走ル (河出文庫)

著者 :
  • 河出書房新社
3.15
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本棚登録 : 370
感想 : 40
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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309410470

作品紹介・あらすじ

なんとなく授業をさぼって国道4号線を北に走り始めただけだった…やがて僕の自転車は、福島を越え、翌日は山形、そして秋田、青森へと走り続ける。彼女、友人、両親には嘘のメールを送りながら、高2の僕の旅はどこまで続く?21世紀日本版『オン・ザ・ロード』と激賞された、文藝賞作家の話題作。

感想・レビュー・書評

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  • 10代の頃、サボりで得た少しの高揚感とそのことで抱えた淡い不安を懐かしく思いだしながら読んだ。

  • グーグルマップを片手に、道を目で追いながら読んでいきました。実在する道路や市町村名が出てくる度に新たな発見があり面白い読書体験ができた。
    高校生男子の若さ故の冒険心、一方でどこかで現実から道を外れることへの恐れ、等大人になりきれない気持ちがリアルに描かれていると思った。自分を取り巻く日常世界の狭さを、長距離の自転車旅を描く中で対比しているのも面白かった。

  • なにかすがすがしい疾走小説。走り続ける自転車からほとばしるエネルギー、筋肉の動きを感じた。ひょんなことから、北へ北へと自転車で走り続ける。主人公は高校2年生とあって「スクラップアンドビルド」の主人公の高校時代を見ているような感じもした。素直な前向きさ。あくまでも前に、前にひた走る、それが心地よい。

    自宅は八王子、学校は四谷、陸上部の朝練会場は皇居回り。その朝、ひょんなことから昔譲り受けたレース用自転車で学校までやってきて、練習の終りに飲物を買ってくる役目の途中で、そのまま北に向かって走り出す。気が付けば千住大橋を越えて、一時限目の授業をサボってサイクリングをしていたら、埼玉県まで来てしまった。「何の目的も無いのだ、埼玉県に」 この、「何の目的も無い」疾走、が連続し、走り出したらやめられない、というのがこの小説のおもしろいところだ。

    そこからはもう止まらない。埼玉を抜け、利根川を渡り、おいおい、一体どこまでいくんだい? 止まらない前進欲求。

    えー、主人公はあくまで進むのだ。北へ北へ。そしてそのルートがドライブや旅行でほとんど通ったことのあるルートだったので、風景が目に浮かびとても面白く読んだ。クラスメイトとの刻々との携帯のやりとが現代風だ。主人公の親の世代だったら普通の電話か、手紙なんか出してしまったかもしれない。

    ウィキには高校時代に自転車で北海道まで走破したことがある、と書かれていた。それで現実感があったのか。


    初出「文藝」2008年春号

    2008.3.30初版(単行本) 図書館

  • ⚫︎受け取ったメッセージ
    とにかくただただ「走ル」こと自体を書くことに
    テーマを置いている作品

    ⚫︎あらすじ(本概要より転載)
    なんとなく授業をさぼって国道4号線を北に走り始めただけだった…やがて僕の自転車は、福島を越え、翌日は山形、そして秋田、青森へと走り続ける。彼女、友人、両親には嘘のメールを送りながら、高2の僕の旅はどこまで続く?21世紀日本版『オン・ザ・ロード』と激賞された、文藝賞作家の話題作。

    ⚫︎感想
    ロードノベルといって想像するのは、旅先でのあれやこれやが走る者の心情に変化をもたらし、成長する的な先入観だが、これは全く違う。ほぼ無計画に、無目的に、嘘をつきながらひたすらに走る。旅先でも、特にこれといった何かに出会うわけでもやるわけでもない。走ること自体が目的。だから、繰り返されるのは、自転車の描写、どの道を通って…という経路、メールのやり取り、自分の身体の様子、自分の心の動きを書くけど、風呂に入りたい、ご飯を食べたいとか、内面ではなく本能的な欲の描写でほぼ構成されている。それがかえって新しい。

    羽田さんの作品は3冊目だけど、いい意味でねっとりしたものが通底しているように私は思う。
    解説もおもしろかった。平行派と垂直派の話。羽田さんの小説はY軸的であるという指摘。

  • 夏休み明けの試験が終わり、高校2年生の僕は、自宅の物置に忘れられた自転車を見つける。ロードレース用の自転車で、地面を感じながら4時間かけて学校へ向かった僕は、陸上部の朝練の後、突然足の向くまま自転車で北上を始める。
    何処かを目指す訳でもなく、友人達とメール交わしながら淡々と自転車を漕ぎ続ける僕の行先は。

