人のセックスを笑うな (河出文庫 や 17-1)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309408149

作品紹介・あらすじ

19歳のオレと39歳のユリ。恋とも愛ともつかぬいとしさが、オレを駆り立てた…美術専門学校の講師・ユリと過ごした日々を、みずみずしく描く、せつなさ100%の恋愛小説。「思わず嫉妬したくなる程の才能」など、選考委員に絶賛された第41回文藝賞受賞作/芥川賞候補作。短篇「虫歯と優しさ」を併録。

感想・レビュー・書評

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  • R3.10.20 読了。

     タイトルが気になっていて購入。2編の短編小説。
     19歳の青年と39歳の人妻の恋愛(不倫関係だけど)小説。この人妻のユリちゃんは決して美人ではなく、青年の磯貝君の好みの女性のタイプでもないのに、磯貝君がユリちゃんに惹かれていく。磯貝君はユリちゃんから、誰かを好きになることを教えてもらったんだろうな。作中の磯貝君の気持ちには、なんとなく分かると思える部分が多かった。タイトルは他人の意見、それとも自分自身の意見?。恋愛は人それぞれだから、その人たちが幸せなら同性どおしでも年の差カップルでも熟年カップルでも良いでしょって、言ってくれているのかなと思うのであった。
     この本の解説は、いまいちピンとこなかったなあ。

    ・「寂しいから誰かに触りたいなんて、ばかだ。相手を大切な人に思い、しっかり人間関係を築きながら、愛撫はゆっくり優しく丁寧に、且つ、エッチに、相手の反応を細かく見ながらやるべき。」
    ・「オレはかわいい女の子が好きだと思っていた。(中略)しかし、恋してみると、形に好みなどないことがわかる。好きになると、その形に心が食い込む。そういうことだ。」
    ・「大事な人と抱き合って新しい年を迎えるということは、陳腐なようでいて、実は奇跡だ。」
    ・「寂しさというものはユリにも、他の女の子にも、埋めてもらうようなものじゃない。無理に解消しようとしないで、じっと抱きかかえて過ごしていこう。その寂しさやストレスはかわいがってお供にする。一生ついてきたっていいよ。」


  • 学生時代、私は松山ケンイチが大好きで人セクの映画DVDを購入して何度も観てました。
    その歳頃にしては過激なタイトルだったけど、なんだかギュッとなる切ない恋愛映画で好きだったな〜。

    ということで、初の原作。初の山崎ナオコーラさん。
    懐かしい、映像が甦ってきた。
    映画よりシンプルだなって思ったけど、みるめくんの若い心情と綿毛のように飛んでいくユリの奔放さがなんとも切ない。
    セックスの仕方も恋愛も人の数だけ無数にある。
    私の青春恋愛話だなーってサクッと読めました!
    最後の、「会えなければ終わるなんて、そんなものじゃないだろう」って言葉。
    うわーエモい。蘇る!
    ユリにも親友たちにも、私たちにも刺さるよね。
    忘れずに想っていれば、前に進める糧になる。

  • 面白かった。すーっと読みやすくて、それでいて奥が深く、しばらく心がじんわりして止まなかった。
    美術の専門学校講師ユリ。自分の気持ち優先に自由奔放、無邪気(わるく言えば自己中心的にも見える)に生きている。夫ある身で、教え子(20も年下)男子、「みるめ」にアプローチし、恋が始まる。
    感じたことが、そのまま解説に。読みやすく、文章のセンスがよく(私がいうなど僭越すぎるがそう思った)、面白く、楽しい。
    「みるめ」を通した視点、一人称で描かれていて、よけいに「みるめ」の心情が痛く響いてくる。

    飲み会のあと、飲み会では一度も口を利かなかったのに、
    「JRでしょう?」
    と、その日初めてオレに話しかけた。

    きっとそういう会話から(恋は)始まる。些細な言葉かけから(と、遠い目をしてしまう)。ドキドキしました。

    どこか成就しない恋だと思っていた「みるめ」かもしれないが、別れはやってきた。

    気になったところがあった。
    「ユリの世代は、オレの世代よりも安定した時代に青春を過ごした世代なんじゃないだろうか。甘さや弱さが見える。」
    とある。
    20も年下の「みるめ」のからそう見えていたのか。
    ユリの世代は自分(私)と重なりそうで、痛いところを付かれた思い。

