帰ってきたヒトラー 下

  • 河出書房新社
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感想 : 89
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309206417

感想・レビュー・書評

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  • 翻訳が上手いおかげかテンポよく読むことができた。ヒトラー流のレトリックはここが戦場で鬼気迫る状況ではないかと思わせるものだ。あの場に自分がいたらどうなるだろうか。そんなことを考えた小説だった。

  • この小説を面白く読めてしまうことが恐ろしい。歴史上、様々な「独裁者」と呼ばれている人物のカリスマ性は覆い隠せるものではない...。著者の人物解釈は読み手を唸らせるものがある。
    また、周囲の登場人物も現代を風刺する様々な役割を与え、読み手を“そうだそうだ”とグイグイ引き込んでいく力がある。終わり方は少々、言い訳めいた物言いになっており、業を薄めている印象は否めない...。

  • ファンタジーというべきか、風刺小説というべきか。エンターテイメントとして、とにかく面白く読み終わりました。今のドイツの雰囲気を知る勉強になりますが、ドイツのことをもう少しよく知っていたらもっと楽しめただろうにとも思います。

    物語は、現代に蘇ったヒトラーの独白というかたちで進みます。その際、他の現代人との間でほとんど会話がかみ合いません。何しろ彼は自分自身がヒトラーその人だという前提で話し、それに対する人は、彼がヒトラーそっくりさんの現代人と会話しているつもりなのですから。それでいて、お互いに誤解しながらコミュニケーションが成り立ってしまっているのが面白いところ。彼が「コメディアン」として人気者になってしまったのも、また、その「誤解」の積み重ねにによるものなのです。コメディアンとして名を上げたのを足がかりに徐々に「本来」の政治の世界に進んでいこうとする様子も、実在の政治家のようでリアル。随所に皮肉が利いています。

    物語の最後に、「ヒトラー」を「ヒトラー」本人と認識して話しかける人物が登場します。その先に何が待っているのか。少し想像してみると、なかなか面白い気がします。ただ、その続編をドイツで発刊しようとしてもひょっとしたら発禁になってしまうかもしれませんね。

    翻訳物というのは得てして日本語に違和感を覚えて読み進めるのが苦痛になるものです。しかし、この本は訳者の腕が素晴らしいのか、すいすいと読むことができました。

  • 強いヒトラー、ズレているけどドイツの事を考えているヒトラー。

    リンチされても警察などに頼らず、
    事態を裁く権利は、私のこの拳が握っているとのセリフが、印象的だった!
    その為、報復しなかったので反暴力、平和主義にみられて、人気があがった!

    ドイツの歴史とかの話が、ちょくちょくでて、解りづらい部分もあったので、日本版とかあれば、なお楽しいのかな?と思えた。

  • 伝わらないというかあまりにもコミカルすぎた。ドイツで発表された風刺小説。2012年の発表から2015年の8月には映画公開という恐ろしいスピードの出世作。ただ、これをよくドイツで発表できたなと思う。日本では興行成績は2億7000万に終わっている。

    「帰ってきたヒトラー」

    タイムスリップしたヒトラーがなぜかテレビ番組の人気者に、そして現代社会に訴える表現や言動は限りなく過去と同じようになのでしょうけれど、引き込まれる。現代にマッチしている。ただ、文字にはまるで臨場感がないため、普通の作品となっている。

    映画を見てしまった人間にしてみると普通の風刺小説かもしれないが、やはり題材が題材なだけに好き嫌いは否めないかと

  • 2011年8月。ヒトラー目覚める。
    タイムスリップした彼を、周りは『ヒトラー芸人』に仕立て上げるのだった。

    すげー怖いよ。
    ヒトラーがヒトラーとして考え、話し、動いているのに周囲がどんどん(自分たちに)いいように祭り上げていく。
    その様は面白いんだけど、それ故にゾッとする。
    気がついたら戻れないところにいるんだよ、絶対に。
    最後に再生したヒトラーにTVプロデューサーが与えたスローガンが恐怖感にとどめを刺してくれる。
    風刺小説ってよりホラーでしょ、これ。

