エリック・ホッファーの人間とは何か

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (158ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309242996

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  • 本書は「人間の本性」を中心的に扱いながら、ふしめふしめで「知識人」と「アメリカ大衆」の二項を軸に論が展開される。アメリカの大衆がいかに特異で信頼するに足りうるか、ヨーロッパや後進国家の特徴とを比較しながら、彼はしずかな強い調子でそのことを述べていく。いわばそれは、他の国々とは異なる事情によって形成された、アメリカの歴史への賞賛と自負の表れでもある。次に本書の主要な部分と思える箇所を要約(私的意訳)していく。

    変化は人間の本性と相反するものであり、人間は変化に抵抗する存在であると考えることができる。人間は新しいものをおそれる、という意味にとどまらず、旧き自己を保ちながら新しいものに適応することができない。あるものたちの中で、外からやってきた成員が新たな一人となるためには、旧き自己を脱ぎ捨て、社会変化に順応しながら、新しい自己に生まれ変わることが必要である。その脱皮によって、はじめてコミュニティーの一員として受け入れられることが可能なのであり、その環境への適応やある社会の成員に入るための変化には、そのモデルとなるような自己イメージが必要である。そのイメージの得るための方法がアメリカとヨーロッパではまったく異なったかたちをとる。

    ヨーロッパの過去数百年にわたった民族主義運動、人種主義運動、革命運動、そして大戦争は、農民が農村から都市に出て工場労働者に変質する過程で生じた。そのような運動は、大衆自らが変革を企てたものではなく、世を操作・管理することを心得た「知識人」(自分は教育のある少数派の一員であり、世の中の出来事に形と指示をあたえる権利をもっていると思っている人たち)に先導されるかたちで、大衆がつき従い変化に馴致するための自己イメージを新たに得るような歴史の連なりと見てとれる。つまり、知識人の助けなくして、大衆みずからの手でそのような運動を起こしたことはなかった。

    一方アメリカでは、ヨーロッパから拒否された者たちでできた国であり、伝統と習慣、食物、衣服、言語、名前を新たに与えられた。移民を受け入れる国として発展したアメリカは、未開の土地を馴化して知識人なしに社会をつくりあげた。急速な変化にほぼ適応する国がアメリカであり、人々にとって変化はごく自然で当然なものである。普通の男女の、世の中の仕事のほとんどをなし、干渉をうけることなく平凡な人生を送りたい人々の国、アメリカは人々が自分の心に適った生き方を許容する。

    しかし、世界の手本となるようなアメリカの行く先は今やまったく闇の中である。現在、急激な変化によって、社会の仕組みそのものが自明ではなくなり、自明であったはずの過去も未来も希薄になりつつある。あらゆることを選択できる自由さを得たことにより、熾烈を極める行き過ぎた社会は、現状の不透明感にわれわれを陥れて、人が人を貶めていく、不信と荒廃による野蛮化がすすむ。今の社会状況をよりよい方向に変革していかなければならないが、今の状況を一掃するには、新しい社会モデルを生み出し、それがうまく機能するようになってからはじめて過去と断絶できることの困難さを思うと、それもまた容易ではない。 

  • いい。

  •  人間は都市においてのみ、真に自由な存在たりえるのである。

  • 独特の視点で世の中の現象を読み解く独学の哲学者。
    現代アメリカの状況をうまく説明していると思ったら30年も前の本でした。

  • 大学生のうちに読むべき一冊。

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著者プロフィール

エリック・ホッファー(Eric Hoffer)
社会哲学者・港湾労働者。1902年7月26日、ニューヨークのブロンクスにドイツ系移民の子として生まれる。7歳のとき母と死別、同年に突然失明。15歳で視力が回復。一切の学校教育を受けていない。18歳のとき父の死により係累をすべて失い、ロサンゼルスへ渡る。以後、日雇い労働者として過ごす。28歳のとき自殺未遂をきっかけにロスを離れ、その後10年間カリフォルニア州中を季節労働者として放浪生活をしながら、先々の町の図書館に出入りし独学を続けた。1941年から67年までサンフランシスコで港湾労働者として働き、読書と思索の日々を送る。64年よりカリフォルニア大学バークレー校で、週に1度政治学を講義。51年に出版された処女作『大衆運動』は世界的なベストセラーとなる。67年テレビ出演を機に全米でホッファー・ブームが巻き起こった。1983年5月20日死去。大統領自由勲章受賞。著書『波止場日記』、『大衆運動』、『現代という時代の気質』ほか。

「2003年 『魂の錬金術 全アフォリズム集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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