インストール (河出文庫)

著者 :
  • 河出書房新社
3.23
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本棚登録 : 5020
レビュー : 653
  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309407586

作品紹介・あらすじ

学校生活&受験勉強からドロップアウトすることを決めた高校生、朝子。ゴミ捨て場で出会った小学生、かずよしに誘われておんぼろコンピューターでボロもうけを企てるが!?押入れの秘密のコンピューター部屋から覗いた大人の世界を通して、二人の成長を描く第三八回文藝賞受賞作。書き下ろし短篇を併録。

感想・レビュー・書評

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  • 毎月刊行される同人誌。そう、ある同人誌を毎月作っていた高校時代の私。読書はまだ半年の経験しかありませんが、レビューで大量の文章を日々書けるのはあの頃、あの時代に毎日大量の文章を書いていた感覚が時代を経ても自分の中に残っているのかもしれません。上手か下手かは別にして、この世には文章を書くことが好きな人と嫌いな人がいる。でも一方でいくら好きで頑張っても書けないこと、書けないものがある。十代の頃、遠くに見える未来を目を細めて見ていたあの時代、キラキラと光る世界の中にいたからこそ、見えたものと、見えなかったものがあったんだと今ならわかるあの時代。そんな時代の事ごとは、そのキラキラと光る世界から一歩出てしまうともう見えなくなってしまう。思い出して想像で書く世界は、どこまでいっても想像の世界であってリアルじゃない。では、キラキラと光るその場所にいる人がその場所を描いたら。その場所で見える、聞こえる、そして感じる全てを文字に変え、それが小説となって届けられたなら。この作品はそんな奇跡によってもたらされた綿矢りささん17歳のデビュー作です。

    『私、毎日みんなと同じ、こんな生活続けてていいのかなあ。みんなと同じ教室で同じ授業受けて、毎日。だってあたしには具体的な夢はないけど野望はあるわけ。きっと有名になるんだ』というのは高校生の野田朝子。『バカだねみんなと同じ生活が嫌なんて一体自分をどれだけ特別だと思ってるんだ努力もせず時間だけそんな惜しんで、大体アンタにゃ人生の目標がない』とクラスメイトの光一から痛烈な批判を受けます。『まあもし疲れてるんなら、一回学校休んで休養とったら?』という光一。『大丈夫、おれがナツコに言ってあんたが欠席中なのをあの怖い母さんの耳に入れさせないようにしてあげる』、と担任ナツコの彼でもある光一の言葉に従い『疲れているわたしは受験戦争から脱落することとなった』という朝子。『早速登校拒否児となり、ただ家でこんこんと眠り続け』ます。そんな中『私は大掃除、という愉快な企画をふっと思いついた』という朝子は『夜を越え、一睡もせず一心不乱に掃除しているうちに朝になってしまった』と夢中になって自室の物を捨てていきます。そして『最後に残ったこのコンピューター』、おじいちゃんの想い出残るコンピューターをゴミ置き場に運んだ朝子。『なんだか途方に暮れてそのままアスファルトの地べたに座り込んでしまった。私はさらに寝転がってみた』という朝子。その時『大丈夫ですか?』と小学生が声をかけます。運んだ粗大ゴミの前でフリーマーケットをやっていると嘘をつく朝子に『このコンピューターを買っていいですか?』、と小学生はコンピュータを持ち帰りました。その三日後、母親が自宅玄関でマンションの人と話しているところに出くわした朝子。『ソナチネっていう下着メーカー、知ってますか?』という会話をきっかけに大量のエロ下着を譲り受けた朝子。『何考えてるのあの人は!』と怒った母ですが、一方でお返しの図書券を買ってきて、朝子にお礼として届けるように伝えます。8階の部屋を訪れる朝子。『ドアが開いた。「あ、ひさしぶり」と目の前に現れたのは、あの三日前ゴミ捨て場所で会った子供』でした。そして、朝子はそんな小学生・かずよしから、あのコンピューターを使ったある仕事の誘いを受けることになります。

