快感回路---なぜ気持ちいいのか なぜやめられないのか

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309252612

作品紹介・あらすじ

恋愛と性的興奮はまったく別物?ダイエットの失敗は意志の弱さのせいではない?ギャンブルは結果が出るまでの待ち時間がいちばん気持ちいい?セックス、薬物、アルコール、高カロリー食、ギャンブル、ゲーム、学習、エクササイズ、ランナーズハイ、慈善行為、瞑想…最新科学でここまでわかった、快楽と依存の正体。気になる科学トピック満載。

感想・レビュー・書評

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  • 人間の原理を解き明かす本。

    本著で紹介される実験の一つに、内側前脳快感回路脳に電極が繋がれたラットは、それを作動させるスイッチを押し続ける。食事よりも優先し、それを求め続け、死に至る。ラットに留まらず、人間の男女に対しても、こうした実験が行われている。男性は同性愛者で、女性の映像を見せながら快楽中枢を電気刺激した後、売春婦との異性愛に成功したというのだ。実験はチューレーン大学、ルイジアナ州検事の承認を得ている。脳は作り変えられ、性的指向は変える事ができた。

    こうした快楽中枢を刺激し、脳を作り変える作用は、薬物やアルコールにも見られる。ランナーズハイ、過食、ギャンブル、性行為なども類似現象だ。つまり、快楽体験により脳が作り変えられ、程度の差はあれど、依存を引き起こす。程度の差が、それぞれの生活で与えられる個別の報酬、遺伝子的影響も受けながら、個々の行動を規定していく。

    著者は神経科学者であり、数々の興味深い論文が紹介される。中には、男女の生殖器に測定器具を装着し、どのような性的映像に反応を示すかという、橘玲が『女と男 なぜわかりあえないのか』で紹介していた例の実験だ。女性が男性よりも幅広い映像に肉体的反応を示しながら脳が興奮を示さなかったのかは、映像のせいではなく、プレチスモグラフィのような器具を膣内に挿入される物理的刺激を受ける状況下にあるからだという考察や、同意せぬ性体験から身体を守るための作用だという見解付きだ。似たような論文紹介に対し、橘玲より、著者デイヴィッドの方が考察が深い。

    遺伝子と環境がそれぞれに人格、人生を決定付けるとして、それらが複合的に、結局は快楽中枢の刺激経験を齎し、人はその刺激を求めて行動を繰り返す一面があるという事を、興味深く読んだ。人間は遺伝子や本能に操作される側面も確かにあるが、それらは単に我々が快楽中枢の奴隷である事の成立要件であり、そう考えると、快楽中枢を操るデータアルゴリズムは、脅威である。

  • 前著『つぎはぎだらけの脳と心』が高く評価された神経科学者の著者(米ジョンズ・ホプキンス大学医学部教授)による、一般向け科学書第2作。私は、池谷裕二さんが『読売新聞』に寄せた書評で興味を抱いて読んでみた。

    タイトルの『快感回路』とは、脳の「報酬系」を指している。さまざまな欲求が満たされたとき(または満たされることがわかったとき)に活性化する神経系で、要はドーパミンとかがドバっと出るあたりのことである。

    本書は、人間をさまざまな行動に駆り立てるこの報酬系の働きについて、最新の研究成果を駆使して解説した科学ノンフィクションだ。
    快感を感じる脳の機序などが随所で解説されるので、そのへんはやや専門的で難しいのだが、それでも私のようなシロウトにも十分楽しめる。目からウロコのトピックが満載なのだ。本文正味200ページちょいなので大著というわけではないが、内容が非常に濃密で読み応えがある。

    薬物(アルコールとニコチンを含む)による快感、食の快感(糖や脂肪たっぶりの高カロリー食で食欲が満たされる快感)、性的快感、ギャンブルの快感については、各一章を割いて詳述されている。当然、快感の裏返しである依存症のメカニズムについても詳説される。
     
    また、第6章「悪徳ばかりが快感ではない」では、ランナーズハイ、善行がもたらす快感、瞑想の快感など、人間ならではの高次な快感のメカニズムに迫っている。

    私にはこの章がいちばん面白かった。たとえば、他人と自分を比べて違いを感じたときにより大きな快感を得ることが科学的に解説されるあたり、じつに興味深い。

    《この実験から、社会的な比較が脳の報酬中枢の活動に強く影響することがはっきりした。側坐核は、自分の報酬と隣の人の報酬が大きく食い違ったときに一番強く活性化したのである。(中略)人間は自分の体験や環境を、周囲の人のそれと比較するようにできているように見える》

    私たち人間は、低次のものから高次のものまでさまざまな快感を追い求め、快感に振り回されて生きている。そのことに科学のメスを入れた本書には、ヘタな文学よりよっぽど「人間が描かれている」といえよう。

    最後の第7章「快感の未来」では、テクノロジーと脳科学が進歩した先にある、手軽に脳を操作して快感を得られる(それでいて依存症にならない)未来が展望されている。

    いまは破滅のリスクと引き換えに得ている極限の快感(覚醒剤のもたらす快感など)が、ボタン一つでノーリスクで得られるようになったとしたら……。そのとき、我々の幸福観・人生観は根底から変わってしまうに違いない。

  • 「依存は脳の問題」という、既にみんなが知っている事実について、快感経路にフォーカスしながら淡々と専門用語を使って述べていた…という印象です。「依存は脳の問題。では、どうすれば依存を抜けられるか?」という問いかけには、私が読んだ中では「依存性ビジネスのつくられかた」という本が一番参考になりました。

