「朝日」ともあろうものが。 (河出文庫 う 11-1)

著者 :
  • 河出書房新社
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (343ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309409658

作品紹介・あらすじ

記者クラブに席を置くことの誘惑と腐敗、社をあげて破る「不偏不党」の原則、記者たちを苦しめる「特ダネゲーム」と夕刊の存在…。「知る権利」のエージェントであるマスメディアの自壊は、民主主義の危機を生んだ。朝日新聞社で十七年間にわたり記者を務めた著者が、「職場」として経験したマスメディアの病巣を指摘した問題作。

感想・レビュー・書評

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  •  烏賀陽(うがや)弘道著『「朝日」ともあろうものが。』(河出文庫/924円)読了。

     2003年までの17年間『朝日新聞』の記者をつとめた現フリージャーナリストの著者が、退社に至る日々を振り返ることを通じて朝日批判を行なった一冊。文庫化を機に初読。

     想像していたよりもずっとよい本だった。
     大企業の元社員がその企業を批判するときによくあるように、私怨を公憤にすり換えて自己正当化に終始する内容を想像していたのだが、そうしたジメジメ感はほとんどなかったのだ(ちょっとはある)。

     上司によるパワハラ、記事の扱いを大きくするために行なわれた捏造、記者クラブにおける腐敗堕落など、著者が告発する朝日内部のダメダメっぷりはすさまじい。
     もっとも、登場するエピソードのうち1割程度については、「そんなに目クジラ立てるほどのことか?」と首をかしげてしまったが、それは私の感覚のほうが麻痺してしまっているのかもしれない。

     朝日批判であるのみにとどまらず、日本のジャーナリズムのありようそのものへの普遍的な批判として読むこともできる。
     たとえば、「夕刊は不要どころか有害」という章があるのだが、これはすべての全国紙・地方紙の夕刊(廃止も相次いでいるが)に通ずる内容だ。

     新聞記者の仕事の舞台裏を綴った読み物としても、なかなか読ませる。とくに、駆け出し記者時代の思い出を振り返った章は、ある種の「青春記」としても出色。

     後半、『アエラ』時代のオウム事件取材についても触れられているが、そういえば、著者は森達也のドキュメンタリー映画『A2』にもワンシーンだけ登場していたっけ。「アエラのウガヤです」と……。

  • 私の恩師が、世の中で一番カッコ悪い職業は、サラリーマンだと言いました。
    そして、一番、競争が激しく、大変なのも、サラリーマンだと言いました。
    なぜ、こんなに、大変な職業を多くの学生が選ぶのか、理解に苦しむと言いました。

    この著作を読んで、朝日新聞という組織は、こんなに終わっているのか!
    という感想は、全くなく、
    著者が経験した「理不尽」な仕打ちは、
    会社員ならば、少なくない人が経験することです。
    じゃあ、辞めるか?
    しかし、辞めても、また同じような問題にぶつかります。

    組織の不正、腐敗、そして働く人の規律のなさ、
    自分が「何を見るか」で、印象が全く違います。
    この世に完璧な人がいないように、完璧な組織はありません。

    既得権益を持っている組織が腐敗するのは、
    歴史を見ればすぐにわかります。
    また、それを正すものも必然と出てきます。
    もちろん利用するという意味ですが。

    今は、ドックイヤーです。
    時代の流れが速い。
    その既得権益を維持しようとすればするほど、
    組織が破滅に向かいます。

    この本を読むと、組織にどうやって立ち向かうかというよりも、
    より、自分らしく生きるにはどうすればいいのか?という問いが生まれます。
    組織人ならば、そんな問いが甘っちょろい戯言だと、判断されますが、
    やはり、この自分らしくというは、より重要にになると思います。

    自分ができること、やりたいことと、社会が求めること、他者が求めることに、
    接点を求める。そして、その中で、自分の食い扶持を見つける努力をする。

    今、日本のかなりの組織が末期的な状況です。
    ただ、日本的な力学では、
    組織の存続に力が働き、個人の権利と存在というのは、
    ないがしろにされます。

    著者は、組織を捨てたことで、得るものがあったと思います。
    また、やはり、自分がいた組織に愛着と、そこに働いている人に敬意があるからこそ、
    ぶっちゃけたんだと思います。

    もちろん朝日新聞は、今も存続しています。
    ただ、内部組織は、ガン末期の症状をていしているでしょう。
    多くの良心的な人が、理不尽と、矛盾に、憤りを感じていると思います。

    日本は、今までも、これからも、経済的には、恐らく衰退していきます。
    戦後40年で4000万の労働生産人口が増えましたが、
    今後40年で、今度は3000万人減ります。
    どう考えても、人材活用により、生産性の向上が急務ですが、
    現状は、人材を殺しています(もちろん比喩的にですが)。

