クラウド・アトラス 下

  • 河出書房新社
3.68
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本棚登録 : 245
感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309206127

作品紹介・あらすじ

古人が遺した技術を調査に赴く文明の守り手。レストランから逃亡し革命に身を投じるファブリカント。施設からの脱出を模索する老編集者。殺し屋に追われながら取材を続ける女性ジャーナリスト。究極の旋律を探る若き音楽家。交易船の上で次第に衰弱してく公証人。強者が弱者を貪る世界の果てには何が見えるのか。雲が空を横切るように、魂は時代を横切る。人間と世界の歴史を映しだし、クラウド・アトラス(雲の世界地図)はついにその円環を閉じる。21世紀世界文学の金字塔たる六重構造の物語がついにその全貌をあらわす。

感想・レビュー・書評

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  • 映画版優勢の印象を持ちつつ、逆転を願っての下巻。

    目次を見て、もう逆転はなさそうだと思った(涙)。実際に読んでみても、映画を先に観ているからというわけではなく、小説として予想した範囲でストーリーが進む。だからか、読んでいて妙な安定感がある。でも、「そこは解決しといたほうがいいんじゃない?」という深さや、細かい設定の理由はほとんどスルーされるし、しかもテーマになっているマークが、洋服を縫うときの「合いじるし」のように機能するのかと思いきや、機能不全。さほど特別な機能は求めていないものの、意外性もなくて、淡々と追ってしまった。そして、あっさり読了。

    変なたとえかもしれないけれど、読んだ印象は、「すごくイケメンのマジシャンっぽい人が、すごく魅力的な色と続き模様のハンカチ6枚を、さも『種も仕掛けもございません』的なジェスチャーで次々と広げる。でも、広げ終わったとたんにそそくさとたたんでしまいこんでしまう」という感じだった。マギー司郎師匠かよ!もっとも、マギー師匠はイケメン路線からは少々外れるものの、あれが芸として完全に成立しているから楽しめるのであって、この小説は…著者の作風がすべてそうなのかもしれないけれど、それだったらそれで、このページ数はいらないと思う。

    まあ、その中でも、個人的には『ソンミ~451のオリゾン』が、いちばんバックグラウンドと構成がしっかりしているようで、読んでいてそこそこスリリングだった。『半減期』の、ハビエル君の立ち位置は好きだ。クライムノベルなら、もうちょっと彼が効果的に使われるんだけど。『ゼデルゲムからの手紙』は、読み進むうちに「ドクター・シックススミス、あんなヤツなら捨てちまえっ!」とたびたびイラッとツッコミを入れたけれど(笑)、そこが惚れた弱みなんだろうな。

    正直な話、これは、「読み手が、濃密に絡み合った時間と人物のエピソードを、小説の内部に入って眺めたり感じたりする」という小説ではなくて、おそらく、「読み手は遠い世界の人間の立ち位置で、遠い時代に起こった伝説の記録のページをぱらぱらと繰ってみる」という小説なのだろう。上っ面を浅くつるつるなでていく感じ。「うわっ、そうくるか!」といった意外感や、じわじわくる圧力や濃密さみたいなものがなかった。この形式とテーマなら、ジェニファー・イーガン『ならずものがやってくる』のほうが段違いに巧妙で、読後に残るものがはるかに大きいと思う。

    情報に釣られて読んでしまった…と残念感が先に立つ本ですが、もちろん楽しめるかたも多いと思います。『顔面パンチ ザ・ムービー』は観たいと思ったし。

  • 上巻で広げた大風呂敷をたたみ残してる!気になる!みたいなところはあったけど、概ね楽しく読みました。
    弱い者を踏みにじり、食い物にする社会はいずれ自らも踏みにじられる。人に施す親切が、後で自分を助けてくれる。そんなメッセージだったでしょうか。
    どんな大海も、一滴から。

  • 借りたもの。
    上巻とは対照的な章立て。時間軸は遠未来から過去へと向かう。
    登場人物たちは己の物語の中でふと其々の作品に関わるシーンを思い出し、それを布石に過去に遡るような時間軸の章立てだ。
    しかし、各々の物語の中で時にそれは覆される。
    過去と未来の時間軸を超越する様は、世界を、歴史を俯瞰で捉えている。

    弱肉強食、社会の体制と革命――
    人間は生きるために文明を築いたようだが、時に文明によって虐げられる。それに対し否と叫び生きるために闘う人間……
    未だ解決できない人間の原罪と苦悩を投げかける。

    『ユリシーズ』を思わせる文書は同時に、人間のコミュニケーションの多様性を強く意識させた。
    それは触れ合う描写にも言及されているのではないだろうか。

    多くの切り口のある、読みごたえある小説だった。

  • 上巻読了後、我慢できずに映画を再視聴。結果、いまいち理解できていなかった部分も補足できて良い読書となった。上巻の感想で、映画は原作に忠実と書いたが、予告編がそういう風に編集されていただけと気づいた。著者のあとがきで映画について触れられているのと、役者のあとがきで本書の構造が語られているので、訳わからなくて挫折するくらいならいっそのこと映画を観て、さらに構造を知った上で読むと良いかもしれない。下巻は時系列を遡って過去へと話が進むが、上巻それぞれの物語がより明確にどんな話だったのかが理解できてくる。よくある最後にすべての物語がひとつに収斂していく、という形ではないところが逆に良いのかもしれない。

  • それぞれ異なる時代と国が舞台で、互いにリンクしている六つの物語。

    個人的に「ソンミ~451のオリゾン」が面白かったです。

  • 粕屋図書館あり

  • 6編全部のつながりが見えてきて楽しかった、でも読み切れていない感。あと3回ぐらい読んでも次々に発見できる気がする。映画見よう!

  • むふう。面白かった。
    次の邦訳が待ち遠しい。翻訳家さんに感謝。

  • 下巻は解決編になっており、未来から過去へ、6話が語られる。先の時代で搾取され、虐げられたきた者の声が、次の時代にどう反響していくのかが明かされる。生まれ変わり、輪廻というのも本書のテーマの一つではあるようだが、基本的には救いのない話でもあり、「彗星の形の痣」を引き継ぐ者は各話ごとに変わる(虐げられる立場の者は毎回、かわる)。

  • 普通こういうタイプの作品は、
    重厚かつ難解で、ズドーンと来て、
    深い深い余韻に浸る、てな感じになってくもんだが、
    そうじゃないところが素晴らしい。
    結構楽しく読めて、好きな作品でした。
    幕の内弁当や松花堂弁当的お得感もあるし。
    ちょっと違うか。
    映画は興味ないなぁ。

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著者プロフィール

1969年イギリス生まれ。英語圏で最も注目されている作家の一人。本作のほか、おもな長篇に『ナンバー9ドリーム』『ブラック・スワン・グリーン』『ヤコブ・デ・ゾートの千の秋』など。

「2015年 『出島の千の秋 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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