- Amazon.co.jp ・本 (313ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309410845
作品紹介・あらすじ
「彼は憎しみでも怒りでも何でもいい、身体に満ちることを願った。…大きなハードルも小さなハードルも、次々と乗り越えてみせる」危機をひたむきに乗り越えようとする主人公と家族を描く表題作をはじめ八〇年代に書き継がれた「秀雄もの」と呼ばれる私小説的連作を中心に編まれた没後の作品集。最後まで生の輝きを求めつづけた作家・佐藤泰志の核心と魅力をあざやかにしめす。
感想・レビュー・書評
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41歳で止まってしまった作者死後にまとめられた最後の作品集という。しかし、どうしてこんなにみずみずしいのだろうか。生前芥川賞候補に何回もなりながら受賞しなかったというが、これこそ芥川賞じゃないか!
文章リズムの若々しさと、雰囲気がえもいわれぬ。そして何しろ登場人物たちの会話がいい。エスプリとはこういうものを言うので。
例えば「夜、鳥たちが鳴く」の一節
(浮気をされた友人の妻が、主人公の借家に飛び込んできて同居する羽目になったのだが、友人妻のやけくそ行動に心穏やかならず、ついになるべくしてなってしまったその後に・・・)
・・・・・・・
「なんだ」
「あたし、どこかおかしい?」
男のことだとわかった。考えるふりをした。慎重に言葉を選んだ。まず、首を振った。それからいった。
「ただ、とっかえひっかえじゃ、疲れないか」
「かもしれないわ」
「それでいいと思っていたんだろ」
「ええ」
「俺ならしない」
「あんたはあたしじゃないわ」
「でも、自分でやっておいて、そんなことを喋ることはないだろ。違うか」
「かもしれないわ。・・・・・・・
収められている5つの短編がそれぞれ、言葉と言葉、文章と文章の間のきらめきを感じる。
古いところで長塚節氏「土」の文章と会話のリアリズムになぞらえてしまう。あれは俳句的な要素もあったが、ここでは現代詩的要素と言いたい。短編それぞれのタイトルがいいのは前にも言った。
またこの文庫本の堀江敏幸さんの「陽の光は消えずに色を変える」解説が抜群、すっきりとよくわかるこれ以上の解説はないと思う。(堀江敏幸さんは未読なのでぜひ読もう)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2021/6/28
佐藤泰志作品集より。 -
「凄春」という表現を使ったのは五木寛之先生だったであろうか…だが敢えて私はこの言葉を佐藤氏の小説に冠したいと思う。
今回は結婚、離婚を扱った中編1作と短編2作、当然ながら独特の視線で我々の日常では経験することのない設定がされていることは言うまでもない。その世界観が「受け入れられなかった作家」の理由なのでありやはり万人にお勧めすることは出来ないだろう。
しかしどの作品にも描かれる闇は決してネガティブなものでなく光を求めて切り拓こうともがく凄春は常に前を見ている。そしてそこから「輝く」ことこそが佐藤氏の永遠に追い求めたテーマなのである -
第1部「美しい夏」「野栗鼠」「大きなハードルと小さなハードル」「納屋のように広い心」「裸者の夏」、第2部「鬼ガ島」「夜、鳥たちが啼く」。
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「夜、鳥たちが啼く」が良かった。終わり方が幸せで。
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2012/5/27購入
2015/11/15読了 -
この作品、労働小説色が濃くなかったぶん、読みやすかった。
あくまでも個人的に。
特に後半の二作「鬼ガ島」「夜、鳥たちが啼く」がよかった。
「夜、…」の方は、村上春樹「風の歌を聴け」を厭世的にではなく描いたら…という印象。
あくまでも個人的に。
著者プロフィール
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