    この作品は綿矢りささんのデビュー作。なんと、17歳の高校生の時に書かれたという驚愕の事実。句点、読点が最小限でぐだぐだと、それでいて一気に捲し立てるような会話の表現がとても独特で、初めのうちは読書のリズムがなかなか掴めなくてかなり戸惑いました。しかし、次第に慣れてくると癖になりそうな不思議な魅力が伝わってきます。また、『ちょっと一服、と朝日を拝みながら台所でキャロットジュースを飲んでいたら、母と目が合った』と、『台所で母と目が合った』というたったそれだけのことに少し文章を付加するだけでこれだけ意味と雰囲気が増すんだと感心させられる表現など、細かい部分の表現の工夫があちこちにされていて、その総合力で作品の雰囲気を盛り上げていきます。表現ということで言うともう一つ。ふと教室を見回した朝子の耳に聞こえてきたクラスメイトの会話です。カタカナを表現に用いて、かつ読点一つで一気に繋げます。『受験勉強シテル?マッサカー私昨日九時に寝チャッタ、本当ダヨウダカラコンナニ元気ナノ』。高校時代に恐らく一度は耳にしたことがあるであろうこのあまりに冷めた会話。これを朝子は『平和?違う、みんな騙しあいっこをしている』と感じます。そして『じゃあその目の下の隈は何だと聞きたい』と思う朝子。高校生視点の綿矢さんならではのリアルさに満ち溢れた表現だと思いました。

    この作品は後半、朝子とかずよしの協働による『コンピューターを使ったアルバイト』の話が全面に展開します。しかし、コンピューターを登場させるとどうしても時代感が出てしまいがちです。残念ながら、この作品でも2001年という時代を感じざるを得ませんし、付随するその時代に流行ったであろう言葉の数々も同様です。しかし一方で、前半に描かれる朝子の高校生ならではの気持ちが語られる部分は違います。『まだお酒も飲めない車も乗れない、ついでにセックスも体験していない処女の一七歳の心に巣食う、この何者にもなれないという枯れた悟りは何だというのだろう』と自身に問いかける朝子。そんな朝子はこんな風に不安な気持ちを抱えています。『中学生の頃には確実に両手に握り締めることができていた私のあらゆる可能性の芽が、気づいたらごそっと減っていて、このまま小さくまとまった人生を送るのかもしれないと思うとどうにも苦しい』。中学時代は中学時代でいろんな思いに囚われ、悩み、苦しみ生きてきたはずです。でも、高校生になって、十代も後半になると今度は焦りの気持ちが生まれます。無限の可能性があると信じていた自分の未来、どこまでも羽ばたいて行けると思っていたそんな未来のはずが、いろんなことが見えてくる高校生になって、自分の可能性にも限りがあることに気づく瞬間の怖さ。『もう一七歳だと焦る気持ちと、まだ一七歳だと安心する気持ちが交差する。この苦しさを乗り越えるには。分かっている、必要なのは…前進』。この朝子の自身への問いかけがひたすらに続くこのシーン。切実かつ痛切に訴えかけてくる、読者まで息苦しくさせるそのシーン。ここで引用したのはごく一部分ですが、この作品のクライマックスはこの朝子の一連の自問のシーンだと感じました。一気に作品世界に引き摺り込まれる圧倒的なインパクト。このシーンを読むだけでもこの作品を読んだ意味がある、そしてこのシーンだけをもって、綿矢さんの他の作品も読んでいきたい、そうまで感じる強い印象が残ったシーンでした。

