日本人の恋びと

制作 : 木村裕美 
  • 河出書房新社 (2018年2月24日発売)
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  • レビュー :6
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309207377

日本人の恋びとの感想・レビュー・書評

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  • 舞台はアメリカ西海岸、主人公の名はアルマ・べラスコ。慈善事業に熱心なべラスコ財団の代表である。自身のブランドを所有するデザイナーでもあるが、何を思ったか家を出て民主党支持者やヒッピーの生き残りやアーティストが入居待ちリストに名を連ねるラーク・ハウスという老人ホームに入居を決めてしまう。そのアルマのもとに時々、クチナシの花と手紙が届く。二重の封筒に収められた手紙の送り主は誰か、ハウスでアルマの世話を任されているイリーナにもアルマの孫のセツにも分からない。

    ずっと運転手付きのメルセデスに乗っていたアルマは、最近免許を更新してスマートに乗り始めた。それだけではない。突然思い立っては数日家を空け、どこかに旅に出る。いくら健康に見えても高齢者で、パーキンソン病の持病もある。孫は祖母がどこへ出かけていくのかを探ろうと、愛するイリーナに協力を求める。イリーナはアルマには恋人がいるのではないか、それは部屋にある写真立ての中にいる日本人、イチメイ・フクダではないか、と話す。

    アルマはポーランド出身のユダヤ系女性。ナチスの擡頭で欧州情勢が緊迫していることを心配した叔父イサク・べラスコは妻の妹の家族をアメリカに移住させようと試みるが、アルマの父は頑固でその好意に応じず、娘一人を船に乗せる。サンフランシスコの港でアルマを出迎えたべラスコ家の中には後に結婚することになる従兄のナタニエルがいた。孤独なアルマは実の兄の代わりにナタニエルを慕った。

    太平洋とサンフランシスコ湾に挟まれた敷地シークリフに邸宅を建設中のイサクには信頼して庭造りを任せられるタカオ・フクダという庭師がいた。イチメイはその末っ子でアルマとすぐ仲良くなる。しかし、日米開戦により、日本人は敵国人として財産没収の上収容所送りになり、二人は会えなくなる。

    幼い頃に出会ってすぐに惹かれあった男女が戦争によって引き裂かれてしまう。戦後再会した二人は愛し合うが、戦勝国の富裕層の女と敗戦国の庭師の男とでは人種と身分に差がありすぎ、結婚に踏みきれない。しかし、別れることのできない二人は周囲に関係をかくして密会を重ねる。ゴキブリの出る汚いモーテルで人目を忍んで愛し合う二人。限られた時間しか会うことのかなわない恋愛はいっそう二人を燃え立たせる。その結果、アルマは妊娠する。

    イリーナの視点で描かれるラーク・ハウスで遠くない死を待つ老人たちの日常。その間に挿まれるアルマの過去の回想で、第二次世界大戦から現在までのユダヤ人、日本人、アメリカ人、それにイリーナの故郷モルドバ、と国の歴史に翻弄される人々の暮らしが語られる。アメリカ在住の裕福なユダヤ人は別として、ヨーロッパのユダヤ人の悲惨なことはいうまでもない。独立後のモルドバも苦しい。人々の暮らしは国家の歴史と切り離すことができない。

    結局アルマは妊娠したことをイチメイに告白せず別れる。ナタニエルが父親役を引き受け、二人は結婚。日本に帰ったイチメイも日系二世と結婚する。それぞれ幸せな家庭を営む二人だったが、運命の悪戯が二人を再び出会わせる。ミステリ仕立てなので詳述は避けるが、そこには一筋縄ではいかない試練が待ち受けていた。

    一方、イリーナはセツの求愛を受け留められずにいた。ハウスの住人から愛され、人から距離を置くアルマにも信用されるイリーナには他人に言えない秘密があったのだ。イリーナの母は娘を自分の両親に預け、早くに国を出た。いい稼ぎ口があると騙され、行き着いた先はイスタンブールの売春宿だった。イリーナが十二歳の時、母から手紙が届き、アメリカに呼び寄せられる。しかし、そこに待っていたのは思いもつかない事態だった。

    ラーク・ハウスという場が心の中に孤独を呑みこんだ二人の女を結びつけた。信頼できる人との出会いによって、やがて心と心が響きあい、秘し隠していた過去にほころびが生じる。人は一人で生きることも一人で死ぬことも出来るかもしれないが、幸せとは言い難い。できるものなら、他者に心を開き、他者の思いも受け止め、ともに生きて老いたい。そして、最後は誰かに看取られて死んでいきたいものだと思う。

