サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309226712

感想・レビュー・書評

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  • 「銃・病原菌・鉄」以降、流行っている"マクロ歴史学"的本の一種。その種の本の中ではもっとも読みやすく、未来への言及が多いのが特徴だと思う。人類(この本の中ではネアンデルタールなど他の類人猿と区別するためにサピエンスと呼んでいる)は、7万年をかけて3つの革命を経て現在に至り、最終革命を経てサピエンスではない新種の生物に変化するのではないかと上下巻をかけて分かりやすく解説している。

    最初の革命は、7万年前の認知革命。これによりサピエンスは"虚構"という新しい意思疎通の方法を会得し、これにより血族以上の集団を統合する術を身に着けた。その虚構とは神話であり、宗教であり、直近では民主主義や資本主義である。そして、虚構によるサピエンスの統合の最大の発明品が"貨幣"であると作者は指摘する。(確かにそうだ!)

    次の革命は1万年前に起きた農業革命。これにより、食糧事情は安定し、単位あたりの人口密度は増大した。が、代わりに所有と貧富の差が生じ、また労働の長時間化と苦痛化が起きた。

    人類が過去に経験した最後の大革命は500年前の科学革命である。科学革命の核心は"無知の知"である。「我々は何も知らない」から始まる知的探求は、革命前のサピエンスの知識に対する認識(神と神に近い指導者は全てを知っており、昔はよかったという懐古主義となる)からはまさにコペルニクス的転換であり、「何も知らないから調べて知る。知るから未来はより発展する」というフィードバックループをサピエンスの中に作り出した。そして、科学の発展には金(投資)がいる。この無知の知→投資→科学的発展(富の増大)というループの強化に繋がったのが帝国主義であり、特にユーラシア大陸をアラブと中華の帝国主義国に牛耳られていて劣勢にたっていた欧州諸王国がこのループに積極的に関与して新大陸やアフリカ大陸を植民地化していったという歴史的事実は「今日の弱者は未来の強者」という観点からみてとても興味深い。

    現在、科学革命の担い手は資本主義となり、科学革命と資本主義、あるいはそれに付随する自由主義とによって世界は唯一に統合されつつある。その先にあるのが、生命工学的革命であり、それは不老不死や他の生物との遺伝子的融合、工学化(サイボーグ化)である。この段階に及んでサピエンスは有機的な進化から科学的あるいは無機的進化を伴う生物となり(いわゆるシンギュラリティ)、もはやそれはサピエンスではなく別種の生物となり、10万年に渡り繁栄し、地球を支配したサピエンスはここに終焉するし、その時点ではサピエンスの価値観はいまのものとは全く異なるものとなっているので、いまからそれを悲観したり、警戒したりしてもほとんど意味のない議論だろう、と作者は論じている(と思う)

    この本は、まず全体において、人類の歴史を3つの革命と今後起こる最後の革命とに整理して、莫大な事象と理論的解説を経て分かりやすく説明しているのが非常によい。その上で、これらの発展と個々人の幸福との関係性について作者はかなりの字数を割いて論じている(批判している)。要するにこれらの種としての大発展と個々人との幸福は別物であり、ここに我々はこの大発展について立ち止まって考える必要がある、としている点がまたよいと思う。本当にそうだからだ。

    といことで、次は"個々人の幸せ"についてマクロ歴史学的視点で書く本がぜひ読んで見たい気がする。まあ、それは非常に主観的問題なので過去のデータは残りずらく、書くのは難しいかもしれないが。。

    一連のマクロ歴史学的本の中では、分かりやすく読めるという点で、もっともオススメの本だと思います。

  • 人類を頂点に導いたものは、虚構。
    共通に神話持つことでしゅうだんは大きくなった。
    虚構の最たるものが貨幣。
    貨幣は相互信頼があって成立するもの。

  • 一読しただけではとても全てを理解・吸収するのは困難だが、読み応えのある素晴らしい内容だった。著者の幅広い知識や洞察には感心すると共に、どれだけの文献や資料を研究したのかと驚かされる。

    (現時点では)サピエンスという種だけが持つ虚構という共通意識の能力(言語、お金、国家、宗教、法律など)は、生物としてはこの地球の頂点に立ったと言える。また、クローン技術などの遺伝子工学を駆使して生物そのものを創りかえることさえできるようになった人類は神の領域に入ったと説く。

    寿命は伸び、食べ物に困ることはなくなり、戦争なども起きなくなった。しかし、人類は本当に幸せになったと言えるのか。この先どこへ向かうのか。そもそも宇宙の歴史からすればなんの意味もないことではないのか。
    いろいろな考え方や視点、学びを与えてくれる素晴らしい内容だった。また少し時間をおいて、再読してみたい。

  • 2023年度【国際学部】入学前知トラ「課題図書」推薦作品

    OPAC(附属図書館蔵書検索)リンク
    https://opac.lib.hiroshima-cu.ac.jp/opac/volume/353282?locale=ja&target=l

  • うわさ話は共同体の異物を排除し社会を守るために為される良い行為。

    歴史は人にしかないものである。

    認知革命以後と以前で「人」という存在を別の存在として捉える必要性がある。

    人間の組織の規模は共通の神話がない限りは150人が限度。

    小麦に人が飼われる 現代の会社と社員か?

