ある世捨て人の物語: 誰にも知られず森で27年間暮らした男

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309207452

作品紹介・あらすじ

孤独は究極の幸せだ! 社会のしがらみを捨てて森で一人で生きていたい……。孤独や自由、幸福とはなにかを考える全米ベストセラー!

感想・レビュー・書評

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  • 20歳で突如、仕事も行かずに車でどこかへ行き、そのまま森の中へ入り27年間も誰とも会わずに暮らした、トーマス・ナイトのノンフィクション作品です。

    サバイバル術のような内容ではなく、トーマス・ナイトがどうしてこのような行動を行ったのか、そして発見された後の彼がどのように生きていくのか、という点にフォーカスされています。

    終盤、ずっと心を閉ざしていたナイトが、著者に心を開き、森の貴婦人(死)に会いに行く計画を考えていると伝えます。その後、「何かを手放さなくてはならない。そうしないと、何かが壊れてしまう」と言い涙を流すナイトとともに、僕も涙腺が崩壊しました。

    社会の中で表面上取り繕って生きることができるが、そこに充足感はなく、幸福も感じられない。だから、唯一充足感を感じることができた森の中に一人でいるしかなかった。27年間森で一人で生きたナイトをおかしな人としてでなく、一人の人間として向き合い描かれていて、涙を流すほど、深い共感を抱きました。

    ナイトはただ人間社会から逃げ出しただけでなく、自分らしく生きられる場所を求めていたのではないでしょうか。

  • クリストファー・ナイトは20歳で森に入り、27年間ほぼ他人と関わらず一人で暮らした「隠者」だが、その生活は盗みによって成り立っていた。

    ・他人との交流を徹底して拒絶し自然と一体となって生活していたナイトへのあこがれ
    ・度重なる侵入によって心の平穏を乱された近隣住民への共感
    ・著者に対する「いいからほっといてやれよ」という気持ち
    が交錯します。

    私が思うハイライトは「ほしいものがあるならこれに書いておいてくれたら用意するから侵入やめてよ」という意図で置かれたメモ帳をナイトがフルシカトする場面です。他人との関わりたくなさの「深さ」が感じられた気がして。かといって、倫理観のない人物ではないので罪悪感は常にあるという…大変だ。

    30年近く謎の侵入者による窃盗に脅かされ続けた近隣住民はナイトの隠者生活に批判的だが、中には「ハエみたいなもん」というご意見のおおらか(?)な方もいて興味深い。
    窓辺に置かれた一杯のミルクで生活できたら良かったのにね。

  • 隠者として27年間もメイン州の森で生活していた男が発見されたとき、彼の話はデタラメだと信じない人たちが少なからずいた。
    本書には彼の写真がないが、ネットで調べると中年のくたびれたサラリーマン然とした風貌は隠遁者のイメージにそぐわない。
    身なりも清潔そうで髭も生やしておらず筋肉質でもない男が、氷点下15℃を上回ることがないとされる冬を越せるのか?
    しかし彼を捕まえた猟区監督官は、森の中で小枝一つ折らず猫のような芸術的足さばきに惚れ惚れさせられ、キャンプ地での木の幹に取り込まれた金槌を見て、彼の話を真実だと悟る。

    森のなかで彼の身に起きたこと、それは「自己の喪失」だった。
    世間への体裁をつくろう仮面を外し、社会的なアイデンティティを喪失すると、「何者でもないと同時に、あらゆる人間になった」。
    深い孤独は自分の知覚を増大させるが、「その増大した知覚を自分に向けたら、アイデンティティが消えた」。
    願望も消え去り、無限の自由を手に入れたと書くと、あまりにスピリチュアルで眉唾な話だが、社会的なつながりのサーモスタットを限りなくゼロにして、医者も薬要らずで、森で長く生き抜いて来た男の話なのだから、否が応でも想像をかき立てられる。

    なかなかコメントがユニークで、食にまつわる言い回しが多い。
    「ひとりきりの味を覚えたら、孤独だなんて考えは抱かない」
    「体に取りこみ、むさぼり、食べ、舌鼓をうち、味わい、風味を楽しみ、堪能できるかぎりの静けさが欲しい」

  • 20歳で唐突に失踪し、その後の27年間を森で人知れず暮らしていた人物の伝記です。
    道具や食料を他人の別荘から盗み続け、捕まらずに伝説的な存在となっていた“隠者”。
    純粋な自給自足による生活ではないにしろ、27年間を社会から隔絶し会話も無い環境で生活した彼は、人間の肉体的・精神的な限界に挑戦したと言えます。
    彼にとっての最高の人生は間違いなくこの期間で、強制的な社会復帰が正しいものか疑問です。
    まるで見世物にされた後に同化させられる先住民を彷彿させる一冊。

