十二月の十日

  • 河出書房新社
3.44
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309207865

感想・レビュー・書評

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  • 全米凄いな
    無論Aマッソ加納さんが薦めていたというので手に取ったのだ。Aマッソは昔から好きだった。ミーハーだ。ミーハー上等!ミーハーから世界がひろがることもあるはず。短編集。恐ろしく面白い短編もあるにはあったがほとんどは理解するのが難しそうか何回も読めばなんとかとうい話だった。そう5回か10回か。いやこの言い方は正しくない5回から10回あるいは5回か6回か7回か8回か9回か10回と言うべきだ。段落が極端に少ない文章も読みづらいことこの上ない。原作の雰囲気を残すための苦肉の策だったのかもともとそうだったのか。英文で書かれた文章を想像してみたが想像できるほど英語力がなかった。etc.etc.
    評価と感想だ。★5だ。★5に決まっている。そうすれば加納さんと同じセンスの持ち主と思ってもらえるはずだ。他の★5をつける人たちがそうだと言っているわけではない。自分が★5をつけるとしたらそれが理由だというだけだ。だが★2だ。分からなかったのだからしょうがない。というかアメリカ社会もしくはアメリカの社会構造を土台にしてある話なのだからアメリカ人かアメリカに住んでいるアメリカの社会の中にいる人間でなければ難しいと思われる。でなければよほどセンスがある人間だ。そういえばAマッソの加納さんといえば今やセンスある芸人の代名詞のような言われ方だ。本人か望んだことなんだろうか(!)。まあいい。
    それにしても全米ベストセラー第1位だそうだ。この難解な物語が№1(!)。凄いな全米。センスの固まりだな全米。etc.etc.

  • アメリカ屈指の短篇小説の名手による四冊目の短篇集。作者は「作家志望の若者にもっとも文体を真似される作家」だそうな。この「若者に」というのが曲者で、一例を挙げれば、良識ある親なら子どもの目に触れさせたくないだろう言葉が、次から次へとポンポン繰り出される。ただ、使われ方に必然性があり、難癖をつけづらい。逆に、過剰なレトリックを駆使した華麗な文体模倣(「スパイダー・ヘッドからの逃走」「わが騎士道、轟沈せり」)もあって、作家志望の若者が真似したくなるのも分かる気がする。

    「登場する人物は、ほぼ全員がダメな人たちだ。貧乏だったり、頭が悪かったり、変だったり、劣悪な環境下で暮らしていたり、さまざまな理由でダメでポンコツな人物たちが、物語を通じてますますダメになっていく」と、訳者あとがきにある。しかも彼らが住む世界では資本主義が暴力的なマシンと化し、人々を押しつぶしにかかる(「ホーム」)。人々はそこで、人間の尊厳を奪われ、とんでもなくひどい扱いを受けることになる。

    一種のディストピア小説(「センブリカ・ガール日記」)なのだが、ソーンダーズには絶妙なギャグのセンスが備わっていて、言語を絶する状況下にある人物の苦境を追体験しながらも、ついつい笑いが止められない。脳内で暴走する妄想の数々や、どこから思いつくのか分からない突拍子もない商品名、それやこれやにニヤつきながら、地獄の底でのたうち回るダメ人間たちに送っても仕方のないエールを送る羽目になる。絶望的な話が多いが、作家の心境の変化によるのか、意外な結末に心癒されるものがあるのも確かだ。

    人には人生のどこかで決断を迫られる時がある。そのとき、他人のために自分を捨てられるか、というテーマが何度も出てくる。隣家で少女が拉致されかけていたら人は何らかの行動を起こす。だが、親の躾けで自由な行動を禁じられている少年の場合はどうか。ナイフを持った男に飛びかかれば返り討ちになる危険がある。それは一人子の少年には許されないことだ。少年は事態の推移を想像し、彼我の成り行きを天秤にかけ、思案の果てに行動に打って出る。

    ところが、少年の中に抑えつけられていた欲望が、爆発しそうなまでに膨らんでいた。自分を縛っていたものから解放されたことで暴走した欲望が過剰防衛の形をとって人を殺しかける。突然の危機が引き金となり暴発するのを自分では止められない。辛くも難を逃れた少女が決断を迫られる番だ。十五歳の誕生日を前に少女は自分のことをお姫様のように感じ妄想を膨らませていた。最善だと感じていた、自分と自分を取り巻くその世界が目の前で破綻しかけている。

    人の心と体は自由なように思えるが実は自由ではない。体は心に縛られているし、どう思おうが夢ひとつままにならない。巻頭に置かれた「ビクトリー・ラン」は、自己が確立していない思春期の少年少女を襲う青天の霹靂を描いている。重い荷を引き受けざるを得なかった二人は結果的に新しい自分というものを背負い込む。自分の中に潜む暴力性や世界の持つ荒々しい手触りといったものを。しかし、それもまた、一つの成長の徴なのかもしれない。

