花物語 上 (河出文庫 よ 9-1)

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (380ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309409603

作品紹介・あらすじ

少女の日の美しい友との想い出、生き別れた母との突然の邂逅、両親を亡くした不遇な姉弟を襲った悲劇…花のように可憐な少女たちを美しく繊細に綴った感傷的な物語の数数は、世代を超えて乙女たちに支持され、「女学生のバイブル」とまで呼ばれた。少女小説の元祖として、いまだ多くの読者を惹き付ける不朽の名作。

感想・レビュー・書評

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  • 本当は中原淳一の装幀・挿画の『花物語』が欲しかったけれど、お高いので今回は諦めました。大正時代の清らかで美しい乙女たちは、当時まだまだ男尊女卑の風潮で、自分の望むままに生きられず夢破れることの多かったようです。そんな彼女たちをイキイキとそれでいて繊細なお人形のように可愛らしく描けるのは、やっぱり中原淳一なのではないかなと。また淳一の描く胸ときめくようなファッションやヘアスタイルをした女学生たちのイラストは、当時の乙女たちに成り代わってわたしをワクワクさせます。いつか手に入れたいです。
    そんな、女学生のバイブルとも言われた『花物語』女の子だけの物語です。
    当時は男子と一緒にお勉強なんてことはなかっただろうし、女学校の寮や寄宿舎が舞台になれば、やっぱり女子同士のお話になるでしょうね。小さな女の子と上級生のお姉さん。親元を離れたり、親を亡くしたりして生活する小さな子にとっては、お姉さんは優しくて綺麗で憧れでそれでいてお母さんのような、そんな温かい愛情も芽生えるでしょうし、逆に上級生はいじらしい幼い姿に愛おしくて守ってあげたい気持ちにもなるでしょう。
    花のように可憐で繊細な乙女たちの物語は、ほとんどが涙で終わるような感傷的なものです。
    時代のせいでもあるでしょうけど、彼女たちの人生は彼女たちのものではありませんでした。まだまだ家長の男性たちの意に従い、途中で勉学を諦めることも劇の一座に売られることも嫌とは言えませんでした。こんな男が上で女が下という意識が当たり前の時代に生まれた『花物語』は、心傷つつくことの多かったであろう乙女たちに、ときめきや憧れ、そして癒やしを与えたのだろうと思います。

  •  1916年から1925年にかけて書かれた少女小説集。はしがきに「日支事変勝いくさの第二年目」とあるのが時代を感じます。上巻は三十三篇を収録。友情を拒まれるその理由がつらい『白菊』、慈善病院でいやいやながら働いている看護婦が自らの仕事の尊さに気づいていく『ダーリヤ』、ミッションスクールの寄宿舎に逃げ込んできた富豪の妻とルームメイトの儚くも激しい友情『燃ゆる花』の三篇が心に残りました。

  • 花の名前を冠するお話の短編集で、花の様に儚い少女たちのお話。

    上下巻を通して思ったのが、比喩が情緒あって美しいということ。

    「双のひとみに露は結ばれました」
    「泣きぬれた女の瞳のように、灯がうす赤くぽっとつきます」
    「三日月の銀の挿櫛と浮かぶ頃」

    ….なんですかこれは!
    胸の奥がきゅうっとなるような、切ない表現がたくさんあって、それだけでも読む価値はあると思う。

    そして、色の表現がとても良い。
    上巻の「あやめ」の雨の尾張町(グレー)の中の、差し掛けられた傘のうす紫の柔らかい翳、濃紫に白さも交じるあやめの花の一束…そして、優しい人の黒髪と可愛く紅さいた唇
    ……想像すると、ほうっと溜息が出るぞこれは。

    他にも色々とあるけれど、それは読んでからのお楽しみ。


    私は少女小説が割と好きだけど、下巻は上巻とは雰囲気がまた違った。
    私自身、女子校に通っていたが、やっぱり「お姉さま」と言う雰囲気の先輩はいたなぁと懐かしく思った。


