第七官界彷徨 (河出文庫 お 19-1)

著者 :
  • 河出書房新社
3.76
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本棚登録 : 1905
感想 : 185
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  • Amazon.co.jp ・本 (189ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309409719

作品紹介・あらすじ

七つめの感覚である第七官-人間の五官と第六感を超えた感覚に響くような詩を書きたいと願う、赤いちぢれ毛の少女・町子。分裂心理や蘚の恋愛を研究する一風変わった兄弟と従兄、そして町子が陥る恋の行方は?読む者にいまだ新鮮な感覚を呼び起こさせる、忘れられた作家・尾崎翠再発見の契機となった傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 読みたかった本。90年前に書かれた作品とは思えない軽やかさ。東京に出て兄二人と従兄と共に四人で暮らす私こと小野町子。コミックオペラが歌われたり変な学術論文が出てきたり恋にまつわる論争など個性豊かな登場人物たちが愛おしい。

    • akikobbさん
      しずくさん、111108さん、こんにちは。

      予告編見てみました。この映画は、尾崎翠ご本人にもスポットが当たっていてより理解が深まりそうです...
      しずくさん、111108さん、こんにちは。

      予告編見てみました。この映画は、尾崎翠ご本人にもスポットが当たっていてより理解が深まりそうですね。私はもしかしたら漫画より映画の方が入りやすいかも、と思いました。

      教えてくださってありがとうございます!

      2024/04/08
    • しずくさん
      予告編を観て下さったのね。確かに、映画には当時の時代背景も伺われ想像がさらに膨らみますもの。私も新たに見直してまた観たい気持ちが再燃していま...
      予告編を観て下さったのね。確かに、映画には当時の時代背景も伺われ想像がさらに膨らみますもの。私も新たに見直してまた観たい気持ちが再燃しています。

      実は『第七官界彷徨』と尾崎翠さんを知ったのは、三上幸四郎さんの『蒼天の鳥』https://booklog.jp/users/lemontea393/archives/1/B0CJM5ZW69を読んだのがきっかけでした。『蒼天の鳥』の小説に実在の 鳥取市気高町出身の女流作家・田中古代子(たなか・こよこ)さんと、娘の千鳥(7歳で夭折)が登場。尾崎翠さんは田中さんと同郷で友人の女流作家として出ていたの。彼女らは新しい女性の生き方を目指す先駆者として描かれ、私は小説その物より実在した3人の女たちに心奪われてしまいました。実際の田中古代子さんと娘の千鳥さんがその後どうなったのかを追いかけている内に、尾崎翠さんの『第七官界彷徨』に行き着いたというわけです。
      何度もしつこくて申し訳ありません・・・

      2024/04/08
    • 111108さん
      予告編、私も観てきました!翠の生涯と『第七官界彷徨』の作中作との構成が面白そうですね。

      『蒼天の鳥』は読んだことなく田中古代子さん、千鳥さ...
      予告編、私も観てきました!翠の生涯と『第七官界彷徨』の作中作との構成が面白そうですね。

      『蒼天の鳥』は読んだことなく田中古代子さん、千鳥さんも知りませんでしたが、「新しい女性の生き方を目指す先駆者」というのに惹かれます。
      この河出文庫の解説で尾崎翠の生涯が紹介されてますが、そこでは上京後に松下文子や林芙美子といった同時代のシスターフッドの絆が翠の執筆活動にとってかなり重要であったと書いてあります。私も翠達の姿を追いたくなりました♪
      2024/04/08
  • 珍しく予備知識なしに本屋で手に取った。『第七官界彷徨』、字面からは六道輪廻とか般若波羅蜜といった仏教用語が連想されたため、伝奇小説かと思って読んだら全然違った。このタイトルでこの内容は反則だ。この字面から誰がこんなファニーな青春コメディ小説を予想できるだろう。

    語り手の小野町子は田舎から上京してきた少女で、兄2人と従兄弟との計4人で暮している。目下の仕事は家族の炊事係だが、彼女にはひそかな野望がある。

    「私はひとつ、人間の第七官にひびくような詩を書いてやりましょう」

    第七官とは町子の造語で、五感はおろか第六感すら超越した超感覚だ。しかし、それが具体的にどういうものかは本人にもよく分からない。第七官とはこういうものじゃないかしら、と定義するのに気を取られて肝心の詩作は滞りがちだ。

    この夢見がちな少女に精神科医の長兄、苔の繁殖を研究する次兄、音楽予備校に通う従兄弟が加わって、奇妙な共同生活が営まれる。登場人物の誰もが一癖二癖あり、飄々と世間からズレている。気づくと私の脳内では、この小説の情景が大島弓子の絵柄で再生されていた。

    彼らの奇矯な行動は浪人や失恋などの傷心に端を発しているが、あまりに色々こじらせているため、私は込み上げる笑いに肩を震わせないわけにいかなかった。特に次兄の論文は迷走の極北に達していた。「嘗つて我は一人の殊に可憐なる少女に眷恋したることあり」という浪漫派の詩人めいた告白で始まるその論文は「荒野山裾野の土壌利用法について」という肥料学の科学論文なのだった。

    思うに、この多感な少女特有のユーモアとペーソスこそが第七感なのではないだろうか。つまりこの小説世界そのものが第七官界であり、その中で儚い幸福を求めて迷走する彼らはまさに第七官界の彷徨者だ。私は前言を撤回しなければならない。『第七官界彷徨』。この風変わりな小説には、やはりこのタイトルしかありえない。

