緊急提言 パンデミック: 寄稿とインタビュー

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (128ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309228105

感想・レビュー・書評

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  • 著者のユヴァル・ノア・ハラリは名著にしてベストセラー『サピエンス全史』、『ホモ・デウス』を書いたイスラエルの歴史学者である。本書は新型コロナによる感染症が世界に拡大し始めた2020年3月から4月に書かれた3「タイム」「FT」「ガーディアン」に寄せられた3つの寄稿記事とインタビューから成る。

    この本を読んだのは、2020年秋のだったが、このレビューを書いているのはそれから約1年ほども経った21年9月である。

    ハラリは、コロナについておそらくは何かを書く必然性があった。なぜなら、『ホモ・デウス』において人類の歴史において長きに渡って苦しんできた飢餓・疫病・戦争を克服したとして人類の未来についてその論を進めたからだ。おそらくは執筆当時この危機が克服可能であり、影響は大きいが、そこまで長く続くものではないという前提であったはずだ。

    ハラリは冒頭、 「医学的な助言はできない」と断りながら、歴史学者としての観点からの「助言」ならできるかもしれないとする。そのひとつは「私たちが直面している最大の危機はウイルスではなく、人類が内に抱えた魔物たち、すなわち、憎悪と強欲と無知」だというものである。その危機を乗り越えるために人類は互いに協力し、叡智を集めこの危機に対応すべきではないかと願う。今なら「憎悪と強欲と無知」は問題であり続けたと言うと思うが、決して「危機はウイルスではない」とは言わないだろう。とは言うものの、ここで書かれた内容が価値がないというものではない。むしろウイルス自体の危機に目を取られていない分、ますます本質を突いている部分も多くなっているかもしれない。

    ■ 人類は新型コロナウイルスといかに闘うべきか ―― いまこそグローバルな信頼と団結を (タイム)
    歴史学者らしく、これまで人類に降りかかった感染症 ― ペストや天然痘、エイズ、エボラ出血熱 ― と人類との闘いの歴史を辿る。
    新型コロナウイルスの特徴は、グローバル化された現代において発生したというものである。対策はひとつの国に閉じることはなく、全人類を危機に陥れることがわかった。これが全人類の協力が進展することをハラリは期待し、切望する。そして、この時期に生じているアメリカが残した空白を嘆く。
    ここにはワクチンのことはまだ書かれていないが、全人類における協力は一部では実現した。それでも、この危機を抑え込んだというにはまだまだであるし、ハラリが懸念をしたアメリカではその政治的にも多くの要因を挙げることができるであろう対応のまずさによって大きな犠牲を払うこととなった。

    ■ コロナ後の世界 ―― 今行う選択が今後長く続く変化を私たちにもたらす (フィナンシャル・タイムズ)
    コロナの嵐はいずれ収まる。われわれはコロナ後の世界のことを考えて今行動する必要があるという指摘である。
    「緊急事態は歴史のプロセスを早送りする」とハラリは言う。そして、今迫られている重要な選択として、①全体主義的監視か、国民の権利拡大かという選択と、②ナショナリズムに基づく孤立か、グローバルな団結かという選択の二つを挙げる。
    ①についてはハラリは皮下モニタによる生体監視システムまで想像する。しかし、われわれはプライバシーと健康の二者択一ではなく両方を目指すべきで、その鍵は知識と信頼であるという指摘する。この危機によって、その意識が高まることを望む。②については、もはやアメリカへの批判と捉えるべきだろう。トランプが大統領選に敗れ、バイデンが勝利したことはハラリにとってはひとつの懸念がなくなったことになるのかもしれないが、もしかしたら大統領選挙を越えてここまでコロナ危機が長引くとも思っていなかったのかもしれない。

    ■ 死に対する私たちの態度はかわるか? ―― 私たちは正しく考えるだろう (ザ・ガーディアン)
    死の問題はハラリが『ホモ・デウス』で提起したわれわれの世代の課題である。コロナが蔓延したことで、われわれは唯々諾々と死を受け入れることになるだろうか。当然、その反対で必死の体で死に抗おうとするだろう。少なくとも今の世代の人間はいずれにしても死すべき運命であるにも関わらず。ハラリは次のように言う。
    「医師は私たちのために、人間の存在にまつわる哲学的な謎を解き明かすことはできない。だが彼らは、私たちがそれに取り組むための時間を、あと少しばかり稼ぐことはできる。その時間で何をするかは、私たち次第なのだ」
    コロナの重症化から医療のおかげで回復することができた個人的な体験からは、もちろんあと少しばかり稼いでいただいた時間をどのように使うか考えたい。一方で、死を受け入れるための準備もまた同時に必要と感じるのだ。

