- Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309202426
感想・レビュー・書評
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「愛人 ラマン」のデュラス処女作(1943年)。
箸にも棒にも掛からぬぐうたら息子に対する母親の溺愛を描く。
これがデュラスのほとんどの作品底を流れているか、テーマになっている。
モーの兄ジャックは遊び人で色好みでお金にだらしがない。
40歳という熟年になっても、困ったことになると母の元に戻ってくる。
母親のほうもこの美貌の息子が忘れられず、受け入れて面倒を見る。
暴力と「また出て行くぞ」との脅しをかけられおろおろし、あげくにずるく立ち回った息子に騙される。
その犠牲者でもあり、観察者である妹「モー」の目を通して、フランスの地の果て《荒れ野(南西部高地ケルシー)》に繰り広げられる家族の愛憎劇はもの凄まじい。
だますもだまされるも家族の内でなら許されもしようか、他人に対してあくまでも「あつかましい人々」なのである。うーむ、あんぐり。だがおもしろい。
「ラマン」の時もそうだったが、周りの自然描写とともに川が印象的だ。
「モー」が川のほとりや野原をさまよって、つかれたように考えをめぐらす様は幽玄的で、デュラスというひとは呪術的なところがあるのだろう。作者のお写真は相変わらず怖い。
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他作品を記しておく。(いつか読みたいために)
『静かな生活』(1944年)『太平洋の防波堤』(1950年)『木立の中の日々』(1954年)
『モデラート・カンタービレ』(1958年)『愛人』(1984年)『苦悩』(1985年)
『青い眼、黒い髪』(1986年)『愛と死、そして生活』(1987年)『夏の雨』(1990年)
『北の愛人』(1991年)『ヤン・アンドレア・シュナイター』(1992年)
『エクリール』(1993年)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
デュラスが常にテーマとしていた、家族の歪みである、父親の不在、母と息子、母と娘の関係が本作のなかですでに描かれている。さらにジャックの借金と彼の妻の死という二つの悲劇がモーの視点によって語られることなど後のデュラス作品にも見られる技法が見出せる。(河野美奈子)
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やはりこれはデュラスの小説なのだ。『太平洋の防波堤』や『ラマン』などに書かれるデュラスの家族の経験が、ここでも変奏されている。母に対する愛(および憎しみ、それゆえこの小説は愛憎の小説なのだ)のかたちは、ほかの作品にもましてはっきりと書かれている。