    全編を通して、なんだかとってもノスタルジーを感じた。
    私の祖母の家から見る、山へ沈む夕日を思い出して、切なくなった。


    私は鬱金桜が一番好きだった…

    心が荒んでいる時に読むと、純粋な少女たちの話に触れることが出来て、気持ちがすーっと楽になる…

  • 表紙がかなり素敵で凄く気に入りました。
    感想を一編ずつ徐々に書いていきたいなと思います。

    <鈴蘭>
    亡き母の面影を探してピアノを弾きに来ていたオルテノ嬢・・・。
    短くも切ない、素敵なお話でした。
    <月見草>
    長崎の話。
    手渡されたのはきっとクロス・ロザリオですね。
    おゆうさんの置いていった簪が切ない・・・。
    <白萩>
    I will leave it to Chance. (運命にまかせましょう)
    お姫様との出会い。
    お姫様の姿を描きたいゆかりさん・・・。
    絵とゆかりさんと言うことで、はやてを思い出してしまったのは言うまでもありません(笑)
    切ない出会いと別れの話・・・。
    <野菊>
    実のお母様との儚い出会いと別れ・・・。
    これまた切ない話。
    <山茶花>
    亡くなられたお姉さまの想い出話。
    山茶花の中に埋もれる少女ってかなり幻想的な風景です・・・。
    語る瑠璃子さんのお姉さまへの思いが伝わってくるようでした。
    <水仙>
    支那の少女との幻想的な出会い・・・。
    少女は幽霊だったか人間だったか・・・。
    <名も無き花>
    鳩が導いた美しい少女との出会い。
    マリア様と少女の親和性は高いですよね・・・それは原点においても明らかなわけです。
    ――CROIRE EN DIEU―― (信じます)
    信じます(c)福沢祐巳

    <鬱金桜>
    素敵なお姉さまとの想い出話。

    あわれ、この優しき姉に別れし小さな子の上に、心あってか胡蝶のごとく散りかかりしは、鬱金桜の葩。

    ひとたび逝きては返らぬ日の慕しさは、鬱金桜は春を寂しく儚なげに咲き匂うのではあるまいか。いかに若き君達。

    美しい文章です・・・。
    <忘れな草>
    お姉さまへのあこがれを、あこがれのまま終わらせた少女の話。
    マリみてのリリアンにもきっと多くいるであろう、普通の少女の想い出・・・。
    読み終わった後流れたタイミングの問題か、「Rumbling Hearts ~twin-vo ver.~/栗林みな実&石橋朋子」がもの凄くこの話に合っているなあと思ってしまいました。

    もう戻れない あなたの腕に包まれていた 優しい日々 夏の 記憶かすかに 残ってる 小さな花火 消えない 今でも
    もう帰れない 傷つくことを ためらっていた 幼い日々 胸の奥で密かに 育ててた 小さな想い消せない 今では
    いつか きっとすべてが 優しさになる あの日に見た七色の夢 遥か 遠くの虹で 出逢えるの あなたへの想い 生きてく 永遠に

