薫の秘話

著者 :
  • 河出書房新社
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本棚登録 : 34
感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (442ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309264479

感想・レビュー・書評

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  •  この前読んだ『赤い文化住宅の初子』がよかったので、松田のデビュー作を読んでみた。1990年代半ばに『モーニング』に連載されたものだ。これは、モーニングKCでは全2巻だったものを1巻にまとめた愛蔵版。

     主人公の「薫」は、チビ・デブ・ハゲ・メガネでホモセクシャル(美少年好き)の醜い中年男。
     40代のいまも老母に依存して暮らすパラサイト・シングルで、たまに就職はしてみるものの長つづきせず、勤労意欲もないという、事実上の中年ニートである。

     いまならともかく1990年代半ばにして、しかもデビュー作にしてこんな主人公像を打ち出してくるとは、やはり松田洋子は最初から只者ではなかった。

     この作品は、毒気のある「ルサンチマンの笑い」に満ちたどす黒いギャグマンガである。
     客観的に見ればミゼラブルな薫の暮らしぶりが、悲惨さを突き抜けて笑いを生む。また、薫が自分を棚に上げて周囲に向ける怜悧な悪意の批評(=ツッコミ)が、乾いた笑いを誘う。

     その笑いの底にはペーソスと寂寥感(「生きることの哀しみ」みたいな)が静かに流れており、他に類を見ない味わいのギャグマンガになっている。

  • 薫ちゃんの自分に甘くて他人に厳しいところが大好きっ

  • 小太り・ハゲ・不細工・中年・定収入なし・老母と同居・そして同性愛(美形好き)の主人公、橘薫(たちばなかおる)。格差社会においてさらに底辺に生きる彼には、誰もがうわべをとりつくろう必要がない、ゆえに、醜い本性をのぞかせる。そこに容赦なく毒舌で切り込む薫が痛快。
    また、出来の悪い息子を育てた悔恨に暮れる母、ちねとの自虐的な会話がほろ苦くも可笑しい。老々同居が当たり前になるだろうこれからの時代、読み直されるべきマスターピースである。

  • 主人公はハゲでホモでマザコン、おまけに定職にもついていない中年男性。なんだか救いが無い人物造形だが、その部分に関して彼は完全に開き直っており、マイノリティの立場から世相を斬って行く。ギャグの質がブラックで情報量がそれなりにあるため、内容は意外に知的な印象を受ける。その知性が主人公の唯一の救いともいえるが・・・。作品は1話完結で、まず主人公と母親の掛け合い漫才(大概貧乏ネタ)があり、その後毎回ゲストが登場し主人公が辛らつなコメントをするというのがパターンだが、主人公の魅力の無さの所為でギャグの毒は中和されてしまう。「こいつにだけは言われたくねえ」というアレだ。人間のネガティブな面を抽出しているが不快感は感じないよう配慮されているのだ。ただギャグに時事ネタが多く、多少古臭く感じるかもしれない。主人公の母が老いてなお“母親”の役割を背負っているのは明るく表現している分悲しく同情してしまう。彼女の子供に対する愛情がこの作品の救いになっていることは言うまでも無い

  • もうねこの薫ってほんっとに嫌なやつなのよ<br>でもなぜかはまっちゃうのよ<br>もしかすると近親憎悪かもと思ってちょっと鬱

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著者プロフィール

大阪生まれ、広島県福山市育ち。初めて描いた作品『薫の秘話』が第27回ちばてつや賞大賞を受賞し、95年『モーニング』でデビューする。以降、『秘密の花園結社 リスペクター』『人生カチカチ山』『まほおつかいミミッチ』『相羽奈美の犬』などの作品を幅広い媒体で発表し、2003年刊行の『赤い文化住宅の初子』は、2007年にタナダユキ監督により実写映画化され大きな話題を呼んだ。なお『ママゴト』は、第15・16回文化庁メディア芸術祭の審査委員会推薦作品に選出されている。

「2019年 『父のなくしもの』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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