ルサンチマンの哲学 (シリーズ・道徳の系譜)

著者 :
  • 河出書房新社
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本棚登録 : 177
感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (151ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309241890

作品紹介・あらすじ

『「子ども」のための哲学』の著者がはじめてニーチェの核心に迫る哲学入門。

感想・レビュー・書評

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  • 今まで読んできたニーチェ論では圧倒的な破壊力を持っていたといわざるを得ない。永井は哲学者としてのニーチェを徹底的に批判する。彼はあまりにも才能がなかったと言ってしまう。永井が評価するのはニーチェの道徳学である。言ってしまえばそれはルサンチマンである。ルサンチマンという構図を見抜いたこと、そしてそれが強者と弱者の定義を高貴なもの⇔粗雑なもの、という構図から、善なるもの⇔悪なるもの、として切り替えてしまったことである、と述べている点を評価している反面でしかし、いわゆる道徳的であることは、つまり今われわれが道徳であると考えるその枠組みは、われわれが元から持っていたであろうものであり、それを零から生み出したとするのはニーチェの過ちであり、むしろ、それを崇高なるものとして定義してしまったことこそが、真なるキリスト教徒のルサンチマンであると永井は言うのである。そうして彼らは弱者から強者へとなる。つまり、弱者は強者へ慈悲を注ぐことにより、彼らは強者へといたるのである。そして彼らは強者にいたりながらも、弱者の皮をかぶっているのである。つまり、圧倒的な勢力を背後に持ち、圧力をかけながらもそれに従わないものを哀れむという教会の横暴がそこには含まれているのだろう。強者に哀れまれてしまえば弱者にはなすすべがないであろう。この構図を見破ったのがニーチェであり、しかし、それゆえにニーチェはキリスト教的な束縛から逃れられず、彼もルサンチマンに毒されている。それゆえに彼はキリスト教へと反発できるのである。反発は全てがルサンチマンによって支配されている。となればそこから逃れられはしないのではないか?永劫回帰という概念はあんとも怪しげなものであるし、永井なんかは「この今」が永劫に回帰する、つまりそれは不可能であり、それゆえにこの今への価値にニーチェは重きを置いていると述べているが、個人的にはむしろ、誰もがルサンチマンから逃れられないこの怨嗟こそが永劫回帰とすら言えると思われる。それはもはやニーチェが定義した概念ではなくなってしまっているが、しかしそれは絶えずめぐり続けるだろう。ルサンチマンこそが人間の原動力たりうるのだろうから。世の中には二種類の人間しかいないのではないか?一つ目は無自覚な人間。もう一つは自覚的であるがゆえにルサンチマンの毒牙から逃れられなくなってしまった人間。無論、そこから逃れたつもりでいる人間はあろうが、しかし彼はその毒牙を自覚してしまった時点で実はもう逃れられはしないのではないか?ニーチェはそうして自らがその毒牙から逃れられないことを自覚しながらも、しかし全てを肯定したいと考えていたようだ。無論、それは不可能であったのだが。永井はそのあたりを見てニーチェをすごくいいやつと形容している。それは同意権である。あれだけ憎みながらも、それでも肯定しようとしているニーチェ。あまりにも純粋すぎたとしか言いようがない。狂える人間なんてやつはどいつもこいつも馬鹿みたいに純粋なのだと思う。

    • 美希さん
      この本すごく好きで何度も読み返しています。ニーチェがあまり好きではなかったのにちょっとニーチェが好きになるくらいの、おっしゃる通り破壊力のあ...
      この本すごく好きで何度も読み返しています。ニーチェがあまり好きではなかったのにちょっとニーチェが好きになるくらいの、おっしゃる通り破壊力のある本でした。
      超訳ニーチェとかよりもこういう本がもっと読まれて欲しいなぁと思いました。
      2011/09/25
    • kazuhaさん
      そうですね、僕もニーチェはゆがんでいるけれどいいやつなんだということをきいたことはあったのですが、ニーチェがいいやつだという意味が本著を読ん...
      そうですね、僕もニーチェはゆがんでいるけれどいいやつなんだということをきいたことはあったのですが、ニーチェがいいやつだという意味が本著を読んでようやくいくらか実感できました。けれど、ニーチェは賛嘆されるようないいやつなんじゃなくて、憎らしいくそ野郎なんだけれど、けど、ほんとはいいやつなんだよっていう感じで、だからそれをすっ飛ばしてニーチェは素晴らしいやつなんだよーというような本はどうにも胡散臭いですね。


      けれど、こういう部分っていうのはやはりあれこれ躓いたある意味で馬鹿みたいに不器用な人間でないと理解できないところもあって、そうしたところに永井含めて哲学者は悦に入ってるところもあるので、まあ、けれどそれくらいの優越感がなければやっていけないよーと言いつつも、それがすでにルサンチマンだったりして、なんともややこしいですね。たぶん、永井も逃れられないんじゃないかなーって、それくらい永井は日本の哲学界に怨恨を持っているようだし、と。


      個人的にはニーチェはくそ野郎でいいですね。くそ野郎、くそ野郎ってどことなく憎めなさというか愛情というかそういうのこめながら、くそ野郎って形容するくらいがちょうどいいんじゃないかなーって。すいません、長くなりました。どうにも、短くまとめきれない性質なので。

