現代語訳 南総里見八犬伝 下 (河出文庫 古 1-3)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (609ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309407104

作品紹介・あらすじ

全九集九八巻、一〇六冊に及び、二十八年をかけて完成された日本文学史上稀に見る長編にして、わが国最大の伝奇小説を、白井喬二が雄渾華麗な和漢混淆の原文を生かしつつ分かりやすくまとめた名抄訳。ご存じ、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の八つの徳を体現する八犬士の壮大な長編史伝が、その粋を集めた最も読みやすい現代語訳で、今ここに甦える。

感想・レビュー・書評

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  • 下巻感想では登場人物について書いてみる。

    八犬士たちは、以下出てきた順で。

    【犬塚 信乃 戍孝(いぬづか しの もりたか):孝の玉】
    最初に出てきたためか、出番も多く祖父母の代から自分の子供自体の生い立ちまで詳しく書かれる。読者に「犬士たちはこんな感じで出てくるからね」という紹介も兼ねてるのかもしれない。

    【犬川 荘助 義任(いぬかわ そうすけ よしとう):幼名額蔵。義の玉】
    母は行き倒れ、信乃の叔父夫婦の下男としてタダ働き。信乃とは跡取り息子と下男として出会い、互いが同じ玉を持ち、祖父の代からの宿縁を知り、義兄弟となる。
    今後他の犬士たちが出会って義兄弟となって行くのだが、読者に初めて「犬士同士が出会い、自分の宿業を知り、犬士同士で義兄弟となる」を示す例なんでしょう。
    犬士として活躍する前に「孤児となり、下男としてこき使われ、主人の仇を売ったら殺人者の濡れ衣で捕縛、拷問され、あやうく処刑されそうになる」という、犬士の中では案外酷い目に合っている。

    【犬山 道節 忠与(いぬやま どうせつ ただとも):忠の玉】
    初登場時はほとんど山師(笑)。父とその主君の仇を狙い、怪しげな術で金稼ぎ。
    「火遁の術」「仇討のため全国巡り」というキーワードで、私の勝手なイメージでおっさんだと思っていたんだが、まだ20歳ちょっとの凛々しい顔立ちの若者だったようだ(笑)。
    信乃の許嫁の浜路とは異母兄妹で、瀕死の浜路に再会(ほぼ初対面だけど)し、妹が虫の息で「信乃さまにこの名刀村雨を届けてください」と願うのを「いや、ちょっと仇討に借りる」と一時的に無視するという、実に自分の都合に真っ直ぐな人である(笑)

    【犬飼 現八 信道(いぬかい げんぱち のぶみち):信の玉】
    足利成氏に仕えていたが、成氏の怒りを買って投獄されていたところ「曲者が城に入った!ひっとらえろ!」との命令により牢から出される。
    その曲者とは信乃の事なんですけどね(笑)。二人は城の天守閣で決闘を行う。
    この場面は子供の頃の私が一番好きな場面で、いくつもの本を借りてはこの部分を読んでいた。

    【犬田 小文吾 悌順(いぬた こぶんご やすより):悌の玉】
    小文吾の母が幼い現八を育てた。
    親孝行で相撲が強く地元では頼りにされ…まあ地元の若衆のアニキですね。

    【犬江 親兵衛 仁(いぬえ しんべえ まさし):仁の玉】
    子供の頃から私は「仁」は「ひとし」だと思い込んでいた。この字で「まさし」って読むって知らなかったわ。
    小文吾の甥。初登場時4歳で、すぐ神隠しに合い(伏姫の神霊に守られていたんだが)、割と終りのほうまで出てこない…んだが、出てきたと思ったら八つの人徳の最上級「仁」の玉に相応しく縦横無尽の大活躍。再登場時10歳だが18歳くらいの外見に知力腕力、一人で城一つ掌握するとか神薬を持ってるとか使者として京都に向かったら気に入られて困っちゃったとか、人間扱いしていいのかこの人。里見八犬伝連載28年の間で想像すれば、5年目くらいに出てきてすぐ行方不明になった子供が25年目くらいに出てきていきなりほぼ主役と言う感じかなあ。当時の読者は混乱しなかったのだろうか(笑)
    さて、八犬士たちはラストでそれぞれ里見の姫と結婚するんだが、仁のお相手は一の姫。いったいどのくらいの姉さん女房なんだろうとは昔からの疑問(笑)

    【犬坂 毛野 胤智(いぬさか けの たねとも):智の玉】
    父は城主、側室だった母が落ち延び、三年身籠って産まれた。父の仇討のために女曲芸師として修行を積み、武芸知略に優れ、里見家にの軍では智将として参謀役を務める。
    …だなんて十分主人公たる経歴だというのに、この話では八犬士の中の一人に過ぎないとは贅沢と言うかなんでもありと言うか(笑)
    亡父の仇討場面はなかなかの迫力。