    掉尾を飾るのが表題作。妄想癖のあるいじめられっ子と、脳の中で進行する病のせいで家族に厄介をかけることを怖れる中年男の物語。二人が出会うのは冬の寒さに凍った湖だ。パジャマの上に羽織ったコートをベンチに置き、男は痩せた体を寒気に曝し、凍死しようと丘を上る。自殺では保険金が下りないのだ。脳内で地底人との戦いに躍起になっていた少年が対岸からそれを見て、助けようと凍った水面を突っ切ろうとする。ところが、案の定、氷が割れ水中に落ちる。丘の上からそれを見た男は、少年を助けようと氷の上に向かう。

    「ビクトリー・ラン」と同じように二人の人物の脳内の妄想が同時進行でかわるがわる語られる。少年のそれは地底人と戦い、麗しの転校生の愛を射止める、いじめられっ子の日常から逃避するための昔ながらのおとぎ話だ。中年男のそれは自分の過去の回想と、脳内で勝手に聞こえる父親とその友人の話し声。男には継父がいた。素晴らしい父親だったが、脳内にできたものが大きくなるに従い、汚い言葉を吐き、家族に手を挙げるようになった。男は自分も同じ運命をなぞることを怖れている。だから死に急ぐのだ。

    普遍的なテーマである「死と再生」の物語のスラップスティック版だ。水に落ちた少年が凍死するのを防ごうと、男は身に着けていたなけなしのパジャマとブーツを気絶している少年に着せる。そして、少年を支えながら歩き出す。途中で気がついた少年は走って逃げだす。パンツ一丁で寒さに凍える老人を見捨てて。死にかけているものが若い命を救うことで、命の尊さ、生きる喜びを再発見する。「生老病死」からは誰も逃れられない。惨めな最期をどう生きるかのシミュレーションとして滋味あふれる小品である。

    短篇集は評価するのが難しい。内容にばらつきがあり、好みが分かれることもある。上に紹介した二篇は只々評者の個人的な好みで選んだ。文中に書名をあげた六篇の他に「棒切れ」「子犬」「訓告」「アル・ルーステン」の四篇を含む全十篇。ジョージ・ソーンダーズの独特の世界を味わうに充分な粒よりの短篇集である。原文のはじけっぷりを見事な日本語に移し替えた岸本佐知子の訳業にも触れなければならない。原文と読み比べてみたいものだ。

  • てっきり長編小説かと思ったら独立した10編を収めた短編集だった。
    しかも全米ベストセラー1位を獲得しているらしい。
    作者の著作は他にも気になるものはありつつ、本書が初読。

    なかなか癖が強い。
    世界観に慣れるまで結構かかった。岸本さんいわく(いい意味で)「バカSF」と呼びたくなるような設定。
    たしかに、言い得て妙。
    慣れたらじわじわ意味や設定が理解できてきてなるほどぉ…と面白くなる。理解が少し進むだけで、フワァっとした印象しかなかった導入部分もそういう設定で書かれてたのか〜!とピースがはまる感じが面白いので読み返しありかも。
    でも個人的にめっちゃ面白い!とまではいかなかった。ザ・アメリカンって感じの小説、意外とそこまでハマらないのは(面白いとか感想はいろいろ出てくる)単に私の好みとの相違のせいか。

    でもアメリカの人たちに支持された理由は分かる気がする。
    訳者の岸本さんがあとがきで書いているように、登場する人物の多くが、貧乏だったり、社会的に弱い立場だったり、社会に対して不満を抱えていたり…なんというか、荒唐無稽な設定の中に、共感できる人間像があるというか。
    そういう意味では、日本人にも共感できる部分はあると思う。
    私の場合、ちょっとでも共感しちゃった話は、作者は笑える話としても書かれたのだろうけど、なんか登場人物のことを思うといくら滑稽でもあまり笑えないなぁ…笑い飛ばせる心持ちでは少なくとも今はないんだなぁと思った(批判ではない)。
    かと言って辛い死にたい時に読んだら辛くて読めないと感じるのか?と思ったら多分そうでもない…むしろ死にたいような時にボーッと読むのもありかもしれない…??うーん、不思議な作風だ。

    ちなみに読み応えあるな〜なんかむしろ泣けちゃうな〜と思ったのが「スパイダーヘッドからの逃走」「センプリカ・ガール日記」「ホーム」。
    後からじわじわ沁みてくるのが「ビクトリー・ラン」「わが騎士道、轟沈せり」「十二月の十日」。
    物語として読んでいいのかよくわからなかったのが「訓告」。
    どれも最初はなんだこりゃ〜から読み始めるのがいいと思うので、感想やあらすじは書かないでおこうかと。

    最後に。表紙が良いですね…それとなく各話のモチーフがあって…Q-TAさんによる装画とのこと。

    以下備忘録がてら各話のタイトルを。

    ・ビクトリー・ラン
    ・棒きれ
    ・子犬
    ・スパイダーヘッドからの逃走
    ・訓告
    ・アル・ルーステン
    ・センプリカ・ガール日記
    ・ホーム
    ・わが騎士道、轟沈せり
    ・十二月の十日
    謝辞
    訳者あとがき 

