帰ってきたヒトラー 下

制作 : 森内 薫 
  • 河出書房新社
3.74
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本棚登録 : 726
レビュー : 82
  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309206417

感想・レビュー・書評

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  • ファンタジーというべきか、風刺小説というべきか。エンターテイメントとして、とにかく面白く読み終わりました。今のドイツの雰囲気を知る勉強になりますが、ドイツのことをもう少しよく知っていたらもっと楽しめただろうにとも思います。

    物語は、現代に蘇ったヒトラーの独白というかたちで進みます。その際、他の現代人との間でほとんど会話がかみ合いません。何しろ彼は自分自身がヒトラーその人だという前提で話し、それに対する人は、彼がヒトラーそっくりさんの現代人と会話しているつもりなのですから。それでいて、お互いに誤解しながらコミュニケーションが成り立ってしまっているのが面白いところ。彼が「コメディアン」として人気者になってしまったのも、また、その「誤解」の積み重ねにによるものなのです。コメディアンとして名を上げたのを足がかりに徐々に「本来」の政治の世界に進んでいこうとする様子も、実在の政治家のようでリアル。随所に皮肉が利いています。

    物語の最後に、「ヒトラー」を「ヒトラー」本人と認識して話しかける人物が登場します。その先に何が待っているのか。少し想像してみると、なかなか面白い気がします。ただ、その続編をドイツで発刊しようとしてもひょっとしたら発禁になってしまうかもしれませんね。

    翻訳物というのは得てして日本語に違和感を覚えて読み進めるのが苦痛になるものです。しかし、この本は訳者の腕が素晴らしいのか、すいすいと読むことができました。

  • 伝わらないというかあまりにもコミカルすぎた。ドイツで発表された風刺小説。2012年の発表から2015年の8月には映画公開という恐ろしいスピードの出世作。ただ、これをよくドイツで発表できたなと思う。日本では興行成績は2億7000万に終わっている。

    「帰ってきたヒトラー」

    タイムスリップしたヒトラーがなぜかテレビ番組の人気者に、そして現代社会に訴える表現や言動は限りなく過去と同じようになのでしょうけれど、引き込まれる。現代にマッチしている。ただ、文字にはまるで臨場感がないため、普通の作品となっている。

    映画を見てしまった人間にしてみると普通の風刺小説かもしれないが、やはり題材が題材なだけに好き嫌いは否めないかと

  • 2011年8月。ヒトラー目覚める。
    タイムスリップした彼を、周りは『ヒトラー芸人』に仕立て上げるのだった。

    すげー怖いよ。
    ヒトラーがヒトラーとして考え、話し、動いているのに周囲がどんどん(自分たちに)いいように祭り上げていく。
    その様は面白いんだけど、それ故にゾッとする。
    気がついたら戻れないところにいるんだよ、絶対に。
    最後に再生したヒトラーにTVプロデューサーが与えたスローガンが恐怖感にとどめを刺してくれる。
    風刺小説ってよりホラーでしょ、これ。

  • 読み終わって、「痛快で面白かった!」と思ってしまった自分に驚いた。
    何も知らずに読んだなら、ヒトラーが格好良く、紳士的で、責任感の強い大政治家に感じるだろう。
    同じ人物でも、語られ方一つでこうも印象が変わってしまうとは……。
    自分の知っていることなんて、どこか一つの視点から見た偏った事実に過ぎないのだろうと考えさせられた。

    また、ドイツの歴史をもっと深く知っていれば、より楽しめただろうなと惜しく思った。

  • 作者のこだわりらしい,そう異常ではない,むしろ魅力のある人物だからこそあの権力を手にできたことを伝えたいという意図は成功している.そして,今の日本を考える.

  • 角川の「我が闘争」を読んでいる人ならより楽しめる。
    70年の時を経てなぜか復活したヒトラーは、持って回った悪口が内容の六割を占めている「我が闘争」の語り口調そのままだ。
     移民政策を斬り、EUを批判し、そして極右政党NPDまでもを痛烈にぶっ叩くヒトラー。その演説調漫談(と皆は思っている)に集まる喝采、そして批判。彼の苛烈な語り口は聴衆を引きつけ、彼はテレビ局の看板スターにまで上り詰めていく事になる。
    独善的で、頑なで、偏屈。しかしそれと同時に、激情家で真剣、どこか同情的な面を覗かせる彼は本当に魅力的だ。ヘンなおっさんだが、応援したくなる様な真摯さを持っている。背中を預けたくなる様な自信に溢れている。
     「魅力のある、自信満々のおっさん」。味方は心酔し、敵は侮る様な、そんな人物だからこそヒトラーは恐ろしいのだ。頑迷で不合理な、愚かな理論を表明しながら、なぜか肝心な瞬間の機微に長け、紙一重で困難を乗り切る様な頭の良さを兼ね揃えている人物。だからこそ、彼は恐ろしいのだ。
    本編では彼は、ヒトラー芸のコメディアンから転身し、再び政界へと乗り出す所で終わっている。それがまたもや第三帝国の悪夢を造り出す序章なのかは、誰にも解らない。オチとしては縫え切らないが、それも含めての黒いエンディングだ。
     なぜならこの物語の肝は、物語の外側にある「問いかけ」なのだから。
    クリーニング屋で困るヒトラー、他のコメディアンと喧嘩をするヒトラー、秘書の女性を優しく庇うヒトラー、タブロイド紙の猛攻に敢然と立ち向かい、そして勝利を収めるヒトラー。本書と共に彼を応援し、喝采していた「私」にこそ向けられた問いかけだ。
     私こそが、あの当時ドイツにいた多くの「私」こそが彼をこうやって支持し、第三帝国を造り上げ、そして世界に地獄を現出させたのではないか。
    政界に飛び出した所で終わる本書は、責任を負わない喝采を送り虎の檻を開け放ってしまったのは他ならぬ読者自身である事を、暗に読者に伝えている。