    やがては返らぬ少女の日の永久の思い出によと、その君が手箱の底に秘められようものを・・・・・・。
    <あやめ>
    雨の日の美しい夢の想い出。
    ふさ子さんはとてもいい子。
    あやめの花の精、また会える日があると良いなと想う・・・。
    <紅薔薇白薔薇>
    ロサ・キネンシス、ロサ・ギガンティア。
    蓉子さまと聖さま。
    互いの永遠の友情を誓いあう少女の話。
    素敵です。
    <梔子の花>
    盲目の美しい少女の、姿とその笛の音色に魅せられた芸術家の話。
    少女への思いを込めてのみを振るい、人魚の像を完成させた芸術家の想いが伝わってくるようでした。
    とても綺麗な月明かりの話。
    <コスモス>
    華やかなる少女の日々への別れの手紙。
    妙様はきっと素敵なお姉さまなのでしょう・・・。
    まあ、私でしたらこの後自ら会いに来る妙様を書きたいところです(笑)
    さらば幸ある少女の華やかなる日を妙様お送りくださいまし。封じこめしこの一片のコスモスの葩に、いくど涙と共に接吻をしたでしょう。 ――では、妙様永久に御機嫌よう、さよなら。
    <白菊>
    死を約束された少女。
    分かれなければならないのに出会ってしまった二人。
    儚い、淡い恋物語。
    美しきものよ、汝のまたの名は悲しみである。あわれ、次の世には白菊の花と咲かんと誓いし人は・・・。
    <蘭>
    幼き日の美しきお姉さまとの想い出。
    切ないです。
    ああ、永久に忘れ得ぬ愁いの花よ、白蘭! 散りぞな散りそ、散りしきて弱き子の胸ぞ荒すな、と私はひそかに祈りをこの花に捧げましょうものを。
    <白梅紅梅>
    お互いを慕い合う仲の良い姉妹の悲しい別れの物語。
    切ない・・・。
    <フリージア>
    ミドちゃんが緑さんに成る過程の話。
    リボンの色が変わる瞬間が醍醐味ですね。
    <緋桃の花>
    『物置城のトランク姫』
    素敵な先生からの言葉に微笑む少女が可愛いです。
    <紅椿>
    紅椿が結んだ二人の少女。
    哀しい少女の紅椿への思いが切ない話です・・・。
    <雛芥子>
    寮にありては家を恋う、されど家に帰りて慣るればまた都の寮を慕う、少女なればか、かばかりに憧れ燃ゆる性あるは・・・・・・。
    雛芥子姫・・・切なすぎる話でした・・・。
    幸せになって欲しかったのになあ・・・。
    私の脳内ではゆるゆりのひまさくで再生されていました・・・でもバッドエンドだと切ないなあ・・・。
    それでも、なもりさん描いてくれないかなあ。
    <白百合>
    乙女の心に永久に生ける純潔の先生の話。
    その姿は消え去ってもその心は永久に残り続ける・・・。
    こうして先生のお姿は見えなくなりました。けれども先生の清い愛の生命を形取った白百合の花が(純潔)と囁いてこの土の上で咲くかぎりは、その花の姿と共に先生の、みこころは私共に永久に生きるのでございます。
    <桔梗>
    桔梗の舞姫の話。
    しかし、どうして着物を預けたまま取りに行かずに街を離れようとしたのか・・・忘れていたとしたら・・・ドジっ子?w
    打ちみればその面にも月影うけて咲くや銀泥に輝く一本の桔梗の花、おく露もあわれ紫にきらめいて・・・・・・。
    <白芙蓉>
    キチガイに嫌がらせを受ける話。
    何とも腹立たしい、哀しい話でございます・・・。
    <福寿草>
    優しいお姉さまとの出会いと別れと再会の話。
    福寿草のように美しく・・・。
    <三色菫>
    幸枝さんがふうらい姉妹のれい子さんで再生されてしまった・・・さっき読んでいたせいか・・・。
    実のお父様とのそうとは知らぬ(もしかしたら知っててかな?)の出会いと別れ。
    親子とは言え珍しく男女の話ですね。
    幸枝さんが義理のお父様とお母様の優しさに包まれて、幸いに過ごされていく事を願います・・・。
    <藤>
    聖羅さんが素敵です。
    無邪気さと美しさを兼ね備えた少女は最強レベルですね(笑)
    <紫陽花>
    ああ、心をこめて命を打ちいれて、描くや絵筆に染みゆく紫の滴り、隆子の涙に溶けし、薄き紫、金泥ににじみて夢より咲きしか淡い花の影、半ば溶けて夢に入り半ば現つの幻と咲くや、その葩あわれ紫陽花。
    最後の文が美しすぎる・・・。
    若夫人の素晴らしさと、お俊ちゃんの美しさに見惚れる物語でした。
    隆子ちゃんは何故かクロワーゼの湯音ちゃんで再生された(笑)
    家族が一人一人減っていって、三人になって、お俊ちゃんも亡くなって・・・家族が一人一人減っていく様が我が家を思い起こさせて切ない、けど紫陽花がとても美しい、そんな話でした。
    <露草>
    これはもう完璧に姉妹(スール)の話でしたね。
    まさにエス。
    秋津さんと凉子さんは当然可愛いのですが、
    さりげなく一條さんが可愛い・・・。
    私の手で続きを書きたいぐらいですね。
    私の場合は決して二人をこのままにしたりはしません。
    私にはそのような結末は、本来到底耐えられないものなのです・・・。
    <ダーリヤ>
    看護婦小説。
    少女が本物の看護婦になるきっかけと過程を描いたお話。
    素敵な決心だと思いました。
    でも、春恵さんの道子さんに対する気持ちは、やっぱり真実だったとも思うので、春恵さんの気持ちが切ないなと思うのです・・・。
    春恵さんはこれからも道子さんに会う為に病院に通うんだろうな・・・あきらめきれなくて・・・切ない。
    <燃ゆる花>
    激しい熱情。
    貴き二人の想いの果て。
    美しい。
    魔女は焔の中にその身をやつして、
    唯一人の次女と共に、神のもとに召されたのです。
    麗しき情熱の、ああ花物語・・・。
    <釣鐘草>
    姉弟の話。
    お姉ちゃんの哀しみが胸を打ちます。
    自分と重ねあってしまい余計に切ない気分になりました・・・。
    あわれ秋風心あらば紫の花咲き鳴らせ吹き鳴らせ、我が世悲しと鳴れよ、鐘草、鳴れよ鐘草・・・・・・。
    <寒牡丹>
    大事な事なので2回言いました。
    ちはやふるな話でしたね~。
    則子様がミクさん大好きなで応援しまくりな所が素敵。
    何子の君も良い。
    <秋海棠>
    マリみてに繋がっていくような感じの話でした。
    敦子様の哀しみが伝わってくるようです・・・。