  • 読みやすいけど内容が辛い…。短編集が続きましたが、これは本当に一番辛い部分の切り抜き、何か希望があるようで、短編に描かれないところにはしっかりと闇が残ってて、、、ある種結末が描かれないからこその重みと面白さがある。

  • 頭の固い私には理解するのに苦労しました。
    短編自体、実は苦手だったのに・・・

    でもね、あとがきを読んだら一気に理解できた(笑)
    海外小説ではあとがきって大事。

    不思議なお話が多い中、タイトルの「十二月の十日」は好きかもって思いました。

  • 2013年に刊行され、邦訳は2019年12月に刊行。タイミング的にまるで2010年代のレクイエムのような短篇集としてわたしの元に届きました。まずは『ビクトリー・ラン』でぎゅっと心をつかまれた。まるで舞城が書きそうなティーンの正義の物語なのだが、ここで主人公の少年の脳内に〝愛するひとり子”と念を送る母親はわたしだ。その声を振り切って主人公が行動したことに心底ほっとした。若者の生きる力は世の救い。レクイエムと言えば、この短編は2010年代、思春期の子を育てた母親としてのわたしへのレクイエムなのかも、なんて勝手に思った。
    とにかく好きなのは『センプリカ・ガール日記』。この語り手のおっさん(脳内キャストはジョンCライリー)もまたわたしの中に住んでいる。「ちょっとのごぶさた失礼つかまつった!」とか「もっと力強く生きていくゾ」の「ゾ」とか芸の細かい翻訳におっさんのチャーミングさが炸裂し、なんだか自分まで許せそうな気になる。ひところ、辛いときは町田康『人間小唄』に出て来る短歌を思い浮かべることで自分を慰めることにしていたものだが、それに替わるフレーズをいっぱいいただきました。もちろん「ん?SGて?」という引っかかりから始まる不穏な展開もすごい。
    『アル・ルーステン』『ホーム』『スパイダーヘッドからの逃走』『子犬』…結局全部良かったなあ。
    でもラストの『十二月の十日』だけは作品としては素晴らしいのだがわたしにはきつかった。まさにわたしもエバーのようなことを考えていて(現状いたって健康なのにそんなことばかり考えているのは不謹慎だが、持ち前の性格の暗さゆえ許してほしい)だからこの展開には胸打たれほとんど泣きそうになったのだけれど、本を閉じればわたしの絶望はこの作品が差し出す救いよりやっぱり深いことに気づいてしまったかも。でも、これからは、そんなときは「もっと力強く生きていくゾ」とつぶやけばいいのですね。

  • 短編集10篇
    どの作品も現実離れし妄想や想像の明後日のところに物語世界が広がっている。「センブリカガール日記」のSGの気持ち悪さ、「訓告」の6号室など意味不明存在など理解を超えるようなことが当たり前のようにある。
    内容は悲惨ながら最後は少しホッとした「スパイダーヘッドからの逃走」が良かった。表題作も結果オーライ的な意味で好きです。

  • 翻訳でしか読めないがギリギリ人間の形を保った絶妙は細いラインを綱渡りするような文章で、概ねうんざりしつつも時にスローモーションで見える光景があり、惹かれつつも疲弊しながらなんとか読み終えた。サリンジャーが好き、というと周りの人間には共感されないがこちらも同様であろうと容易く想像できます。珍味ですね。

  • これはあまりに新しい体験。初めてとも言える文体に非常に苦しみ、先に訳者あとがきを読み、また読み直し。一言で表すならば、一般的とは言えない人たちの脳内ダダ漏れ?英語だともっと軽快なんだろうか。

  • ソーンダーズにハズレ無し。すごく面白かった。
    「センプリカ・ガール日記」金持ちの家の庭にあるSGってなんだ?説明がないけどなんなら日本人が知らないアメリカの風物?手に入れることで「自分の庭まで急にリッチになったような、自分も生まれ変わったような気分になった。とうとう人並みに今ふうの暮らしに追いついた。」と思わせるもの。…と読み進めると驚きの種明かし。世界的な格差や搾取、人間の尊厳とは、という現実の課題が透けて見える。
    後書きで言う「ダメでポンコツな人物たち」の「バカSF」による痛烈な風刺。これを読んでいる、彼らほど貧乏でも頭が悪いわけでもない人々(自分もどちらかといえばそっち側なのであって)は、この小説で笑いながらも自分の中にある闇を確認させられたり、あるいは後ろめたさを感じることになる。
    岸本氏の軽妙な訳も称賛。「ビクトリー・ラン」の「ジュ・スィ・小腹」「我が騎士道、撃沈せり」の「”ばす”の為の路銀すらこれ無く、一時近くも徒歩(かち)にて行った」、こういうのを超訳でなく日本語に落としこめるのは見事。

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著者プロフィール

1958年テキサス州生まれ。なにげない日常を奇妙な想像力で描く、現代アメリカを代表する作家。おもな小説に、『短くて恐ろしいフィルの時代』、『リンカーンとさまよえる霊魂たち』(ブッカー賞)など。

「2023年 『十二月の十日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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