レストレス・ドリーム (河出文庫 し 4-1 BUNGEI Collection)

著者 :
  • 河出書房新社
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309404714

感想・レビュー・書評

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  • もう、ほんと、すさまじい。はじめから終わりまで全力疾走。奇妙な夢の世界でゾンビ達と死闘する1人の女のお話、であると同時に、女として生まれた人間がこの社会で受ける様々な呪いや侮蔑に対し、言葉を武器にして、たった1人で、真正面から闘う「現実の女」のお話でもあった。

    負けたらゾンビになってしまうから、自分でいたければ戦い続けるしかない。まさにレストレス(休みなし)バトル。すごいとしか言いようがない。読みながら自分もバサバサ切り刻まれる心地がしたし、いい加減休ませてくれーと叫びたくもなったし、変幻自在の豊かなイメージにこめられた鋭いブラックユーモアに笑った。

    テレビゲームのような設定およびアクションだ。回転仏間や無限鏡砂漠のダンジョン感たるや。若妻ゾンビとの対決なんかアニメでも見てるようだった。それもこれもあくまでもゲームであるという意味でこの世界設定なんだろう。お前らの伝統やら「現実」はゲームであり夢なのだと。

    桃木飛蛇が回転仏間でゾンビのカーニバルに無理矢理参加させられる様なんて、まんま法事で田舎に帰った独身女性の災難そのままで、解像度の高さに、笑いごとではないが笑ってしまった。ゴミ出し戦争も笑った。都会で原子として生きる分には問題にならないが、田舎に帰ると噴出するあれこれ。

    ラスボスの「ゾンビ王子」の造形もキャラクター設定も皮肉が山盛りで、これも読みながらにやけてしょうがなかった。60代のくせに自称少年のナルシストゾンビ。小娘にすら母性を求めながら「男は永遠に少年の心を持っているのだ」とか言えてしまう中高年男をあれこれ思い出した。絵にしたらまさにこの「ゾンビ王子」ではないか。

    そして、『だいにっほんおんたこめいわく史』のタコグルメがもうこの時期からいたのは驚いた。まだ王様ではないにしろ、甘やかされし傲慢肥満マザコン男として嫌らしさを爆発させていてまったくブレてなくて良かった。

    階段地獄の「馬鹿女」解体バトルもしみじみ好き。相変わらず言葉のセンスが鬼のよう。肩車で娘の首をしめる先祖代々の母達も滑稽さそのままにリアル。ただ一点、アニマだけは色々と身につまされて辛かった。

    飛蛇がなぜ蛇なのかを考えると面白い。蛇といえば楽園追放の悪役だ。この物語の場合、スプラッタシティが楽園とすれば、誰にとっての楽園なのか。答え: ゾンビ。

  •  硝子生命論に引き続き、二冊目の笙野女史であったが、どちらも毛色が違いながら主題は同じ作品であると思えた。
     ただ、こちらの方が面白かったかな。克明に描かれた悪夢の物語である。

     この作品を、というか二作ともなのだけど、何にしろこれらをフェミニズム的な視点から受け取ることにいささかためらいを覚える。
     もちろんそうした概念を用いた作品ではあるが、もっと根源的に自己を描くにあたって、その自己の一側面としてフェミニズム的側面が存在し、その面が強いという印象を受ける。
     醜悪に描かれる男性像は、同時に女性像をも鏡写しに醜悪なものとしている。つまりは、より根源的に人を描いていて、その突端がフェミニズムという寸法である。
     ここまで自己をさらけ出してえぐり出した作品で、ただフェミニズム的側面だけを取り出すのは、読者として不誠実にすら感じられる。
     他律的ではなく自律的な自己の獲得、というと陳腐で身も蓋もない解釈になるが、自己を獲得したことで蛇はお姫様に戻ったのだろう、と私としてはシンプルに解することにした。女性であるからフェミニズムとなろう、しかし、地獄は女性にだけ限られたものでないことは物語の中でも記述されているところである。