  • 20歳から27年間、誰にも会わずアメリカ・メイン州の森に潜むように暮らしていた一人の男性(クリストファー・ナイト)の実話。

    当然だかこのような男性が人と接することを好むわけもなく、唯一近づけたと言えるのがこの本を書いたジャーナリストの著者である。
    それは友情と呼ぶには、濃さが足りないかもしれない、親交とは言えるかもしれない。

    本人は嫌悪するであろうが、この「隠者」の存在だけを語るのではなく、同じように隠者と呼ばれた人々の話や孤独を愛した人のいろんなエピソードが盛り込まれているのも興味深い。

    私には野生の動物が、ある日突然その生活を奪われ、動物園の檻に入れられてしまったように思え、後半の近づくになるにつれて読んでいて苦しくなってきた。

    誰にも理解されない生きづらさを抱えた人が生きていくにはこの世界はあまりにお節介な世界のようだ。

  • H.D.ソローを酷評している、という事に興味を持ち、読んでみた。

    ドストエフスキー「地下生活者の手記」を誰もが連想する行為であり、本書の主人公、クリストファー・ナイト自身が共感を述べても居るのだが、私はどちらかと云えばチェーホフの「賭け」を思い浮かべながら読んでいた。
    しかし、最後にはそれが「六号室」や「黒衣の僧」にあまりにも似ている事に気付いて震撼した。
    私は彼にチェーホフを読ませたい。

    公房「箱男」も再読したくなったし、何だか彼はグレン・グールドを思わせる様な所もある。

    ともあれこれは文学行為とでも云うのだろうか。彼を文学とでも呼べば良いのであろうか。

    狩猟採集とは人間という種の都合だけで勝手に自然の持ち物を盗んでいるのであり、そういう意味では彼の「窃盗」と呼ばれる行為は狩猟採集者として何の不思議も無い。
    また彼が通常の人間と、有る意味違う種、違うチャンネルに属するものであるのならば彼に果たして我々と同じ理屈を通用させても良いものだろうか、というモラルの問題を強く感じる。
    それが我々に問うものは強く大きい。我々の実は偏っているだけの正常さや常識を異化し無化する恐ろしさ。言わば世界にただ一人、完全に他者の目を持った人間。

    最後は悲しく、苦しく、辛かった。最初から最後まで、自分の問題として読んだ。

    彼の方法はプルーストの逆、私を時から失わせる、とでも云うのか、トスールプとでも云うのか。しかしたどり着く場所はもしかしたら同じ場所である様にも思える。完全なものになりたいのだ。

  • 50ページまで読んでやめた。
    一人で生きるのなら、盗人をして生きるな。

  • 自分には無理だと思う
    一週間で限界を迎えそう

  • 死ぬまでにしたいことリストのひとつが「静寂な環境に身を置いてみる」なので、ナイトの気持ちが少し分かる。自分たちが暮らす社会は物理的にも心理的にも雑音が多すぎる。ときどき自らの心臓の鼓動しか聴こえないくらいの静謐な空間が欲しくなるのです。

  • 20歳から27年間、メイン州の森で誰とも交流をもたず盗みを繰り返しながら生活した男、ナイトの物語。
    ナイトの気持ちを知りたくて読み始めたが、途中知らなくてもいいような気がした。内向的、ピュア過ぎる以外にナイト自身に変わったところはないからだ。
    世間に背を向け逃げ続けるナイト(そもそもそんなふうな「人目」がナイトには苦痛だろう。)に、羨望と恐怖と共感がない交ぜの気持ちになった。
    翻訳物は苦手だが読みやすかった。

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著者プロフィール

1969年生まれのアメリカ合衆国のジャーナリスト。「ナショナル・ジオグラフィック」「ローリング・ストーン」「GQ」「エスクワイア」「ヴァニティ・フェア」「ニューヨーク・タイムズ・マガジン」など多くの雑誌に寄稿している。これまでに発表したノンフィクションはTrue Story: Murder, Memoir, Mea Culpa(2005)、i>The Stranger in the Woods: The Extraordinary Story of the Last True Hermit(2017)[邦題『ある世捨て人の物語 誰にも知られず森で27年間暮らした男』宇丹貴代実=訳(河出書房新社)2018]、そして本書 The Art Thief の三作である。現在ユタ州と南フランスで、妻と子ども三人と暮らしている。

「2023年 『美術泥棒』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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