現在、人は何とない不安だけでも死に至らせるのかもしれない。

  • 難しい方の恩田陸作品。心象風景と現実と虚構が入り混じって混乱混乱また混乱(小説だから全部虚構とも言えるけれど)。想像力過多作家なのでこれは想定される範囲ではあります。これはこれで面白いです。
    一つの新聞記事の数行から想像を膨らませ、名前も顔も分からない人物の人生を作り上げる作家の想像力の凄まじさ。そして紆余曲折有って至ったであろう人生を一冊の本にまとめてしまう罪悪感。世の中に毎日のように流れる不特定多数の事件。そこには数えきれない程の理由や物語があり、それを逃れた人々がそれを消費する。
    そんな中の提供者である自分(作家)を卑しいものと自嘲しながらも、どこか超然とした姿の作者の姿が思い浮かぶ。そんな作品でした。
    結局どうだったのよという問いは無粋。なぜなら架空でありながら実在するあなたや私のこれから向かうべき先行きの話だからです。

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著者プロフィール

1964年宮城県生まれ。92年『六番目の小夜子』で、「日本ファンタジーノベル大賞」の最終候補作となり、デビュー。2005年『夜のピクニック』で「吉川英治文学新人賞」および「本屋大賞」、06年『ユージニア』で「日本推理作家協会賞」、07年『中庭の出来事』で「山本周五郎賞」、17年『蜜蜂と遠雷』で「直木賞」「本屋大賞」を受賞する。その他著書に、『ブラック・ベルベット』『なんとかしなくちゃ。青雲編』『鈍色幻視行』等がある。

恩田陸の作品

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