    コンピューターが時代遅れになっても、言葉が時代を感じるものになっても、十代の青春が感じるものは変わらない。子どもから大人になっていく階段でふと立ち止まってみたくなる時代、自分が何者であり、どこから来てどこへ行くのか、どこまで行けるのか、いろんなことに悩み、苦しみ、迷う時代。何かに気づき、何かを感じ、そして何かを納得して、また階段を一段一段と上がりはじめる十代が後半に変わったその時代。17歳が現在進行形だった綿矢さんだからこそ書けたリアルな物語。一見、あっけなく幕切れるその結末だからこそ、未来がそこに見え、朝子の未来が確かに続いていくんだということを感じさせてくれました。強い個性を感じる表現の数々含め、その世界観にすっかり魅了された、瑞々しさに溢れる作品でした。

  • 綿矢りさ 著

    この前初めて読んだ、綿矢さんの本が面白かったので、今頃また、読んでしまった(笑)
    やはり、類稀な作家という表現は当たっていたなぁと実感させられた。
    「インストール」前は馴染みある言葉だったのに
    コンピューター関係の仕事に携わっていたにもかかわらず、何だか懐かしい響きのような感じがした。
    最近は、iphoneやらスマホの世界に変わってしまって…パソコンすら使わなくなってしまったから…
    使わなくなると使えなくなる 習慣って怖い。
    それはさておき、この人の文体の巧さに、本当に驚かされる 言葉のチョイスもよく 上から目線だったり、見下されたような気分になってプライド傷つけられて、ションボリしたり、何だかその情景が浮かんできて、ニヤリ笑えてしまうような…。
    しかも、自分も高校生のくせに、小学生を子供扱いしてるかと思えば、コンピューター得意の天才小学生にタジタジになったり、素直な感情に振り回されて、エロチャットにまで辿り着いてしまう
     客がきたのだ。私は悠然として背筋を伸ばし、
     気分は博打女郎で、かかってきなさい、
     楽しませてあげるわ。とまで言わしめる(笑)
    古い重いコンピューターにサジを投げ、起動に喜び、辛辣というより無邪気
    要は、教え導く人は誰か分からない 誰だっていいのだ 自分に響けば…。響けばいつからだってやり直し、始められる事を…こんな短い小説の中で
    ウキウキ、さっさと読み進められ教えられるとは。

    『インストール』は綿矢りさの中編小説。2001年、第38回文藝賞を受賞した当時17歳の作者のデビュー作。同年11月、河出書房新社より単行本が刊行され、発行部数50万部のベストセラーになった

    なんと、この若さで、こんな小説描けるとは天才の片鱗が最初からあったのね 物事をよく観察して覚えていて、発想の豊かさ、そこに素直な閃きがある作家さんに、ホント、タジタジしました。
    私もインストールしてくれ〜って言いたくなった。

  • 2020年にインストール。

    綿矢りさを何冊も読んでるのにインストール。

    私は「一大ブーム」を起こした小説を敢えて避けるようにしているのです……(村上春樹でさえ『ノルウェイの森』はかなり後回しにしたし、『永遠の0』に至っては未読)

    が。

    先日、高橋源一郎さんの『大人にはわからない日本文学史』(なぜかブクログに登録されてない)を読んだ際、綿矢りさについて一章を割いて語っていて、ようやく手に取ることに。

    そして。解説やったんかーい。とツッコんだ。

    高橋源一郎さんの引用に引用を重ねるのだけど、

    「その時綾香の耳の上にがんと高速のボールがぶつかってきて、さらさらの髪が一瞬くらげのように上へ浮かび上がり、開いた口から歯のかみ合わせがずれたのが見えた」

    の一文がお気に入り。
    文章のテンポが否応なくスローにさせられる感じ。
    なんだこれ。いい。

    「思っていたよりも気が強いみたいだからな、あいつ。そこまで考えてから、頰づえをついた城島の顔が、身体が、ぶわりと火照った」

    これもね。語りと視点の時間差みたいなのがあって、いいな。うん、いい。

    どちらも「You can keep it.」から出したんですけどね、「インストール」も、楽しい。
    テトリスのキーホルダーなんか、デスクトップの持ち運べない重さのパソコンなんか、もう忘れられてしまいそうな遺物なのに。