    ラストのここが心痛かった。
    「オレには彼女がおばあちゃんになったときの顔はわからないんだな。でも、最後に会ったときのユリの笑顔は、残っていくんだな。」
    こういう別れ方、考え方やり切れない、せつない。
    映画もあるとのことですが、小説のほうがいいのでは(と私はおもった!)
    息子の本棚にあった(でなきゃ読む機会もなかっただろう、タイトルに躊躇していたので)、読んでよかった。

  • この本のことはずっと前から知っていた。
    でも読むことになるとは思っていなかった。
    タイトルの真剣な響きに気後れして遠巻きにしていたのだ。
    でも山崎ナオコーラさんの小説を読むならやっぱりこの本から読みたかった。
    そして読み終わった今は読んでよかったなと思う。

    すごく優しい物語だと思う。
    距離感というか、間合いというか、相手を尊重して離れていてくれる、ほっといてくれる恋。いや、愛かな。
    ぼんやりした好意が恋になって、執着になって、愛になる。
    離れてあげられる愛。
    離れていても終わらない愛。
    愛とはそういうものなのかもしれない。
    たぶん愛になれずに終わってしまう恋がとても多いんだろうな。

    そしてもう一つ、すごく正しい物語だと思う。
    どうしてこの人が好きなのか?
    好きになってしまったらわからなくなるこの問いに、唯一の正しい答えが書かれているように思う。
    これが本当なんだろうな、と感じる。
    その答えの正しさにほっとする。
    良かった。大丈夫。心が救われるような感覚。

    短くてさらりと読めてしまうけど、きっといつまでも心に残る。
    そんな物語だと思う。

    • まろんさん
      本も映画もとても気になっていたのですけれど
      takanatsuさんと同じく、私もタイトルに気後れして遠巻きにしてました。
      こういうところでシ...
      本も映画もとても気になっていたのですけれど
      takanatsuさんと同じく、私もタイトルに気後れして遠巻きにしてました。
      こういうところでシンクロしているのが、うれしかったりして♪

      他ならぬtakanatsuさんが「正しさに救われた」とまで書かれているので
      これはぜったいに読まなくちゃ!と勇気(?)が出ました。
      ありがとうございます♪
      2013/03/11
    • takanatsuさん
      まろんさん、コメントありがとうございます!
      「私もタイトルに気後れして遠巻きにしてました。」
      まろんさんと一緒だととても心強い(?)です!
      ...
      まろんさん、コメントありがとうございます!
      「私もタイトルに気後れして遠巻きにしてました。」
      まろんさんと一緒だととても心強い(?)です!
      とても印象に残るすごいタイトルだとは思うんですけど、ちょっと近寄りがたいものがありました…。
      「これはぜったいに読まなくちゃ!と勇気(?)が出ました。」
      まろんさんのレビュ楽しみです!
      2013/03/12
  • あっという間に読み終えた。短い。
    好き嫌いが分かれる作品だと思った。
    私は好きだけど。
    19歳のみるめ(専門学校生)と39歳のユリ(専門学校講師・夫あり)の恋愛で、驚くべきことにユリから「あのさあ、私君のこと好きなんだよ」と告白して始まった恋愛だった。

    この作品が無理な人は、とにかく現実感がなくフラフラとしているからかなーと予想する。
    特にユリのフラフラ具合と言ったらない。
    美人でもなく、年相応の見た目。
    家事は苦手で部屋は散らかっている。
    絵は描くが特段上手いわけではない。
    自信がなく、仕事や人生について悩んでいる様子。しかも夫がありながら自分の教え子に告白。
    こんな39歳さすがに大丈夫?と心配になる

    しかし作品の言いたい事はそこじゃない気がする。
    みるめはこの人の美しくないところが大好き。
    美しくないところこそ愛おしいって、究極の恋愛感情じゃないかと思う。

    【うなじ。寝転がって後ろから触るのがとても楽しかった。真っ黒な剛毛。透き通る白い毛。半分までは黒い毛。混じり合っているところを何度も触った。
    上に手櫛ですかしあげると、どうやって髪が生えているのか丸わかり。あんなに愛おしいものはなかった。】
    自分の若かりし頃の恋愛を思い出して唇を噛む。涙が出るほどの好き、という感情が心に染みる。

    こういう気持ちはきっと心の中の一番奥の、無防備な場所にあるんだ。
    だから2人でただじゃれ合っているだけの時間は2人だけのものだし、セックスは下手でも上手くてもいいし、誰かに見られたり詮索されたり、ましてや笑われたりされては絶対にいけない。見ていいとしたら神様くらい。
    タイトルはそういう意味だと思う。

