- Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309206011
作品紹介・あらすじ
2068年、雪に埋もれた東シベリアの遺伝子研究所。トルストイ4号、ドストエフスキー2号、ナボコフ7号など、7体の文学クローンが作品を執筆したのち体内に蓄積される不思議な物質「青脂」。母なるロシアの大地と交合する謎の教団がタイムマシンでこの物質を送りこんだのは、スターリンとヒトラーがヨーロッパを二分する1954年のモスクワだった。スターリン、フルシチョフ、ベリヤ、アフマートワ、マンデリシュターム、ブロツキー、ヒトラー、ヘス、ゲーリング、リーフェンシュタール…。20世紀の巨頭たちが「青脂」をめぐって繰りひろげる大争奪戦。マルチセックス、拷問、ドラッグ、正体不明な造語が詰めこまれた奇想天外な物語は、やがてオーバーザルツベルクのヒトラーの牙城で究極の大団円を迎えることとなる。現代文学の怪物ソローキンの代表作、ついに翻訳刊行。
感想・レビュー・書評
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昨年、プロ・アマ問わず海外文学を好む人々の間で「すごい!」と話題になった本。これを読まないと2012年は終わらない!と思っていたのですが、だらだらと今まで持ち越しに。
えーっとですね、ストーリーはですね…いろいろな理由で、ものすごく答えにくいです(笑)!とりあえず2068年のロシアで、ある男が手紙を書いている。しかも、よくわからぬものを作っている。よくわからぬものが文章を書き、それが終わると何かができるらしい。そして、その何かをめぐって怪しい勢力が…と、つらつら書いていくうちに、自分でも整理できてきているような気がするけれど、おそらく、これはかなりの部分で認識に誤りがあると思う。まあしかし、それを割り引いても、割合まともにストーリーがあるんじゃないかというのは、最初の1/3と終わりの1/3くらいではないだろうか。少なくとも秘教めいた中盤はよくわかりません…下ネタまみれのディテールの派手派手しさで、脈絡なんか0.3秒で消し飛んでますから!
旧ソ連の英雄・反逆分子らの名前が綺羅星のごとくちりばめられ、ドストエフスキーらのクラシックなロシア文学もパスティーシュされてこれでもかとぶち込まれる。うーん、私、露文経験浅いから、ちょっとよくわかりませんわー!そもそも、あのビジュアルでクローンってどうなんだ、iPS細胞関係者が泣く(と思う)ぞ。でも、チェーホフ3号らの書いた作品は、慣れてくると結構面白いです。中身がむちゃくちゃでも、書き出しとしめくくりがきちんと似せてあるし。前半のこのパスティーシュ作品の森が、露文完全アウェイの読み手としては辛さもあるんだけど、ここを抜けると、フィジカルもメンタルも強くなるのか、結構快調に読めるようになる。むしろいろいろな面での免疫ができすぎて、ストーリーが流暢に流れている場面にくると、「そろそろガツンとこないかな?」と負荷を期待したくなってくるから、それはそれで微妙に厄介かも。
個人的に持った印象は、クノーやらルーボーをもっと過激にし、筒井康隆の『ダンシング・ヴァニティ』を加え、大友克洋テイストの『AKIRA』やスチームパンクも放り込んで混ぜ混ぜし、下ネタでくるみました!という感じに、バロウズ『麻薬書簡』のバッドトリップな高揚感をトッピング、といったところかも。ソローキンの圧倒的な筆力というよりは、ここまでやりたい放題の破壊力と、訳者さんチームの七転八倒+素晴らしい連携の賜物で「すごい!」と思った本でした。しかも、ラストは私が好きなテイストでちょっと気が利いていて、「もう、今日はこのぐらいで許しておいてやるよ…」とわけもなく思ってしまったのでございます。 -
初ソローキン。本屋平積みで奇書扱いなので気になっていた。
どんな話かどんな作者かなのか全く予備知識なしで読んだのですが、
えーっと、私の主な読書時間は、通勤電車と、お昼休み(一緒に食べる人がいない時)なのですが、少なくともその状況で読むには全く不適切でございました。f(ーー;)
