神州纐纈城 (河出文庫 く 5-1)

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (455ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309408750

感想・レビュー・書評

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  • 未完。
    絢爛豪奢たる絵巻のような物語だが未完。
    これから終息する未完ではなく、まだまだ話は広がるよ~~での未完(笑)

    ***
    武田信玄の治める甲斐の国。
    土屋庄三郎は、布売りの老人から勧められた紅い布に心を奪われる。
    紅い赤い布、人の血のような、燃え立つばかりで恐ろしいと買い手のつかなかった布。
    しかし庄三郎の目を捕えたのはその妖しい色合いだけではない、その布に一瞬生き別れた父親の名前を見たからだった。
    このとき買った紅巾により、土屋庄三郎には幾多の波乱が重畳することになる。

    庄三郎の両親と叔父は行衛(ゆくえ)不明だ。
    かつて庄三郎の父庄八郎は、弟主水の恋人だったお妙を妻にした。
    きっぱりと別れて新たな人生を進もうとした主水とお妙だが、肝心の庄八郎の心には二人への疑惑が沸き起こり、庄三郎が生まれてからも、はたして自分の息子か、弟主水の息子なのかという疑いは晴れない。
    疑念の末、庄八郎、主水、お妙はそれぞれ姿を消したのだ。

    武田の屋敷で紅巾を見た僧が言う。「これはまさに人の生き血を絞り、その血で染めた纐纈(こうけつ)の布。そしてそれを作っているのは山間の鉄の城、纐纈城。そこには人々が捕えられ生き血を絞られている」

    そんな父の名を紅巾に見た庄三郎は、紅巾の幻に導かれるようにして武田信玄の元を出奔する。
    行く先は富士山麓。

    そんな庄三郎を連れ戻す役を担ったのは、信玄の小姓で未だ14歳だが先天的犯罪者気質の高坂甚太郎。
    甚太郎は富士山麓で陶器師(すえものし)に襲われる。
    陶器師は、その醜い容貌を嫌った妻が不義の相手と逃げたことから、仇を追うと同時に人殺しに生き甲斐を見出している。

    そんな陶器師の顔を作り変えたのは、山の岩穴に住む面作師の美婦、月子だ。
    月子は訪れる者の顔を手術により作り変えている。
    冷たさが肌に逼る(せまる)洞窟(いわや)の中に獣油により灯された壁には月子の作った多くの仮面が懸け連ねられている。月子が作りたいのは本当の悪の顔だ。

    少し離れたところに、悪病患者たちの療養小屋がある。
    武田の旧臣直江蔵人は、患者たちの苦しみを和らげる祈りの陣頭に立つ。そして彼らが死を迎える時には手術台で臓腑を抜き、万病に効くという魔薬の「五臓丸」を作っていた。

    そんな魑魅魍魎、猛獣毒蛇剽盗の巣食っている富士の裾野には、二つの集団があった。
    光明優婆塞(こうみょううばそく)を教祖として平和な暮らしを送る富士教団神秘境。
    そして、人の血を絞り紅巾を作る纐纈城。

    富士山麓に入った庄三郎は、富士教団の村に交わり安息の暮らしを送っていた。
    中心人物の光明優婆塞(こうみょううばそく)と話をして、心の平安を得る。
    この光明優婆塞こそ、実は庄三郎の叔父で、母の昔の恋人だった主水だったのだ。
    しかし光明優婆塞は、自分の力に限界を感じて教団を出奔した。
    心の支えを突然失くした教団の村人たちは一度に混乱した。
    平安だった村を覆う疑心暗鬼、殺傷沙汰。
    ふとした誤解から庄三郎は纐纈城の間者と勘違いされ、村人たちから苛烈な私刑を受け、瀕死のところを小舟に乗せられ川に流された。

    そして庄三郎を追う甚太郎は纐纈城に捕えられていた。
    纐纈城の仮面(めん)の城主は、甚太郎が武田家縁と知り開放する。
    今は悪病を得て仮面で貌を隠すこの城主こそ、庄三郎の父庄八郎だったのだ。
    甚太郎を覗き見て自分の武士時代を思い出した仮面の城主は、纐纈城を抜け出し甲斐武田嶺を目指す。
    しかし仮面の城主が身に宿した病は世界唯一の奔馬性癩患(ほんばせいらいかん)は、触れる者を死なす悪病だった。城主が歩く先々で人々の身体は一瞬で痙攣、萎縮、強直、水腫、腐肉作用を引き起こし、そして死骸が積まれていった。