      2011/09/25
  • 単に読んだだけで読めたかどうか疑わしい。

    ただコロナ禍の今読むと日本に蔓延する「生命至上主義」を背景に鼻息荒いやつの後ろ盾がどこにあるのかなんとなくわかった気がする。

    道徳、道徳という日本語として理解される、なんとなくな雰囲気の正体が垣間見えた気がする。
    あと3回くらいは読みたい。

  • 主にニーチェに関する本
    作者に言わせればどうやらほとんどのニーチェに関する研究の哲学者は読みが甘いらしい。

    今、当たり前にこの価値が存在するところから見るにキリスト教は道徳上の奴隷一機を成しえたことになる。
    弱者が行えること。精神的なものにおける価値の転倒


    イエスの何がすごいといえば、その行為を理解する概念枠自体その行為そのものによって変えてしまうこと

    永劫回帰、超人、ルサンチマン、神は死んだ

  • 大学図書館134.94n14

  • ニーチェに関連する著書の論文集。面白いけど前提になる知識がないと難しいな。読んだことないけどニーチェの思想を生き方として捉える本が多いじゃん、そんな中で彼の哲学的な業績を論じるこの本は良いね。ニヒリズムって虚無を受け入れず何か意味があると信じようとすることだとか、神を信じようとしてる段階で神が死にかけているだとか、カントは道徳の資本家だとか。著者の他の本読みたい。

  • 永井均本。

    序章のお話が秀逸すぎ。
    なんか、ここだけできれいにまとめきってる感があります。

    でも、やっぱり永井です。
    「愛って侮蔑とおなじだよ?」
    的な事をロジック上にさらりと言ってくれます。

    この人の本は、わかりやすくて面白いなぁ。

  • [ 内容 ]
    『「子ども」のための哲学』の著者がはじめてニーチェの核心に迫る哲学入門。

    [ 目次 ]
    序章 『星の銀貨』の主題による三つの変奏
    第1章 ルサンチマンの哲学―そしてまたニーチェの読み方について
    第2章 幸福・道徳・復讐(新新宗教;見えないヨーロッパ―その原点の点描;よく生きることヤテ、そらナンボのもんや?;怨恨なき復讐―われわれの時代のルサンチマン)
    第3章 永遠回帰の哲学―あるいはまたニーチェへの問い方について

    [ POP ]


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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • Why be moral?

    この疑問がどのフィールドまで手を広げているか。ここから話は始まる。




    わたしは肯定というものがすごく好きで、なんでも肯定してしまう癖があったりする。
    大きく言えばもちろん否定も含まれている。
    でもそれが極大化してニヒリスティックにはなりたくない。

    やはり読んで思ったのはマテリアリズムから逸れてはならない、ということ。
    モラルを利用したルサンチマンの反復による勝者はもっとも嫌いとするところ。

    存在しないルサンチマンに屈する態度がモラルであるとしたら、それはもう内的な意味では機能していない。

    社会的な意味では、まぁ狡猾だと思うけど機能してしまっている(それが必然である場合にのみ認められる:同意見)。



    欲のために行為したとしてそれが善ならば偽善という指摘をせずに無条件で善でいいんでないの、と思ったりもしてる。
    総体があって利益を受けるものがなければ成り立たない、という善悪観念はわかるけれども、少しか絶対的な部分も信じていたりする。



    あ、本の感想になってない。


    このシリーズは結構簡単な言葉でわかりやすく書いてるから高校の倫理と哲学の基礎(歴史)とかさらっとでもわかってれば読めると思います。
    おすすめ。






    • kazuhaさん
      どうも、こんばんは?いつぞやはコメントいただきあいがとうございました。すごくうれしかった覚えがあります。ここにコメントをするのはご愛嬌という...
      どうも、こんばんは?いつぞやはコメントいただきあいがとうございました。すごくうれしかった覚えがあります。ここにコメントをするのはご愛嬌ということで。えーと、すいません、いろいろ思うことがありまして、ツイッターやらこちらやらでフォロー解除しまくっております。その思うところをうまく伝えるだけの言語的能力を現時点で持ちえていないのですが、いろいろやりとりしていただいたので大変申し訳なく思い、コメントさせていただいております。それでは、失礼します。
      2011/11/11
    • 美希さん
      >カズハさん☆

      こんばんは。コメントありがとうございます!
      フォローの件了解しました。
      また機会がありましたらよろしくお願いします...
      >カズハさん☆

      こんばんは。コメントありがとうございます!
      フォローの件了解しました。
      また機会がありましたらよろしくお願いします。
      2011/11/11
  • 読んでる途中。

  • ¥105

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著者プロフィール

1951年生まれ. 専攻, 哲学・倫理学. 慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程単位所得. 現在, 日本大学文理学部教授.
著作に, 『〈私〉の存在の比類なさ』(勁草書房, のち講談社学術文庫),『転校生とブラックジャック──独在性をめぐるセミナー』(岩波書店, のち岩波現代文庫), 『倫理とは何か──猫のインサイトの挑戦』(産業図書, のちちくま学芸文庫), 『私・今・そして神──開闢の哲学』(講談社現代新書), 『西田幾多郎──〈絶対無〉とは何か』(NHK出版), 『なぜ意識は実在しないのか』(岩波書店), 『ウィトゲンシュタインの誤診──『青色本』を掘り崩す』(ナカニシヤ出版), 『哲学の密かな闘い』『哲学の賑やかな呟き』(ぷねうま舎), 『存在と時間──哲学探究1』(文藝春秋), 『世界の独在論的存在構造──哲学探究2』(春秋社)ほかがある.

「2022年 『独自成類的人間』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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