冒頭から飛び交う「肛門(カンメン)臭的小猪(チョウダシアオジユ)」「。l。が勃起」「吐瀉物まみれの晩餐」と言った文体に口汚い悪態描写が続き、ほとんど意味がつかめない展開。真剣に読み取ることと、自力で理解することをとっとと諦め、翻訳者の解説や、ネット検索した紹介文章を頼りながら読み進めてみた。
(いや、このくらいの緩さであまり集中せず読んだ方がいいと思いますよこれ)
巻末の翻訳者解説によると、「スターリン期のソ連文学は、化粧を塗りたくった甘ったるい顔をした化け物であり、『青い脂』はそんなソ連の現実を裏返しにしてその腐った内臓に目を向ける試み」だそうだ。
そして訳が分からないからこそ挑戦したがる人がいる。そんな人たちが翻訳チームとなり提供したのがこの日本語訳。
原作者の訳注もあるのですが、読者を余計に混乱させることを目的としているかのようで、
さらに翻訳者の訳注を載せないとまるで分からない。
翻訳者の訳注は本当に助かった。でないと何が何やら全くわからなかったことでしょう。
以下、レビューが無駄に長いのは、短く纏める気力も失せているからでございます。。
さて。上記のような罵詈雑言の主は、ボリスという言語促進専門の生命文学者。手紙の相手に「つれない蝶々くん」「裏切り者の糞ったれ」とか呼びかけているので同性愛相手らしい。この時代では異性とのノーマルセックスはダサくて、同性セックスが普通なんだそうな。
舞台は2068年らしい。
場所は極北の研究所。通信手段は電子伝書鳩。交通手段は飛行橇。このころのロシアは中国に思想も領土もかなり影響されているらしい。
軍人や研究者たちの研究名は「青脂3」。作っているのは、トルストイ4号を始めとする作家たちのクローン体。この〇号とはオリジナルとの遺伝子一致を意味していて外見は全く関係ない。
だってトルストイ4号は頭と手が体重の半分で、顔の半分の鼻は曲がって凸凹、膝までどっしり伸びた髭は一本一本がアマゾンに生息する水生の蛆虫のよう。
ナボコフ7号はぴちゃぴちゃ汗を垂らして輪郭が分からんくらいに震え続ける赤毛の大デブ。
パステルナーク1号はほとんどキツネ。
プラトーノフ3号は生きたテーブルの形状。
他にアフマートワ2号、ドフトエフスキー2号、チェーホフ3号がいるんだが…書くのに疲れてきた。
それまでの試作品のトルストイ1から3号とか、ツヴェターエワ1号やらブルガーコフ2号たち、使い物にならなかった個体たちはすべて廃棄処分、つまりは殺害されたようだ。
そしてこの彼らに執筆させる。
このクローンたちの書いた作品が提示されるのだが、それぞれのオリジナル作家のパロディとなっているようなので、ちょっとは真面目に読もうかな、と思った私の読書姿勢はすぐに砕かれた。
だって「(汚れた幌馬車が)G通りの三階建ての灰色の家の車寄せの脇に止まったが、その様子は全体が途方もなくどうもあんまりで、そのニワトリのコトバときたらニワトリのコトバときたら全く良かざるものだった」で始まられたら、こっちの真面目な読書姿勢も吹っ飛ぶというもの。
その上「人間の肉片を燃料とする機関車」「人間三人を縫い合わせる麻薬機械」とか出てきて真面目に考察すると精神が不健全になりそうなので、さくさくと表面だけ読み進めていく。「すべての幸せな家族は一様に不幸であり、不幸な家族はめいめいそれなりに幸せである」で始まる作品の作者がトルストイ4号でなく、ナボコフ7号だってこととかが笑いどころか。
…、そしてクローンたちは執筆活動終了後、またまた形状を変えて数か月の仮死状態になり、それぞれの背骨だとか肘だとかに「青い脂」を発生させる。テーブル人間に肘があるの?なんて気にしちゃいけないんだろう。
さて、ここで出てきた本の題名でもある「青い脂」とはなにか。
本文丸写ししようとしたけどどこを丸写しすればいいかも難しいので、私なりにまとめると、温度が常に不偏で、粉々になったとしても在り続ける物質で、月に作った反応器に反応して永久エネルギーを発生させることを目的として、研究抽出されるもの。
…わかりましたか?っていうか作者分からせる気ないでしょ。
