くもをさがす

著者 :
  • 河出書房新社
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本棚登録 : 4154
感想 : 147
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309031019

感想・レビュー・書評

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  • 西加奈子さんのカナダ、バンクーバーでの乳がん闘病記。
    西さんは当時44歳。自分で右の胸にしこりをみつけて乳がんを発見します。
    西さんには夫と子どものSと、猫のエキもいます。

    まず始めたのは抗ガン剤治療。
    頭は坊主頭で、体毛もすべてが抜けたそうです。

    62ページより
    日本では全部一人でできたことがバンクーバーでは歯が立たなかった。どれだけ努力しても語学には限界があり、それだけで可能性がうんと狭まった。
    ああ、自分は一人では何も出来ないなあ。弱いなあ。日々そう思った。
    そしてそれは、恥ずかしいことでも忌むべきことでもないのだった。ただの事実だった。
    私は弱い。
    私は、弱い。
    日々そうやって自覚することで、自分の輪郭がシンプルになった。心細かったが、同時に清々しかった。


    そして、西さんは治療中に、夫と子ども共にコロナ陽性になります。
    西さんは言います。
    「勇敢とは思わない。やらな仕方ない」
    そして、胸の全摘手術。

    185ページより
    邪魔すんならGet out of my way
    生きてるだけですごいでしょ
    もうtoksik なのはいらないわ
    つまんないプライドなんてGo away
    作りましょう brand new bible
    型にはまっては息苦しい
    ーZoom guls 「生きているだけで状態異常」

    西さんは「やらな仕方ない」と言って、どんどん治療を続けていきます。異国の地バンクーバで子どもと猫まで抱えて、コロナにも罹患してしまったのにすごく物事の考え方がポジティブに私には思えました。
    私にはとても真似できない。そう思いました。


    西さんにあって私にないものがたくさんありすぎる、と思いました。
    西さんはまず、自立しています。
    そして頼れる友だちも多く、お金も持っています。
    私にはないものばかりです。

    でも、この西さんが書くことでご自分を励ましたという手記を拝読しました。
    ないものは仕方ないけど、あるもので、私もできることはやって今の自分の体の不調を乗り越え自分のやりたいことをできる体になりたいと強く思いました。

  • くもは雲ではなく蜘蛛。
    弘法大師の使いだから、みだりに殺してはいけない。

    そして、自宅での蜘蛛との出会いが、西さんの運命を変えた。

    カナダ・バンクーバーで、しかもコロナ禍で、乳がんの罹患が判明した西さん。検査からがんの宣告を経て、抗がん剤治療、手術、放射線治療を行い、新しい日常を得るまでのエッセイ。

    悲しみが、怒りが、苦しみが、不安が淡々と抑制されたトーンで綴られていて、だからこそ胸を打つ。
    読み終わってしばらく涙が止まらなかった。

    がんを治療している人にとっては、きっと力強いエールとなる、そんな一冊だと思う。

    ♪生きているだけで状態異常/Zoomgals(2020)

  • ノンフィクションエッセイということで、現実の辛さ厳しさを痛感させられるリアルな内容であった。
    差し込みの参考文献の言葉など、著者は様々なものに救いを求めて、自分自身を鼓舞していたのであろうというのがひしひしと伝わってくる。
    私は私。選択決断も私。周りに頼る。愛と情。最後まで生にしがみつく図太さ。この著書からの学びは多い。

    • moboyokohamaさん
      カナダと日本の社会と人々の違いが描かれていますね。どちらが良いと決めつける事はできないでしょうけれど少なくとも著者にとってはカナダでの暮らし...
      カナダと日本の社会と人々の違いが描かれていますね。どちらが良いと決めつける事はできないでしょうけれど少なくとも著者にとってはカナダでの暮らしの方が行きやすかったようですね。
      人間らしい生き方って何なんだろうと考えさせられました。
      2023/05/10
    • moboyokohamaさん
      字を間違えました。「行きやすかった」ではなく「生きやすかった」でした。
      失礼しました。
      字を間違えました。「行きやすかった」ではなく「生きやすかった」でした。
      失礼しました。
      2023/05/11
  •  最近、家族を亡くした。突然の別れにかなり動揺し、本もあまり読めていなかった。ようやく気持ちの整理がつき少し落ち着いてきたので、本を読みたい。読もう。と思えた事が今は嬉しい。
     
     生きることや命について考えさせられていた時に本屋で帯を読んで(西さんがガンに⁈読まなきゃ)と思った。
     実は私もマンモグラフィーで、一度検査に引っかかった経験がある。疑いがあると言われただけでもかなり焦った。だから西さんのようにガンと向き合うことなんて私には無理なんじゃないかと、本を読んだ今も思っている。

