帰ってきたヒトラー 上

  • 河出書房新社
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感想 : 110
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309206400

感想・レビュー・書評

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  • 現代に蘇ったヒトラーを描く風刺小説。
    従来ヒトラーを扱うときは彼を一種の怪物として登場させる。しかし、著者のヴェルメシュ氏はアドルフ・ヒトラーを人を引き付ける人物として描いた。これは、人々が狂気に囚われた人間を選ばず、魅力的に映った人物を選ぶはずだという考えに基づいているからである。読者は物語が進む中でヒトラーの快進撃を目撃し、ある種の高揚感や期待を感じさせる。しかし、ふと我に返るとまさに「それ」こそがヒトラーが行っていた手口なのだと気づく。現代でも通じてしまう危うさがあるのかもしれない。

  •  突然違う時代に蘇り幾多の困難な状況に直面しつつ、それでも自分の信念を貫き通そうとする総統の健気なまでの純粋さについつい感情移入して、「ヒトラーって案外いい人じゃん」などと思ってしまうかなり危ない本です。

     ドイツの歴史や政治の知識がないので面白さが理解出来ない場面があるのが残念!

  • 2011年8月。ベルリン。
    突然、あのヒトラーが目を覚まし、この世界で再び活動し始めたら・・・。
    そんな「if」を通して、著者なりの理解によるヒトラーの人間性と、現代の社会風刺をユーモラスにかつ鋭く描く。

    復活したヒトラーは60年間の間に生じた変化に対して、かなりのジェネレーションギャップに遭遇するものの、冷静かつ超前向きに現実を受け止め、素早いけど若干ズレている理解で現実に適応し始める。
    そんな彼を、テレビのプロダクション会社が「ヒトラーのそっくりさんを演じるコメディアン」として拾い上げるところから、再びヒトラーは世の中に対して発信を始める。

    ヒトラーのやり方は往時と同じで、現実の社会や政治の不条理や、人々の不満を発見し、「敵」を設定して徹底的に攻撃することで自らの地位を明確にしていくことである。
    でもこれが案外でたらめでなく、人々の生活をしっかり観察し、突撃インタビューを実施するという、地に足ついた方法で進めていく。
    往時と同じように、「庶民の不満の代弁者」として徐々に庶民の支持を取り付けていく。
    こうして段々と民衆が魅せられていき、マスコミもそれを煽って、彼をヒーローに仕立てていく・・・。往時、なぜ彼が公正な選挙を通して政権を掌握できたか、という疑問に対する答えを、読者は民衆の一人として追体験できるというのが本書の特徴の一つ。

    もう一つの特徴は、何といっても、時代錯誤だけど至って大真面目なヒトラーと、登場人物とのズレてるんだけど何故かかみ合う会話という全編に行きわたるユーモアにある。
    例えば、彼が主張する政策は、ドイツ民族の優等性という歪んだ理念が大本にあるものの、表面的には(将来の兵士になるから)子育てを優遇する社会を推進し、(将来のドイツ国民の土地とするために)自然を保護しエコを推進することを提唱するのだから、案外現代の要望に適合してしまったりする。
    サインを頼まれて、服の上に鍵十字を書いてしまい、廻りの人間はキツいブラックユーモアとして喝采するものの、本人は至って大真面目だったり。
    「かみ合わない」笑いというのは、ドイツでもやっぱり受けるんだなと実感できる。

    ヒーロー(独裁者)が誕生する過程を知る面でも、ユーモアの面でも、かなり上手くいっているし、大変読みやすいため、実にお勧めしやすい一冊になっている。

  • 現代のベルリンに突如よみがえったアドルフ…ヒトラー。奇想天外な設定のこの小説は、ユーモアの中に深い恐怖と警鐘を潜ませている…はずである。下巻へ。

  • 現代のベルリンに突如蘇ったアドルフ・ヒトラー。接する人たちは彼の振る舞いをブラックジョークだと勘違いして、コメディアンとしてデビューする……。

    「もし現代に○○が生きていたら」という“if”の物語は決して珍しくありません。むしろ、陳腐化しているきらいがあるぐらいかも。ただ、人間味溢れるヒトラーの描き方にドイツでは社会問題化したそうです。その上で、同国で130万部のベストセラーになり、38カ国で翻訳が出版。映画化まで決まっているのだとか。書評を見て社会風刺小説としても面白そうだと思い、手に取った次第です。