  • 上巻はヒトラーBOTみたいな感じでニヤニヤと読んでたけど、文字通りの確信犯、ブレない姿に魅了され、今後の活躍を願うまでに(^_^;)やばいやばい。こうやって人民は洗脳されていくのか。また戦争をしようとしている今の日本と似て る気がして、ちょっと不安になった。でも非常に面白いです。

  • 読み終わって、「痛快で面白かった!」と思ってしまった自分に驚いた。
    何も知らずに読んだなら、ヒトラーが格好良く、紳士的で、責任感の強い大政治家に感じるだろう。
    同じ人物でも、語られ方一つでこうも印象が変わってしまうとは……。
    自分の知っていることなんて、どこか一つの視点から見た偏った事実に過ぎないのだろうと考えさせられた。

    また、ドイツの歴史をもっと深く知っていれば、より楽しめただろうなと惜しく思った。

  • 作者のこだわりらしい,そう異常ではない,むしろ魅力のある人物だからこそあの権力を手にできたことを伝えたいという意図は成功している.そして,今の日本を考える.

  • 角川の「我が闘争」を読んでいる人ならより楽しめる。
    70年の時を経てなぜか復活したヒトラーは、持って回った悪口が内容の六割を占めている「我が闘争」の語り口調そのままだ。
     移民政策を斬り、EUを批判し、そして極右政党NPDまでもを痛烈にぶっ叩くヒトラー。その演説調漫談(と皆は思っている)に集まる喝采、そして批判。彼の苛烈な語り口は聴衆を引きつけ、彼はテレビ局の看板スターにまで上り詰めていく事になる。
    独善的で、頑なで、偏屈。しかしそれと同時に、激情家で真剣、どこか同情的な面を覗かせる彼は本当に魅力的だ。ヘンなおっさんだが、応援したくなる様な真摯さを持っている。背中を預けたくなる様な自信に溢れている。
     「魅力のある、自信満々のおっさん」。味方は心酔し、敵は侮る様な、そんな人物だからこそヒトラーは恐ろしいのだ。頑迷で不合理な、愚かな理論を表明しながら、なぜか肝心な瞬間の機微に長け、紙一重で困難を乗り切る様な頭の良さを兼ね揃えている人物。だからこそ、彼は恐ろしいのだ。
    本編では彼は、ヒトラー芸のコメディアンから転身し、再び政界へと乗り出す所で終わっている。それがまたもや第三帝国の悪夢を造り出す序章なのかは、誰にも解らない。オチとしては縫え切らないが、それも含めての黒いエンディングだ。
     なぜならこの物語の肝は、物語の外側にある「問いかけ」なのだから。
    クリーニング屋で困るヒトラー、他のコメディアンと喧嘩をするヒトラー、秘書の女性を優しく庇うヒトラー、タブロイド紙の猛攻に敢然と立ち向かい、そして勝利を収めるヒトラー。本書と共に彼を応援し、喝采していた「私」にこそ向けられた問いかけだ。
     私こそが、あの当時ドイツにいた多くの「私」こそが彼をこうやって支持し、第三帝国を造り上げ、そして世界に地獄を現出させたのではないか。
    政界に飛び出した所で終わる本書は、責任を負わない喝采を送り虎の檻を開け放ってしまったのは他ならぬ読者自身である事を、暗に読者に伝えている。

    そう、世界の半分を殺戮の業火に巻き込み、史上最悪のヘイトクライムを野放しにしたのは、彼に喝采を送った「あなた」であり、「私」なのだ。

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著者プロフィール

1967年、ドイツのニュルンベルク生まれ。エルランゲン大学で歴史と政治を学ぶ。ジャーナリストとしてタブロイド紙や雑誌などで活躍。その後、『帰ってきたヒトラー』で一躍有名になり、映画でも大成功を収める。

「2020年 『空腹ねずみと満腹ねずみ 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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