すごい物理学講義

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309253626

感想・レビュー・書評

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  • 最先端の研究に従事している物理学者による、一般向けに最近の研究がどこまで進んでいるかを教えてくれる本。コンセプトは以前読んだ大栗博司先生の『重力とは何か』とかなり似ていて、物理学の辿った歴史を交えて説明がなされる点も同様である。

    ではこれらの本の差はどこにあるのかというと、一つ目は大栗先生の本は新書ということもあり現代の話が主であるのに対し、こちらは話の起点が古代ギリシアまで遡ること。物質はそれ以上分けられない原子で構成されているという原子説の起源はそんなところにあるのかと驚いた。もう一つの大きな違いは、著者の方々の専門としている理論である。量子重力理論は未だ未完成で、複数の有力候補が挙げられている。それらのうち大栗先生の本では超弦理論を、こちらではループ量子重力理論を扱っている。感想としては複数の理論の間で量子論と重力理論の統合する方法の違いを感じて非常に面白かったのだが、理論の中身について触れようとすると何を書いても間違ったことしか書けないと思うので、興味のある方は(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/75127)こちらを読んでみていただきたい。

  • ①特殊相対性理論における「時間の概念の消失」
    アインシュタインは「特殊相対性理論」で、時間と空間をまとめて時空間の概念にまとめあげた。これは、宇宙まで拡張された2点間においては、「現在」「過去」「未来」という時間の概念が拡張されるという意味をもたらした。
    火星と地球にいる人の間には、15分間のタイムラグがある。火星にいる人が地球へのビデオメッセージにおいて、「今この瞬間、何をしてますか?」と問いかけた時、それは地球にいる人がメッセージを受け取った瞬間ではなく、15分前の出来事を述べている。火星では、この瞬間までにすでに起きた出来事と、これから起きるはずのない出来事のほかに、私達にとって過去でも未来でもない15分が存在している。
    わたしにとってのこの瞬間から見た過去と未来の間には、中間的な領域が、言い換えれば、「拡張された現在」が存在しており、この領域は過去にも未来にも属していない。この中間的な領域の持続時間は、遠くに離れるほど長くなるが、これは火星や月レベルに離れる必要がある。
    このように考えると、宇宙規模のスケールで時間を考えた時には、宇宙に絶対的同時性は存在せず、宇宙における出来事の総体を、無数の現在が順序よく積み重なった結果として描写できないということである。


    ②一般相対性理論
    ニュートンの時代から発見されていた「重力」について、アインシュタインは、媒介となる物質が存在しないのに、2つの物体が何故引き付け合うのかを疑問に思った。のちにこれが「場」の発見につながる。
    今までの学説だと、世界は「空間+粒子+電磁場+重力場」から出来ているとされていたが、アインシュタインは空間と電磁場と重力場を一つの「場」に統合し、世界は場と粒子のみで出来ていると述べた。
    空間は何もない無の存在ではなく、実体として存在し、震えたり曲がったり歪んだりする。ある場所に存在する物質の量が多ければ多いほど、その場所の時空間の歪みは大きくなる。ここから、場の歪みの影響を受け、光が屈折することと、時間も屈曲することが判明した。

    ③量子重力理論がわれわれに教えてくれること
    以下は、量子の特徴が我々に教えてくれた世界の成り立ちである。
    粒性…あらゆる現象のうちに存在する情報の総量に限界を設けたこと。極小のスケールである「プランク定数」を導いたことで、「無限」という深淵に光をもたらした。
    不確実性…事物の運動は絶えず偶然に左右される。厳密な規則に従っているように見える事柄も、統計的な結果に過ぎない。
    関係性…あらゆる物質は、ほかの対象と比較したときのみ存在する。ある系における全事象は、別の系との関係のもとに発生する。

    この中で特に重要なのは、粒性によって導かれた、「世界は有限である」という考えである。今までの量子論には、ある過程が生じる確率や道筋を計算しようとすると、取りうる値が無限になり計算が不可能になるという問題を孕んでいた。ここに光明をもたらしたのが、「ありとあらゆる原子は粒子である」という発想である。
    物理的な空間も、場である以上は量子からできている。したがって、「空間もまた粒である」という予測を立てることができる。つまり、空間は連続的な存在ではなく、「空間の原子」によって形成されており、空間にも、それ以上分割できない下限があるのではないか、という発想が、「世界は無限ではない」という考えを生み出した。
    (ただし、空間の原子の網がそこかしこに張り巡らされていると理解するべきではない。空間の原子は確定的な存在ではなく確率の雲の中にあり、空間は、個々の重力の量子の相互作用(関係性)から生み出されるものである。)

    そして無限が消え去ることによって、原子の軌道やブラックホールの構造についての推論が可能になったのだ。

  • 本当に面白かった。恐らく学術的には非常に難解であろうループ量子重力理論について、素人にも何とか理解できるよう言葉を尽くして説明されていて、一気読みしてしまった。時間や空間の捉え方が当方には斬新で、読了後には世界の見え方が少し変わった気がする。
    実際に読んでから2年ほど経つが、印象深い本だったので感想を残しておく。