    今日読み終わったのは、上下巻のうちの上巻。ヒトラーと現代の人のやり取りの面白さに加え、今のドイツ社会の雰囲気も行間から伝わってきて、なかなか楽しくページが進みました。引き続き下巻も読んで、まとまった感想はその後に書こうと思います。

  • 読了前に緑内障手術となったので最後の数ページは片目で読んだ。
    下巻にとりかかるか映画を先に見るか、悩む。
    あのひどい奴がユーモラスで魅力的な男に感じられていいのだろうか?

  • そう、2017年はよみがえるに好い時機かもしれない。

  • 自殺したはずのヒトラーが2011年のベルリンの空き地で意識を取り戻す。時代の変化に戸惑いながら以前の考えのまま再起を狙うヒトラーと、彼を私生活の領域でまでヒトラーになり切った演技をするコメディアンとみなす周りの人々のギャップを描いたスラップスティック・コメディ(ドタバタ喜劇)であり、風刺的な作品です。
    面白い。英語にすればfunnyでありかつinteresting。可笑しくて興味深い。
    一つには徹底したすれ違いの面白さです。誰かが称して「アンジャッシュのコントみたい」。なるほど。
    さらには2011年の世の中を1945年の目で見た世相風刺があります。服装、インターネット(なぜかヒトラーは「インターネッツ」と呼んでますが)、携帯電話、ドラッグストア、カミソリ、テレビ番組。便利と言いつつチクリチクリと批判してきます。ただ、描かれる世相が余りに現代ドイツで私には良く判らないところもあります。多分、ドイツ人でないと感覚がつかめないような俗過ぎるところもあって、普遍性には欠けるか。
    そして、ヒトラーが魅力的なのです。民族主義はどうにもなりませんが、女性や子供に対しては優しい。何故かマインスイーパーに嵌ったりもします。振り返ってみればヒトラーは(少なくとも首相になる過程では)一般庶民による選挙で選ばれているのですから、演説の上手さとともに何らかの魅力も持っていたのでしょう。
    作中でヒトラーは言います。「そして総統は、今日的な意味で<民主的>と呼ぶほかない方法で、選ばれたのだ。自らのビジョンを非の打ちどころがないほど明確に打ち出したからこそ、彼を、人々は総統に選んだ。ドイツ人が彼を総統に選び、そして、ユダヤ人も彼を総統に選んだ。」
    怖いですね。これが作者の一番言いたかった事なのでしょうね。

  • もしあのヒトラーが現代に戻ってきたら。
    ヒトラーが世間にばかうけして一躍時のコメディアンになる。

    現代世相の風刺がとても良い。
    ただ、ヒトラーの思想(優生主義)は受け容れられるものではなく、これがギャグとして認知されているからいいわけである。

  • 伝わらないというかあまりにもコミカルすぎた。ドイツで発表された風刺小説。2012年の発表から2015年の8月には映画公開という恐ろしいスピードの出世作。ただ、これをよくドイツで発表できたなと思う。日本では興行成績は2億7000万に終わっている。

    「帰ってきたヒトラー」

    タイムスリップしたヒトラーがなぜかテレビ番組の人気者に、そして現代社会に訴える表現や言動は限りなく過去と同じようになのでしょうけれど、引き込まれる。現代にマッチしている。ただ、文字にはまるで臨場感がないため、普通の作品となっている。

    映画を見てしまった人間にしてみると普通の風刺小説かもしれないが、やはり題材が題材なだけに好き嫌いは否めないかと

著者プロフィール

1967年、ドイツのニュルンベルク生まれ。エルランゲン大学で歴史と政治を学ぶ。ジャーナリストとしてタブロイド紙や雑誌などで活躍。その後、『帰ってきたヒトラー』で一躍有名になり、映画でも大成功を収める。

「2020年 『空腹ねずみと満腹ねずみ 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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