    【犬村 大角 礼儀(いぬむら だいかく まさのり):礼の玉】
    幼名は角太郎。
    父の一角は腕に覚えのある郷士だったが、化け猫退治に出たが返り討ちにされ、その化け猫は一角になり替わる。化け猫の一角は現八により傷を負う。そして角太郎の妻雛衣(ひなぎぬ)の腹を裂きその胎児の血と母の心臓を混ぜたものを飲めば治ると、雛衣に自害を迫る。
    化け猫退治は中盤の見せ場。八犬士たちがあまりにも強いので常人では敵として迫力不足、化け猫でやっと相手になるというか。
    私はスーパー歌舞伎でこの化け猫の場面を観たことがありますが、早変わりや一人数役、だんまり(暗闘。暗闇で戦っているという設定を明るい舞台で演じる)を使ってのなかなかおどろおどろしさだった。


    …こんな八犬士全員が一堂に会した時は馬琴先生も嬉しさを隠しきれない様子。

     第9集 巻の19 第126回
     ああ、時なるかな、命なるかな、八犬はいよいよここに勢ぞろいして、ヽ大の縮望空しからず八行の玉は一つに繋がれたのだ。読者各位もおのずから微笑されるであろう。作者二十四年の腹稿は今にしてその小団円を見たのである。

    さて、こんな犬士たちに対する適役ですが、やはり相手になるのは物の怪の類、生身の人間ではどうも物足りない。

    里見家に最大の呪いをかける玉梓(たまずさ)、中盤の見せ場を作る化け猫、終盤は玉梓の呪いを受けた化け狸。
    人間の敵で頑張ったのは、毒婦船虫(ふなむし)か。犬士たちの、特に小文吾の前に現れては邪魔したり命を狙ったり宝を奪ったり。夜鷹になったり強盗になったり人殺ししたり強かに悪道を行き、人間の中では活躍した方の悪役のため相当壮絶且つ凄惨な迎える。

    乱世の合戦相手は鎌倉公方足利家、関東管領扇谷家が主だったところ。
    (…余談ですが、子供の頃の記憶で「扇谷」を迷わず「おうぎがやつ 」と読めましたよ(^-^))
    しかしやはり所詮は生身の人間、神となった伏姫のご加護がある里見家に適うわけがない。

    さて、化けもんが出てくるのだから怪しげな民間療法?もいろいろ出てくる。
    「破傷風の傷には、男女の血を五合ずつ混ぜたものを濡れば治る」⇒実際にそんな血を被ったら瞬時に完治。
    「百年物のマタタビと、妊婦の血と、その胎児の血を混ぜたものが薬になる」⇒親孝行のために了解して自害する女性…
    「子供の血を親の髑髏で受け止めたら血は零れない」⇒それで野晒し頭蓋骨が父の物と証明された。
    滝沢馬琴のその時代には実際にこういう呪いや代々伝わったものがあったのですね。

    滝沢馬琴はこの話を28年かけて書き、実際は膨大な量になるのですが、この版だと現代語訳が分かり易く実にサクサク話が進み実に読みやすい。読んでいたら子供の頃の感覚が蘇り、やっぱり全部の版を読みたくなってしまった。

    • yamaitsuさん
      淳水堂さん、こんにちは!(^^)!何度もお邪魔してすみません<m(__)m>

      角川映画、思わずWikiで調べてしまいましたが、てっきり...
      淳水堂さん、こんにちは!(^^)!何度もお邪魔してすみません<m(__)m>

      角川映画、思わずWikiで調べてしまいましたが、てっきりゝ大法師だと記憶していた千葉真一が道節だったのにビックリ。小文吾の肩に乗ってた子供が荘助だったっぽいです・・・。

      スーパー歌舞伎だと道節が主人公みたいな感じなのでしょうか。確かに火遁の術とか使って派手な感じなので歌舞伎似合いそう!信乃と毛野はやはり女形役者さんが演じられるのですね。ベルばらを宝塚でやるときオスカルを男役の方が演じるのと同じ法則?(笑)
      私は実は八犬士では現八がお気に入りなので、最近のドラマや映画だと扱いイマイチなのが残念なのですけど、歌舞伎や錦絵だと芳流閣での信乃との対決場面が見せ場になるから、扱い良いのが嬉しいです。化け猫退治も現八ですし。

      毛野、原作では実は八犬士の中でいちばん怖いというか容赦なく敵を殺すタイプで、研究本の類では悪女の系列(船虫など)に分類できる点などを指摘されてたりします(苦笑)実際、自らの手で親の仇を惨殺してるのは毛野だけですし、里見の軍師になってからも「皆殺し作戦」とか考え出して結構クールというか冷徹なんですよね。足手まといの女子キャラ扱いはきっと不本意でしょう(笑)
      2017/02/17
    • 淳水堂さん
      yamaitsuさん
      いえいえ、お話できてうれしいです★