  • 「すごい物理学講義」Carlo Rovelli

    科学とは、思考の在り方を絶えず探求していく営み。

    観察と理性を適切な方法で用いること。批判的な思考を正しく用いれば、我々は世界に対する自らの視点を絶えず修正できる。

    物質は原子から構成されているという原子仮説は1905年になってようやく決定的な証拠がもたらされた。

    今日の私たちが知っている全ての事柄も、まだ私たちが知らない事柄と比較すればおおまかであるに違いない。

    色とは光を形作る電磁気の波の振動数(振動速度)、もし波がより早く振動すれば青くなり、遅く振動すれば赤くなる。

    速度とは相対的な概念。物体それ自体の速度は存在しない。

    時空間には、ある事象を起点とした過去と未来の総体に加え、過去でも未来でもない時間の総体が含まれており、その時間は一瞬という点ではなく、ある程度の長さを持っている。

    現在という時間の薄片が空間全体に広がっているのではなく、時間と空間はひとつの構造体として互いに影響を与えあっている。

    標高が高い場所では時間が速く過ぎ、低い場所では遅く過ぎる。

    光にはエネルギーを伝達する機能がある。物に光を当てると熱くなるのはその一例。

    光を当てれば電気が流れる光電効果が発生するのは光の振動数が高い時だけ。この現象が生じるか否かは光の強度(エネルギー)よりも光の色(振動数)に左右される。

    誰かが理解した後に理解するのは簡単。難しいのは物事を最初に理解すること。

    量子力学が発見した三側面
    ・粒性
    ある物理学的な系の中に存在する情報の量は有限であり、それはプランク定数hによって限定される。
    ・不確実性
    未来は過去から一意的に導き出されるのではない。極めて厳密な規則に従っているように見える事柄も、現実には統計的な結果にすぎない。
    ・相関性
    自然界のあらゆる事象は相互作用。ある系における全事象は別の系との関係のもとに発生する。

    量子場を形成する個々の粒子は別のなにかと相互作用を起こす時だけある一点に居場所を定め、その姿をあらわにする。ひとたび相互作用を終えるなり、粒子は「確率の雲」の中に溶け込んでいく。世界とは、素粒子が起こす事象の湧出。波のように振動する、大きく躍動的な空間の海に素粒子は浸かっている。

    世界は屈折した時空間であるという一般相対性理論は、量子化された場(量子場)を想定していない。一方量子力学は、世界は平らな時空間であり、離散的なエネルギーを持つ量子がその中を飛び交っているとする。これらを矛盾なく統合した理論の一つがループ理論。

    我々はつぶれたりよじれたりする巨大な軟体動物の中に浸かっている。

    物理的な空間も場である以上は量子からできている。量子重力場。

    ループ理論を使えば、空間は粒状の原子構造を持っている事を方程式に翻訳し、数学的に正確な方法で表現できる。空間の量子的な構造を記述し、正確な寸法を計算できる。

    空間は空間の量子から形成され、離散的な構造を備えている。

    世界の基礎を形作る実体は、空間や時間の中に存在しているのではなく、それら自身が互いに関係を築きながら空間と時間を織りなしている。

    私たちの宇宙の先に存在しているかもしれないものを理論的に探究する事。

    物理学は新しいデータが利用できるようになった時だけ進歩するのではない。

    正しい理論に向かって正しい道を進むためには兆候が必要。

    ループ量子重力理論が示唆している空間の量子化や時間の消失という極端な概念上の帰結は、20世紀の二大理論を真剣に検討し、そこから結論を導き出そうとした帰結。

    未来へのタイムトラベルは理論的には容易。宇宙船に乗ってブラックホールの近くまで行き、そこでしばらくの時間を過ごしてからブラックホールを後にするだけ。ブラックホールの地平線では時間が止まるので、そこの数分は他の場所の数百万年でもおかしくない。

    重力場の微視的な振動がブラックホールの地平線の正確な位置を決定する。地平線は高温の物体のように振動している。

    量子重力理論によれば、ブラックホールの中心では事物を反発させる巨大な圧力が発生する。それは崩壊する宇宙が反発して膨張する宇宙へ移行するのと同じ状況。

    この世界にあらゆる無限は存在しない。最小の情報(量子力学)、最短の長さ(量子重力理論)、最大の速度(特殊相対性理論)という自然単位がある。

    世界は原子の総体の間に認められる相関性の網であり、物理的な系によってやりとりされる情報の網でもある。

    紅茶が冷めるのは、紅茶の持っていたエネルギーの一部が周りの空気に移動したから。

    情報とは「起こりうる選択肢の数」の事。

    エントロピーとは欠けている情報、つまりマイナスの符号がついた情報。エントロピーの総量は増大する事しかないが、それは情報の総量は減少する事しかしないから。

    公理1 あらゆる物理的な系において、有意な情報の量は有限である。(粒性)
    公理2 ある物理的な系からは、つねに新しい情報を得る事が可能である。(不確定性)
    有意な情報とは、過去に我々がある系と相互作用を起こした結果として、私たちがその系について所有する事になった情報。その情報は、未来に我々が同じ系と相互作用を起こした時、我々がいかなる影響を被るか予見する事を可能にする。量子力学の世界において、ある系と相互作用を与え合うとき、我々は何かを得るばかりでなく、同時にその系に関する情報の一部を消去している。