    「歴史の数少ない鉄則の一つに、贅沢品は必需品となり、新たな義務を生じさせる、というものがある。」

    現在を犠牲にして未来の自分に投資する

    我々は狩猟採集時代のDNAのまま現代を生きている

    「人間の脳は特定の種類の情報だけを保存し、処理するように適応してきた。」

    大量の情報を処理できる能力は無い→書記体系の発明

    自然だと信じさせることによって神話を確立する。
    「自然な」という概念はキリスト神教学に由来し、「自然を創造した神の意図に一致した」という意味。
    人が(生物が)できることはなんであれ自然なのだ。

    想像上のヒエラルキー(学歴、カースト)

    p188 虫の翅の発現について 進化に目的はない。

    アメリカ合衆国憲法の「人権」に当初黒人は含まれていなかった。
    後々黒人も人だという共同主観が生まれたから黒人は人になったのだろうか。

    ジーンズは労働階級者の衣料であった。現代の人々は平等を信じているため富裕層もジーンズを履く。

    p148〜 想像上の秩序は私達の欲望を形づくる 想像上の秩序は共同主観的である。
    現代の潮流はロマン主義的消費主義
    欲望もこの主義に基づいており、私達の欲望はプログラムされている。

    人類が信じる虚構(道徳、貨幣、人権、株式会社、宗教、学歴、カースト、資格、賞、国等)

    p202〜 統一へ向かう世界
    騎士道とキリスト教 自由と平等 これらを両立して実行していくことはできないが、この矛盾が文化のスパイスとなる

    p178〜 差別
    黒人差別をするための理論付けをした。例 今現在で黒人が社会に出て活躍している人が少ないという事実が黒人は白人より劣っているという考えを生んでいる。(実際は貧しいから教育が不足しているだけ。この偏見がより黒人差別を促進する。)

    p181の図 
     偶然の歴史上の出来事(プランテーションではアフリカ由来のマラリア等の伝染病が流行っておりアフリカ人は遺伝的免疫を持っていた)
    →白人による黒人の支配

    →差別的な法律      ←  悪
                  ↑
    →黒人の貧困と、教育の不足←  循
                  ↑
    →文化的偏見        ↑ 環

    認知革命

    1章 唯一生き延びた人類種

    2章 虚構が協力を可能にした

    3章 狩猟採集民の豊かな暮らし

    4章 史上最も危険な種 ホモ・サピエンスは移り住んだ島々のその全てにおいて元々いた大型動物に殺戮の限りを尽くした。人類の手が及ばなかった場所がガラパゴス諸島

    農業革命

    5章 農耕がもたらした繁栄と悲劇
    ホモ・サピエンスの思いつきによって人類は小麦の奴隷となり、労働を始めた。
    家畜化された動物の悲劇 

    6章 神話による社会の拡大

    7章 書記体系の発明

    8章 想像上のヒエラルキーと差別 セクシズムの起源は不明(家父長制の遺伝子、攻撃性、筋力等の視野から理解を試みているが、どれも解決には至らなかった。)

    9章 統一へ向かう世界 エスニック料理はエスニックではない

    10章 最強の征服者、貨幣

    11章 グローバル化を進める帝国のビジョン
    帝国の定義 「帝国は、その由来や統治形態、領土の広さ、人口によってではなく、文化的多様性と変更可能な国境によってもっぱら定義される。」
    帝国のサイクルp250
    帝国主義の産物を取り除いても純正の文化はとうに失われており、何も残らない。

  • 農業革命のパートがとても面白かった。人間の欲深さや集団の成功のためにのために個人が虐げられる問題はこの頃から続いていたことが驚きだった。人間の悪しき部分は農業によって発現してしまったのか、、
    また人間は遺伝子でなく信じる虚構の進化によって変化に対応し、急速に進化を遂げたことも今までにない発想だった。

  • 宇宙への知的好奇心は大事だけど自分たちの住んでいる地球や人類の歴史を未だ解明していないので浪漫があって良い。そもそも解明されていても権力者によって事実が隠蔽されていたら、捏造されていたら…不都合な真実でもあったら…などなど。考えさせられる部分が多かった。まだ上、次は下を読む。

  • 人類の何が平凡で、何が特別なのか分かる本。幸福=欲望の追求と思い込んでしまいそうな時に読み直したい一冊。


  • 本書は最近の人類史の起爆剤になったとも言えますが再読するとやはり面白いですね。
    現在の人間に至るプロセスとして認知革命、農耕など、生存確率を高め、ここまでの発展を遂げた歴史を分析することができます。

  • 人類史という視点がおもしろい。
    日本史も世界史も苦手なので、理解に時間がかかる部分が多かったけれど、それでも読み進めたい気持ちになる。
    ホモ・サピエンスとはどういう生き物で、どのように繁栄してきたのか。歴史を学ぶよりも、さらに俯瞰して。全体におもしろかったけど、虚構を信じることで今の社会が成り立っている、ということは忘れないように時々振り返りたい。

    一貫してバランス良く、偏らない視点に安心する。

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著者プロフィール

歴史学者、哲学者。1976年イスラエル生まれ。オックスフォード大学で中世史、軍事史を専攻し博士号を取得。現在、ヘブライ大学で歴史学を教授。『サピエンス全史』『ホモ・デウス』『21 Lessons』。

「2020年 『「サピエンス全史」「ホモ・デウス」期間限定特装セット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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