  • 原題は、『THE COMPASS OF PLEASURE』快感の羅針盤(方位磁石)とでも訳されるのだろう。”気持ちよさ”を感じるメカニズムを知ることができる本。薬物、摂食、性的な行動、ギャンブル、瞑想等、様々な快感について興味深い解説が得られるとても刺激的な本。
    依存症のメカニズムも興味深く、誰もが依存症になる可能性があるという。つまり、依存症になるのは意志の強弱という自分の落ち度ではなく、ある条件が揃えば誰でもなり得るものだということ。そして、依存症からの脱却は本人の意志で行うことなのだそうだ。
    実験から得られたデータをもとに、快楽の仕組みを解き明かしてきた著者は最後に未来を想像している。体内にナノボットを注入したり、光学的な働きを取り入れニューロンを操作して、快感を意図的に生み出せる社会が来るかもしれないと。
    人間を生物学的に観察したとき、快感と感じるときに何をしていたかを、観察することで明確になる。その快感の報酬を得られたものが何かがわかれば、日々の習慣を変えることが、できるようになる。生物として、長い歴史の中で進化してきた本能を理解することは、とても有意義なことのように思える。

  • 来ると信じていた期待が外れた時の気分の落ち込み、棚からぼたもちの喜び、1か0か結果が出るまでわからない時の高揚感、その時私たちのからだの中では何が起こっているのか。とても興味深く面白い話でした。

  • これは、面白い。

    向精神薬の分類

    興奮剤
    コカイン、アンフェタミン、カフェイン
    鎮静剤
    酒、エーテル、ハルシオン、GHBなど
    幻覚剤
    LSD、メスカリン、ケタミン
    麻酔剤
    アヘン、モルヒネ、ヘロイン
    p.52

    ボードレールはアヘン、ハッシシ
    オルダス・ハクスレーは酒、メスカリン、LSD
    フロイトはコカイン
    ビルマルクはワイン、モルヒネ

  • 著者は、ジョンス・ホプキンス大学医学部教授で神経科学者。

    「快感回路」とは、脳科学の分野では<報酬系>と呼ばれる神経回路。この一群の脳領域を内側前脳快感回路(ないそくぜんのうかいかんかいろ)と呼ぶ、そうだ。

    脳の回路レベルのモデルでの電気信号的な「快感を示す状態」(実験室的なお話)と、「快感がもつ感触や、それに伴う記憶や感情」(対人間的なお話)の両方を合わせて、依存(薬物やアルコール・摂食行動・性的行動・ギャンブル・痛みと快感)についてフムフムできる本。
    とってもおもしろかった!!

    個人的に印象に残ったのは、
    『脳には可塑性があり、長期的に起こしている変化は、生化学的にも電気機能的にもニューロン構造にまで及んでいる。
    薬物やアルコールに乗っ取られた快感回路の変化もあれば、行動経験(社会的・経験的治療法)で神経回路を変化させることもできる。』ってこと。
    これは怖ろしくもあるけど、基本的にはやっぱり希望があることだし、ちょっと楽しいことでもある。
    うん、おもしろい本だった!

  • 薬物依存や食欲、性欲、ギャンブルなど、人はなぜ快感を求めるのか、そしてなぜハマっていくのか。非常に興味深く面白い内容でした。結局のところ人間の行動というのは全て「快感」を求めてのことなんでしょうね。それが結果として悪いことにつながることがあれば良いことにつながることもある。人間の本質を理解できる一冊です。

  • フロイトさんを読んでいて人は快感に衝き動かされていてそれが苦悩のもとになっているのではないかと思い(少なくとも、わたしはそう。)前々から気になっていたこの本を読んでみたのである。

    それと平行してブックオフで見つけたら買っておいてくれと頼まれていた「心と脳」という認知科学の入門書を発見したので、せっかくだからと読んでみると、これがびっくりすることにいくつかのピースが嵌るように脳内で微かなクリック音がした...

    フロイトさんの理論はその当時、脳の中を探求するための技術水準という制約のため、推測や憶測という域を出なかったのは間違いないが、きっと脳の中の神経活動のパターンには着眼していたっぽいと常々感じていたのだが、やっぱりそうなんじゃないかと改めて考えてしまった。

    この二冊の本によれば、意識が無意識に支えられていることは、今の脳科学では常識になっていて、その科学的な証拠も種々見つかっているようである。いつか誰かフロイト理論を最新の脳科学の知見をもとに読み解くみたいな本を書く人が出ないかなぁ〜とそんな期待を抱いてしまった。

    ところで、この本ではアルコールが、脳の報酬系の神経系(この本では快感回路と呼ばれています。)を興奮させて快感を生み出すコカインとは違って、鎮静させて快感を生み出す方の薬物に区分されているみたいだけど(アルコールは複雑な働きをするとはもちろん書いてあります。)

    わたしは飲むと眠れなくなるんだよなぁ〜どこかが覚醒してしまう。まぁ...要するにひとそれぞれってことなのかなぁ?

    でも、ほんとに面白くてためになるいい本です!

    Mahalo

  • 科学的な記述が詳細に記載されているため、専門書としての位置付けが強いが、快感についてわかりやすく記載されている。快感を感じる行為やものそのものに快感を感じるのではなく、それを得られる期待の期間に快感を感じる脳部位が感じていることを知り驚いた。確かに旅行に行っている間も楽しいが旅行の計画を練っている時も楽しいものだ。

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著者プロフィール

神経科学者。ジョンズ・ホプキンス大学医学部教授。主に記憶のメカニズムの研究に取り組むともに、一般向けの解説にも力を入れている。著書に『脳はいいかげんにできている』『快感回路』『触れることの科学』。

「2022年 『40人の神経科学者に脳のいちばん面白いところを聞いてみた』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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