私が鳥のときは

  • 河出書房新社
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  • 本 ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309031576

感想・レビュー・書評

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  • 中三の夏休み、母が「さらってきちゃった」となんでもないように言ったその先に「さらわれてきちゃった」とあっけらかんとしてバナミさんは家にいた。
    母と同じパート先だったバナミさんは余命宣告を受け、母と同じ和室で寝て過ごすという…。

    受験生なのに…と蒼子は言ったが、母は何も変わらないよと。
    そのうちに蒼子は学校で虐めにあって不登校で塾だけ通っていたという事実や塾で唯一話す友達のヒナちゃんは家庭内暴力をうけていることがわかるのだが、誰にも言えないのか周りも気づかないのか…

    バナミさんにも夫と息子がいるのに蒼子の家に来た理由が、蒼子が息子と同じクラスだということで全てを知ってのことだったとは…。
    蒼子のためなのか…
    息子を改心させたかったのか…
    自分の育てかたが間違ってたというバナミさんは、しっかりとした母の姿をしていたのではと思った。


    この「私が鳥のときは」のバナミさんが中学1年生のときの物語が、2編目の「アイムアハッピー・フォーエバー」である。

    こちらはテニス部に入ったバナミが、その活動に問題があるのでは…と部活動に参加せず近くにテニスコートがある家を見つけて借りてみることから始まる青春物語である。
    読みながらこちらの方が長い…

    バナミの部活以外の恋愛もしくは高校中退までの糸口になる話がわかるかなと思ったが…そこまではなかった。




  •  平戸萌さん。本作以前に別名義によるすばる文学賞最終候補歴? でも本書がデビュー作で、変な(?)日本語・英語タイトルの2編が収録されています。
     中学生女子の、諸々の事情や家族の垣根を超えた、ひと夏の絆の物語です。万人におすすめしたいと感じましたが、特に、中・高生の女の子、親御さんに読んでほしいと思いました。

    ◯『私が鳥のときは』
     (氷室冴子青春文学賞大賞受賞作)
     読み始めこそ、思春期中学生女子特有のイライラなど、その接し方の難しさから共感しにくい印象でしたが、(少々無理ある設定もあり)物語は思いがけない方向へ展開していきます。
     いじめ、虐待、不登校、余命宣告などの背景が徐々に明かされつつ、世代も境遇も異なる女性4人が、不足部分を補い合いながら共生していくのでした。
     どんなにマンネリで惰性的な家族でも、異質な人が加わることで波紋が広がります。どうしても変化が起こりますが、寛容と受容をもてたら、新しい可能性が開けるような気がしました。
     そういう意味で主人公・蒼子の家は、まるで、問題を抱えた人たちのシェルターのようです。
     蒼子も、最初の印象を覆し、実にいい子でしたし、瑞々しい筆致でとても爽やかな読後感でした。ただ、父親たちはまるで登場せず、その存在感・責任ゼロなのはあり得ないし、残念‥。

    ◯『アイムアハッピー・フォーエバー』(書き下ろし)
     蒼子の母の元同僚で、余命わずかの「バナミさん」が中学生だった頃の物語です。表題作を読んだ直後なので、バナミさんのどんな過酷な過去が明かされるのかと思ったのですが、思いの外普通に青春していて、逆にホッとし救われた気がします。
     しかしながら、幼稚園時代に両親を事故で亡くし、マナミという本当の名を封印して、健気に頑張ってきたのでした。人は、いろんな事情を抱えていても、誰かへの憧れが今の自分を形作っている、ということはあるのでしょう。
     配慮という名の勝手な傲慢さで接するよりも、全くフラットな状態で関わる方が、対等な関係が築けそうです。難しいでしょうが‥。

     この2編の、2人の中学生時代の物語は、いつの時代にも共通するように、眩しくも脆く、ほろ苦いものでした。それでもこの爽やかさは、鬱屈した日々にも、何か小さな奇跡を運んでくれるかもしれない、と錯覚させてくれる心地よさでした。

  • 第4回氷室冴子青春文学賞大賞の表題作とアイアムアハッピー・フォーエバーの2編。
    表題作は350ページ弱の一冊の3分の1程で残りが2編目というかなりの変則構成。

    家に帰ると「さらってきちゃった」という穏やかでない母の言葉と共にあっけらかんと居を構えるバナミの姿が。
    母のパート先の元同僚で病により余命宣告されている身だという。
    夫も息子もいるのになぜうちで世話を!?
    主人公蒼子(そうこ)の憤りもよそに、無神経とも言えるバナミ(とその病身の世話)が日常に溶け込んでくる。

    蒼子は受験生だが、学校でイジメに遭い塾通いのみで高校受験を目指す。
    塾でできた親友ヒナちゃんとの関係が救いとなっているが、そのヒナちゃんは家庭内暴力の悩みを抱えている。

    とあるきっかけから、2人の受験生とバナミの距離が縮まったことから、高校には行けず、中学すら中途半端だったというバナミの希望を掬い、3人での受験勉強生活が始まる。

    その過程、英語のifの用法を巡る場面に心震える。

    if I were a bird, I could fly freely in the sky
    もし、私が鳥だったら空を自由に飛べるのに。
    仮定法過去ってやつですね。
    そうではないことが分かっている中で示す願望。
    でも文法的な解釈はさておき、
    if it rains, I hold an umbrella
    雨が降ったときは、傘を差します。
    の「とき」のようにifを扱ったっていいじゃないかと。

