異端の肖像 河出文庫

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309400525

感想・レビュー・書評

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  • 澁澤龍彦による異端者人物伝。
    澁澤龍彦は未熟の天才タイプ、芸術追求による自己破壊タイプが好みなんだろうか。ここに出てくる人物は突き抜けた人が多いけれど、彼らがそうなった時代背景や思想を思い入れたっぷりにかつ冷静に語っている。

    ===
    パヴァリアの狂王ルードウィヒ二世。
    ワグナーに心酔し、中世の世界を城と舞台に再現しようとした。芸術的センスや独創性はあまりなく、自分の求める美だけ求めて、人生でロマン主義をそのものを生きた。
    ヴィスコンティ監督映画「ルードウィヒ/神々の黄昏」で観たことがあるのですが、実に派手で無駄で怠惰。美王ルードヴィヒが男同士の饗宴を広げたり虫歯だらけの口は本当に臭い匂いが感じるような堕落っぷり、無意味にだだっ広い城はなんか寒そうで実際に使えるかどうかは度外視、まさに派手な夢を持ち派手な夢だけに生きることができた、幸せなんだか不幸なんだかという姿だった。
     /「パヴァリアの狂王 19世紀ドイツ」
     
    ロシアの魔術師グルジエフ。
    暗示力とカリスマ性がずば抜け、多くの信者を持ち、思想を説いたが、理解されることにの興味を持たず、そして「生きることに飽きた」ようにあっさり死んだ。
    彼のことは知らなかったけれど、カリスマ性のありすぎる人物というのはこういう影響を与えこうやって生きるのかと興味深深。
     /「二十世紀の魔術師 20世紀ロシア」


    「ヴァテック」の作者ベックフォード。
    資産も身分もありながら社会的に日の目を見ない身となり、隠遁の場として僧院と塔の建築に全身を傾けた。ベックフォードは財産と権力が有り余ったため自分の趣味にいくらでも没頭できて人に迷惑かけない範囲だったというのが良い。しかし彼の作った僧院は完全に壊れているというのが少し残念。なんの実用もないただ趣味と主義だけの建築だなんて見てみたかったです。
    ヴァテックはこちら。
    https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/433603043X#comment
     /「バベルの塔の隠遁者 18世紀イギリス」

    大貴族の詩人ロベール・ド・モンテスキウは、ユイスマンスの「さかしま」、オスカー・ワイルド「ドリアン・グレイの肖像」に影響を与え、そしてプルーストの「失われた時を求めて」の倒錯者シャルリュス男爵のモデルだと言われている。
    この章ではモンテスキュウ伯爵もすごいが、プルーストの変質者っぷりもすごい。
    <一種の怪物的な子供 ー精神は大人の経験を残らず味わったけれども、魂は十歳のままの子供の作品として理解することができるP64>
    そんなプルーストは、社交界に影響を持つ伯爵であり、世紀末倒錯の表現者であり、同性愛者のモンテスキウに、自身の望む悪徳の完成した姿を見たのだろうか。
    モンテスキウの写真が出ているが、細身で鋭角的な顔立ちの優雅で傲岸そうな印象だ。シャルリュス男爵は妻を亡くした悲しみを語るが、モンテスキウは生涯独身だったという。
    しかしモンテスキウは晩年には時代に取り残されていった。かつて彼を追っていたプルーストは、見せつけるようにシャルリュス男爵を頽廃と倒錯の具現者として示してみせた。
    「失われた時を求めて」はこちら
    https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4003751094#comment
     /「生きていたシャルリュス男爵 19世紀フランス」

    青髭公ジル・ド・レエ。
    ジャンヌ・ダルクと共に闘い、魔術に凝り、それでもキリスト教を深く信心し、そのため数百人の子供を殺しながら自分の魂は天国に行くと深く信じて刑死した。
    金と権力と暇の有り余った人物が、子供のままの残虐さと自己顕示をもって成長したら碌なことにならない…、彼らの宗教感は読んでいて頭を抱えてしまいましたよ。
     /「幼児殺戮者 15世紀フランス」