    私たちの往還は何も変わってなくて。

    朝子の唐突なフェードアウトに、かずよしくんの冷笑に、雅さんと「雅」の屈託なさに、お母さん達の不安と戦慄に、やっぱり共感するんだなぁ。

    なんだろう。今の方が癒着しちゃって、ヴァーチャルさえ地続きになっているのかもしれない。
    いやあ。
    いいですよ、インストール経年比較読み(笑)
    ぜひ。

  • 色々突っ込みどころ満載ではありますが、ペンの勢いに乗って一気読みしました。
    夢も何もない、つまらない青春時代を思い出しました。高校生は可能性の塊ですが、同じ年代に囲まれて自分の劣等感を刺激されると身動き出来なくなるんですよね。
    同じような事でも、大人に交じって練習したり勉強したりした方が、素直な自分でいられるような気がします。
    この主人公も、閉塞した同時代性とは別に、異なった年代、異なった人生と触れる事で新しい窓が開いたという感じだったのではないでしょうか。

  • 高橋源一郎さんが
    ラジヲの番組で
    綿矢りささんの文体を
    喋っていた
    あまりにおもしろかったので
    積読状態にしていた
    この「インストール」に手を出してみた

    なぁるほど
    綿矢りささんという
    独特の感性を通して
    等身大の「今」を描くと
    こんなふうになるのだ
    と 妙に納得させられました

    はい
    文庫解説は
    もちろん 
    高橋源一郎氏です

  • 外山滋比古さんの本に、「とにかく読め!」「好きな文章は真似てみよ」的なことが書いてあったので、積ん読してたこれを。
    今まで、蹴りたい背中と勝手に震えてろを読んだことがあるけど、文体?が好きかもしれない。
    インストールは、主人公視点で書かれている。朝子がその時その瞬間に思ったことが伝わるような感じ。すらすら読みやすいが、皮肉めいた、どこか冷めたような朝子の視点が度々出てくる。そのせいか、自分の読むスピードに独特のリズムを感じる。
    他の作品の時にも思ったが、この、リズミカルに皮肉を散りばめているような感じが好きなのかもしれない。

    you can keep itは第三者視点。シンプルに綺麗な比喩が出てくる。
    兎にも角にも、こういうことなのですね、外山先生。

    本を閉じて驚いた。これ380円なのね。外税。

  • 周知のとおり、「綿矢りさ」が有名な2作品。女子高校生とインターネットとの組み合わせは当時、オタクとインターネットだったので、斬新だった。
    彼女の創作の仕方がわからないが、その後、小さな世界で終わっているのは残念。

    「普通の女の子+芥川賞+早大」で世間が騒ぎすぎたのが残念。

  • 文体もよいのですが、ストーリーの内容が17歳の女子高生が好んで描く内容とはかけ離れているような印象を受けました。思春期だからこそ興味のある分野(エロティックな)なのかもしれませんが。2001年の作品なので当時のアングラ文化は情報が少なく、なかなか実際に踏み込んだ人でないとそんなに詳しくは書けないと思うのですがその辺りの本物感もよく表現できています。

  • 自身の小ささに対する無力感や、行き場のない焦りは、若者が普遍的に抱えるものなのだろうか。ストーリーテリングそのものはそれほどワクワクしなかったが、主人公には共感できた。解説にあった、完璧! の箇所も、大変よかった。

  • 高校生が書いたようなレベルではなかったので驚いた。
    しかし高校生にしか書けないような、主人公の心情が事細かに描かれていて新鮮味があった。
    個人的にはかずよしの性格や会話が面白かった。

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著者プロフィール

1984年京都府生まれ。2001年『インストール』で文藝賞を受賞して作家デビュー。04年『蹴りたい背中』で芥川賞、12年『かわいそうだね?』で大江健三郎賞を受賞。ほかの作品に『夢を与える』『勝手にふるえてろ』『ひらいて』『しょうがの味は熱い』『憤死』『大地のゲーム』『手のひらの京』などがある。

「2018年 『100万分の1回のねこ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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