- 本 ・本 (308ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309209081
作品紹介・あらすじ
「夢のなかで責任がはじまる」という一作の短編により鮮烈な登場を果たすや、ウラジーミル・ナボコフ、T・S・エリオットらにその鋭い才能を絶賛され、20世紀アメリカ文学史上に一条の軌跡を残した伝説的作家デルモア・シュワルツ。
サリンジャー、チーヴァー、フィッツジェラルドの系譜に連なる、若者たちの焦りと輝きをクールな筆致で捉えた「新世代の代弁者」、待望の本邦初作品集。
感想・レビュー・書評
-
「夢のなかで責任がはじまる」、このフレーズはどこかで見たぞ、見たぞ、と惹きつけられて手にした本。
デルモア・シュワルツ(1913~1966アメリカ)の代表作で、エズラ・パウンド、T・Sエリオット、ナボコフといった当時の詩人や作家も絶賛したようだ。そんな彼の短編を初めてながめたのだが、末尾の解説によれば、このフレーズは村上春樹『海辺のカフカ』にも登場していることを知って心が躍った!
おぉ~やっぱりどこかで見ていたよ~
読んでみた印象は、当時の若者や家族のあゆみ、先の大戦前に青春を迎えた彼らの希望や憧れ、押し寄せる大恐慌や価値観の変遷、社会経済の格差や没落に抗えない焦燥や失望を描いている。サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』やフィッツジェラルドの『グレートギャッツビー』のような雰囲気を濃厚にまとっている感じ。ネタバレは好ましくないので印象や雰囲気を書いているから伝わればいいけれど……。
でも冒頭の『夢のなかで責任がはじまる』と最後の『スクリーノ』は、デルモアのほかの群像劇作品とは趣が違う感じがする。一人の男の視点で描写を掘り下げていくもので、ごく日常の情景のなかでふっとはじまり、「おや!?」と心のレーダーに触れる。当時ごく身近だった「映画館」が魔界の入り口、もとい、キーワードになっている。
現実と夢と映画のあわいを行き来するような、ある種の「危うさ」や「狂気」が魅力で、なんとなく憂うつで所在なげな男、まるで根無し草のようなペシミズム……なんだかポール・オースターの初期作品の雰囲気も漂っていておもしろい。
いまさらだけど、読書は楽しくて怖い。好きで読んでいるうちに記憶の襞の奥にするりと入りこんで異彩を放ち続けたかと思えば、じっと黙して何十年も生き永らえていたり、たまたま慈雨に触れればひょっこり芽を出すのも不思議だ。してその芽は本のつながりやそれを読んだころの自分を思い起こして想像させるから、どんどん葉になり枝になり時空間を超えていく。
この本は群像劇でも孤独な男の物語でも、読み手の好みにあわせて気軽に楽しめる短編集だと思う。翻訳も流暢で読みやすかった。じつは短編は苦手なのだが、心のレーダーに振れる作品が一つでもあれば大収穫で、この種がまたいつかどこかで芽を出すかもしれない、森になるかもしれない。その不思議な森で作者や古今東西の人々と傷みや愉悦を共有できるかもしれない。なんと愉快な妄想、これも読書の醍醐味だ(2025.3.19)。
***
あれ? これが今年の初レビューとは、時間がたつのは早いものです。あいかわらず世界は騒がしく、ますます不条理で歯がゆいこともありますが、せめて本を通じて愉快にいきたいものです。今年もみなさまのレビューを楽しく拝見しつつ、ときどき?頑張って書いてみま~す♪ -
-
【アメリカ文学史上の伝説的作家】デルモア・シュワルツの本邦初短編集『夢のなかで責任がはじまる』7/22発売! | 河出書房新社のプレスリリー...【アメリカ文学史上の伝説的作家】デルモア・シュワルツの本邦初短編集『夢のなかで責任がはじまる』7/22発売! | 河出書房新社のプレスリリース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000698.000012754.html2024/07/18
-
-
選書番号:788
-
表題作だけが頭1つ抜けてよく、他はからっきし。ひさびさにこれほどひどい短編集を読んだ。思うに、単純に小説が下手なのだと思う。
本来は、その人物がどのような人間か、その行動を、その具体的なエピソードを通して語らないといけないのに、そうした描写や魅力的な挿話がないまま、ただその性格や心情が説明され、キャラクターらがその設定にあやつられて動いているような空疎な印象を受けてしまった。
ただし、表題作は本当に素晴らしいもので、ナボコフ絶賛の傑作。だが、私は初読時、その良さがわからず、本当にナボコフがこの短編を評価していたのか、ずっと怪しんでいた。なかなかどうして、2回3回と読むと、確かに言葉でしか表現できない微妙な世界を書いていることがやっとわかってきた。
街にホイッスルが鳴る。波は鮮やかな色彩をなして砕ける。メリーゴーランドは賑やかな音を立て回る。だが男の観ているのは白黒のサイレント映画なのだ。そこに気づくことから本小説の読みは始まるだろう。父と母の出会いという過去の事実の相、それを映す白黒サイレント映画の相、そしてそれを眺める主人公の相の3つが重なりあい、繊細なバランスで、淡く微妙な世界が成立している。表題作を除けば、「生きる意味は子どもにあり」が1番良い出来だろう。
あと今思い出したが、ところどころに差し挟まれるニューヨークの都会ぶりやその街並みの描写にはいいものがいくつかある。「大晦日」の新年が明けたあと、騒動のために誰もそのことに気づかず、雪が都会に降り積もっていて、という、あのさらっと力を抜いて書いた感じなどとてもいい。
内容に比して、翻訳は大変素晴らしいものだ。アメリカン・マスターピースの柴田元幸訳よりもさらにこなれて、描写もよく目に浮かび、読みやすい。見事な訳業。 -
アメリカ文学
-
「この世界は結婚式」が良かった。人生が上手くいっていないことを慰め合うだけの関係って他人事じゃないよなぁと。ラディヤードの自分の知性を誇っていて自分を認めないものを貶す一方で評価してくれる人にも素直に接しられない感じが、抜きん出た天才ではないことを上手く描写しているなと思った。
今年初レビューありがとうございます♪
慈雨の中ひょっこり芽を出した緑に触れて癒されているこの数日です。
次のレビュ...
今年初レビューありがとうございます♪
慈雨の中ひょっこり芽を出した緑に触れて癒されているこの数日です。
次のレビュー愉しみにしています!
今年もなんと四半期過ぎようとして初レビューとは恐縮です。
レビューをお読みいただきありがと...
今年もなんと四半期過ぎようとして初レビューとは恐縮です。
レビューをお読みいただきありがとうございます。
つい先日いきなり雪が降って寒いかと思えば、こちら九州は梅も桃も咲き終わってしまい、いよいよ桜の季節になりそうです。でも毎年開花が微妙に早くなっているのが心配ですねぇ。とはいえ花は早く見たいなぁ(笑)。
レビューも楽しく参加しつつ、kuma0504さんのレビューも愉しみにしてま~す。