    フランス革命の「死の大天使」「革命の生きた剣」サン・ジュスト(これらあだ名は彼の死後に付けられたものだが)。
    清廉な原理主義から出発し、頭脳も実行力もありあまっていたのに、自分の理想に破れ、自分の死をもって革命に殉ずる。
    澁澤龍彦はよほど彼がお気に入りのよう。「蔵書は右にサド侯爵、左にサン・ジュスト」ってどんな書棚だ。また「ロベスピエールを嫌う者でも、その右腕サン・ジュストには魅了されるようだ」と描いているけどたしかにそうかもしれない。長編白黒映画「ナポレオン」(監督アベル・ガンス)では、ロベスピエールもサン・ジュストも、本当にこんな風だったら良かったと思うようななんだかとても格好良かった。
    実際に革命なんて美しいものではなく、大虐殺が行われ、清廉潔白者の理想より、現実の繁栄を追及した人たちが生き残るわけだけど、だからこそ少しでも美しいものを求め、その象徴がサン・ジュストに現れているのかもしれない。
     /「恐怖の大天使 18世紀フランス」

    デカダンの少年皇帝ヘリオガバルス。
    彼こそまさに金と時間と権力と信仰の有り余ったヤツは碌な事しねえ!!の代表だ、読みながら本当に頭抱えた…。金や権力で他人に迷惑かけなかったベックフォードが本当に可愛いもんだ。
    しかしヘリオガバルスがそうなった時代や地域的背景や、入り乱れた思想や宗教などが描かれていて、人間社会ってすごいな、と思わせられます。
     /「デカダン少年皇帝 3世紀ローマ」

  • 昨年に引き続き澁澤龍彦。
    BOOKOFFオンラインにて購入。
    7人の異端者が取り上げられている。
    とても面白かった。

    私の知らない歴史、固有名詞、エピソードがふんだんに出てくる。特に最後の「デカダン少年皇帝」ヘリオガバルスの章は面白かった。

  • パヴァリアの狂王(ルドヴィヒ二世)/二十世紀の魔術師(グルジエフ)/生きていたシャルリュス男爵(ロベール・ド・モンテスキウ)/バベルの塔の隠遁者(ウィリアム・ベックフォード)/幼児殺戮者(ジル・ド・レエ)/恐怖の大天使(サン・ジュスト)/デカダン少年皇帝(ヘリオガバルス)

  • 狂気と偽物による幻想の城ノイシュヴァンシュタインを造らせたルドヴィヒ二世。神秘思想を体現した二十世紀の魔術師グルジエフ。数百人ともいわれる幼児虐殺を犯した享楽と残虐のジル・ド・レエ侯。ルイ十六世の処刑を主張した熱狂的革命家サン・ジュスト…。彼らを魅了した魂と幻影とは何だったのか。そして孤独と破滅とは何だったのか。時代に背を向けた異端児達を描くエッセイ。(新装版アマゾン紹介文)

  • 2013.06.09読了

    『妖人奇人館』の後に読んだ。
    これに比べるとずいぶん文章が荒っぽいなあ、読みづらいなあと感じた。
    やはり『妖人~』より後の作品だった。

  • 引っ張り出して再読。
    流石に今となっては物珍しさを失った感があるが、何度読んでも面白い。

  • 今まで20年近く存在を認識していながら、何となく読むのを避けていたが、古本屋で出会ってゲット。やはり澁澤だけあって、ただの絵画評論に終わることなく、品のいい知識の清流に足をつけるがごとき心地良さだった。やっぱ、人間、生まれ、だな。

  • 西洋史上の奇人変人7人が同時代の著名な人物や思想とリンクして語られており、いかに彼らが異端であり、なおかつ「#異端でなかったか#」がとても面白いです。<br>
    自分がいかに歴史の本流に目を奪われて線的な見方をしがちか改めて認識し、ガックシ。<br>
    ギュスターブ・モローなんかお好きな人かと思ってたけど、「卑小なデカダンス」と言い放ってるあたり、思った以上に奥深い人かも。<br>
    でもバタイユあたり先に読んでたら、別に〜って思うのかしらん?

  • ちょっとずつの紹介です。だから、詳しく知りたい人には物足りない。名前と概略だけなので、入門編として考えてください。

  • 発散の仕方が普通じゃない人たちを普通じゃなく文章のうまい文学者があれこれ書いています。澁澤氏のエッセイは対象が異端ばかりなのに愛情に溢れた視点で楽しそうに書いているから好きです。

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著者プロフィール

1928年、東京に生まれる。東京大学フランス文学科を卒業後、マルキ・ド・サドの著作を日本に紹介。また「石の夢」「A・キルヒャーと遊戯機械の発明」「姉の力」などのエッセイで、キルヒャーの不可思議な世界にいち早く注目。その数多くの著作は『澁澤龍彦集成』『澁澤龍彦コレクション』(河出文庫)を中心にまとめられている。1987年没。

「2023年 『キルヒャーの世界図鑑』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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