もともとはクローン人間研究をしていたら、たまたま作家のクローンだけこういう物質を出すことが分かったんだそうな。
まあとりあえず、昔のロボットアニメなんかに出てくる、ロボットを動かしたり宇宙空間をワープさせたりするのに使われる便利な架空分子みたいなもんだと勝手に理解してページを進めよう。
そして今回のクローンたちから発生した「青い脂」が、研究所を襲撃した男たちにより奪い去られる。
小説としてのここまでの文体は、ボリスの卑猥な悪口雑言の手紙だったのが、
章も変わらずそのまま男たちの所属する「ロシア大地交合者教団」へと場面移動となる。
どうやらこの教団は男性ばかりで成り立ち、男性器を大地に突っ込み交合することを教義としていて、土喰い神父だの、巨大な性器を乳母車に乗せる童子だの、最高平衡者(大マギストル)が読者の前に出てきたり消えたり。
この教団は、ロシア教会の対立を皮肉ってるらしいんだが、日本人仏教徒の私にそんなこと読み取れません(ーー;)
さて、彼らは教団設立時に地下太陽を探して地下を掘り進めているうちに、ゾロアスター教徒たちの発明した「時の漏斗」とか「氷の円錐」とかいう、氷のタイムマシンを見つけたらしい。
そして「青い脂」と童子はタイムマシンで1954年3月1日のボリジョイ劇場に出没する。
ここから現実にいた人たちの名前が出てくるんだが、あくまでもこの小説世界はパラレルワールドと言うかそんな感じ。
ロシア国家主席はスターリンでこの小説内では50歳くらい。実際のスターリンは前年の1953年に74歳で亡くなっている。
ロシアのスターリン期の政治家や粛清の犠牲者が次々出てきているということなので何らかの風刺っぽいエピソードが語られる。
前半でクローンとして出たパステルナークやスターリン期の女流詩人アフマートワとかも出てきて、アフマートワから次世代詩人へのロシア文学後継の様子がかなり気持ち悪く寓話的に書かれたりしている。
さて青い脂のほうは。
スターリンは政敵たちと争奪戦をして、味方のフルシチョフ伯爵(実物には爵位は無い)と共にドイツへ脱出。
この小説内でのスターリンとフルシチョフ伯爵との関係は、拷問によって殺した男の肝臓を共に饗し、そのあと巨大なベッドで激しくセックスする仲。
…おかげで「おじちゃんのズボンの大きな芋虫が坊やのお尻の中に…」なんてものを通勤電車で読む羽目になったわけで(ーー;)
そんなこんなで、読み進めていくうちに、この世界ではロシアとドイツが同盟を結び、ロンドンは核攻撃され壊滅、プラハには東西断絶の壁、今度はアメリカ攻撃予定、と分かってくる。(いや本当に分かってるかは不明です)
ドイツで出迎えたヒトラーは、文字通り”ハンドパワー”を持ち帝国宰相となっている。
スターリン、フルシチョフと、ヒトラーやヒムラーたちの間で「青い脂」争奪となり、
隙をついてスターリンが液体化させた青い脂を自分の脳に注射する。
スターリンの脳は巨大化し、ドイツを覆い、スカンジナビア半島を均し海に落とし、地球最後の晩には世界の半分を覆い、残りの半分は海に沈んでいた。
その後も肥大し続ける脳は月を引き寄せ太陽を分断し、宇宙を埋め尽くす。そして一億二千六百四十万七千五百年後に、太陽の三十四万五千倍の質量を持ちブラックホール化して収縮が始まる。
その時スターリンは梨の事を思い出す。
今スターリンがいるのは簡素な部屋。
「青脂の機械的加工」の説明書がある。
部屋の主人はSTというひどく痩せた高慢な若者。
彼に来た手紙はボリスの書いた中国語の交った悪態まみれの恋文。
そう、ボリス。前半で「作家のクローンから青い脂を取る研究」をしていた生物学者。
STはボリスが手紙を書いていた愛人だったということ。
かくしてこの捻じれた小説世界は捻じれた冒頭の時代( の、パラレル?)に戻ってきましたとさ、ちゃんちゃん。
(後日追記:自己ツッコミ)
おお、いいね!をいくつかいただいてしまった。
文字通り「焼け糞」で書いたレビューですが、みなさまありがとうございます。
あまりに強烈で食事中に思い出しては気持ち悪くなったりしたので、”憑き物落とし”的なことしないと次の本に進めない!と長文レビューでした。
