やさしいため息 (河出文庫)

著者 :
  • 河出書房新社
3.16
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本棚登録 : 259
感想 : 38
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309410784

感想・レビュー・書評

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  • 冬のひだまりみたいな、静かな物語でした。

    たしかに、風来坊な弟が登場して、誰かの人生を毎日綴り続ける、なんてちょっと変わった設定はありますが、基本的には何か大きな事件が起こるわけではなく、淡々とした日常が続いていきます。

    人付き合いが得意ではない主人公が、職場での人間関係にもやっとしたり、ちょっと気になる人ができたり、とにかく不器用なところに共感を覚えます。

    青山さんの文章はたまにすごくリアルな質感を持っていてドキっとするのですが、気になる人にメールを送ろうか迷って迷って、えいっと送った後の表記とか、すごくわかるなー!と。
    “送信ボタンを押した。押した瞬間、電波がこの狭い浴室の壁に跳ね返って、戻ってくればいいと心から思った。気づかないでほしい。いい返事がもらえないなら、返事もしないでほしい。“

    本書は表題の「やさしいため息」と、「松かさ拾い」の2作からなっています。
    「松かさ拾い」の方が「一人でいる」ことの輪郭が濃くて、登場人物は他にもたくさんいるのに、青山さんのこうした「一人」に焦点が当てられた作風が疲れたときにはほっとします。

    最後は磯崎憲一郎さんとの対談ですが、こちらも読み応えあっておすすめです。
    小説をすこし、書いてみたくなる対談です。

  • 青山さんの小説かなり好きかもしれない。

    読むのは『ひとり日和』に続き2冊目。ひさびさに小説が切れるところで「まだ読んでいたい」という感覚になった。

    びっくりするような表現はないが、文と文のつなぎ方や言葉の選び方など、かなり練っているのではないかなという気がする。さりげないふりをしているように見せられるほどに、ほうぼうに手入れがいきとどいている。小説の中の人物に共感する、というよりは造形の手つきに惹かれる感じ。

    と言いつつも「よくできた小説」というシステマチックな印象にもならない。ふとすると都会の女性の不安感や孤独について描かれたもののようだが、一つの意味に収まってしまうのを丁寧に避けている小説だとも思う。そこに、青山さんの日常の多様性を見い出す視野の広さと、多様なものを受け止める強い意志が反映されているようで、そういった感覚が自分好みなのではないかと思った。ヘンな言い方をすると、青山さんはかなりしぶとい、というかたくましい方なんではないかと思う。そこに惹かれている自分がいる気がする。

    『ひとり日和』の時も何かを言おうとすると難しかったが、これも結局そうなった。

  • 表題作、起伏のない代わり映えしない日々でも、その変わらない事が救いになるのかもしれない、と思いました。
    他人の日常を記録する、ってえっと思いますが、風太はそこに自分の主観を入れずに淡々と記録しているので誰も嫌悪感みたいなものを抱かないのだろうな。勝手に幸せ・不幸せとか評価されてたら嫌だけど彼はそれをしない。
    どうしても物事をややこしく考えてしまう人はいるので、こうやって軽く「やってみればいいじゃん」みたいに言われると(やってみよかな)となれる気がします。やりたくない事は無理してやらなくていいけど。。
    緑君、こういう人居るんだろうなと思いました。亀を飼っている所で、植物みたいなある人を連想しました。
    「松かさ拾い」、主人公は苦しい恋愛ばかりしてるんだろうなと思いました。ナッツを口実にしているけど、小日向さんへも抑えつけてるだけで気持ちありそう。気付いてて付き合ってくれてる西君は優しいな。
    ぼんやり読みましたが、どちらの主人公も幸せになってくださいと思います。妙に現実味が感じられたので、現実にいるこういう人たちも。

  • 日常は、改めて文字に起こしてみれば平凡だ。だけれどその数行の平凡さこそ幸せだと呼ぶ人もいる。いつも輪の中にいて、人懐っこい笑顔でにゃあと鳴けば招き入れて貰えるような人間もいれば、にこりとも口角上がらず でも本当は自分が一番よくわかっている、面倒くさい、変われない、もっと楽になりたい。弟がつけた観察日記はあまりにつまらない数行のものだったけれど、自分で書いたら感情描写が加わってとても濃いものになったりするんだろうな。だって花や虫の観察日記じゃないのだから。そこに心があるから私達は生きている人間なのだと思う。

  • うーん、なんとも言えない。どちらの話も主人公に感情移入できず、最後まで何を伝えたいのかよく分からなかった。

  • 人の作品に例えるのはどうかとおもいつつ、読み終わった後で島本理生「リトルバイリトル」を思い出した。ストーリーが似ているのではなく、個人個人で人生をおくる中でいろんなことは起きているのに、ごく身近な周囲以外は「いつもどおり」に過ぎていく。ミニマムな世界の、でも人ひとりにとっては大きな話。誰かが救われたり何かが変わるわけじゃない。ラスト、弟の所在にはぐっと来た。こういうオチを書けるのは才能だと思う。

  • 17/03/25 (22)
    『ひとり日和』の延長のよう。さみしい人生。それでもふとつくため息はこんなにもやさしい。

    ・「うん。じゃあとりあえず、さよならまどか。アディオス。アデュー。さよなら」
    「はい。バイバイ」(P31 やさしいため息)

    ・靴を脱いだら、コンタクトをはずして、服も脱いで、さっさとお湯につかって寝てしまおう。風太のノートなどもういらない。自分の生活がどう記録されようともう興味はない。本当の人生はこんなにもつれなくて、安全だけどもどこまでも不毛だ。(P109)

  • 素敵だった。止まることなく過ぎ去っていく毎日に、水たまりに落ちたひとしずくのように、心に響いた。

  • 【あらすじ】
    社会人五年目で友人なし。恋人は三ヶ月前に出て行ったばかり。
    そんな私の前に四年間行方知れずだった弟・風太がリーゼントの緑くんと共に現れた。
    突如始まった、弟との奇妙な共同生活。そんな風太は毎夜、なぜか私の「観察日記」を付け始めたのだが…。
    短篇「松かさ拾い」に加え磯崎憲一郎氏との特別対談を併録。
    『ひとり日和』に続く、芥川賞受賞第一作。

  • やさしいため息というのは、呆れつつも受け入れてる状態だったり、良い意味で諦めがある場合につくため息のことだと思う。主人公も弟も今のままで駄目なことは分かっているけど、小説にあるように人は容易く変われない。でも、外部の働きかけや自分の意志でたまに普段と違う行動をとったりすることを繰り返して、少しずつ変わったり、変わらない部分は諦めがついていったりする。そうやって徐々に失望のため息からやさしいため息に変わっていくのが人間の成長なのかなと思う。自分が変わる順序としてまず諦めが必要な場合もある。主人公に自分と重なる部分がありすぎて嫌な汗が出るのを感じながらの読書だったが、この読書経験も自分の変化への1ステップだといいなとかそんなことを思った一冊。

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著者プロフィール

二〇〇五年に「窓の灯」で文藝賞を受賞しデビュー。〇七年「ひとり日和」で芥川賞受賞。〇九年「かけら」で川端康成文学賞受賞。著書に『お別れの音』『わたしの彼氏』『あかりの湖畔』『すみれ』『快楽』『めぐり糸』『風』『はぐれんぼう』などがある。

「2023年 『みがわり』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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