     それにしても、今更ながらに読んで作者の着眼には空恐ろしいものを覚える。
     言葉の世界に、虐殺という習慣がカーニバルとして行われ、細かな形骸化したシステムを無視すれば村八分、外からの人を受け入れ定期的にその世界へ落とす。
     その意図するところではないだろうが、個人的にはインターネットそのものの暗喩にしか見えないのだ。それだけに、本当に恐ろしく、その知性には脱帽するのみである。

     あと、余談であるが、巻末の解説は面白く読んだのだけど、読後感の邪魔になった気もする。他者の解釈も面白いには面白いのだけど。

  • 「レストレスドリーム」「レストレスゲーム」「レストレスワールド」「レストレスエンド」の連作。

    再読。RPGのような共通夢に入ってゾンビと戦うという設定自体はとてもSFっぽいけれど、けしてSFにならないのが笙野頼子ならでは。武器はある意味、言葉そのもの。もちろん物理的な武器も手にしているけれど、基本的には文字を打ち込むことで主人公は闘っているように思う。

    それにしてもあまりにも具体的すぎる悪夢。それだけに「いつか王子様が」の流れるラストシーンは一種奇妙なカタルシスがありました。しかし笙野作品では王子様は迎えに来るどころか、迎え撃つべきラスボス。王子を倒して大団円というこの皮肉。

  • やっと読み終わった…。ラストのスピード感は半端無かった。
    笙野頼子はフェミニズム的な論じ方をされるけど、それは単なる材料にすぎなくて、ことばそのものが対象であるというのに納得。

    結局、現実の跳蛇は、とか、現実では、とか言ってたけどその現実っていったいなんだったの。どこにあるの。
    (今今、どこにもないところに、あるのだろうか。)

  • 言語世界で構成された悪夢の闘技場の中で繰り返されるゾンビと言語と性差と闘う桃木跳蛇。言語ゲームの体裁をとりつつ、悪夢の世界の根幹は、日本語の構造ごと取り憑かれている女性差別、「昔々あるところに」で始まる王子様とお姫様の(男から見た都合の良い)物語。ラスボスは「王子様」。この生死を賭けたゲームで、ジェンダーの呪いから解放された「女」として生存出来るかどうかを賭けて闘っている。一体この人の頭の中はどうなっているのだろう?と覗いてみたくなる様な読後圧倒されてしまう小説。

  • す、すごい。の一言。
    誰かこれ映像化してよ、って感じ。
    再読したい一冊。
    普通の小説でこんなにエキサイトしたのは初めてだ。

  • 簡単に言えば、主人公がゾンビと戦いながら悪夢から脱出するという話。ゲーム感覚で話は進む。その内容はライトノベルのようだが、文章が純文学だ。難しい言葉も多くて、辞書なしでは読めなかった本。そのたびに中断してそれがまどろっこしかった。自分の教養のなさのせいだが。ゾンビとの戦い方が笙野氏らしいと思った。不可能にちかそうだが、映像で見てみたい。目からウロコの面白さだ。

  • 未読。
    ※ランク付け反対のため常に★5

  • 言葉・リズムに潜むジェンダーを潜り抜けるブス女小説<br />
    まとわりつくような文体が気持ち悪し<br />
    『負け犬』読むならこっち読んで欲しい

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著者プロフィール

笙野頼子(しょうの よりこ)
1956年三重県生まれ。立命館大学法学部卒業。
81年「極楽」で群像新人文学賞受賞。91年『なにもしてない』で野間文芸新人賞、94年『二百回忌』で三島由紀夫賞、同年「タイムスリップ・コンビナート」で芥川龍之介賞、2001年『幽界森娘異聞』で泉鏡花文学賞、04年『水晶内制度』でセンス・オブ・ジェンダー大賞、05年『金毘羅』で伊藤整文学賞、14年『未闘病記―膠原病、「混合性結合組織病」の』で野間文芸賞をそれぞれ受賞。
著書に『ひょうすべの国―植民人喰い条約』『さあ、文学で戦争を止めよう 猫キッチン荒神』『ウラミズモ奴隷選挙』『会いに行って 静流藤娘紀行』『猫沼』『笙野頼子発禁小説集』『女肉男食 ジェンダーの怖い話』など多数。11年から16年まで立教大学大学院特任教授。

「2024年 『解禁随筆集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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