文章教室 (河出文庫―文芸コレクション)

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (326ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309405759

感想・レビュー・書評

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  • 『文章教室』は、長編小説です。(「文庫本のためのあとがき」冒頭)。

    この「あとがき」も、とぼけつつ冴えてて笑えるが(ほんとうに見事!)、この文庫で二度目の文庫化。
    それでようやく出会ったのだから、とにかくありがたい。
    タイトルが『文章教室』で核となる場所が「目白」ならば、やはり中心人物は「現役作家」ということになるのだろうけれど、主人公、とは言えない、かな。

    佐藤絵真って「エマ」だよねぇ、フローベール?あるいはオースティン?

    これは、作中の語を借りれば「メタ・ノヴェル」、いや「メタ「メタ・ノヴェル」」、いやいや、メタ・メタ・……!
    メッタメタだ、というのは讃辞です、『文学賞メッタ斬り!』を読まずとも、底本1985年のこの小説で、すでに文壇の内情も丸わかりではないか。

    人名、誌名、地名、お店の名前、その他、虚実取り混ぜて(天沢退二郎の名まで出てくる!)、文芸批評も含めた狭義の文壇のみならず、大学文学部(大学院文学研究科)の内実(登場人物しかり、「ユリイカ」「現代詩手帖」といった固有名しかり)まで「メタ◯◯」化した小説って、初めて読んだかも(そういう意味では『文学部唯野教授』なんて「かあいい」ものだった…)。

    読み進むにつれて、登場人物全員に少しずつ(実のところは相当に)「苛々」させられ、なのに「おまえだってそうじゃないのか?」と質されれば抗弁できない、イタいところを突かれるばかり。
    すべて作者の意図によるものだから、イタくてもそれは自身で受け止めるしかない、そういう意味ではやはり爽快。

    ここまで多様な視点からそれぞれの言葉遣いでもって(「言い間違い」もありますが、それもわざとですよね)書き分けられている…、ジェイン・オースティンもびっくり、です。
    これだけ的確ならば、相当たくさんの約物で引っかかっても私は大丈夫、モリマリばりだけれど、モリマリで鍛えられているから。
    むしろあちこちで引っかかりつつ正確に読むべき。

    この小説の中の虚実の区別はつくほうが愉しいはず(もっともそれさえもすべて単なる「ターム」だと言ってしまってもいいのだ、…記号論?あたしゃそんなのさっぱり、だわ)。
    底本から20年以上経って、「ポスト・モダン」とか「構造主義」とかナントカカントカ、少しだけ見えるようになったから余計に愉しめたとも言える。
    つまり私は20年はトシをとったんだ!
    今ならおそらく『岸辺のない海』も大丈夫(刊行間もなく読もうとした私が熟していなかっただけだ)。

    最後に、完全なる個人的余感ながら、この小説の一方の主人公である絵真とその娘の桜子、私には、後者がオースティン『ノーサンガー・アビー』のヒロイン、前者はその行く末(オースティンは書いていないけど)に思えてしまいます。

  • 金井美恵子、三冊目。

    「恋をしたから〈文章〉を書くのか?〈文章〉を学んだから、〈恋愛〉に悩むのか?」

    紹介文が目を引いた。
    解説にあるように、語り手は誰か?(引用文を考えると絵真のように思えて、そもそも夫を佐藤氏呼びするのも、うーん)という疑問はあるものの、ひとまず不問とする(笑)

    不倫をしている夫と、大学生になって目の届かない生活をしている娘の中で、絵真に生まれた時間。
    それを彼女は不倫と文章教室に生かそうとする。
    書くという行為が、彼女を主婦という役割から絵真という個人に引き戻したのか、ある日唐突に彼女は目白の実家に一人戻ることを決めてしまう。

    「そんな理由で」役割放棄することを娘の桜子は責めるのだが、この部分の違和感って何だ。
    「家に居る」ことが存在意義というのだろうか。
    例えば一人でスキヤキをつついている間に、夫が不倫していようと、娘がデートしていようと、そこは当たり前のように流される。
    でも、娘が同じシーンに遭遇すると渡辺氏は「かわいそう」に感じる。きっと、夫であっても。

    そんな娘が今度は「結婚」への憧れから、中野青年に恋をする。
    中野青年は桜子に黙ってイギリス才女ディードラと既に付き合っているのだった。
    中野青年とディードラのくだりは結構好き。
    ここでも、「結婚」の持つ役割分担を殊勝に演じる桜子と、まんまと騙される中野青年がいる。

