信仰が人を殺すとき - 過激な宗教は何を生み出してきたのか

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (454ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309204338

作品紹介・あらすじ

アメリカでは、モルモン教徒は長老派教会の信者より多い。世界では、ユダヤ教徒より多い-「神の命令」に従い弟の妻とその幼い娘を殺した熱心な信徒、ラファティ兄弟。なぜ、熱心な宗教者たちが殺人者となり得たのか?理性と信仰、原理主義と人間の倫理の問題など宗教の深い闇に迫った渾身のノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • モルモン原理主義者が起こした殺人事件を導入として、モルモン教の成り立ちや迫害の歴史などを網羅していく。知らなかったことがたくさん書いてあり驚きの連続。一夫多妻婚を重要な教義とするに至った経緯がほとんどギャグなのだが(唯一笑った部分)、都合のいい解釈に巻き込まれる少女たちの悲劇がおぞましすぎて最後まで読めない人もいると思う。殺人事件の裁判場面では、宗教と政治が当たり前に共存するアメリカという国が抱えるジレンマや、信仰と精神疾患の違いについて考えさせられる。もうちょい事件について掘り下げて欲しかった気もする。

  • 1984年のモルモン教原理主義者が起こした殺人事件を詳しく追いながら、モルモン教の歴史とその暴力性を読み解き、信仰の本質に迫らんとした渾身の作。

    モルモン教については、飲酒禁止とかコーヒー禁止、教義が厳しくてかなり変わった宗教だという程度の知識しかなかったが、読めば読むほど馬鹿げた信仰としか思えない。
    常識をわきまえたはずの大人が、なぜこんな訳のわからない教義をいとも簡単に信じてしまうのか、全く理解できない。私が全くの無宗教者だからだろうか?

    預言者の言動、信者の起こした事件、発想、行動、どれをとっても、自分勝手な男のエゴを押し通すだけの差別主義集団、妄想に取り憑かれ、自分たちの都合だけを最優先、意にそぐわない人物はためらわずに抹殺し、何食わぬ顔でその罪を他人に押し付けるたちの悪い暴力集団にしか見えない。ここで明らかにされた信徒たちの行動には、嫌悪以外感じられなかった。

    その教義の性質から、小さな分派がいくつもあり、その一つにあくまでも教義を厳密に守ろうとする原理主義があるらしいが、ジョセフ・スミスがこの宗教を始めた時からかなり危うい集団だったことは否めない。

    妄信することで周りが見えなくなり、判断を誤ってしまう怖さは誰にでもある。
    だからといって、篤い信仰心をもって宗教にのめりこんでいる人が必ずとんでもない事件を起こすなどということでは決してなく、ごく一部の過激な信徒であることがほとんどだが、その境目というのはいったいなんなのだろう。本書ではナルシズムに走るかどうかの違いといったことも書かれているが、それですべての説明がつくというわけでもないだろう。

    信仰と狂気が、ある意味紙一重であることは過去の様々な事件を見ても容易に想像がつくが、その紙一枚を乗り越えさせてしまうものはなんなのか、それがわからないから人々は宗教に助けを求めるのだろうか。

    本書の中で、宗教について心に留まった文章がいくつかあったので下記にあげておく。

    「敬虔な信者であることを公言している、どうやら正気と思われる男が、ほんのわずかなためらいも見せずに、罪のない女性と子どもをどうしてこんなに惨たらしく殺すことができたのだろうか?道義的な正当性は、どこからきているのか?(中略)心と頭脳の暗い領域(中略)が、われわれの多くに神への信仰をうながし、予想どおり、少数の熱狂的な人間たちを駆りたてて、分別に欠けるその信仰心を論理的に行きつくところまで突きすすませるのである。」

    「人類が神を信じるようになってこの方、人々は神の名において非道なことをおこなってきた。過激な人間たちは、どの宗教の内部にも存在しているのである。」

    「信仰にのめり込んでいる人間を動かしているのは、(中略)実際に本人が手にするのは、強迫観念そのものだろう。(中略)彼(あるいは彼女)はそれに打ち込みすぎるあまり、目的のためだけに生きることになる。」

    「信仰は理性のまさに正反対のものであり、無分別が宗教的な献身のきわめて重要な構成要素である。過激な信仰が論理的な思考に取ってかわったら、たちまち自分の意見などなくなってしまうのだ。」

    「ほんとうに、なにが起こっても。常識が神の声とぴったり符合することはないのである。」

    「預言者の言われたとおりにすれば、その行動の全責任はすべて預言者にあるわけです。返済を拒否してもいいし、相手を殺したってかまわない。つまり、なにをしても、平気でいられるのです。多くの人々がくださなければならない重要な決定を自分でしなくてもすみますし、その決定にも責任がないのです(中略)だが、人生には、幸せよりも大事なことがあります。たとえば、自分で自由にものを考えることです」


    余談。
    マイケル・ギルモアの『心臓を貫かれて』に所々触れられているが、あれもモルモン教がらみだったか。死刑制度関連として記憶していたのだけれど、もう10年くらい前に読んだきりなので、あまりよく覚えていない(汗)。
    そして、これ、読了にとっても時間がかかってしまった…。上下2段組みで450ページ超え…つらかったぁ。