    そう、世界の半分を殺戮の業火に巻き込み、史上最悪のヘイトクライムを野放しにしたのは、彼に喝采を送った「あなた」であり、「私」なのだ。

  • あまりの「らしさ」に、あまりの「ピュアぷり」に、あまりの「まじめさ」に、読み進むうちに彼に可愛さまで感じてしました。そこがこの本の怖い所です。まるでミッキーマウス。そう、ヒトラーがキャラ化しているのです。そして、異形をキャラにしてしまうのは異形の側ではなくて、大衆の側なのです。この構図は彼が台頭してきた構図と同じ構図であり、それこそがこの本のテーマなのでは?と思ったりもしました。

  • ヒトラーが現在のドイツで生き返った話し。まず小難しいこと抜きに娯楽本として面白いし、吹き出してしまうブラックユーモアもいい。メールのアドレスを取得するくだりなんかは相当笑える。

    で、マジメな部分で考えさせられたのはヒトラーが人間としてとても魅力的に描かれていること。いわゆる歴史上のヒトラーは悪魔であり怪物として語られるけど、本物のヒトラーは人間的な魅力に溢れていた可能性があるということ、だからこそ当時のドイツ国民に正当な手続き選挙で選ばれて総統になっているということ。

    日本人も当時のことを振り返るとき、一般の国民は全くの無罪で被害者だったのか、ちゃんと考える必要があるとけっこう本気で思う。

    古いところでいうと我が島の二十四の瞳であるとか、最近映画化された永遠のゼロなど、悪いやつがいて、国民は被害者であるという視点で書かれているが、本当にそうだろうか、と、考え始める。

  • とってもおもしろかった。ドイツでこういった本が出せたというのも良い。

    本書の彼は、非常に魅力的に感じる。当時、最も民主的な憲法下で選ばれたヒトラーが、その後の歴史の流れはともかく、人々に求められたというのは一つの事実。それこそが、本当に考えなければいけないことではないのだろうか。

  • ヒトラーが現代に蘇る!というSFチックな設定なので、なにか物語上で説明とかあるのかなあと思いましたが、そこはほとんど描かれません。ストレートに「もしヒトラーが現代ドイツに蘇ったら」だけです。
    ヒトラーは映画や小説などで散々悪者として定着してますが、第二次世界大戦で同盟国だった日本としては、もちろんユダヤ人虐殺という大罪はあるにせよ、それ以外はまんざら悪いことばっかりでもなかったのかもねー、と思っちゃったりしないこともありません。
    本書では、自殺したはずのヒトラーが現代ドイツで目覚め、ドイツの変わりっぷりに驚愕します。パソコンの便利っぷりに驚いたり、若者の風俗に唖然としたり。そのへんは普通に面白いです。
    そして、ヒトラーをとりまく現代ドイツの人たちは、有能であったり、素直にヒトラーの弁舌に関心してしまったりする若者であったり、いい人ばっかりだし、ヒトラー自身も過激な弁舌で周囲の度肝を抜きますが、ある意味まっとうなので、人々の心を掴んでしまいます。
    そして、最後まで読むと、はてヒトラーは悪だとしても、その過程や関わった人物すべてが悪だったとは言えないのではないか、悪いことを行おうとするのは悪人ではなく、どこにでもいる普通の善人が、とりかえしのつかない「悪」を生み出してしまうのではないか…そんなことを思いました。
    ヒトラーという「悪のアイコン」にすべてをおしつけて、忘れてしまおうとするなら、また同じことを繰り返すぞというようなメッセージを感じます。

    この物語ではドイツをよく知ってないとわからないネタもたくさんあるようです。あと、多少はナチスについても知ってる方が楽しめるのではないかと思います。
    あと、オクトーバーフェストに憧れてたのに、イメージ崩れましたw

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著者プロフィール

1967年、ドイツのニュルンベルク生まれ。エルランゲン大学で歴史と政治を学ぶ。ジャーナリストとしてタブロイド紙〈アーベントツァイティング〉紙や雑誌などで活躍。ゴーストライターとして4作品を刊行。

「2016年 『帰ってきたヒトラー 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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