    今日という一日は、いつ始まったのだろう。陽が昇るのがゆっくりすぎて「今日」というくさびをいつ打ってよいのかわからない。

    山路は厳しく、夜道は暗い。
    公園で寝泊まりして、時に暴風雨の中走る。
    高校生男子の悶々と抱えているものをぶつけるような、何処にぶつけるか迷っているような、息遣いがせまってくる。
    コンビニ弁当と携帯での友人とのやりとり。
    場所は家や学校から離れていて、自転車旅も非日常なのに、メールのやりとりは自宅での様子と変わりない様子。
    そういう世の中になったということをじんわりと感じる。

  • 青春だなぁ。って、僕の高校生の頃は、こんなことする度胸も体力もなかったけれど。でも、通学するのに駅まで自転車で行こうとして、思い立って学校まで直接、1時間以上かけて行ってみたことはあったなあ。男子はとかく、自転車で遠くに行きたがる。無計画にどこまで行けるか、やってみたくなる。

  • どす黒かったり、ザワザワするような読後感であったりすることの多い作家という印象ですが、本作は羽田圭介の小説にしては、「素直」な作品であるという印象を受けました。

    文庫解説にもありましたが、「自転車で旅をしているのに、主人公が成長していない」ということが、そして旅のなかで触れる風景や自転車の挙動などの一つひとつの描写が緻密であることが、作品のリアリティを支えています。
    ある意味、「旅をすることで主人公が様々な経験をして成長する」ということは「ファンタジー」なのかもしれません。

  • 物置から出てきたロードバイクで衝動的に走る。ただ、走る。

    芥川賞作家の羽田さん、初です。冬になると自転車に乗れなくなるのでその鬱屈を少しでも和らげたくて手に取ったのですが、ちょっと楽しみきれませんでした。主人公の、若さゆえの行動に対して共感できないのは、すでにそういう年齢になっているからでしょうか。あるいは主人公の性格に惹かれなかっただけなのかもしれませんが。
    ただ、こんなふうに何もかも投げ出して理由もなく愛車でどこまでも走っていけたらどんなに気持ちいいだろう、という意味で、羨望を覚える作品ではありました。
    ロードバイクブームの直前くらいの作品だからか、歩道を30km/hで走ったりドッグファイトしたり無灯火で夜に走行したり、という表現が出てきますが、当時としてもちょっとご愛嬌としても受け取れないマナーの悪さかもしれません。ポリコレ以前の問題として。
    ちなみに作中に憧れの存在としてランス・アームストロングとマルコ・パンターニというスーパースターが出てきますが、アームストロングはドーピングで、パンターニは麻薬で、ともにこの本が出版されてから早々にレース界(あるいはこの世)を去ります。ただの憧れとして見るにはちょっと業が深すぎるのです。

  • 羽田圭介の出版作品として3作目にあたる作品。

    東京八王子に住む、高校二年生で、陸上部に長距離ランナーとして所属する
    本田は、小学生のころにもらって放置していたイタリア・ビアンキ製の
    ロードレーサー(競技用自転車)を見つけ、そのままでは乗れないので自力で整備し、
    次の日の、学校での朝練に向けて自宅の八王子から朝練が行われている皇居まで
    数時間かけて向かった。そこで、朝練終わりになんやかんやあって、
    自転車にて北上を始めることにる・・・。

    自転車ロードムービー的な作品でありながら、主人公・本田の心情と友人との
    携帯メールでのやり取りなど、どちらかと言えば、主人公・本田のストイックな
    アスリート的な気質が相まって、どこまでも北上していってしまいます。
    そんな本田の行動を追従し、読者も何となく一緒に無心に自転車に乗って
    北上している感覚を味わえるかもしれません。
    友人に彼女に学校や部活のことを考えながらも、北上を続けてしまう心理描写が
    自転車で旅をするぞ!!というロードムービー的な作品とは一味も二味もちがう
    作品になっているので、読んでいて、応援したくなる感情と、早く帰れよ、と
    促したくなる感情とで、先どうなる、と純文学のはずなのにエンタメ的な
    感覚で読んでしまっている自分がいました(笑)。

  • 初めて自転車を買ってもらった日、これに乗ればどこまででも行けるような気になった。いまでも、一旦サドルに跨ると中々降りられない。本田君の気持ちがよく分かる。(*^_^*)

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著者プロフィール

1985年生まれ。2003年『黒冷水』で文藝賞を受賞しデビュー。「スクラップ・アンド・ビルド」で芥川賞を受賞。『メタモルフォシス』『隠し事』『成功者K』『ポルシェ太郎』『滅私』他多数。

「2022年 『成功者K』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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