    終わってしまう恋愛もあるけど、そういう時間って宝物だよね、ずっと大事にしたいね、って事が言いたいんじゃないかなぁ。

    私も夫にそういう感情を抱いた事があって、若かったけど、幸せな経験をしたなぁとしみじみ思ったのでした。

  • 2004年の文藝賞受賞作品。デビュー作。ふざけた作家名と作品名で避けていた自分を反省。

  • 大胆不敵なタイトルとペンネームによるはかない作品。

    結構好きな本ですね。★5つにするかちょっと悩みました。
    田園都市沿線に住んでいたので、懐かしさもあり。

    ナオコーラさんの他の本も読もうかなと思いました。

    「会えなければ終わるなんて、そんなものじゃないだろう」
    私はそんなものなんじゃないかな、、、と思っています。

  • せつない。
    この一言に尽きます。
    美大生のみるめが、代理教師の20も年上の既婚者ユリに惚れてしまい、どうしようもなく愛しい気持ちがとてもせつなくかかれているお話です。
    みるめもユリも、飾らないありのまま、感じたままの人というイメージで、2人ともお互いをとてもとても愛しています。
    この先どうなっていくか、を真剣に考えていないというか、好きだから考えられないのか、自由なユリにみるめはふりまわされますが、それでも好きで好きで仕方がない気持ちが伝わります。
    「会えなければ終わるなんて、そんなものじゃないだろう」
    はなれたからといって、好きな気持ちは簡単には変わらないです。

  • 1つの恋を余計な装飾をすることなく
    そのまま紙に落とし込めたという感覚で、
    「不倫」であるということの不快感も不純度も感じることなく
    ただ恋の始まりから恋の終わりまでを没頭して読み通した。

    少し上の浮いた地点から目の前にある磯貝くんの頭を眺めながら
    えんぴつでノートに淡々と日記を書きつける彼を見ているような感覚だった。

    「私、君のこと好きなんだよ。知ってた?」
    自由奔放で少しひんやりとドライで、19歳の男の子には
    想像を超える地点で物事を考えているように見えて
    実は彼女のほうがいつも怖くて潰れそうで
    離れていくその手を見たくなかったのかなぁ。

    恋なのかどうなのか思考することすらもできないスピードで
    キモチが絡み合っていく2人。
    2人の距離を近づけることを祈るようなスピードで
    しゃべり続ける彼の姿は、2人の間にある年の差を必死で
    埋めているようで微笑ましかった。

    ―――ブラジャーの中の乳首のように、オレを引っ張る。

    透明度の高い空の引力と、透けるようで透けない
    ユリちゃんの引力を表現するのにこれ以上ない感じがして
    この1行だけでもこの本に出逢えてよかったなぁという衝撃だった。

    彼をモデルにユリちゃんが書いた絵の1枚目は
    不安定な顔をした若い男の油彩画。
    2枚目からはどんな顔の彼の絵が完成したんだろう。

    木の枝と枝の間の空みたいに、夢とも現実ともつかず
    不確かな存在感のまま始まって消えていく2人。

    贈ったソックスと、贈らなかった手編みのマフラーの間で
    ユリちゃんのキモチは揺らいで恋は恋としてしか着地しなかったのかな。
    ふがいない彼のその先が見たくなった。

  • 不思議なペンネームの著者作品を始めて読むのにあたって、わたしには入りやすいと思われた『文豪お墓まいり記』からだったのだ。読み始めると、好きな文章がいっぱい出てくるので、わあ好きと思い、途中だけど受賞デビュー作『人のセックスを笑うな』に移って読む。

    というのは『文豪お墓まいり記』における著者の考えることが、妙に地味で何とも言えずほのぼのして、わかるわかると、気に入ってしまったから、文豪お墓訪問記エッセイではなく、創作ではどうか?と興味を持って。

    著者26歳、哀切のある作品。恋とか愛とか名付けられない、ひととの交情がすっきりとした文章で描かれている。視点を男の子に持ってきたのがいい。(解説の高橋源一郎さんも指摘してらっしゃるが)

    考えてみれば、エッセイ文でも小説のように、創作しても何の問題もないわけで、例えばこんな読後感も創作ふうでもよく、なにかを伝えられればそれでいいよね。

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著者プロフィール

1978年生まれ。「人のセックスを笑うな」で2004年にデビュー。著書に『カツラ美容室別室』(河出書房新社)、『論理と感性は相反しない』(講談社)、『長い終わりが始まる』(講談社)、『この世は二人組ではできあがらない』(新潮社)、『昼田とハッコウ』(講談社)などがある。

「2019年 『ベランダ園芸で考えたこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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