北の愛人

制作 : Marguerite Duras  清水 徹 
  • 河出書房新社
3.60
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本棚登録 : 20
レビュー : 4
  • Amazon.co.jp ・本 (305ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309201788

感想・レビュー・書評

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  • 確かに『愛人』と同じプロットではあるが印象はまるで違う。そう、デュラスは別の物語として15才の自分を書いたのであろう。一人称が三人称になり、会話が増え、シークエンスは明快に、カメラアングルが意識的により映像へと導く。禁断の愛、狂った家族を広漠としたインドシナの夜の光景をバックグラウンドに視覚が捉える。身を切るような情念が静かに切々と少女の姿態に憑依し、この後もずっと絶望のワルツを踊り続けるであろう人生を示唆する。全てを諦め全てを受け止め老いてしまった15才の少女。とても悲しく美しい情愛の物語、素晴らしかった。

  • もうひとつの『愛人』。
    あの時から幾許かの時が経つた。年を取り、誰かが生まれ、誰かが死んでいつた。
    あの時はただ書くことで精一杯だつたが、今は違ふ。苦しみながらも生きてきた。まだ生きてゐる。ここまでやつて来た今ならまた書ける。
    『愛人』の時と比べて深く自分の記憶に沈んで漂ふ感じではもはやない。あの瞬間を感じるのではなく、この目で見つめやうとする強固な彼女の文体が息を吹き返す。
    『破壊しにと彼女が言う』や『エミリー・L』にみられる強烈なまでの映画的な文体。カメラワークと役者の動きを重視した簡潔だが複雑な文体。この文章をそのまま映像化するとなると、かなりの監督や役者の技量が求められるやうに感じられる。
    あふれる性愛と肉欲を撮しながら、そこに横たわる絶望と死を表現することを求められる。
    身体中満たされれば死にたくなるやうな恐怖。快楽を知つて何かになつてしまふことに伴ふ死。どこまでもふたりの間に横たわる無限にも等しい孤独。それにもかかはらず、相手を求めずにはいられない焦燥。愛せないとわかつてゐるからこそ、愛してしまふ不条理。求めれば求めるほど乾いてゆく。
    それだけを描けばこれは小説となつてゐただらう。けれど、それを見つめるからには時間の流れや空間の隔たりをも含めて見つめなければならない。
    インドシナの印象。家族や学校での生活の印象。さうしたものなしに見つめることはできない。何か生きたものを見つめるためには時間と空間の中でなければ見つめることはできない。
    ただ、見つめてゐるものが必ずしも史実や地理的事実に基づいてゐるわけではない。彼女の映画はドキュメンタリーではない。歪んだ地理や記述、年号それ自体が彼女の映画なのだ。彼女の感じたままなのだ。だから映画の中ではそれが感じた事実となる。
    この作品は死んだ北の愛人でもなければ下の兄でもエレーヌ・ラゴネルでもなく、行方知れずのタンに捧げられてゐる。この作品を映画にしたら誰よりも真つ先にみてほしかつたに違ひない。そして死んでいつたひととの愛を泣きながら話したことだらう。
    しかしすでに通り過ぎていつたものはあまりに多かつた。アルコールの心地よい酔いだけが彼女を懐かしいひとびとへの縁となつてゐたやうに思へてならない。それぐらい、大切で愛ほしい記憶だつたのだ。
    彼女の描く愛はさういうところで生きてゐる。

  • 愛人よりこちらのほうが少女が中国人の男に愛を持っていたこともわかるし、読みやすかった。
    結婚できなくても、会わなくても、生涯愛し合っていたんじゃないかなと思うとかなり切ないけど、美しい愛だなとおもえます。

  • 「愛人」の続編、というかスピンアウト、でもない。

    「愛人」と同じ道具立てを使ってはいるが、確実な別れを前にお互いの想いをぶつけ合う会話に引き込まれる。

    中国人の男が、上の兄の侮辱に対して脅しをかけるところが、「愛人」と違っていて少しスカッとする。

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