    一日本人読者として、イチメイの造形が少々気になる。その指で触れると植物が芽吹くという「緑の指」の持ち主で、空手と柔道をあわせた格闘術に秀で、乞食行で百寺巡礼を果たし、画才もあるというから、まるで求道者。興味深いのは、父のタカオがオオモトの信者とされているところ。高橋和巳の『邪宗門』のモデルとなった大本教のことだ。収容所行きが決まったとき、白装束を着てオオモトの儀式に則って先祖伝来の刀を地中に埋めるところなど、外国から見た日本人のステレオタイプそのもの。

    現代のアメリカ西海岸と、第二次世界大戦下のアメリカを主な舞台に、祖母の世代と孫の世代のふたつの恋愛事情を、老女の秘められた過去の謎解きをからめたミステリ仕立ての一大ロマンス小説。ミステリではないから、謎が解けても問題が解決されるわけではない。ただ、ゲイやエイズ、尊厳死、ユダヤ人差別、小児虐待と深刻な主題をいくつも扱いながら、登場人物が善良で心優しい人々であることが幸いして、愛と友情に満ちた物語になっている。人によっては、そこがもの足りないかもしれないが、読み終えた後味はさわやかだ。

  • 初めて読んだアジェンデがこれで良かったのかどうか…いまどき珍しいくらいロマンチックな恋愛談。しかも、登場人物たちがいずれもドラマを持っており、身分違いの恋、移民、戦争、アウシュヴィッツ帰り、性的虐待、予期せぬ妊娠、秘密の出産、長年の恋の成就、ゲイ、などが次々に繰り出され、「全部入り」の様相を呈している。良くも悪くもメロドラマ的だ。
    タイトルどおり日本人がキーマンで、WWⅡの日本人収容所の描写もある。我々から見ると、神道+新興宗教?のような宗教で白装束で家宝の日本刀を…という儀式は違和感があり、寡黙で控えめな性格は日本人のステレオタイプと感じる。
    「全部入り」すぎて個々が薄まっており、肝心のイリーナを筆頭に、抱えているものがすごく大きい割にあっさり片付けられる(またはほとんど触れられない)キャラクターも多いのは気になった。
    ゴッホを使った装丁は美しい。

  • この愛は二人だけのもの、これだけは周りの誰からも自由なものと話の中心になる恋人達は思っているけれど、読んでいて私が感じたのは、愛は二人だけで完結しないということだった。
    育まれた愛は、色合いや形は変わっても、他に誰かにも注がれ、時にその人を救いもする。
    物語の筋はメロドラマではあるが、人物をとても丁寧に描き、類型で終わらせていないので厚みがある。
    最後の展開が良かった。
    「現在」の主人公である彼女のことをもう少し描いて欲しかったが。

  • 6合目で滑落。通俗的メロドラマ。
    利害を超えた誠の心と義理人情を謳った話に一見、見えるが、実は他者との境界の希薄な人々の群れ集う穴である。
    粘着性ストーカー気質に満ちているにもかかわらず、美談めかした顔がどうにも気に喰わない。

    ま、基本は「嵐が丘」なんですが、思えば「嵐が丘」とは両思いのストーカーの話でしょう。

    何故か誰もが人の過去を寄ってたかって無断で探る事に無根拠なまでに罪悪感を持たず、やたら干渉したがり、遂には人の手を掴んで離さず、押し付けがましい「同情と親愛の情」で触れて欲しくない過去を話させ、心をこじ開ける暴力的人物を主人公があたたかいと感じる時点で、私に縁のない書物であったと本を閉じた。

    どうやらこの後、変態養父に虐待、という過去が出るが、やる方もやられる方も皆、同じ穴の狢なんですわ。勝手にやってて下さい。

  • 素晴らしい。今年はもうこれでいいか、っていうくらい素晴らしい。

    確かに『嵐が丘』的な設定だが、物語は穏やかに軽妙なトーンで流れていくのでアーヴィングも彷彿とさせられる。キリキリと抉られるような切なさというのではないのだけれど、たどり着く最後のシーンは本当に素晴らしくて、胸に暖かいものが灯る。

    ああ、いいものを読んだ。

  • ミステリじゃなくミステリ仕立てなんだ、、、

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    スペインを代表する作家アジェンデの新作。アメリカの高齢者向け養護施設を舞台に、生涯の愛について、人生の秘密について、ミステリ仕立てで展開する恋愛小説!
    http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309207377/

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