このレビュー読んだら「やっぱり読むの止めた」と言う方が多くなるんじゃなかろうか(笑) -
ふだん本を読むときって、文字情報から場面や登場する人物、扱われている概念を頭の中に再生しながら進んでいく。それなのにこの本は、せっかく思い浮かべたものを、ひたすらなエログロのハンマーでことごとく叩き潰していくのだ。なんとか話の筋をつかまえようと最後の最後まで頑張ってみたのだけれど、「そんなのありませーん」ていうのが終わりにきて、「えっ?あ、そうなの...?」って半(泣き)笑いになって本を閉じた。ほんとソローキンて壊したいひとだなあと思った。
ロシア文学や近代ロシアについて何も知らないわたしには、この本全体の意味について思いをはせることは難しかったのだけれど(当時の体制を嗤うとかソ連時代の文芸の生ぬるさを批判するとか?)、ところどころにまとまった意味のとれるテクストがあって、その滑稽さ、不気味さや美は味わえたかなと思う。以下特に面白かった箇所。
ドストエフスキー2号の躁状態の文章
トルストイ4号のテクストに出てくる絞殺獣
水上人文字(なぜか山尾悠子っぽい)
後半のロシアの政治家の人物造形については、ロシア人が一般的に抱くイメージがわからないのが残念。そこからどれくらいハズしてるのか、どのあたりは同じにしてあるのかがわかっていたらもっと楽しめたと思う。しかしBL好きなひとたちだったらスターリンのあれにも「キャー♪」ってなれるんだろうか。聞いてみたい。 -
混乱した言語世界。生半可なものじゃない。理解という概念は持たないことにした。
エロとグロとSFです。なんて簡単にまとめることは口が裂けてもいいたくない。 翻訳した事がすごい。文章という宇宙に放り出されて訳もわからず陵辱された私でした。
模写。造語。やりたい放題だよ。ぶっ飛んだ狂気だよ。文学の破壊だこんなもん。
もっとやれ!!といえない作品は初めてだ。この衝撃は墓場まで忘れて支障なし。笑
星なんてつけてもね。 -
な、なんとか読んだぞ。いや「読んだ」と言うのは気が引ける。活字を追った、っていうべきか。噂に違わぬ難物で、でもなんだか楽しかったなあ。
出だしの日記(?手紙?)からもう目を白黒。いやこれは無理にわかろうとするまい、いちいち「意味」を考えるまいと言い聞かせつつ、みなぎるテンションに押されて読み進める。ロシア文学に堪能だったら面白いだろうになあと何度も思ったが、それでも何となくその過激なおちょくりぶりは伝わってくる。
筋が追いやすいところも時々あって、そうすると不思議なことに、いつあの意味不明な言葉の奔流に飲み込まれるのかと、心待ちにしていたりする。なんだか癖になる感じ。
スターリンとフルシチョフの××××とかもう、どひゃーとのけぞるエログロ満載だけど、「猥褻」っていう言葉はちょっと違う気がする。これ読んで「キャー」とか思ったりする?(あ、する人もいるのか)
ともあれ、私が何より感動したのはこれを邦訳した方々の情熱に対してだ。まあよくぞこんな言語的混沌に満ちた作品を訳してくださったものだと思う。あとがきによると、そのきっかけとなったのは、北海道大学の学生さんの卒論と彼の試訳だったという。「酔狂にも」と翻訳者の望月さんが書いているが、いやまったくその普通でない感覚が頼もしく思えたりする。-
たまもひさん
はじめまして。
この本、お読みになったのですね。
それだけで尊敬します。
ずっと気になってはいるのですが、もう...たまもひさん
はじめまして。
この本、お読みになったのですね。
それだけで尊敬します。
ずっと気になってはいるのですが、もうビビってしまって腰が引けて、結局遠くから眺めているだけです。
たまもひさんの幅広い蔵書(?)と含蓄のあるレビューに魅了されています。
これからも読ませていただきたいので、フォローさせてください。2014/02/25 -
kwosaさん、はじめまして。コメントありがとうございます!
思いつくままに書き散らしている拙文を読んでくださって、ありがたいやらお恥ずか...kwosaさん、はじめまして。コメントありがとうございます!