     併せて西さんがインタビューに答えている映像を見た。西さんの伝えたかった言葉を付箋に書いていつも目に付くところに貼っている。

    『あなたの体はあなたのもの。
     あなたの命はあなたのもの。
     あなたの人生はあなたのもの。
     あなたの性はあなたのもの。
     あなたがどうありたいかは、あなた以外に決め
     られないし、あなたの感情はあなた以外にジャ
     ッジされるような事ではない』

    [私は私だ]本文にも何度か出てくる。

     「大丈夫やで」と肩に手を置かれているようなほっとするような暖かさと、「前に進まなあかんで」と力強く引っ張ってくれているような強さとを感じている。


     何度も読み返したい一冊になった。
     今日も 私は私だ。

    • 土瓶さん
      チョコチョコさん、こんばんは~。
      たいへんでしたね。落ち着いてこられたのならよかったです。

      「私は私だ」
      あたりまえのような言葉で...
      チョコチョコさん、こんばんは~。
      たいへんでしたね。落ち着いてこられたのならよかったです。

      「私は私だ」
      あたりまえのような言葉ですが、日々追われているうちについつい自分をあとまわしにしてしまうことってありますもんね。私も忘れないようにしないと。

      ありがとうございましたm(__)m
      2023/05/11
    • チョコチョコさん
      土瓶さん、こんばんは。
      コメントありがとうございます。
      やっと前を向けそうです。

      「私は私だ」
      本当に何気なくて、当たり前なんですけどね。...
      土瓶さん、こんばんは。
      コメントありがとうございます。
      やっと前を向けそうです。

      「私は私だ」
      本当に何気なくて、当たり前なんですけどね。
      自分で自分を大切にしていきたいって改めて思いました。読めてよかったです。本に救われます。
      そして、西さんの明るさと強さと言葉にも。

      土瓶さんの読書も参考にさせて頂きながら、一日一日楽しんでいきます。
      これからもよろしくお願いします(^^)

       



      2023/05/11
  • 西さんが、カナダで乳がんを患われた。
    その時の治療の事を綴ったノンフィクション作品。

    "がん"と宣告されるだけで気持ちが滅入ってしまうのに、語学留学中の異国の地カナダで、、しかもコロナ禍に、、!
    どんなに不安だっただろう〜( ; ; )

    何も覆い隠す事なく書かれた、治療の内容とその時々の気持ち。
    文章を読んでて感じた西さんの姿は、凄く繊細で脆い所もいっぱいあって、でも、ちゃんと自分をもっていてとても逞しかった。
    とても親しみを覚えたし、パワーを貰えました。
    あとカナダの看護師さんの言葉を大阪弁に変換するユーモアがめっちゃ好きだった〜♡

    カナダと日本の、文化の違いや医療制度の違いも多く描かれていて凄く驚いた。
    色々知れてとても興味深かった\♡︎/

    とても大変な経験をされたけど、無事に生還されてほんとに良かったです。

    "あなたの体のボスは、あなたなんだから"
    この言葉、私の胸にも刺さりました!

    素敵な本だった!読めて良かった〜♡





    • mihiroさん
      1Qさ〜ん♬こんばんは(*^^*)
      話題になってますよね〜!!
      西さんご自身はあまり闘うって言葉使いたくないそうなんですが、ざっくり言うと闘...
      1Qさ〜ん♬こんばんは(*^^*)
      話題になってますよね〜!!
      西さんご自身はあまり闘うって言葉使いたくないそうなんですが、ざっくり言うと闘病のお話でした( ´ノω`)ヒソヒソ 西さんからのメッセージがいっぱい詰まってました♡読んで良かった〜\♡︎/
      2023/05/08
    • 1Q84O1さん
      mihiroさ~ん♪
      読んでよかったって言われたらチェックしておかないとダメですねφ(..)メモメモ
      けど、話題になっているだけあって図書館...
      mihiroさ~ん♪
      読んでよかったって言われたらチェックしておかないとダメですねφ(..)メモメモ
      けど、話題になっているだけあって図書館の予約待ちもたくさんてすね…(^_^;)
      ちょっと期間を置いて要チェックです!
      2023/05/08
    • mihiroさん
      1Qさ〜ん(*´꒳`*)
      しばらく予約すごそうですもんね。
      またしばらくして、興味おありでしたらぜひぜひです♡
      1Qさ〜ん(*´꒳`*)
      しばらく予約すごそうですもんね。
      またしばらくして、興味おありでしたらぜひぜひです♡
      2023/05/09
  • 西加奈子初のノンフィクション。

    西加奈子『くもをさがす』特設サイト|河出書房新社
    https://www.kawade.co.jp/kumosaga/

    くもをさがす :西 加奈子|河出書房新社
    https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309031019/

