ヒップホップ・ジャパン

著者 :
  • 河出書房新社
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309266909

作品紹介・あらすじ

ECD、ニップス、シンゴ02、向井秀徳、彼らの言葉は尖っている、胸にささる。日本でヒップホップをやるというのはどういうことなのか。

感想・レビュー・書評

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  • 【NIPPS(ニップス)のリリックは謎だった。どうしてこんな言葉が選ばれ、並べられているのだろうか。ないのならばどうしてラップという表現形式を選んだのだろうか。】P6

    ECDの発言に【強くヒップホップ・ネイションを打ち出す。そうなっちゃうと宗教だな、としか僕には思えなくなっちゃって。】【たとえばブッダ・ブランドの三人は三人ともそうだと思うんですが、ヒップホップより自分達の世界観の方がデカい。】P26を引き出したのは偉い。
    【ラップについて、チャック・Dが言っていたのは、人間は声を出すことで最初、喋ることを発明して、歌うことを発明して、次にラップするってことを発明したんだ、と。それで、ああそうだな、という。だから《ラップ語》というのがあるはずなんですよ】P35と述べている。ラップ語をしゃべっているので、しゃべることによるメッセージの伝達と、ラップ語は別次元の話である。
    しゃべって伝えるのではなく、ラップ語をしゃべっているのだ。
    【ラップとして何が一番先に伝わるかって考えると、意味ではないな、と考えます。特に日本人みたいに言葉がわかんない音楽を平気で聴いていられる人種にとっては、意味ではないな、と思います。】P38
    ここでECDの楽曲のリリックで「マンガ家」と「真ん中」を聞き間違えて、それでも意味が通っていることを語る著者の姿がある。ECDのリリックにたいし【「不幸の手紙棒の手紙」という一句は完全に意味不明である】P42という感想もある。このECDに対してでさえこれである。
    【なんか言おうとしてるでしょ、一生懸命。それ考えなくていいと思う。自分が感じたことを素直に、ほんと一言でいいんだと思う。音なんだから。】P91
    【でもラップって、俺ね、スキャットするみたいな感じでできちゃうことがあるんだよね。何もそこで言葉に意味を持たす必要もない、と思うんですよね。それがたまたま韻を踏んでいたり、語呂が良かったりということはあると思う。たまたま韻を踏んでいて、カッコよく聴こえる、ちゃんと言葉遊びになってる、そうなってればいいと思うんです。カッコよくなくても、ああ、なるほどね、ここでこう韻を踏んだからここでこうなったんだ、とわかるといい。オチがあったりとか。ま、なくてもいいんだけど。ラップって自由だから、何がこうなきゃいけないということはない】P92-93

    【固有名詞を意図して使うことで、それが持っている一般的な性質まで指示できる、ということ、ニップスが特権的に「比喩」と語っているのはそうした言葉の使い方である。】【この使い方の目的はやはり「愉しさ」に直結している】(P110)

    「ピー」音でリリックの一部が消えることについて。
    【ピーに対して特別な感じがないんだよ。英語ならピーを逃れられると思って書いたことは一度もない。そもそもあんまりピーを意識して書いたことがないから。《これはダメかな》じゃなくて、《書いちゃえ》。首捻るまえに、次の行のことを考えてるから。ダメよ、ダメよってキツく言われても出てきちゃうときは出てきちゃうから】P110-111
    【でもどういうときに「出てきちゃう」んだろう。私のそんな問いかけにニップスは一言、「わかんない」と答えた。】P111

    【J でも、あれって歌詞カードついてないでしょ。どうしてつけないんですか。
     N つけてもいいんだけど、面倒くさいというのもあるし。自分の中ではあんまり意味ないし。自分でいちばん意識しているのは、日本語でも英語でもカッコよく聴こえればいい、ということで、あんまり歌詞カードをつけたいと思わなかった。いまだったらつけてもいいと思うけれど。あんまりラップって読むものじゃないと思っていたし、読むものだったら歌う必要ないし。ほんと、こいつくだらないこと歌ってるなあ、と歌詞カードみて思っていても、音源によって全然変わって聴こえる。世の中の汚いことをずっと歌っていても、その口調だったり、ウラの音源で全然変わってきちゃうから】P119-120

