暗い旅 (河出文庫)

著者 :
  • 河出書房新社
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本棚登録 : 300
レビュー : 31
  • Amazon.co.jp ・本 (265ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309409238

作品紹介・あらすじ

恋人であり婚約者である"かれ"が突如謎の失踪を遂げた。"あなた"は失われた愛を求めて、東京から、鎌倉そして京都へと旅立つ。切ない過去の記憶と対峙しながら…。壮大なるスケールの恋愛叙事詩として、文学史に燦然と輝く、倉橋由美子の初長編。「作者からあなたに」「あとがき」「作品ノート」収録。

感想・レビュー・書評

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  • 濃い。婚約者が突然の失踪を遂げ、「あなた」はかれとの思い出の地、京都へと向かう。かれとの思い出を断片的に噛み締めながら、自殺の可能性が多分にあるかれの痕跡を丁寧になぞる。あなたとかれは特殊なこいびとだった。後で振り返ればフランス思想かぶれできっと頬を赤らめるような関係。(今で言うと話の枕に必ず欧米ではとつけるバカのようなもんだ)
    ぎりぎり青春時代だから光るんだろうなぁ。訪れたことのある土地だったのと「あなた」という語り口。後半は読んでいて少し混乱した。

  • 失踪した婚約者を捜す旅に出た女の行動と心情を
    「あなた」という二人称で綴った小説。
    これだけのボリュームなら別に二人称で書かなくてもよかったのでは?
    という気もしたが、
    彼女=「あなた」の自意識過剰ぶりを焙り出すには最適だったのかも。
    若い娘が一人歩きしているからって、通りすがりの男の視線に、
    そんなに一々性的な意味を読み取ろうとしなくても、という感じ(笑)
    だが、作品ノートの中に「少女小説(for girls)」という作者の言葉があって、
    なるほど、と頷いた。
    つまり、若い自己の空虚さを見つめる「暗い旅」なのかな、と。
    で、不在の他者を捜す過程でアイデンティティを問われる、
    ポール・オースターのニューヨーク三部作を連想した。
    いや、もちろん『暗い旅』の方がずっと古いのだけど。
    個人的には馴染み深い鎌倉周辺の叙景が楽しかった。

  • 解説にある「そして多くの男に抱かれた女は知っているだろう。他者と性を営むと、その瞬間、まったくの自己の不在が起きるということを。この作品は、そんな語らない存在でいる女が、フランスの現代思想に感化されて語る存在になろうとした、若い時の、一瞬の輝きが示されている」という一文以上に語る言葉を自分は持ちえない。血液がどくどくと巡る音色までも聞こえてきそうな、この蠱惑的な魅力溢れる文章。それは決して自分の手の届かない所から生まれていることを理解していながら、この刹那的な結晶にどうしようもなく惹かれてしまうのだ。

  • KとLの観念的な短編群の創作の秘密を知ることができたように思う。それまでの爬虫類のような肌触りの作品の中で異色の、人肌の体温を感じる唯一の小説。そのぶん読んでる側も気恥ずかしいけれど、特徴的な二人称で書かれている事で俗っぽさを免れているのでは。はじめて読んだのは15〜6歳の頃。かなり影響を受けた。その後の十代は熱に浮かされたように彼女の作品を読み漁った。そんな思い入れがあるぶん、自分自身の記憶の奔流に溺れそうで、読み返す事が難しかった。

    この作品はあとがきにあるように、当時の作者お気に入りの「モノ」が散りばめられていて、fetishismの小説でもあるそうで…。ネットも無い時代に、それらをひとつひとつ手にいれていく喜びもあった。Butorを読み、SartreやBeauvoirを読み、吉祥寺や鎌倉の街を歩き、 ColtraneやMingusを聴き、終いには幻の彼等を探して当時絶滅寸前のジャズ喫茶でバイトを始める始末(笑)。

  • なまいきでうつくしい言葉たち


     70年代初頭、文学好きを自認する人たちの間で賛美を集めた作家・倉橋由美子の作品ですが、あとがきを見るとずいぶん芳しくない評判の痕跡が……。
     そんな反応の理由はだんだん分かってきたのだけど、それにしても文体が好きだな。自分語りでなく"あなた"という人称による紡ぎ出しのひそやかさは、手法の新旧を問わずこの本に人を誘いこみ、事の共犯者にしてしまう。出だしは特に魔的です。

     失踪した"かれ"を求めて"あなた"は列車に乗り込むものの、"かれ"の死をほとんど確信し、過去へと旅する……。

     かなりイタい筋立てだけど、痛さも含めて目が離せない少女小説です。そして、この少女小説という世界が侮れません。たびたびのフランス語やジャズ喫茶でのあれこれ、"かれ"との契約、どれもがなんとなまいきなことか。気取っていて鼻もちならなくて、けれどもうつくしい言葉たちの群れ。

     大人びていても少女である主人公(少女だからこそ大人びたふるまいをするのですが)では、兄妹のようで神話的だった"かれ"との関係を進めることができない。一方、旅の途中で会ったある現実の住人だけが、執拗に人名を書かれており、生々しい存在として"あなた"に路線変更を迫ってくる――

     表層的に危険な行動を選ぶほど、精神的には平凡になっていくように感じられた……というのが率直な印象になってしまいます。ただ、身をまかせたようでいて実は男をうまく通過儀礼に使ったとも解釈できなくもない。したたかな"あなた"の変化を期待したい。ただ、そこまで綴ることなくこの作品は終わっています。きっと世界のどこかで別の小説となって花開くのでしょう。

     現代は気取らないことが好まれる時流ですが、この本を読みながら、私はちょっと気取った乙女が見たいんだなと思いました。半端に素顔を見せられるより、美意識でかためた仮面をまとう"あなた"に、心ひかれるものがありました。

  • 主人公はとても繊細な感性の持ち主で、自分でもそう自覚している描写が多いけど、全部読みきってみれば、なんだかんだ言って彼を探して京都に旅だったり、そこから新たな発見をして次の旅に出たりと、案外図太い神経の持ち主だなと思った。死をほのめかしている癖に中々死なない、絶望を抱えながら絶望と共に生きて行く主人公からはある種の「逞しさ」を感じた。主人公に感情移入できないところは多々あったし好きにはなれなかったけど、感心するところはあった。

  • 倉橋由美子氏(1935.10.10~2005.6.10 享年69)の「暗い旅」(1961.10)を一読しました。平松洋子さんと小川洋子さんの対談エッセイ「洋子さんの本棚」で紹介されていて、手に取りました。初読み作家さんです。女性の空虚な愛と性についての物語で、著者の若き日の輝きが示されているとの鹿島田真希さんの解説がありますが、私には観念的すぎるのか、想像力の乏しさからか、難しい内容でした。

  • 旅。東京。鎌倉。京都。『洋子さんの本棚』にて。

  • 「あなた」と「かれ」の二人称で綴られている。わかったようなわからなかったような。1961年にこの作品が出ていたというのは凄いと思う。

  • “あなた”は失踪した“かれ”を探している。濃厚な、もう事実といってもいいようなかれの死のを思いながら。かれとの思い出の地や、かれとの愛の思い出を反芻し、歩き、絶望に慣れていこうとしている。あなたの向かうものが実は“死”ではないと、あなたがそれから逃げていることを察してから、京都への旅は意味を持ち始めていく。再生などしないからこそ、生きていける現実に、あなたは自然の微笑みを浮かべているのだろう。

    文章が、初めての形だったけれどものすごく好み。贈られた本だったのだけれど、贈ってくれた彼女にお礼の手紙を書き始めよう。

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