    ■ 緊急インタビュー「パンデミックが変える世界」 (NHK Eテレ インタビュアー 道傅愛子)
    インタビューでは、従前の三つの寄稿での考察と主張が繰り返されることになる。パンデミックの後、雇用市場や働き方・学び方には新たな秩序が確立している。経済や教育のシステムのルールが書き換わるとき、政治はそれを絶好の機会と捉えるべきなのだ。
    監視体制への影響にも改めて憂慮を表明する。それはイチかゼロではない。また、相互協力とそのための情報共有の透明性にも言及する。集団的リーダーシップについて言及し、パオロ・ジョルダーノが指摘したように新型コロナ対策を戦争のメタファーで語るべきではないと伝える。そして、科学的合理性への信頼を表明するのだ。

    ハラリもここまで危機が長引くとはこのとき思っていなかったのかもしれない。そのため、コロナ後の世界について拙速に語りすぎていたかもしれない。もし何か修正が必要であるとすれば、もう少し長くこのコロナ危機の状況と変化に付き合っていく必要がどうやらありそうだということと、コロナ後の世界はより大きな変容が待っているかもしれないというところだろうか。そして、科学への信頼は一層重要になることだろう。

    『ホモ・デウス』の自己正当化のモティベーションがあったとはいえ、2020年4月という早い時点で、コロナに対して知識人としてまとまった見解の表明をする勇気にも感謝。


  • 私たちが科学を信頼し合っていて、独立した専門機関だけが最新のテクノロジーを駆使できる状態において、私たちは『プライバシー』と『健康』両方を享受できるということ。

    二つの選択肢を前提に議論されるものも、一旦冷静になって考えると、両方享受できるのではないか?という新たな視点を得られた。

  • 1年前の世界中がコロナ第一波に怯えロックダウンに明け暮れていた状況下にあって、変異ウイルスを予見し、ナショナリズムに固まらずにグローバルに協調することを呼びかけ、また監視社会の到来への警戒を説いている著者の冷静な論説に感服。

  • コロナ後の世界をより良くするためのは、グローバルな連帯、民主的な責任の負担、科学への信用が大事、との指摘は腹落ちする。

  • 何より大事なことはこの危機を乗り越えたときに私たちはどのように行動するのか。というセリフに心打たれました。


  • パンデミックは、はるか昔から起こっている。中世には飛行機もなければ大型のクルーズ船もない。それにもかかわらず黒死病のような、格段に深刻なパンデミックが起こっている。もし、人間どうしの接触を断つことによってパンデミックが防げると考えているのならば、石器時代まで遡らなくてはならない。パンデミックに対する現実的な対策は、遮断ではなく協力と情報共有。

    石鹸警察は不要。石鹸で手を洗うは、人間社会の衛生上屈指の進歩。今日、何十億もの人が日々手を洗うが、それは手洗いの怠慢を取り締まる石鹸警察を恐れているからではなく、ウイルスや細菌が病気を引き起こすことを理解しており、石鹸手洗いでそれを取り除けることを知っているから。

    プディング令
    イスラエル独立戦争1948 の際、食料の供給に関してありとあらゆる種類の緊急命令を、発した。いつなら食べていいのか、いつなら振舞ってもいいのか。プティングに関する緊急命令は2011年に廃止。

  • 人類はコロナウイルスを必ず克服することができる。その前提に立って、人類のこれまでの歴史を考慮した上で著者はグローバルな協力が唯一の解決策であると主張する。科学、歴史、哲学の異なる視点から現在の状況を俯瞰し、皮膚の下にまで到達した監視体制、ウイルスに唯一優っているサピエンスの集団で情報を共有する能力。科学を羅針盤として不安に流されないようになる精神について述べている。これらの指摘は理想論のように聞こえるが、これを理想論で終わらせない現実社会を実現することが重要だと感じた。

  • 本当は何が起きているのか、コロナ後をいかに生きるべきか。新型コロナウイルス感染症のパンデミックという世界的危機の中で、知の巨人が発したメッセージ。英米の有力紙への寄稿とNHKで放送されたインタビューをまとめる。

    分かりやすかった。

  • 中身うす〜コロナに乗っかって無理に出したな。

  • 見返し
    本書は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックという一大危機を人類が迎えるなかで、著者が緊急に発表した見解を収録したものだ。
    日本オリジナル版。
    前半は「タイム」誌と「フィナンシャル・タイムズ」紙と「ザ・ガーディアン」紙への寄稿である。
    後半はNHKのETV特集のインタビューだ。
    「ユヴァル・ノア・ハラリとの60分」として方法された。

    それぞれ単独でも読みごたえ、見ごたえのある内容だが、みな切り口も異なるので、いずれも評判が高かったこれらの記事やインタビューをすべてまとめて読み、著者の目を通して今回のコロナ禍をより多面的・多角的に眺め、考える機会を提供するというのが、本書刊行の狙いとなる。
    「訳者あとがき」より

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著者プロフィール

歴史学者、哲学者。1976年イスラエル生まれ。オックスフォード大学で中世史、軍事史を専攻し博士号を取得。現在、ヘブライ大学で歴史学を教授。『サピエンス全史』『ホモ・デウス』『21 Lessons』。

「2020年 『「サピエンス全史」「ホモ・デウス」期間限定特装セット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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