    男女の在り方と、役割からの脱却。
    結局、女の方が立ち回りが上手いんだよなあ。

  • ご存知目白シリーズ最初の長編小説。以前読んだ時は「自分」に目覚めた(?)主婦への辛辣な視線が印象に残ったのを覚えているが、読み返してみて、いやいやこれは実に端倪すべからざる企みに満ちた小説だとあらためて思ったことだった。こうして「文章」を書くのがなんだか怖くなってしまう。

    これを読んだ人の多くが「現役作家」は誰がモデルなのかと思うだろう。そこら辺をしれっとした調子で痛烈に皮肉ったあとがきが恐ろしくも可笑しい。自分で書いて今気づいたが、金井さんの書かれるものはいつもそうだなあ。ひぇ〜っとふるえあがりながら笑える。

  •  色々な楽しみ方がある本だと思う。風俗小説として読むと、人々の思惑が交差しあう様子や人々の持つ心の空虚などに共感や苛立ちを覚えることができて楽しかった。また、本作は地の文と主人公の日記からの引用文、作中の現役作家の著作や実際に存在するだろう書籍からの引用文とを繋ぎ合わせてできた小説であり、この引用文というのが抜き出すとどれも似たり寄ったりに感じられることから、「文章を書くこと」とはどういうことなのか?という投げかけや皮肉にもなっているように思う。

  • 近頃、一日一金井美恵子しないと落ち着かない日々。基本、どの登場人物とも距離をおいた書き方がされていて、紋切り型という形容が何度か登場するのだけれど、けれども多かれ少なかれ紋切り型でなければ生きていかれない人間の性というのも丁寧に描かれている。ましてや、本書の主な主題は恋愛でもある。恋愛には紋切り型がつきもの。

  • [ 内容 ]
    恋をしたから「文章」を書くのか?
    「文章」を学んだから、「恋愛」に悩むのか?
    普通の主婦や女子学生、現役作家、様々な人物の切なくリアルな世紀末の恋愛模様を、鋭利な風刺と見事な諧謔で描く、傑作長編小説。

    [ 目次 ]


    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • どこにでもあるような目白の〈平凡な中流家庭〉の主婦、娘、フランス文学の助手、〈現役作家〉の視点で織りなせれる〈物語〉は書かれた頃の、1985年の〈リアリズム〉小説で、〈フローベルの『ボヴァリー夫人』を下敷き〉にしつつ、日本の作家の文章の〈コラージュ〉で出来ていて、丸谷才一の『文章読本』のパロディでもあるらしい。エッセイと同じように毒を含み、『岸辺のない海』と同じように「書くこと」を中堅の純文学を書いている〈現役作家〉を通して書かれている。女子学生、中年の男女、作家、編集者、批評家などに向けられる諧謔精神。

    なぜ自分は金井美恵子が好きなのかと考えていたが、本人はもちろん意識していないだろうが、アイルランド人に通じる諧謔精神と毒のあるユーモア、言葉遣いの巧さが好きなんだろうなと思った。
    複数の視点がある点は南米文学のようだ。
    巻末の創作意図を語る〈金井美恵子インタビュー〉も面白かった。(もしかしたらこれもフィクション?)

  • タイトルからすれば谷崎や三島の『文章読本』の金井版に見えるのだが、実はこれはれっきとした長編小説なのだ。後に書かれた3作と合わせて「目白4部作と呼ばれるようになる作品群の第1作にあたる。小説作法はかなり独特だ。小説中には多くの他の作家の作品が引用されたりしつつ、同時に自身の作品をも含めた批評意識が同時進行していく。プロット自体は、ありきたりの恋愛(けっして燃えるようなそれではなく)が描かれているに過ぎない。それでは、何が小説を形作っているのか。様々な、(わざと)当たり前に語られる「言説」こそがそれである。

  • 面白かった。登場人物たちはそれぞれわざとらしいくらい類型的に描かれている。しはしば作中でも台詞を喋るように、とか書き割りのようにとかいった描写が出て来たり、芝居のト書きのように会話が書かれていたりする。
    それはそれぞれの役割にたいする自己言及のように思われる。主婦と言う役割、娘という役割…。
    それぞれの人物を描く作者の視点はとことん突き放し、ひたすら第三者に徹し、時に嘲笑しているようだが、その緻密な筆致には単なる役割を割り当てている以上の作者としての役目を感じる。

  • 『目白四部作』の1冊。
    シニカルだったり滑稽だったり、ストーリー的に大きな動きはないが飽きずに楽しめる。
    あとがきに『文章の出所を「註」という形でつけてみたい』とあったが、本当に註がついていたらどうなっていたのか、ちょっと気になる。
    流石に煩雑すぎるだろうかw

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