    また、Shing02との手紙のやり取りのときに、愛国心や帝国の名詞を持ち出すアーティストにたいし「新しい歴史教科書を作る会」を持ち出して、彼らと同等であるとは思いませんが、そのあたりの微妙な問題をどう思っているのかと聞く。Shing02の回答は「それを言う陣野さんはとりあえず偉いと思います。何故なら、今の日本の一番の問題は、個人の生活範囲を超えて「考えない」「感じない」また「行動しない」ということだと思います。【だからといって、行動や発言をしたとたんに「右だ」「左だ」と社会がレッテルを貼るのは可笑しいですし、自分にプレッシャーをかけるのも違うと思います】P157 と回答している。イーロン登場以前のTwitterにShing02がいれば、袋だたきにあっていただろうが、「哲学や思想、社会学や社会問題は、SNSを牛耳る人間の思想によって決定される」ことはリアルタイムであきらかなので、そのイーロン以前の活動家が一番うきうきしていたころより更に前の、ややのどかでまだ紳士的な交流がなされているので、隔世の感がある。そしてShing02が提案しているのは、愛国心というよりは、行動を起こそうという、右も左も納得できる答えを提示しているが、やはり、左に属する人間はどうしても「行動」も自分達と同じや親和性を持ったもので無ければならないという、機械的に人間をコントロールしようとする傾向にあることが、この陣野氏を観ていて分かる。しかし、これは陣野氏が悪いのではなく、イデオロギーという宗教めいたなにかが自分の意志や、人と和解したり、自分とは異なる人間を受け容れることを拒否させ、人と人とを対立させることに快楽を見いだす考えによっているので、やはりSNSで人と人とが結びつくのが強烈な時代こそ、思想戦争の時代なのだなと思わせる。

    それに、陣野氏は、左派として、なんとか政治性や反体制をラッパーから導き出そうとしながらも、ラッパー全員から肩透かしをやや食らうという凄い仕事をしているし、それをそのまま本として出しているのでとんでもなく偉い。これは皮肉でもなんでもなく、偉業だと思う。よくやってくれたと思う。それに陣野氏は時々本音を言う。【物語る能力、比喩で言葉を紡ぎ出す面白さ。この曲にはそれが圧倒的な分量で、詰まっているのだ。これはシンゴ02というラッパーの高い能力を示していると思う。そして、これは激しい自戒を込めて言うのだが、彼のような存在を対日本、対アメリカのような構図でしか議論できない批評もまた、貧しい】P179 と述べていて、たぶん仕事上左翼になるしかないんだろうけれども、本音のところはこれだろうと思う。

  • 向井秀徳についての記述があるという一点のみで購入したのだけど、なかなか興味深く読めた。
    ECD、NIPPS、Sing02、向井秀徳の4人の詞世界、特にそれをラップとして、意味と共に音楽としても発するという視点で見たときの、著者の解釈、4人それぞれの思いが書かれている。
    特に、ほぼ知らなかったNIPPSのところが面白かった。中原昌也が歌詞を書いた「汚れた花」という曲が、著者が指摘するように、小説での中原の視点と違い、明らかな他者を意識している点。何より「汚れた花」の歌詞がめちゃくちゃ不気味でかっこいいことも知れて良かった。
    ECDが徹底して反復を嫌うのに対し、向井秀徳の歌詞世界は真逆で、ごく制限された語彙によってできている。
    Sing02との往復書簡はその当時のムードもあって(イラク戦争)政治色がより強く、歪み無くナショナリズムをラップに入れ込んでいく日本人としての彼と、生活基盤をアメリカに持つ自分とを、俯瞰した目線で豊富な語彙とテクニックでラップに落とし込んでいるのがわかった。他の三人に比べて基本姿勢が明らかにポジティブなのがなんか、ベースをどこにもつかの違いが見えた。

    基本的に著者の好きな人達に会って話を聞いているので、オタク的熱量が強くこういう、物語では無い読み物としての引いた目線があんまり無くて、ちょっと疲れるかな、、、。まあ、大体読書は楽しいけど疲れますよね。

  • 陣野 俊史はヒップホップを同時代的なモノとして捉えるので、上梓されたタイミングで読むのが相応しい。

    NIPPSのインタビューは貴重。

  • インタビュー本てな感じ、shing02の部分が濃ゆくて読み応えあります。でもところどころ読みにくいです。

  • 2012/3/7購入
    2013/3/12読了

  • 書名負け。
    ECD、ニップス、シンゴ02、向井秀徳らのインタビュー本としての価値のみ。

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著者プロフィール

1961年長崎県長崎市生まれ。文芸批評家、作家、フランス語圏文学研究者。立教大学大学院特任教授。主な著書に『じゃがたら』『渋さ知らズ』『フランス暴動 移民法とラップ・フランセ』『泥海』『ザ・ブルーハーツ ドブネズミの伝説』(いずれも河出書房新社)、『フットボール都市論 スタジアムの文化闘争』(青土社)、『サッカーと人種差別』(文春新書)などがある。

「2022年 『魂の声をあげる 現代史としてのラップ・フランセ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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