    • 深川夏眠さん
      この小説は私の脳内でも大島弓子マンガちっくに繰り広げられました(笑)
      この小説は私の脳内でも大島弓子マンガちっくに繰り広げられました(笑)
      2017/04/22
    • 佐藤史緒さん
      ですよねー♪ 私は大島弓子と坂田靖子と神坂智子と川原泉の間を行ったり来たりして、最終的に大島弓子に落ち着きました(^-^)
      ですよねー♪ 私は大島弓子と坂田靖子と神坂智子と川原泉の間を行ったり来たりして、最終的に大島弓子に落ち着きました(^-^)
      2017/04/22
  • 昭和モダンの香りが漂う雰囲気。
    ノオトとかチョコレエトとかのカタカナ表記がいい感じ。
    とか思いながら読んでいくと、何だか想像を絶するような内容で、発想がめちゃくちゃ面白かった。
    赤いちぢれ毛に奮闘する女の子の姿がかわいい。隣人との無言の交遊も可笑しかった。最後までくびまきにこだわるところも。
    しかし、ここに登場する人たちはみんな、熱しやすく冷めやすいたちなのかなぁ。

  • 「よほど遠い過去のこと、秋から冬にかけての短い期間を、私は、変な家庭の一員としてすごした。そしてそのあいだに私はひとつの恋をしたようである。」

    完璧な出だしにうっとりした。
    いや見事…!
    冒頭が全て終わった後に振り返る形なのが大好きなので、いきなり心をつかまれた。
    若さは時として当人に対してさえ乱暴なもので、家族四人が本人以外には何を言ってるんだと馬鹿馬鹿しく思えてしまうことを大真面目に訴えながら空回り空回りしている様子は、滑稽さと悲哀が混じり合っていて、とても愛おしい。
    私の大好きな『うたかたの日々』(ボリス・ヴィアン)に通じるものもあって。あちらは悲劇、こちらは喜劇。
    お隣さんもどうにも切なくて好き。
    冒頭で予告されていた「私の恋愛」がほんのわずか、最後に書かれているだけのささやかさも好き。
    ささやかだけど、胸にしみる。
    この恋のこと、彼女は一生忘れないんだろうな。

    巻末の、作者の構図も面白かった!
    建物を設計するみたいに書くんだなぁ…!

  • わたしの読書はこの小説から始まった
    愛してやまない永遠の作家

  • 「この作はできるだけ説明を拒否し、場面場面の描写で行きたい」は成功していると思う。冗長な説明だらけの物語は読む気が失せるから。小難しい話かと思ったら、独特な雰囲気の明るい恋愛小説だった。

  • 苔の本に ”苔文学” として紹介されていたので、興味を持って読んでみた。登場人物たちは、まさに苔のような人ばかり。ちょっと失恋しただけ(?)で精神が分裂するくらいもろかったり、かと思えばコンクリートのすきまでも生きていけそうなしぶとさも持ち合わせていたり。物語全体にただよう独特の暗さ、湿り気もまさに苔のよう(作中では「蘚」と表記)。

    人生が陰っているときしかたどり着けないような、小さなすきまの中、苔々しい世界が広がっている。

  • 本書の題名から想像されるのは『セブンセンシズ?』

    題名からファンタジーや宗教的な物語をイメージしてしまうのですが・・・


    赤い縮毛の少女町子は、分裂心理学を扱う病院で働く兄の一助、肥料の研究に勤しむ次兄の二助と音大を目指す従兄弟の三五郎達の身の周りの世話をする為に親元を離れて彼等と暮らす事に!?

    そんな町子は人の第七巻に響く詩を書くと言う崇高なる目標がある・・・

    今、忘れゆく昭和の時代のおはなし。


    因みに本作と私の出会いはブクログです!

  • 人間の五官と第六感を超えた感覚、"第七官"に響くような詩を書きたい。そう願っているすこし夢見がちな赤いちぢれ毛の少女・町子。
    そんな町子と、分裂心理学を得意とする精神科医の兄・一助、苔の恋愛と繁殖について研究する弟・二助、そして音楽学校でピアノを習う従兄の三五郎との、ちょっとおかしくて可愛い4人の同居生活が描かれています。

    登場人物全員クセが強く、彼らの会話や生活はユーモアたっぷり。
    肥やしを煮るからめちゃくちゃ臭い二助の部屋と、人間の言動をなんでもかんでも分裂心理につなげたがる一助と、雨音に合わせて狂ってしまう三五郎のピアノの音程練習と、なんだかはちゃめちゃな日常がとても楽しそう。私も女中になっていっしょに同居したい。
    短くて読みやすいのであっという間に読んでしまったけれど、ちょっととぼけた文体も世界観も好みにぴったりなのでまたじっくり読み直そう。
    「第七官」「界」「彷徨」ってすごいパーフェクトなタイトル。こんなタイトルつけられちゃったら読む前から絶対好きって分かってしまうよ。
    これがおよそ100年前も前に書かれてるなんて到底信じられない。

  • 乙女小説なのに、肥やしを煮たり、苔の恋情研究がでてきたり、失恋の心持でコミックオペラを歌ってみたり、なんだかくつくつと笑いがこみあげる。結局第七官界とはどういうものかしめされてないが、この物語のおもしろさこそがそうであるかのように思われる。

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著者プロフィール

1896年鳥取生。女学校時代投稿を始め、故郷で代用教員の後上京。日本女子大在学中「無風帯から」、中退後「第七官界彷徨」等を発表。32年、病のため帰郷し音信を絶つ。のちに再発見されたが執筆を固辞。71年死去

「2013年 『琉璃玉の耳輪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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