ひとを見抜く 伝説のスカウト河西俊雄の生涯

著者 :
  • 河出書房新社
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レビュー : 3
  • Amazon.co.jp ・本 (212ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309272016

作品紹介・あらすじ

藤田平、江夏豊、川藤幸三、上田二郎、山本和行、掛布雅之、大石大二郎、阿波野秀幸、野茂英雄、中村紀洋ら、多くの個性派を獲得。阪神、近鉄で日本球界スカウトの草分けとなった「スッポンの河さん」の、人情味あふれる裏方人生。ひとを見極める力を探る、渾身のスポーツノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 江夏、掛布などの名選手を見いだした伝説のスカウト・河西俊男氏を扱ったノンフィクション。
    ドラフト前の自由競争時代からスカウトとして活躍していた河西氏の生涯は興味深く、また入団させた選手のことを本当に思い面倒をみていたということが伝わった。
    スカウトという仕事は選手を獲得したことで終わりではなく、そのあとのフォローもしっかりする必要がある。自分の仕事でもってそういった部分は見習わなければならないと思った。

  • 阪神、近鉄(後オリックス)でスカウトを務め、藤田、江夏、川藤、上田、山本和、掛布、大石、阿波野、野茂、中村紀などの多くのスターを探し、入団させ、そして引退後まで見もる伝説のスカウト河西俊雄(故人)の人生を描いた一冊。



    どうやったら人を見抜くことができるのだろう?

    プロ野球のスカウトなら誰でも答えを知りたいだろう。

    いや、全てのスポーツに関わる人なら知りたいだろう。

    30年以上のキャリアを積んだスワローズの引退したスカウト部長片岡氏が本を出すと、こういうタイトルになる。


    プロ野球スカウトの眼はすべて「節穴」である (双葉新書)
    作者: 片岡宏雄

    そしてこう結ぶ。

    「人が人を判断することはできない、だが信じることはできる。」


    映画公開で話題になっているマネーボールのビリー・ビーンGMは、人が人を判断する可能性をあえて否定することでデータ重視のドラフト戦略に切り替えて成功している。


    明大から南海に入団し、途中戦争も経験しながら最後は阪神で活躍した河西氏は俊足で鳴らし、外野も内野も守れる名選手だった。

    スカウトへの道は本人が希望した訳でもなく、一軍コーチと兼任しながらスタートし、その後本職として移行していった。


    伝説のスカウトとしては、意外かもしれないがデータを全く重要視していない。

    むしろビリー・ビーンが否定することばかり。

    スピードガンすらあてにしない。

    直感

    センス

    ユニフォーム姿

    グラブ捌き

    フットワーク

    リストの強さ

    第一印象

    なにしろ「スカウト哲学はない」が信条の持ち主。

    選手が大成する条件は、「センス+努力や」。

    河西氏の人を見抜く力は、ひょっとすると伝承できる極意ではなかったのかもしれない。


    ここだけを取り上げると大雑把な人かと思えるが、実はそんことはなく、とても真摯で心遣いの人である。

    スカウティングのモットーが「誠心誠意」。

    勝利だなんだという前に、人の人生を預かる気持ちでスカウト活動をしていたことが読み取れる。

    この本には入団に際してモメたエピソードをどう河西氏がクリアしていったかが数多く描かれている。

    時には選手のおばあちゃんと仲良くなり、時には直球、時には契約金交渉アップを社長に直談判の演技、そして多くの場合は選手の母親と仲良くなる。

    球場では必ず選手のネガティブな発言を慎むことを徹底し、そのおかげで近くに選手の親戚が座っていて、河西氏と部下のスカウトの会話を聞いて感銘を受け、もう少しで入団したというエピソードまである。

    彼の熱意と誠実さに、最初は聞く気がなかった相手もだんだんと彼に心を開いていった。

    もちろん心は開いたものの、初志貫徹で動じなかったエピソードもある。

    現在メジャーリーグで活躍している福留選手がそうだ。

    近鉄が指名しながらも、入団までこぎつけることはできず、福留選手は社会人野球へと進んだ。

    しかし、今回の東海大の菅野投手のように散々指名しないでくれキャンペーンをされながらも河西氏は彼の心を開くことはできたようだ。

    後に日本生命から中日に入団する際、福留選手が挨拶の電話を河西氏にしているようだ。

    なんともヒューマンで心温まる話だし、両人の人柄も浮かび上がってくる。

    また、入団だけでなく退団時の面倒見もとてもよかった。

    選手の引退際を察知し、スカウトにしたり、球団職員にしたり、そのさりげない気配りに感謝している人の数は多いようだ。


    では裏金がとてつもない額で横行していた時代に、札束をバンバンはたいて選手を獲ることをせず、誠心誠意で獲ろうとしたきっかけはなんだったのだろうか?

    私は戦争体験がきっかけのような気がしてならないが、ひじょうに残念なことにその辺りには触れていない。

    きっと河西氏の胸の中でしまいこまれたものなのだろう。


    この本のタイトルは「ひとを見抜く」となっているが、実は河西氏の選手の力量を見抜く極意はきっと彼にしかわからない。

    確かに彼がドラフトで選んだ選手たちを見ていくと、素晴らしい選手が多い。

    しかも一巡目に選んだ選手だけじゃなく、3巡目以下でもスーパースターになる選手を獲得している。

    掛布しかり、岩隈しかり、赤堀しかり。

    しかし私が思うに、彼が伝説になり得たのは、選手の技量を見抜いていたからではなく、選手を最後までサポートする力があったからこそ伝説になったのではないだろうか?

    プロ野球の世界は、当然のごとく甘っちょろい世界ではない。

    猛者が日々争うその世界に到達するものは皆才能がある。

    でもその才能を咲かせるものは、ひょっとするほんのちょっとの差かもしれない。

    そのちょっとの部分を、この人の誠意と人情が選手に自信とやる気と感謝の気持ちを与えていたするならば、それこそが伝説を作り出していた要因ではないだろうか?

    どんなに才能ある若者でも、成長するには何かのきっかけ、後押しがいるのかもしれない。

    河西氏のお目にかかった選手は、入団すると同時に彼から後押しされる何かがあったのかもしれない。


    ブログで書いたから詳しくはここでは書かないが、プロ野球がきちんと色々な制度を整えない限り、こういった人間が数多くサポートしない限り、必要のない痛みをどんどん生み出してしまうような気がしてならない。

    今こそ多くのプロ野球及び野球関係者に読んで欲しい一冊だった。

    人情味溢れるエピソードが詰まっている。

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著者プロフィール

1964年熊本県生まれ。ノンフィクション作家。青山学院大学文学部卒業、早稲田大学第二文学部卒業後、大学に勤務しながら執筆活動に入る。2008年より専業作家に。『巨人軍最強の捕手』(晶文社)で第14回ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。他に『この腕が尽きるまで』(角川文庫)、『人を見抜く、人を口説く、人を活かす』(角川新書)、『「あぶさん」になった男』(KADOKAWA)など。

「2018年 『イップス 魔病を乗り越えたアスリートたち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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