思いつくままに書き散らしている拙文を読んでくださって、ありがたいやらお恥ずかしいやら。こちらこそこれからもよろしくお願いいたします。
いやこの「青い脂」は…。上にも書いているとおり「読んだ」とはちょっと言いにくくて…。とにかく強烈だということだけはわかりました。「君子危うきに近寄らず」なんて言葉が思い浮かんだりして。2014/02/25
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2068年、雪に埋もれた東シベリアの遺伝子研究所。トルストイ4号、ドストエフスキー2号、ナボコフ7号など、7体の文学クローンが作品を執筆したのち体内に蓄積される不思議な物質「青脂」。母なるロシアの大地と交合する謎の教団がタイムマシンでこの物質を送りこんだのは、スターリンとヒトラーがヨーロッパを二分する1954年のモスクワだった。スターリン、フルシチョフ、ベリヤ、アフマートワ、マンデリシュターム、ブロツキー、ヒトラー、ヘス、ゲーリング、リーフェンシュタール…。20世紀の巨頭たちが「青脂」をめぐって繰りひろげる大争奪戦。マルチセックス、拷問、ドラッグ、正体不明な造語が詰めこまれた奇想天外な物語は、やがてオーバーザルツベルクのヒトラーの牙城で究極の大団円を迎えることとなる
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さすがソローキン。トルストイ4号やらドフトエフスキー2号やらスターリンとフルシチョフのセックスやらヒトラーのレイプやらもうカオスもカオス。これがポストモダンか。
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禍々しいものを受け取った。
さてこれはどんな風に転がっていくのだろうと読み進めたが、いわゆる「物語」を期待していると、壁に投げつけたくなる作品じゃないかなと思った。
わたしはあまりにもソ連の歴史や政治、ロシアのそれに対する知識に欠けており、もうそれでいいやと解像度粗く読んでみたら、やっぱりおかしかった。笑うしかない。
クローン作家たちが苦しんで生み出した作品の副産物である青脂。よくは分からないけど、確かにその見た目は、人の気を惹くものなのかも。かくして、手から手に、流転していくことになる。面白かったのは、それが(望んでないことがほとんどだと思うが)引き継がれる瞬間、それまで青脂の持ち主だった者が客観的に描写されるのがやけにおかしかった。
過去のロシア文学といえば、チェーホフやゴーゴリをいくつか読んだ程度であまり知識が無い。ましてや、詩など! しかし、ここに出てくるアフマートワの描かれ方を見ると、詩というものがロシアでは深く親しまれていて、詩人は少なくとも一部の人達には熱狂的に愛されていたことが伺える。非常に不潔で怪物のような見た目の(あくまでもこの作品の中では、だけれど)彼女の歩いたあとをキスをする人々。彼女が生んだものを受け継ぐ者が、次から次へと候補者は来るのになかなか現れないのを見ても、その世界の豊穣さが感じられる。
見た目でいえば、特にスターリンのパートに出てくる人々は実在の人物が多く、でも検索してみるその肖像とは大きく乖離しているように見受けられたりして、この辺も文章で表現することの面白さを感じることができた。
いろんな層で楽しむことができるので、あまり肩肘張らずに飛び込んでみるといいんじゃないかな。 -
面白い部分もあったけれど、多分、あまりロシア文学への造詣が深くない人間や、コンテンツ(≒物語)を受け取ることに比重を置いた読み方をしていると、100%は楽しめないのかなあ、という感じ。自分はそういう人間だと思う。
IFの歴史が紡がれるところや、青脂の実態が(全貌ではないにしても)明かされる辺りなんかは、面白く読めた。
全体として、説明が(意図的に)不十分で、何にも結実していかない感じがあって、彼らは、これは一体どうなったのか、というのが何遍も続く。出てきたものの帰結が最後まで書かれないもどかしさは、ずーっとあった。
IFの歴史については、かなり細かい部分まで注釈が(訳注だと思われる)が入るお陰で、それなりに理解しながら享受することができる。ただ、ロシア文学の代表作の文体をパロディしているだとか、ロシア文学の流れをなぞるような話の展開は、楽しむために知識ではない、感覚的・経験的な理解が必要になる部分だと感じた。
(補足があって大分分かりやすいとは言え)コンテクストに多くを任せる小説がそもそもあまり好きではないのだけれど、こういうものもちゃんと楽しめるようになりたいな、と思う自分もいる。
筆者(ないし文学の)辿ってきた歴史・変遷を踏まえた上で、そのある種のカウンターのように書かれたと思われる本作は、なんというか、先行作品の把握が求められるという意味合いで、極めてアカデミックな感じがする。
うーん、うーん、読もうかな、どうしようかな。ずーっと迷ってるんです。どれくらいわからなくて、どれくらいえげつないのか、怖いも...
うーん、うーん、読もうかな、どうしようかな。ずーっと迷ってるんです。どれくらいわからなくて、どれくらいえげつないのか、怖いもの見たさっていうか。
あちこちでレビューを見た中で一番参考になりました。でも、どうしよう?
私も怖いもの見たさだったんです!この感想がご参考になるかどうかは怪しいもんですが、「こういう作品が書けるん...
私も怖いもの見たさだったんです!この感想がご参考になるかどうかは怪しいもんですが、「こういう作品が書けるんだなあ」という素朴な驚きで読み終えました。ガイブン者必読!というよりも、「お時間があればどうぞ」感のほうが濃いような気もしています。
わからなさと派手派手しいえげつなさてんこ盛りですが、意外と陰惨ではないので、ブラックコメディとして読む本なんじゃないかと思います・・・言い切れる自信がないですけど。
感想には書きそびれましたが、読もうかお決めになるには、巻末の解説がすごく参考になると思います。普通は解説を最初に読むと、ネタバレ感満載で期待がしぼんでしまうものですが、この本は無茶苦茶すぎて、そういうしぼみ感がありませんでした。かえって明晰に解説してくれて、嬉しかったくらいです。