    甲斐の国に巻き起こった悪病に、直江蔵人は五臓丸を持って出向く。
    共にいるのは蔵人と旧知の剣豪塚原卜伝。卜伝は療養小屋で禁断の魔薬を作ってることを突き止め一度は直江蔵人を斬ろうとするが、蔵人の説得に合い行動を共にすることになったのだ。

    ***
    …という、まだまだ筆が好き勝手進んでいくよ~~のところで未完(笑)
    まあ大袈裟で豪華ものを読みたかったら良いんですけどね(笑)
    煌めくような漢字使いで、ところどころの表現面もやたらに凝っている、というかむしろしつこいくらい濃厚(笑)。
     五臓丸を作るための手術、そして月子の施す造顔手術。
     平和だった村人からリンチされる庄三郎。
     月子さんの行水場面。
     仮面の城主が歩くたびに広がる死病。

    そして未完の為描かれなかった、これからなって行ったであろう展開。
    ・仮面の城主や甚太郎と入れ替わるようにして纐纈城に入った瀕死の庄三郎。
     庄三郎が一番可哀相だ、私刑で死にかけ船に乗ったまま未完か(苦笑)
    ・若いながらも精神病質で陽気な甚太郎の今後の暴れっぷり。
    ・庄三郎の父と叔父は出てきた。母も出る予定だったんだろう。
    ・陶器師の復讐物語。
    ・甲斐を覆った死病の始末。
    ・庄八郎(城主)、主水(教祖)、お妙(未出)の顛末。

    未完ではあるけれど、物語というより表現を楽しむとすれば十分楽しめました。

  • 明治20年生まれの国枝史郎が大正14年に発表した伝奇ロマン小説、ただし未完。「纐纈城(こうけつじょう)」とは『宇治拾遺物語』の「慈覚大師、纐纈城に入り給ふ事(http://www.koten.net/uji/yaku/169.html)」というエピソードに登場するもので、慈覚大師が唐にわたり偶々迷い込んだその城では、さらわれてきた人間から絞った血で布を紅く染めていたという怖い話。血で染めた紅い布=紅血(こうけつ)=纐纈、みたいな感じなのかしら。

    時は戦国時代、甲府の武田信玄の家臣である土屋庄三郎昌春が一応本編の主人公。庄三郎の両親と叔父(父の弟)は、彼がまだ幼いときに行方不明になっており、あるとき手に入れた謎の紅い布=纐纈布に父の名を見出した彼は、父母と叔父の生存を信じてそれを探す旅に出る。

    しかし信玄の命令で庄三郎を追う鳥刺しの高坂甚太郎は14才にして殺人大好きサイコパスだし、甲州だけに富士山周辺を舞台に、裾野には役小角の後継者となる光明優婆塞が率いる謎の宗教団体「富士教団」の里があり、元は上杉謙信の家臣だった直江蔵人とその娘・松虫&婿の直江主水は生きた人間の五臓から作る万能治療薬「五臓丸」を作っているし、三合目には血吸鬼と書いてバンパイヤーとルビを振られる陶器師・北条内記という美形の殺人狂、その陶器師の顔を整形している造顔術師にして面作師の月子という美女、そして本栖湖には霧のたちこめた水城があり、これこそ日本の纐纈城、仮面の城主が手下を使って里の人間をさらってきては逆さ吊りにして生き血を絞り、紅い布を量産している。

    次々とワケアリで猟奇的な人物が登場し入り乱れ錯綜、そして富士山界隈はもはや魔境。庄三郎が探す父、そして叔父が誰であるか、読者には知らされるけれど庄三郎は知らないまま、富士教団で半殺しの目にあわされてあげく血まみれのまま船に乗せられ流れてゆく。

    武田信玄や上杉謙信、塚原卜伝など、歴史上の有名人物は実名で登場、主人公・土屋庄三郎はじめ、高坂、北条、直江などの姓は、実在の家臣の名前であり、登場人物たちは架空だけれどその係累ということになっている。仮面の城主が甲府に戻ってきて瀬病を撒き散らすくだりなど、実際に当時甲府で流行り病で大勢人が死んだ史実をベースにしているらしく、歴史と虚構のとりまぜかたが絶妙。

    そして幻想的でゴシック耽美な、情景描写の美しさが素晴らしい。夜光虫のひかる洞窟、霧に煙る湖、水路を渡る舟などの光景はとても幻想的で美しく、個人的に白眉は、紅い衣をまとった仮面の城主が桜の木の下で花びらに埋もれるように眠っていると雀がやってきて城主の手に留まり、しかし籟の毒にやられてころりと死んでしまう場面。儚さとグロテスクさ、城主の孤独と毒、さまざまな象徴がこの場面にぎゅっと凝縮されている気がする。

