うつろ舟―渋澤龍彦コレクション 河出文庫 (河出文庫 し 1-41 澁澤龍彦コレクション)
- 河出書房新社 (2002年9月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309406626
作品紹介・あらすじ
常陸の国はらどまりの浜に流れついたガラス張りの"うつろ舟"。そのなかには、金髪碧眼の若い女人が、一個の筥とともに閉じ込められていた。そして繰りひろげられる少年との夢幻的な交歓-古典に題材をとりながらもそれを自由自在に組み換え、さらに美しくも妖しい一つの"球体幻想"として結晶させた表題作のほか、珠玉の八編。渋沢龍彦、晩年の代表作。
感想・レビュー・書評
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Tasso再読祭継続。
『ねむり姫』同様、様々な典籍に材を取った幻想時代劇、
全8編。
『ねむり姫』が「陽」なら、こちらは「陰」。
凄惨な怪談の気配が濃厚だが、表題作は
キーワードの「多幸感」が示すとおり、妙に朗らか。
以下、特に印象深い作品について。
■「魚鱗記」
江戸時代の長崎で流行したという「ヘシスペル」なる
水槽の魚を使った賭け事、
それにまつわる悲劇、そして怪異。
ラストは小泉八雲の怪談のように、しんみりと物悲しいが、
事件の鍵を握る不気味な少年の素性は謎のまま。
■「花妖記」
鞆の浦に着いた商人が出会った、
地元の分限者の次男坊は、昼から飲んだくれ、
奇妙な話を始めた……。
エロティックと見せかけて、おぞましい怪談。
夢野久作の短編をエレガントにしたような。
■「菊燈台」
土佐の伝説「宇賀の長者」、
延いてはそれを翻案した田中貢太郎「宇賀の長者物語」を
ベースにした奇談。
人魚と契り、記憶を失って人買いに攫われ、
製塩所の苦役に就く美青年は……。
水の精、また、火の精の死の抱擁。
■「ダイダロス」
タイトルはギリシア神話に登場する発明家で、
イカロスの父。
宋から日本へ渡り、
源実朝のために巨船を建造した陳和卿だったが、
船はあまりに大きく重すぎて進水すらままならず、
浜辺で朽ちていった。
面目を失った陳は隠れ家に蟄居し、
人語を解す鸚鵡と語らいながら酒に浸っていたが……。
幾重にも折り重なった人の夢を切り裂いて海に還った
一匹の蟹もまた、何ものかの夢の中に棲む、
堅い甲羅よりむしろ儚い泡に近い存在だったのかもしれない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『ダイダロス』は由比ヶ浜の砂に埋もれた大船がモティーフ。実朝自体は登場しないが、彼の寂寞、墜えた夢が濃霧のように朽ちていく船を覆っている。
表題の『うつろ舟』補陀落渡海ではなく「他界から来た神々の乗り物」としてのうつろ舟。言葉通りならば中は空っぽということか。諸行無常 の法文を象徴しているのだろうが、そんな故事説話、死や仏法さえも作家の手にかかれば皆等しくお遊びの種になる。
どの短編も稚気とユーモアが感じられて、後味は清々しい。澁澤玩具のイリュージョンにクラクラと酔う悦び。
「わたしは実朝公の夢に、かたちをあたえてやりたかった。もし実朝公が空を飛びたいといったら、翼をつくってやったかもしれない。まあ、一種の玩具のようなものだが、わたしはもともと職人だからね、玩具をつくる以外になにができたろうか。それに、あの実朝公が、玩具以外のなにを必要としていたろうか」 -
澁澤文学を読むと、よくわからない欲望が満たされるのを感じる。
本作はいくつかの怪談からなる短編集である。どれも耽美的なものであり、文字の行間を追うと、花の香りにも似た濃厚過ぎる芳香が漂ってきそうだ。 -
コレクターが災難に逢ふのは、澁澤フィクションのお約束である。
『髑髏盃』の、アルハラ受けたお姉さんがひっくり返ると女性のナニから這子(わからなかったらサルボボみたいなのでいいです)みたいなのが出てきて、と言ふのは不気味でよい。
『うつろ舟』多分映像化不可能。なんかよい。
他大変よろしい。 -
2008年11月3日~4日。
この人の小説にははずれがない。
少し曖昧な終わり方が多いが、それも味。 -
日本の美的感性の発明というか、提示
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2014
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※収録作品(福武文庫と同じ)
「護法」「魚鱗記」「花妖記」「髑髏盃」「菊燈台」「髪切り」「うつろ舟」「ダイダロス」 -
時代的には江戸時代をモチーフにした幻想小説。
怪しい感じが面白かったし、短編で読み易かったです。 -
護法
魚鱗記
花妖記○
髑髏盃
菊燈台
髪霧
うつろ舟◎
ダイダロス -
一話目の「護法」:これいいなあ。うっとりした。
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澁澤龍彦が亡くなって25年になるとのこと。
彼の作品は、河出文庫で読むことができる(49冊もある)。
絶版にならずにあるというのは凄いこと。
基本的な古典になりつつあるのだろう。
本書は、小説集。日本の中世を舞台にした短編集。 -
ションポロロン的な効果音がかっこいい。おとぎを幻想的に描き、タイムマシン的描写で放った、実験小説。文字だけで追うと、少しイメージを捉えにくいが、丹念に想像を膨らませ読んでいくと、かなり楽しい。エッセイ主体の著者が、文学的仕掛けを凝らした意欲作。
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968夜
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幻想短編集。
ねむり姫と高丘親王~が好きだった自分にはちょっと下品すぎる気がして若干抵抗が。
特に劇的に面白い場面もなかった気がする。 -
常陸の国はらどまりの浜に流れついたガラス張りの“うつろ舟”。そのなかには、金髪碧眼の若い女人が、一個の筥とともに閉じ込められていた。そして繰りひろげられる少年との夢幻的な交歓―古典に題材をとりながらもそれを自由自在に組み換え、さらに美しくも妖しい一つの“球体幻想”として結晶させた表題作のほか、珠玉の八編。渋沢龍彦、晩年の代表作。
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不可思議で、甘美。禁を犯すような桃源郷。
だからこそ魅かれる世界。 -
表紙違い。
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短篇8篇。護法魚鱗記花妖記髑髏盃菊燈台髪切りうつろ舟ダイダロスタイトルだけで読みたくなるでしょう?