    私が鳥のときは、空を自由に飛びます。

    前半の負の感情渦巻く不安定さ、中盤に感じる希望、終盤で訪れるそれでもの苦味、さすが氷室冴子青春文学賞大賞と感ずる一編でした。

    一転、「アイアムアハッピー・フォーエバー」はバナミの青春時代(中1)の話。
    理不尽な上下関係はびこる中学の部活を跳ね除ける、若くしなやかな友情の力を感じる爽快物語。
    ミステリ読みの自分からすると、いろいろと伏線かと思っていたのがあれ?みたいな肩透かしのようなエピソードも多々あるのだけれど、「まともに練習したい!」と東奔西走する純粋なティーンズ達の姿は、読んでいるだけで力を貰える。
    あー、部活したい!!

    さて、この2話目と1話目の間の空白の時間。
    バナミは中3で妊娠、出産し、「結構人気者だと思っていたけど、子どもが出来た途端に皆離れていった」と語っていた。
    そのミッシングリンク的な物語も作者の頭の中にはありそうな気がするけれど、その話はエンディングが難しいか。。。

  • 「氷室冴子青春文学賞大賞受賞」の帯。
    どんな内容かは全く知らずに、大賞受賞に惹かれて読みました。

    「私が鳥のときは」
    青春、受験、いじめ、命、教育。様々なテーマが混ざり合っていました。「いじめ」が絡むと、物語は暗く重くなりますね。言葉では言い表せないほどの辛さを抱えながらも、前を向いて歩き、時には人に手を差し伸べる優しさを持つ主人公に惹かれました。私もそうでありたいです。


    「アイムアハッピー・フォーエバー」
    「私が鳥のときは」の登場人物「バナミ」が中学一年生の時のお話。「夏休み」「学生」が物語で交わると、それだけでワクワクするものになるなぁと感じます。色々なしがらみと戦いながら、長いようで短い夏休みを過ごす登場人物たちにこころ踊る気持ちになりました。

  • スピンオフのほうになりますが、こういう中学生がいい意味でみんなで企むのが、一番小説読んでいて心地いい。

  • 二話を通して話そのものは青春小説と呼ばれるジャンルなのだろうけれども何とも物哀しい思いに捉われてしまう。
    鳥になった彼女はこんなに生き生きとした青春時代を過ごしていたのだ。
    長さでは無く質なのですね。

  • ≪私にはお金も家柄もないけれど、勇気なら自分の中から取り出すことができるので。≫

    良かった!
    読み終えてタイトルを見ると、胸がキュッとなる。
    表紙絵もグッとくる…。
    収録の二作とも、二度と来ない一夏の話。
    たまらなく切なくて愛おしい。
    書き置きの内容がわかった時は、硬球がぶつかったような痛みだった。
    読み終えた今も痛み続けて、考えずにいられない。
    大人が読むのももちろんいいのだけど、中学生くらいの子にぜひおすすめしたい。
    バナミは同一人物かというのは気になるところではあるけれども、きっと世界の数だけいるんだと思う。
    それぞれちょっとずつ違う、そしてちょっとずつ私たちに似ているバナミが。

  • 氷室冴子青春文学賞大賞受賞作の表題作があまりに良すぎて、かつとてもさらっとした終わり方だったので書き下ろしの方の「アイムアハッピー・フォーエバー」を読むのを少し躊躇いました。でもそっちもすごく良かった。両作ともに氷室冴子よりも氷室冴子でした(語彙力)。

    日本の中学で英語を習ったなら誰でも必ず通るあれがタイトルと関連しているのも良かったな。なんならそっちが正しいのではとも思いました。

    オススメです。

  • とっても好みです。
    英子さん、モリー素敵
    バナミさんも良い。
    バナミさん(15歳)、蒼子とお母さんのその後のお話を読みたいです。

  • 【私が鳥のときは】
    理不尽にも、中学3年の語り手蒼子の生活に割り込んできたバナミさん、
    しかもいろいろ我慢させられて、いろんな用事に使われて、「なんで私が⁉︎」って、怒り、うんうん、わかる!なんなんこの人、怒っていいよ、当然だよ!!

    なのに、一緒に暮らすうちに、バナミさんだけでなく、塾の友達ヒナちゃんも含めて、お互いのいろんな思いが交わり、縒り合わさっていく。
    もし私が鳥ならば、と、もし雨なら、の違いがしっくりこないバナミさんと受験勉強をする2人。

    フィクションだからこそというところもあるけど、こういうふうにできればお付き合いは避けて通りたいと思っていた相手とも、時間と思いを重ねることで、産み出されてくる何かが、確かにあるかもね、、、、とも思う。
    こうして少女と元少女が奇跡の物語を紡ぐように、そういうわけわかんない繋がりを受け入れながら過ごすことも、(少女と)元少女たちにとって救いのひとつになるのかもしれない⁈、のかな?、って。


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