    しかし残念なのはやはり未完であること。誰か続き書いてくれないかな。解説の代わりに昭和18年に復刊されたときに絶賛した三島由紀夫のエッセイの抜粋が収録されています。

  • 未完の作品なのが残念。
    文章が美しく、古い言い回しながら物語にひきこまれました。

    続きが読みたい。

  • まず読む前に知っておかなければならなかったこととして、この作品は「未完」であるということでした。

    ページをめくっていき、徐々に終わりに近づいてゆくのに、なかなか纐纈城との一大決戦みたいな展開にならないなぁ、と思っていたのです。そのイメージは田中芳樹の『纐纈城奇譚』や石川賢の『マンガ神州纐纈城』を読んだ記憶からだったのですが、
    それらの解説でも「未完」ということは言及されていました。10年以上前に読んだままなので忘れていたのです。そもそも「神州纐纈城」も積読でしたしね。

    読み終えて思うのは、登場人物それぞれの決着はついたとしても、纐纈城自体は滅ぶことがあったのかな、という疑問。庄三郎と城主と光明優婆塞、陶器師と源之丞と園女、月子と甚太郎、彼や彼女たちの因縁因果は決着しても、纐纈の深く赤い存在は無くなりはしなかったのではないかな、という気持ちがします。

    それだけ惹き込まれてしまう危うさが紛々と感じられた作品である、と読み終えて思います。未完であるが故に、想像をはたらかす隙間が多々あるからでもある。
    文体自体が、得体の知れないしかし、引き込まれずにはいられないという、こちらを魅了するための語りだからか。登場人物が心中に抱えているものも敬遠したくあり、進んで触れたいものではないものもあるのですが、だからこそ触れてしまいたくなる
    という恐怖と好奇を刺激するのです。

    伝奇の面白さはこれです。

  • 神州纐纈城 (河出文庫 く 5-1)

  • 未完
    であることを知らずに読んだのでわりと驚愕
    ゆえに話ぶったぎりで良くわからないが
    三島せんせが褒めるだけあり描写はすてき
    大正末に書かれたものだが舞台からも曲亭馬琴とかそういう風

  • 未完と知った上で読んでいるのでその点に不満はない。

    伝奇小説はほぼ初めて。描写が多く、文章としても美しいけれどその分読みにくい。でも情景がありありと浮かび上がり、登場人物達や風景の異様さもあいまって漫画のようだ(実際、漫画化されてるみたいだけど)

    未完なのだからお話に決着は着かず、だからなにがいいたいのだと思う人は読まない方がいい。エピソードは投げっぱなしで大風呂敷を広げただけの状態だから。イメージの羅列だけでも楽しめる人向け

  • 三島由紀夫が「小説読本」でいいと言っていたので読んでみたんだけど奇想天外かつ美文。文章に俳句のような美しさがある。文学的密度を感じさせる娯楽小説。いいと言っていた部分は、あとがきの代わりに収録されていて、これも良いと思う。小学生の頃、夢中になった夢想の世界っていうのかな。没入感というのか、異世界、異空間を感じさせる作品。超おすすめなんだけど、ひとつだけ注意があって未完なんですね。でも許せる。また読みたいなと思う作品。素敵な文章。旧仮名遣いのリハビリにもいいと思う。青空文庫では、ある程度仮名遣いを直してあるのでさらにとっつきやすいかもしれません。幻想的な世界が好きな人は是非。

  • 「しんしゅうこうけつじょう」と読む。

    伝奇小説の傑作中の傑作といわれる本書。
    確かに、予想のつかない展開。
    強烈な幻想力。
    見事な文章。
    期待にたがわない作品。

    こうしたご馳走は、高級なフランス料理を食べるときみたいに、味わいながらゆっくり読んでいくべき。

    だが、なんとな気がせいていて、カップ麺を食べるみたいに、ざっと読んでしまった。

    解説の三島由紀夫が誉めていた洞窟のシーンも、最終部分の女性の水浴の部分も、さらっと斜め読み。

    残念だが、そんな気分ではなかったので、仕方がない。

  • つまらないし、未完。最悪。

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著者プロフィール

明治二十年(一八八七年)長野県に生まれる。早稲田大学在学中より演劇運動に参加。大学中退後、大阪朝日新聞社の演劇記者、松竹座の座付き作者となる。病を患い、長野県に戻り「講談倶楽部」「少年倶楽部」などに執筆、怪奇、幻想、耽美的な伝奇小説の第一人者となる。『神州纐纈城』は、昭和四十三年(一九六八年)復刊され、三島由紀夫に激賞される。昭和十八年(一九四三年)死去。

「2023年 『神州纐纈城』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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