  • 読了:2010/07/22 図書館

    過激な宗教が云々より、モルモン教原理主義怖すぎる。色々な理屈でもって正当化されるけど、一夫多妻制はやっぱり男のエゴの産物か。

  • 2021/9/28購入
    2021/12/19読了

  • 一夫多妻を固く守っているモルモン原理主義で実際起きた殺人事件を取り上げている。またモルモン教の始まりから一夫多妻の歴史についても詳しい。
    教えに洗脳されてどんな罪深い暴力も正当化させられる。本当に恐ろしい。
    このような原理主義だけでない、ブッシュ大統領は神の名のもと合衆国を無駄な戦争にかりたてた。
    私はクリスチャンだが、人々を煽動し狂気にかりたてるのはおかしいと思う。

  •  アメリカで実際にあった事件を辿ったノンフィクション。妻と幼い娘を殺害したのは実の兄弟だった。犯行後、まったく悪びれることなく「神の指示に従っただけだ」と平然と答えた。悪しき教義は殺人をも正当化し、一夫多妻を説いていた。

     <a href="http://d.hatena.ne.jp/sessendo/20081105/p1" target="_blank">http://d.hatena.ne.jp/sessendo/20081105/p1</a>

  • 「「彼らを殺せ」と神が命じた。
    人間を救うはずの神の御名のもと、弟の妻とその幼い娘を殺した熱心な信者、ラファティ兄弟。
    神の声に従ったから、ロン・ラファティは精神的に病んでいるということになれば、神を信じ、祈りを通して導きを仰ぐ者は皆、精神的に病んでいるということではないだろうか?
    信教の自由を守ることに熱心な民主主義社会で、ひとりの人間の非理性的な信仰は賞賛に値する合法的なものであり、別の人間の信仰は常軌を逸していると断定する権利が、誰にあるだろうか?
    社会は、積極的に信仰を奨励する一方で、他方では、過激な信仰者に有罪の判決をくだすことが、どうしてできるのだろうか?」


    激しい思い込みを「悪」だとするなら、人間は皆「悪」です。
    合理的思考を重視する都会でさえ、社会は多くの思い込みの上に成り立っています。

    まぁ、思い込みはいいとして人殺し自体があかんことなんやろうしラファティ兄弟も結局死刑になるんですが、色々と考えさせられました。
    例えば法律のこと。
    このラファティ兄弟がモルモン原理主義者ってことでモルモン教の歴史についても詳しく書かれてて、警察との争いについてもけっこう書かれてます。
    モルモン教にも2派があってモルモン原理主義の方は多妻結婚が認められています。
    で国からそんな野蛮な制度は認めんってすごい非難されるんですが、何がどう悪いのか、どう野蛮なのかについては一切説明がありません。
    思い込みの押し付けがましさという点では、国の方がよっぽどたちが悪いです。
    勝手な予想ですが、もしもヒトの染色体に異変が起こって男女の出生率が1:3になったとしたら、国は一夫三妻制を認めるかも知れない。
    法律ってなんやろう?


    「信仰生活を続けている人々は、たぶん、他の人々よりも、全体的に見ると幸せだろうと思います。だが、人生には、幸せよりも大事なことがあります。例えば、自分で自由にものを考えることです。」
    (元モルモン原理主義者の言葉)

  • それぞれの人間がそれぞれに、不安に思いながら何かを信じ生きていくと信じていた。
    信仰とは何か。宗教を批判する立場からでもなく、宗教人としてでもない立場から、
    解き明かそうとしてる。〜教としての宗教が日常にとけ込んでいる国だからこそ、こういう視点でかける人がいるのだろうなあ。と。

  • モルモン原理主義者が侵した殺人からモルモン教とは何か、信仰とは何かを歴史を含め詳細な調査により明かにしようとしている。周囲に阻害された人間は「選ばれた者」として自分の存在意義を確かめ、正統性を確認する。常に自分も含めて陥る可能性があるため、狂信者と一言で片付けるわけにもいかないことを考えさせる。

  • 一夫多妻制。現代では女性の権利を犯し、差別を如実にあらわす表現だが、世界にはまだまだこの一夫多妻制は存在する。本書はその中で、モルモン教の中でも原理主義における一夫多妻制を、モルモン教の歴史と絡めながら論じた書であると同時に、1984年7月に実際に起きたモルモン教原理主義者による殺人事件とその要因を探ったノンフィクションであり、
    読み応えは抜群。フィクションとは違う、信仰心の陰の部分が伝わる1冊。

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著者プロフィール

1954年生まれ。ジャーナリスト、作家、登山家。
当事者のひとりとして96年のエベレスト大量遭難事件を描いた『空へ』(1997年/日本語版1997年、文藝春秋、2013年、ヤマケイ文庫)、ショーン・ペン監督により映画化された『荒野へ』(1996年/日本語版1997年、集英社、2007年、集英社文庫。2007年映画化、邦題『イントゥ・ザ・ワイルド』)など、山や過酷な自然環境を舞台に自らの体験を織り交ぜた作品を発表していたが、2003年の『信仰が人を殺すとき』(日本語版2005年、河出書房新社、2014年、河出文庫)以降は、宗教や戦争など幅広いテーマを取り上げている。

「2016年 『ミズーラ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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