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      カナダで乳がんになった西加奈子さんが見つけた、「本当に自分を愛する」ということ。 | ハフポスト NEWS
      https://www.huf...
      カナダで乳がんになった西加奈子さんが見つけた、「本当に自分を愛する」ということ。 | ハフポスト NEWS
      https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_6437c79ce4b0ed74f2a09e73
      2023/04/21
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      西加奈子「カナダで見つかったステージIIBの乳がん。手術までの準備は患者自身が動くけど、治療は素晴らしかった。神様からの『休みなさい』と思っ...
      西加奈子「カナダで見つかったステージIIBの乳がん。手術までの準備は患者自身が動くけど、治療は素晴らしかった。神様からの『休みなさい』と思って」 作家と婦人科医が語り合う「がんで立ち止まったからこそ見えてきた景色は」<前編>|健康|婦人公論.jp
      https://fujinkoron.jp/articles/-/8551
      2023/05/29
  • 病院で手術をした方が良いと言われた日に、たまたま書店に行き、たまたま手に取った本。

    今読めて良かったと思う。
    涙あり、笑いもあり(特に手術の日)、元気が出た。

  • がん患者の心理が、体験を通して書かれているので、よく分かった。意外だったのは、寛解してからも心の隅にチクチクと残ることがあることだった。病気を乗り越えた人が、強く感じるのはきっとそれ故なのかなとも思う。ほんとに健康であることは幸せだと実感した。
    カナダと日本の医療体制のギャップにも驚く。日本でも、救急車のたらい回しなど問題になることがあるが、バンクーバーの医療体制はもっとシビアだと感じた。反面、プライベートと仕事のメリハリがしっかりあり、休暇も大切にする働き方は日本も見習いたいところ。
    もう一つ、バンクーバーから見習いたいこと。「当たり前」精神だ。多種多様な人種がいて当たり前、助け合って当たり前、子供はうるさくて当たり前…など日本ももっとおおらかであれ!と思う。


  • カナダの医療制度はアメリカと違って素晴らしく(何と言っても誰もが無料で等しく高度な医療が受けられる!)理想に近い制度だ。しかも、バンクーバーの人々の人権意識や消費にまみれてない生活を羨ましく思う。いいなあと思うが、もし患者だったら…やはり日本がいいなと思ってしまう。(読んだ人はみんなそう思ってしまったのでは?)
    もう少し病人は大事にしてほしいなんて思うところが、日本人である私の弱いところなんだろうな。

    西加奈子は、大阪弁で医療従事者の会話を翻訳することで、そこのところをうまく中和している。カラッとしてて、ユーモアがあって、なんといってもみんな人間的だ。
    手術前のタイレノール事件はそれをよく表している。日本の患者なら、メチャクチャ怒ってるだろうなと思う。それを最終的には笑い飛ばす西加奈子の強さというか、人間の分厚さというか、に感動。そのことで、分裂しそうだった自分というものが同一化された、と言ってしまえる懐の広さ。

    正直に書いてくれることで、強そうに見えた西加奈子が、(美しく、公平で、才能ある彼女が)パニック障害になって息も出来ない姿を晒している。遠い人が近くにいるように思える。あー、西加奈子さん、好きだなあ。

    彼女のもつ真っ当な他者への優しさも好きだ。「バンクーバーで暮らすことはあらゆる「他者」と暮らすことだ。」テヘランで生まれたことが、彼女に他者性をきちんと感じさせる感性を育てたのかもしれない。

    東京が性的な何かを匂わせる街だというのにドキリとした。私も日本のそういうところとても嫌だ。いいこと書くなあ。ほんとそうだよ。
    彼女が病を乗り越えてもっともっと小説を書いてくれなくちゃ困る!


  • コロナ禍にカナダでの闘病生活。
    想像するだけでも大変そうなのだけど、ただの闘病日記で終わらないのは、西さんの人柄によるところが大きいと感じた。
    家族や友人の優しさ、カナダの大らかさ(アバウトさ?)が時にユーモアを交えながら書かれており、常に「光」を感じながら読みすすめられた。
    現地の病院スタッフの言葉が、関西弁なのも面白かった。
    辛いとき、悲しいときも自然体でいいんだよなと、なんだかすごく励まされた。
    西さんの投げかけた文章、波紋となってちゃんと届きましたよとお伝えしたい。

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著者プロフィール

77年生まれ。 2004年に『あおい』でデビュー。 07年『通天閣』で織田作之助賞、 13年『ふくわらい』で河合隼雄物語賞、15年に『サラバ!』で直木賞を受賞。 他著書に『ふる』『i』『夜が明ける』等

「2023年 『くもをさがす』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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