    多くの人が、将来への不安を感じていると思います。
    組織人としては、選択肢としては、二つしかありません。
    組織から出るか、出ないです。

    出ないならば、これから、あらゆる消費市場がシュリンクしていく中で、
    組織にしがみつく哲学を持たないといけません。

    出るのならが、ぺんぺん草も生えていないような荒野で、
    まずは、生きていかなくてはいけません。

    今の時代、確実に、ベターな生き方などないですから。
    この著作は、朝日ともあろものが!こんな終わってます的な「情報」の他に、
    結局、これから、個人は、覚悟を持って生きていかなければいけないんだと、
    はっきりわかったことに、非常に高い価値を感じました。

    どういうスタンスで生きていくか、
    それは、誰かに頼ろうが、組織に依存しようが、独立しようが、
    個人が、この時代で壊れないための一つの重要な問いとだと思います。

  • 元・朝日新聞記者による告発?告白?本。エリートで権威のある「あの」朝日がこんなことしてましたよという本だが、「どの」朝日でもダメなものはダメで、そもそも「あの」が朝日に対して無いのでただのグズグズ会社の内情って感じも否めず。

  • 2回目

  • 朝日新聞の捏造記事というのは、この社が伝える伝統芸能らしい。新人記者に、がらがらな展覧会に人がたくさんいるような写真を撮らせ、これが取材のやり方だと教える。そして、ありもしない広島の百円ラーメンの記事が、捏造の名作として伝えられる。挙げ句の果てに例のサンゴ事件。やはり無くなった方がいいですな、この新聞社は。

  • 昔どこの会社でもあったようなことのような。。
    朝日新聞だけでなく多くのマスコミ、日本の多くの会社が抱えていた、いる問題がここにある。
    100円ラーメン捏造の話が本当か?というような。。。
    でも、メディアを報じられるままに信じている人もいないのではないか。。

  • 本書に朝日系メディアの論調に対する批判を期待すると裏切られる。そうではなく、いま日本のマスコミ企業が犯されている病理的体質に対する批判、いやもっと敷衍するなら大企業病に犯された組織に立ち向かう若手改革派社員=著者の奮闘記、という風に読むことが出来る本だ。
    著者が出会う様々な同僚・上司の、普段自社の社説で批判しているような官僚的言動に唖然とさせられる一方、著者のような社員が組織を変革することができずにたどる退社という顛末にもやむを得ないという気がした。これは硬直した大組織を擁護しているのではなく、改革とは誰かが正論を吐き、それが通れば成し遂げられるというものでは(残念ながら)無いから、である。
    つまり最も改革されなければならないような社員・幹部の目の色を変えてこその改革であり、その意味で彼ら朝日の「エリート集団」が集団として曲がりなりにも危機感を持つようになるには、それこそ新聞というメディアが日本から、いや世界から消え去るかどうかの瀬戸際まで待つしかないだろう。もっともそのときに何年越しの改革などと悠長なことをしている余裕があるとは思えないが。

  • 既得権益の遵守、年功序列、前例主義、プロとしての倫理など.
    組織に属する者は慣例や周囲の空気に毒されてはならない.

  • 本書は朝日新聞社で記者を務めた著者が職場として経験したマスメディアの病巣を指摘した問題作である。
    単なる内幕物としても十分面白いが、ジャーナリズムの責任と義務や記者クラブなどの問題点についても分かりやすく教えてくれる。マスコミを目指す人には必読の書である。
    将来、身内が新聞社に就職したいと言ったらどうするか。新聞というビジネスモデルは破綻しているかもしれないが、少なくとも朝日新聞は勧めないだろうね。

  • 我が家では新聞の購読をやめて10年以上経つので新聞記事の現状はわからない。新聞に生き残る道はあるのだろうか。まあそれはどうでもいいけどあの色とりどりの折込チラシの束が欲しい。あれは大好き。

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著者プロフィール

1963年1月京都市生まれ。
1986年、京都大学経済学部を卒業し朝日新聞社に入社。名古屋本社社会部などを経て1991年からニュース週刊誌「アエラ」編集部員。
1992~94年に米国コロンビア大学国際公共政策大学院に自費留学し、軍事・安全保障論で修士号を取得。
1998~99年にアエラ記者としてニューヨークに駐在。
2003年に早期退職。
以後フリーランスの報道記者・写真家として活動している。
主な著書に『ヒロシマからフクシマヘ 原発をめぐる不思議な旅』(ビジネス社 2013)、『フェイクニュースの見分け方』(新潮社 2017)、『福島第1原発事故10年の現実』(悠人書院 2022年)、『ウクライナ戦争 フェイクニュースを突破する』(ビジネス社 2023)などがある。

「2023年 『ALPS水・海洋排水の12のウソ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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