- Amazon.co.jp ・本 (163ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309410449
感想・レビュー・書評
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「友情というのは、親密感とやきもちとエロと依存心をミキサーにかけて作るものだ。ドロリとしていて当然だ。」
なんだってこんな文章が書けるんだろう。
なんでこんな小説が書けるんだろう。
学生の頃、お弁当を一緒に食べる子は「友達」だった。
同世代の間にはどうやら「友達」と「親友」と「幼なじみ」がいて、それぞれ違うものと認識されていたように記憶している。
では会社帰りに一緒に呑む人がいつまで経っても「友達」にならないのは何故なんだろう?
そう思っているのは私だけで、相手は私を「友達」だと思っていたりするのだろうか。
‥いや、それはないな。
この物語の中でフワフワと形成される友情のようなものが不思議でならない。
カツラさんとエリちゃんが「友だち」と言語化したことで失敗したのは、2人が本当は「友だち」じゃなかったからなのか。それともお互いの「友だち」のイメージに齟齬があったからなのか分からない。
だけど、ひとつだけぼんやりと想像出来ることがある。
私はこれから先、誰かに対して「友だちになろう」とか、「友だちだと思っている」とか、そういう言葉を口にしないだろうということ。
淳之介と梅田さんのような、はたまた淳之介とエリちゃんのような、輪郭の定まらないフワフワした関係をたくさん作るだろうということ。
そしてたぶん、それが自然なことのはず。
「友だち」や「友情」などと言語化してしまうと、フワフワ揺れ動く気持ちや膨らんだり萎んだりする自意識が言葉の囲いにぶつかって痛いんじゃないか。
いつでも同じ態度を求められることは厳しくて不自由なのではないか。
人の気持ちってそんなに一定じゃないし安定していない。
この小説を読んでそんなことを思った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
引っ越し当日、主人公は友人の梅田さんに誘われて商店街にある「カツラ美容室別室」で髪を切ることになった。
そこでカツラを被った店長に、同い年のエリ、年下の桃井さんと出会う。
エリと友達以上、恋人未満になりながら、主人公は気儘で孤独な生活を続けていく。
言葉にできないもやもやとして感覚的なことを、上手に文章にするなーと思った。
特に
「しかし、会社を辞めて、上司や同僚と飯食うのを止め、友人とべたべた会うのを止めたら、どうなるか。オレは他人によってなんとか自分の形を保てている。他人と会わないでいたら、オレはゲル状になるだろう。」っていう部分が好き。
主人公は自分のことが好きなくせに他人の軸で行動しようとしてうまくいかなくて、結局傍観者にしかならない。
人に必要とされたいけども、自分は人を必要とはしない。
結局、わがままな寂しがりやのまま。
だから、逆に人が大好きで自分の軸で行動している梅田さんがまぶしく見えて、自分が大好きで自分の軸で行動しているエリが時々めんどくさく見えてしまうんじゃないかなー。
世の中は得てしてどろどろとねっとりしてるもの。
それを書くのがとても上手でおもしろかった。 -
作品はもとより、長嶋有さんの解説が最高だった。
"私はこの文庫の解説者であるが、それ以前に「山崎ナオコーラ=ロボット説」を提唱しつづけいている者である。"
こんな感じで始まる。
直訳でしゃべる人。
ナオコーラは小説を書くロボット。
しかし文章はむしろ、人間以上に人間的。
「トライアンドエラー」の旺盛なところも、やはりロボットの律儀な学習にみえてくる。
散々なことを言っている。
だけど、作者の作品をいくつか読んできたからこそ共感できるし、そして長嶋さんはナオコーラさんが大好きなんだと、ものすごく伝わってきた。
だって私も大好きだから。
とくにトライアンドエラー…のところ。本当に人間らしくて大好きだと思う。
無意味な物語で、最高でした。 -
男の人のこういう心理分からない。だから素直に話せないのかも?んー分からないってことが分かった。
男女の友情はこの世の永遠の問いですけど、答えはきっと一生かかっても見つからない。
男の人は、セックスしたいと思うことと、感情の穴を埋めたいことが イコールで繋がってないのかな?私はどうなんだろう?分からない。
山崎ナオコーラ。男性なのか女性なのかも分からない。解説で、「彼女」と呼称されていたから 女性なのかもしれない。女性だとして、こんなに男性の感覚を描くのが上手いことに驚いた。私には分からないから
ドキドキする瞬間を作っておいて野放しにされると寂しいもん 怒るよ
一生友達なんて言われたらズキズキしそう
でも、この本の中では、友達って美しいと思った。
彼女よりも友達の方が泥臭くって美しいのかも。 -
よい。ナオコーラの中でとびぬけていいわけじゃなくて、相変わらずよい感じ。
仲良くなっても距離がある、分かり合えない感じがいい。
長嶋有の解説がこれまたいい。 -
2009.3.15
「こんな感じは、恋の始まりに似ている」
カツラを被った店長のいる美容室で出会った3人の交流。 -
カツラをかぶった店長 桂孝蔵の美容室を舞台に、淳之介とエリ、梅田の交流を描く
私はつくづく平坦な話が好きだ
この本も洩れなく平坦でゆらゆらしてる
何かが始まりそうな、始まらなさそうな
友情って熱いワードを口に出すようなものじゃないけど
読ませる書き方の作家さんだ
エリ、正直だけど不器用で好きだった -
ゆるい感じだけど、時々ハッとするような洞察がピリッと差し込まれていてドキッとする。
ああ、こんな闇鍋みたいな心持ちのこと、あるよねえ、なんでバレたんだろう、みたいな。
その鋭さが、江國香織さんの小説ほどあからさまでないから、かえってお腹に応える。
それでも、つるりと読んでどこかに残る。衝撃的なところがないだけに気持ちのいい読後感。 -
面白くてサクサク読み進められたけど、なんだかあんまり覚えてない!あまりにも「日常」すぎたのだと思う。こういうの好きです