  • いつか読まなければと思ったまま積んではや数年、やっと読むことができました。具体的な感想は下巻の方で!

  • 今更多くを語るまでもない名作少女小説です。ほんとに素敵なお話しかなくて、忘れてるかなと思っても、ほとんど覚えております。褪せることなく燦然と輝く、それは花物語! 100年前に読まれていた物語ですよ、それでも今尚読み継がれているのはやはり美しいことです。「はしがき」を書いている時の吉屋さんに報告してあげたいですよね。下巻もおいおい読もうと思います。
    すごく悩んだ末、上巻で1番好きな話をあげるなら「雛芥子」かなぁ。「雛芥子」のページに、すごく感動したであろう付箋が3枚も付いていましたので(笑)

  • こんなすれっからしでも泣けてしまうような美しい話もあれば、おはなしとしてそれはどうなの?と思ってしまうような話もあり。短編ゆえに物足りなさもある。ほぼ悲劇しかないのもね。しかし、そういう拙さ、物足りなさも当時の読者の想像力を刺激し、空想の中だけであれ、自由に振る舞う足場となったのだろう。
    私はがっついて、好みの話が来るまで只管乱読というスタイルを取ってしまったが、夜寝る前に一編だけ読み、その物語に浸りながら眠りにつくのが理想的な読み方なんではなかろうか。次読み返す時はそうしよう。

  • 少女小説としてももちろん、短編集のお手本としても読むべき価値のある作品。どの短編も僅か数ページで読者の心に細やかな感動を与える。嶽本野ばらが影響を受けているのがよくわかった。

  • 面白さがあまり伝わらなかった。私にはまだ早かったのかもしれないです。

  • 初版は1920年代。当時の思春期の少女たちを一様にセンチメンタルな気持ちにさせたであろう、数々の物語。
    実は一編の長編小説と思い込んで購入。
    ショートショートのようにごく短いそれぞれのささやかな物語には、同世代の少年や青年は全く登場せず、少女たちの憧憬の対象はあくまでも年上の少女であり大人の女性である。清く純粋な少女たちの一夜の夢のようなストーリーを通して当時を思った。

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著者プロフィール

1896年、新潟市生まれ。52年「鬼火」で女流文学賞、67年菊池寛賞を受賞。『花物語』『安宅家の人々』『徳川の夫人たち』『女人平家』『自伝的女流文壇史』など、幅広いジャンルで活躍した。著書多数。73年逝去。

「2023年 『返らぬ日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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