あつかましき人々

  • 河出書房新社
3.22
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  • Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309202426

感想・レビュー・書評

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  • 「愛人 ラマン」のデュラス処女作(1943年)。

    箸にも棒にも掛からぬぐうたら息子に対する母親の溺愛を描く。
    これがデュラスのほとんどの作品底を流れているか、テーマになっている。

    モーの兄ジャックは遊び人で色好みでお金にだらしがない。
    40歳という熟年になっても、困ったことになると母の元に戻ってくる。

    母親のほうもこの美貌の息子が忘れられず、受け入れて面倒を見る。
    暴力と「また出て行くぞ」との脅しをかけられおろおろし、あげくにずるく立ち回った息子に騙される。

    その犠牲者でもあり、観察者である妹「モー」の目を通して、フランスの地の果て《荒れ野(南西部高地ケルシー)》に繰り広げられる家族の愛憎劇はもの凄まじい。

    だますもだまされるも家族の内でなら許されもしようか、他人に対してあくまでも「あつかましい人々」なのである。うーむ、あんぐり。だがおもしろい。

    「ラマン」の時もそうだったが、周りの自然描写とともに川が印象的だ。
    「モー」が川のほとりや野原をさまよって、つかれたように考えをめぐらす様は幽玄的で、デュラスというひとは呪術的なところがあるのだろう。作者のお写真は相変わらず怖い。

    *****

    他作品を記しておく。(いつか読みたいために)

    『静かな生活』(1944年)『太平洋の防波堤』(1950年)『木立の中の日々』(1954年)
    『モデラート・カンタービレ』(1958年)『愛人』(1984年)『苦悩』(1985年)
    『青い眼、黒い髪』(1986年)『愛と死、そして生活』(1987年)『夏の雨』(1990年)
    『北の愛人』(1991年)『ヤン・アンドレア・シュナイター』(1992年)
    『エクリール』(1993年)

  • デュラスが常にテーマとしていた、家族の歪みである、父親の不在、母と息子、母と娘の関係が本作のなかですでに描かれている。さらにジャックの借金と彼の妻の死という二つの悲劇がモーの視点によって語られることなど後のデュラス作品にも見られる技法が見出せる。(河野美奈子)

  •  まだ磨かれていない、巨大な原石ーー。マルグリット・デュラスというひとが潜在的に持っていた資質を示すデビュー作★ 作家としての才能のきらめき、明らかに文学的な感性、必ず大器になる可能性。魅力も欠点も含め、さまざまなものが入り混じっています。

     盛りだくさんすぎるらしく、正直、筋を追いかけるのに手こずったんだけど……。どうやら、夫ひとりをパリに残して、母子で田舎町に移住したタヌラン一家の物語のよう☆
     前夫との間に生まれたジャックはとんだ放蕩息子で、地方に行っても借金癖と夜遊びが止まず! そんなジャックを溺愛するタヌラン夫人。この状況を憎みながらも、田舎で大人になっていく娘のモー……。
     デュラスがその後も描き続けた「家族って、なんか狂ってる」感じが、すでに通奏低音として流れています。

     あと、ジャンと娘が出会う場面も印象に残りますね。彼女が歌えば、その歌は彼の血中を毒のごとくめぐってゆく辺り。好色のうちに早くも狂気が揺らいでる感じ……★

     愛してるという認識には、独特の歪みがある。そのことを、デュラスは情念の問題を超え、乾いた筆致で描き出します。外から突き放して眺めている眼がある。その距離感みたいなものを、少なくとも日本人作家では感じたことがないな。
     乾いた感じで歪んだ愛を描くとどうなるか? 掛け値なしに面白いですね。たとえば、母と息子の親バカ劇場をやらかしても、不思議な芸術色が滲み出たり。男女の安くさいやりとりを書くのにペンが逆に潔癖になって、二人の間での儀式色が醸し出されたり……。

     次々と立ちあらわれては去っていく、映像的な表現が特徴的。浮かび上がるイメージを出し惜しみせず、デフォルメせずに全部描いちゃった断片の連続! 本作ではまだ「せわしさ」と感じられなくもないけど、鮮やかに、矢継ぎ早に流れてゆくシーンを目で追うだけという境地に、不思議な慰めも感じました★

  • やはりこれはデュラスの小説なのだ。『太平洋の防波堤』や『ラマン』などに書かれるデュラスの家族の経験が、ここでも変奏されている。母に対する愛(および憎しみ、それゆえこの小説は愛憎の小説なのだ)のかたちは、ほかの作品にもましてはっきりと書かれている。

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著者プロフィール

仏領インドシナのサイゴン近郊で生まれる。『太平洋の防波堤』で作家としての地歩を築き、『愛人(ラマン)』はゴンクール賞を受賞、世界的ベストセラーになる。脚本・原作の映画『ヒロシマ・モナムール(24時間の情事)』、『モデラート・カンタービレ(雨のしのび逢い)』、『かくも長き不在』は世界的にヒット。小説・脚本を兼ねた自作を映画化し、『インディア・ソング』、『トラック』など20本近くを監督。つねに新しい小説、映画、演劇の最前線にたつ。
第2次大戦中、ナチス占領下のパリでミッテラン等とともにレジスタンスに身を投じ、戦後も五月革命、ヴェイユ法(妊娠中絶法改正)成立でも前線にたち、20世紀フランスを確実に目に見える形で変えた〈行動する作家〉。

「2022年 『マルグリット・デュラスの食卓』 で使われていた紹介文から引用しています。」

マルグリット・デュラスの作品

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