    ある環境の中で存続していく為の最も効果的な方法は、外部の世界と適切な相関関係を築く事。情報を収集し、蓄積し、伝達し、改良する能力に長けた生命体ほど存続していける可能性が高い。

    自分たちの見解に疑いをもてる人間だけがその見解から自由になりより多くを学ぶ事ができる。

  • サイエンスのいろいろな分野の第一人者が広く一般向けに、
    古代から現代への ”知” のリレー、積み重ね、歴史、現状、
    将来への課題を知らしめてくれるタイプの本が好きで時々読むのだが今回は ”物理学” 。
    「La realtà non è come ci appare(現実は目に映る姿とは異なる)」というタイトルの本が日本で出版されるとなぜか「すごい物理学講義」に。
    すごいけど。

  • 大学時代に量子力学を学び、その後も曲がりなりに技術職をやっていたこともあって、気軽に読めるんじゃないかと思ってました。でも内容の濃さと、知らないことの多さに驚き。概念を理解するのに苦労した部分もありましたが、一冊を通じて大いに興味を掻き立てられる内容でした。「物理学の本、他にも読んでみようかな」と思えるオススメの一冊です。

  • 時間の概念の転換を想像するのはなかなかしんどい。
    今そこに時間があるからなのか。
    エネルギーが動こうとするから時間が生まれる。
    そういう解釈でいいのかしらね。
    そもそもエネルギーが動こうとするという言い方でいいのかもわからない。
    すべては情報をやり取りしたいのよ。
    そこで生きる私たちもまた、エネルギーが情報を欲したから生きているのか。

  • すごい。多分。
    2章の量子ぐらいでさっぱり何言ってるのかわからなくなった。

  • カルロ・ロヴェッリ!『時間は存在しない』も『世界は「関係」でできている』も読みたい本としてチェックしてはいました。でも書名の凄さ…とイタリア人物理学者…という著者への馴染みのなさになかなかページを開くまでには至っていませんでした。(よく考えたらフェルミっていうスーパースターがいるので偏見でしかないのですが…)全然、関係ないのですが先日パウロコ二ェッティ『帰れない山』という小説を読んでイタリアの文学に触れ、この本こんなに面白いのは訳者の力もあるかな?と関口英子の訳書調べたらカルロ・ロヴェッリの『すごい物理学入門』が出てきて、これは読むしかない!と手にしたのが本書でした…はい、「入門」と「講義」は違う本なので間違いです。でも間違いでも読んでよかった!こんな読みやすく(っていうことは栗原俊英訳の力もすごいってことですね…)こんなにわかりやすく、こんなにワクワクする物理学の物語は初めて(?)です。本書はデモクリトスの無限の有限の話から熱く始まります。ここが先ずユニーク。デモクリトスの物語であると同時に著者の物理観も伝わってきます。それがアイザック(・ニュートン)、マイケル(・ファラデー)の古典物理学からのアルベルト(・アインシュタイン)の一般相対性理論、ニールス(・ボーア)、ヴェルナー(・ハイゼンベルグ)、ポール(・ディラック)の量子力学の二大ジャンプへ。この物語がイキイキしているのはスーパースターたちがファーストネームで記されていることも一因か。それがマトヴェイ(・プロスタイン)、ジョン(・ホイラー)、(ここらへんはマニアック?)を経て相対論と量子論の融合する量子重力理論に近づいてきます。最近、「超弦理論」についての本は読んだことはありますが、それに対抗するのが著者の提案する「ループ量子重力」。「弦」か「ループ」か、この探索も現在進行形の物語です。やっぱり宇宙ってすごいな、物理学ってすごいな、な本ですが、一番すごいのはそこを理解しようとする人間なのかもしれません、だから本書は物理の物語であると同時に人間の物語でもあるのです。本文はともかく『すごい物理学講義』って書名、安直な訳だと思ったのですが、いや『すごい』でいいのかもしれません。この本の中で章のタイトルになっていたりもするのですが『時間は存在しない』、すぐ読まなくちゃ!

  • アインシュタインが本当に世界的に有名人でもてはやされていたことがわかった。相対性理論はたった一人の人間の頭脳で構築されたとあるが、ピタゴラスからニュートン、から現在に至るまで俯瞰して科学の進展を平易に(自分の考えも含め)紹介してくれているロヴェッリ先生に感謝。宇宙のことが本当に、だんだんわかってきたのもこの2,30年なんだよなぁ。。

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著者プロフィール

1956年、イタリア生まれ。ボローニャ大学からパドヴァ大学大学院へ進む。ローマ大学、イェール大学などを経てエクス=マルセイユ大学で教える。専門はループ量子重力理論。 『すごい物理学講義』など。

「2022年 『カルロ・ロヴェッリの 科学とは何か』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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