      原作の毛野は容赦ないというのと、
      他の犬士たちは友情!仲間!全世代からの...
      yamaitsuさん
      いえいえ、お話できてうれしいです★

      原作の毛野は容赦ないというのと、
      他の犬士たちは友情!仲間!全世代からの因縁!と言う感じですが、毛野はもう少し独立しているような感じですよね。
      やっぱり身元も性別も隠して一人で世間を渡ってきたから根本が厳しいのかな。
      里見家でも、他の犬士たちはなんでもできます!とう感じですが毛野は作戦参謀に就いて役割が明確だし。
      この人この後普通にお城勤めできるんだろうか、ふら~っとどっかに放浪しそうだな(笑)

      しかし八犬伝は読む分には本当に楽しめるのですが、
      自分があの時代に暮らせるかと言うと生きるのが大変そうだなあ(++;)
       親の病気治療のために自害するのが親孝行とか、
       親が死んだら一生タダ働きとか、
       濡れ衣着せられてあやうく獄中死とか、
       道歩いていたらいきなり物取りに狙撃されるとか、
       悪女として独立している船虫の話だって、旦那が死んだ女は他の男を頼ったり夜鷹になったりするなんてたくさんあったんだろうな~とか、
      こんな世の中で自分がまともに生きられる自信がないorz
      まあだからこそ読んで楽しむんですけどね(笑)
      2017/02/17
    • yamaitsuさん
      淳水堂さん、こんにちは!(^^)!

      確かに、たとえ親孝行とはいえ胎児を舅の治療ために差し出せと言われても絶対無理です(@_@;)
      江...
      淳水堂さん、こんにちは!(^^)!

      確かに、たとえ親孝行とはいえ胎児を舅の治療ために差し出せと言われても絶対無理です(@_@;)
      江戸から明治にかけての八犬伝評では、犬士たちの言動が清廉潔白すぎて「勧善懲悪の化け物」等とディスられたりする傾向もあったそうですが、まあそれだけ悪と善の対比が明確だったということでしょうね。
      とはいえ、よってたかって船虫を殺害した犬士たちは、結構残虐だったとも思うのですが。そしてそこが八犬伝の面白さだったりもして。

      後半、親兵衛が主人公になってからつまらなくなるのは、戦争で一度は殺した相手を親兵衛が「伏姫からもらった霊薬」とやらで全員生き返らせるなどの偽善を働くなどするからで、これはさすがに興醒めしちゃいます。

      ちなみに八犬士たちは、お姫様たちと結婚してしばらく里見に仕えたあとは、後のことはもう知らんとばかりに八人仲良く山奥に隠棲して仙人みたいになっちゃったそうで、ちょっと無責任(笑)
      2017/02/20
  • うーん、期待が高かった分、あまり楽しめなかった。

    さすがに八犬士が揃ったところは感動したけど、とにかく登場人物が多すぎてそれぞれに感情移入できなかった。

  • 行方不明だった新兵衛くんが満を持して登場し、遅れを埋めて余りある御活躍。子供向け読んだときは断然荘助くんが良かったけど毛野ちゃんもかっこいいなあ。
    あと犬士たちがことあるごとにお互いを褒めまくるのかわいい、仲良しさんかよ
    解説に小難しいこと書いてあったけど私は普通にエンタメ小説として楽しみました。

  • 感想は上巻にまとめて書いてしまった

  • 2020年6月12日購入。
    2021年2月4日読了。

  • むずい、、、
    船虫が死ぬところはなかなか見応えがあった。
    解説読んだけどこれは獣達のある意味擬人化した話だったのか、、、

  • 上巻のレビューを参照してください。

  • 上から下に移るのに、時間が経ってしまったので、最後の戦いに出てくる人たちの事をほとんど忘れてしまって、細かい内容がよくわからなかったのが残念だった。
    また時間が出来たときに、今度は一気に読みたい。

  • 登場人物の名前が覚えきれない分、過去のいきさつ思い出すのに行った入り来たりで疲れてしまったが、この物語は現代の感性にも耐えうる痛快小説。
    今まで読む機会がなかったのが不思議なくらい魅力的な物語。善悪交差する場面が魅力だが、悪役にもどこか憎みきれないところがあり、現代小説の救いようのない悪とは違い読後感は良い。

  • メタフィクションというのかな、読者に向けた語りが含まれてて、江戸時代からこういう表現が使われれてたのか~と少し感動した。

    上巻は感動的な場面が沢山あった。対してこの下巻は話の展開が早すぎて、感動する暇がなかった。最後の方は転がるようにお話が進んで、ぶった切るような幕切れだった。目が点。お話自体は相当面白いので、いつか原書を読んでみたい。

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著者プロフィール

1767年生まれ。江戸時代後期の作家。1814年から28年をかけて全98巻、106冊の「南総里見八犬伝」を完結させた。1848年没。

「2016年 『南総里見八犬伝(三) 決戦のとき』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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